ANOTHER SIDE

失恋のダメージってのは思ってたよりもすげえでかいな…
味わってみて初めて分かったぜ…

気が付くと当てもなく学校を飛び出していた。鞄やらなんやら全部教室に起きっぱなしだがそんなことは知ったことか…
今から授業なんて受ける気にもならねえし、学校にいるつもりもない。
当然、家に帰るつもりもない。
『家に居たら、絶対あいつと顔を合わすことになるからな…』
今は顔を合わすことすら辛え。恥ずかしい話だけど顔を見ただけでまた泣いちまいそうだ…
…ったく、たかだが男1人のことでボロボロボロボロ泣きやがってよ。ホント弱くなったよな俺。
ま、男の時ならそもそも男を好きになること事態がありえねえ話なんだけどよ…
『好きになる相手間違えちまったよな…』
今さら言ってもしかたないことだけどよ…
相手には他に好きな女がいて、しかもその女もそいつのことが好きか。ドラマとかでは良くあるパターンってやつだな。
『はは、ドラマみたいな恋をしました、ってか』
空笑いしてみる。虚しい…
すげえ胸が痛い。ドロドロでグチャグチャで、言葉にはしづらいけど、すっげえ気持ち悪い。
痛い…痛い…イタイ…
ズキズキする…マジ痛てえ…
『とにかくこんな所うろついててもしょうがねえ…』
なんかスッキリすることがしたい。
この胸の痛みが少しでも和らぐようなことが…馬鹿なことでもいい。少しでも痛みがマシになることがしてえ。
『久しぶりにあいつらにでも会うか…』
スカートのポケットの中から携帯を取り出す。
荷物は全部教室に置いたままだったんだが、幸いにも携帯と財布だけは身につけておいた。
うちの学校の制服のスカートはわりとでかいポケットが付いているので、こういう小物系を入れておくには便利だった。
登録している名前から三倉浩二を選ぶ。
三倉浩二−ここら辺じゃあんま評判の良くない宍原高校の奴で俺の悪友みたいなもんだ。
同じ中学で高校に入ってからもそいつを含め宍原の連中とよく遊んでたりしてたわけが、最近はあんま会ってなかった。
正直、親しくなろうとも思わないような汚ねえ連中だが、適当に遊ぶには最適な相手だった。
「おう、今から遊べねえか?」
とりあえずメールを送ってみる。ま、あいつなら学校なんてサボってるだろ。
しばらくすると返信が来た。OKらしい。指定された場所まで行くか…
スカッと出来ればそれでいい。たとえ馬鹿なことでもな…
『よう、久しぶり』
駅前まで行ったらそいつがいた。
赤く染まった髪、服装こそは学生服だがすげえ適当な着方で、首からはシルバーアクセがチャラチャラとぶら下がっている。
変わってねえな。相変わらずしまりねえツラしてやがる。
『あん? 何だお前…? もしかして逆ナンか? いいぜ、ホテルでも行くか?』
ニタニタしたツラで俺のことをジロジロ視線で舐め回す。
は? ボケかこいつ? 
目腐ってやがんのか…と、思って気が付く。あ、そういやこいつは俺が女になったなんて知らねえのか。
チッ、面倒くせえな…
『バッカ。俺だよ俺』
『は?』
訳が分からないといったツラで俺を見る三倉。ま、そりゃそうだわな。いちいち説明しなくちゃなんねえのか…
『あのさ。俺だよ、上村翔』
って言っても信じるわきゃねえよな。つうか普通信じねえか。
『何いってんのお前? 翔の知り合いかなんかか?』
『じゃなくて、上村翔本人だっつうの!』
なんか証明するようなもんねえかな、と思ってスカートのポケットをゴソゴソ探す。
お、なんかあるな…何だこりゃ?
『学生証か…』
ちょうど良かった、助かったぜ。学生証は俺が女になってから写真とか全部差し替えてあったんだ。
いちいち撮りなおすのとかそん時はすげえ面倒かったが、ま、今は助かったぜ。
『ホラ、これ見ろよ』
『あん?』
学生証に顔を近づけてくる三倉。訝しげなツラして覗き込んでいる。
これで信じてくれるんなら助かる、つうか信じろ。俺をこれ以上イライラさせんじゃねえ。
『んん〜?』
三倉は学生証の写真と名前のところを一通り見た後、もう一度俺の顔を覗き込む。
どうだ? 信じたのか?
『お前…ホントに翔?』
『そう言ってんだろがボケ!』
まあ、なにはともあれ信じたみてえだな。…ったくいちいち手間のかかる奴だぜ…
『そういや…どことなく顔も似てるような…お前…どうしたの?』
『どうしたもこうしたも、朝起きたらこうなってたんだから俺にも訳分からねえっつーの』
つうかホント今考えても訳が分からん。
男だったのに朝起きたら女になってました、って一体どこの世界の人間の話だよ、そりゃ。
ま、実際なっちまったもんはしかたねえんだけどよ…
だいたい俺が女にさえならなかったらこんな辛い気持ちにもならなかったんだよな…
『…まあ、いいや。お前は翔ってことでオールOK。あ、そういや悪りいけど遊ぼうにも俺まだ人数集めてなかったんだわ。今、メールしとくからよ』
何故か開き直ったような陽気な声で俺に話しかけてくる。心なしか顔もニヤけている。
どうしたんだ、こいつ?
ま、信じてくれたのならそれでいいけどよ…
『ん? どこ行くんだよ?』
携帯を手に持ったまま俺に背を向ける三倉。
『あ、え〜と…便所だよ便所。ちょっと待っててくれ』
『おう、早くしろよな』
なんで携帯手に持ったまま便所いくかな? しまえよ?
別にんなことどうでもいいけどよ…

『あ、もしもし堀田さん?…いい女見つけましたよ。今からそっち連れて行きますんで…
きっと気に入ると思いますよ…あ、はい、じゃそういうことで』

ANOTHER SIDE OUT


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