6時間目になった。この時間は以前から分かっていた通りクリーン活動だ。
大半の生徒は外で草引きってことになっているが、美化委員の俺は3階の校舎の一角をワックスがけをすることになっている。
そう、前田香澄さんと一緒に…
『すごく嬉しいんだが…今は素直に喜べないな…』
気になっているのは翔のことだ。昨日の夜から怒っている。ど
うも俺の発言に何らかの問題があったみたいで…情けないが、まだ何が悪かったのか、自分でもはっきりとは分かっていない。
『それにしても…翔、前田さんに何の用事があったんだ?』
昨日の俺の話は前田さんのことだったし、もしかして何か関係あるのか…?
いや、たぶん関係あるんだろう。偶然にしては出来過ぎている。
いったいどういうことだろう?
『やっぱり分からない…』
まあ、とりあえずは前田さんに訊いてみるか。それが1番手っ取り早い方法だな。
翔に謝るのは事情がはっきりと分かってからの方がいからな。

とりあえず俺は下駄箱に向かう順次と稔に別れを告げて、1人、3階の廊下へと向かった。
もう、前田さん来てるかな?
『あ、小山くん!』
指定の場所に行くと、もうすでに前田さんと先生が来ていて何か話をしていた。
ますい。俺がだいぶん来るのが遅かったんだろうか…
『私は他の所も見に行かなきゃならんからな。前田と小山、後は頼んだぞ』
そう言って先生は去っていく。どうやらさっきまで前田さんにどういう風にするのか説明していたようだ。
やっぱり2人っきりか…嬉しい、嬉しいのだが…
翔とどんな話してたの?なんて訊きづらいな。それとなく話をしたいのだけど…さて、どうしたものか?
『それじゃあ、始めよっか』
前田さんは俺に掃除方法を説明してくれた。まずはモップで廊下を2往復ほどして、残ったゴミは箒で掃いて集める。
大方廊下が綺麗になったら、バケツに入ったワックスをモップにつけ、ワックスがけをして掃除は終了、とのことだ。
とりあえず2人でモップがけをする。こうから翔との話が出てくることはなかった。
さすがに俺もいきなりは切り出せないので、たわいもない世間話をする。
こうやってしばらくどうでもいい会話をした後、それとなく話を切り出してみるか…
『それでね…その人が…』
普段ならこうやって前田さんと話を出来るだけですごく嬉しいというか幸せなのだが、どうも翔のことが引っ掛かって素直に喜べない。
まあ、一応大事な弟だからな。兄として気になるのは当然だ。それに悪いのは俺だしな。
あくまでも兄貴として…気になるだけだ。
とりあえず自分に言い聞かせる。そうだ、兄弟として気になるだけだ。
…って何でこんなこと言い聞かせる必要がある。
『それでね……小山くん?』
『え? あ、ご、ごめん』
しまった。余計なことを考えすぎたか。前田さん、気を悪くしちゃったかな?
だとすればマズい。それはマズいですよ。
そうなると俺に対する好感度も下がるし、何より話が訊きづらくなる。
『ううん、いいよ。ただちょっとボーっとしてたみたいだけど、大丈夫』
『うん。全然大丈夫』
ほ。どうやら大丈夫だったようだ。とりあえず今は掃除することに集中するか。
話を訊くのは終わってからでも遅くない。

結局そのまま世間話をしながら廊下を掃除し、ワックスをかけて仕事は終了した。
『ん。もうこれぐらいでいいかな』
『うん。大丈夫だろ。でもけっこう早く終わったよな』
俺たちどちらともけっこうテキパキやったおかげか、案外早く終わったな。
まだ6時間目の終了のチャイムが鳴るまで10分ほどある。
ふ〜。早く終わってよかった。
…って、そうじゃなくて!肝心なことがまだ訊けてないだろ。
『お疲れ様』
『あ、ああ…お疲れ』
いやいや俺なんかよりよっぽど前田さんの方が頑張ってたぞ。わざわざお疲れ様なんて言って貰えるほどのことでもない。
しかし前田さんはおっとりしている割にはやるべきことは迅速に済ませたな。
けっこう感心した。割と何でも出来るタイプなんだな。
と、まあ、それはいいとして。訊くべきことを訊かないとな。
『あ、あのさ…』
『ん? 何?』
…つつつ、何か訊きにくいな。
そんな疚しいことじゃないんだが、何となく翔と前田さん、2人のプライベートなことを訊くみたいで少し気が重い。
いや、でも訊かないと翔が何で怒っているのか分からないかもしれないし…
『その、今日の昼休み、翔と会ってたんだろ。どんな話をしたのかよかったら教えてくれないか…?』
『…え?』
何故か赤面する前田さん。う、やっぱり訊いちゃいけない類の話だったのか…
でも、いったいどんな話をしていたのか尚更気になる。
『いや、ちょっと翔に用事があってさ。4組にいったんだけど。そこで吉永さんから翔は前田さんのところに行ったって聞いたから…
もしかして俺の用事と関係ある話なんじゃないかな、と。あ、いや別に関係がないんだったらいいんだ』
関係ないってことはたぶんないと思んだけど…まあ、もしかしたら関係ないのかもしれない。
相変わらず赤面している前田さん。赤面するような話だったなら、やっぱり関係ないのかな。
『あの、どうかな? 前田さん…』
『そ、そんな全然大した話じゃなかったよ!! だ、だから、たぶん関係ないと思うよ!』
やや声をあげて力一杯否定する前田さん。や、やっぱりマズかった…?
『ご、ごめん。だったらいいんだ…』
『あ、いや…いいの。こっちこそごめんね…』
声をおとして謝ってくれる前田さん。
でも、やっぱり迂闊に訊くべき話じゃなかったみたいだ。前田さんにはホント悪いことをしたな。
せっかく少し仲良くなれたと思ったのに…これで俺に対する好感度がだいぶ下がったかも知れない…はぁ…

しかし結局翔が何で怒ったのか分からなくなってしまった…
やっぱり本人に訊くしかないか…気は進まない、というかどっちみち謝るしかないわけだけど…

クリーン活動も無事(?)終わり、下校時間になった。
しかし難問はまだ残ったまま。まあ、理由が分からなくても謝らなくちゃいけないことに変わりはないわけだが…
どうやって謝ったらいいか考えながら4組へと足を進めた。幸いにもまだ4組はホームルームが終わってないみたいだ。
助かった。もし翔が帰っていたりでもしたら少しやっかいだからな。謝るのは早いほうがいい。
『早く終わらないかな…』
壁にもたれてホームルームが終わるのを待つ。
それにしてもなんて言って謝ったらいいべきか…
「何で怒っているのか分からないけどごめん」…最悪だな。
「悪い。お前の気持ちも考えないで無神経なこと言ってしまって」…もし、なんで怒っているのか分かるか?とか訊かれたらマズいな。
これも駄目。と、なると…
「ホントごめん!」…まあ、これが1番か…シンプルイズベストってやつだな。ベストを尽くせ!
『よし!』
許して貰えるかどうかは分からないが、とりあえずちゃんと謝る決心はついた。
大丈夫、行けるぞ俺!
そうしていると4組のドアが開き担任の先生が出て行った。それに続き何人かの生徒も出てくる。
どうやら終わったみたいだな。
『え〜と?』
翔が出てくるのをしばらく待っていたが、一向にそれらしき人物は出てこない。あれ?
気になって教室の中を覗いてみる。一応隅々まで目をやるが翔の姿がない…何で?
『ん? どしたの小山くん?』
後ろから声をかけられる。吉永さんか…ちょうどよかった。
『あ、吉永さん、上村知らないか?』
『まだ用事があるの?』
まだ、というか最初の用事が済んでないわけなんだが。
『だから探してるんだけど、どうやら教室にはいないみたいなんだ…』
『…翔ちゃんね、帰っちゃったの』
え?
『なんで? どっか具合でも悪かったの?』
体調を崩したのか?それはちょっと心配だな。今、うちには両親いないし…
『そうじゃないの。あたしらにも理由が分からないのよ…昼休み終わってからぱったり姿消しちゃって…みんな心配してたんだけど…
たぶん帰っちゃったんじゃないかな?』
昼休みが終わってから、いなくなった?
それはもしかして前田さんと会ってからいなくなったってことか? どうして…?
『あの、それでさ。もしかして小山くん、翔ちゃんの家知ってる?』
『ああ、まあ…』
知ってるも何も一緒に住んでるからな。
『じゃ、ちょうどよかった。翔ちゃん鞄とか起きっぱなしでさ。あたしが届けてあげたいところなんだけど、家知らないし、今から部活もあるし…
悪いけど翔ちゃんの家まで持っていってあげてくれないかな?』
そりゃ当然俺の役目だと思うけど、鞄も何も持たずに帰った…なんて。
『うん。分かった。渡しておくよ』
『ありがと。翔ちゃんに会ったら、みんな心配してたって伝えておいてね』
部活があるからだろう。吉永さんはそう言い残して廊下を走って去っていった。
それにしてもいったいどうして?
確かに以前はよくサボって帰ってたりすることもあったけど、鞄とか置きっぱなしだったってことは1度もなかったはず。
しかも最近はサボるなんてことすらしてなかったはずなのに…どうして?
これも、やっぱり俺の責任なのかな?…たぶん、そうなんだろうな…とにかく家に帰らなくちゃ。

玄関に翔の靴はなかった。鍵もかかったままだったし、もしかしたら、とは思ったけど。
案の定、家の中を探しても翔の姿はどこにもない。台所にも部屋にもトイレにもいなかった。
やっぱり家には帰っていない…
『どうして…?』
何故か急に不安が込み上げてきた。どうしてかは分からない、分からないのだが危険な感じがする。
直感的に翔を放って置いたら駄目だ、と。
俺は本来カンなんて当てにする方じゃないけれど、何故か今回はそのカンが正しいような気がした。
気づくと俺は制服のまま、家を飛び出していた。
『翔を…翔を探さないと…』
どこに行ったかなんて分からないが、とりあえず探さないと。
嫌な予感がする。本当に嫌な予感がする。


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