「つまり酩酊状態に陥った俺が、お前のこと…というかお前が作った本のことを馬鹿にしたと。それでその本の力を見せようと俺をこんなにしたわけか?」
「その通りだ。ちなみに馬鹿にしたのは136ページの術だ」
 その言葉を聞いてパラパラと本をめくる紅葉。
「あった。えっと……性別反転術だって」
 そういえばそんなこと出来るわけ無いと笑った気が…
「だから俺の性別を変えて本当だと証明しようとしたわけか。だったらもう戻してくれよ。なんかすげー落ち着かないんだこれ」
「えーっ、その体の朔ちゃんも可愛くていいのに〜」
「うるさい。俺は男だ、可愛いといわれて喜べるか。それに顔はあまり変わってない」
「だから朔ちゃんの顔は、女の子っぽいってことでしょ?」
 くそっ、こいつ人が気にしていることを…後で覚えとけよ。元に戻ったら思い知らせてやる。
「……今はそんなことはどうでもいい。さっさと元に戻してくれ」
 別に気にしてない風を装ってさらっと流す。
「……………」
 何で何もいわないんだこいつ。妙に神妙な顔して……あっ、今目そらしやがった。
「まさかできないなんて事は……」
 沈黙に耐えかね一番考えたくない、しかし一番可能性のある言葉を口にする。
「はは…はっ……ま…まさかな………そんなわけ」
「そうだよな…まさかな……はは」
 引きつった笑みを浮かべ笑いあう二人。そんな二人を見ていた紅葉が、
「要するにできないってことね」
 言いやがった。認めたくなかったのに、心の準備もできてないのに。
「……すまんな。我もここまで力が衰えているとは思わなかった」
「戻る方法はないのか?」
 せめてもの期待を込めて聞いてみる。
「それは大丈夫だ。今までお主の体に溜まっていた呪薬の力で術が成功したのだ。だからそれと同程度の力を溜めれば元に戻せるはずだ」
「つまり紅葉の作る薬を飲み続ければいいんだな?そ れくらいなら楽勝だ。紅葉、早速作ってくれ。できるだけたくさんな」
 戻る方法があると聞いて、部屋の隅でうなだれている紅葉に声をかける。何故そんなに落ち込んでいるのだこいつは。
「無理」
「おいこら。どういうことだ」
「あれ作るのには時間かかるの。それに今の朔ちゃん可愛すぎて元に戻すのもったいない」
 な…何を馬鹿なこと言ってるんだこいつ。あまりのことに頭痛くなってきた。
「お…お前いいかげんにしないと怒るぞ?」
「やっぱり可愛い〜。やっぱ怒った顔もいいね。ちょっとカメラ取ってくるからそのまま動かないでね」
 ドタドタと階段を駆け上がる紅葉。呆れて何も言えない。
「お主も苦労するの」
「……もう慣れたよ。昔からああだからな、とっくの昔に諦めたさ」
 何せ紅葉の奇行は今に始まったことではない。物心ついた時から十年以上も弟(という名のおもちゃ)をやっているのだ。
奴の前で常識などないのだ。そんなものあったら女装させて買い物なんて行かせないし、喧嘩したら裸で閉め出したりしない。
あっ…思い出したら気が滅入ってきた。
「お主……その…強く生きろ」
 勝手に人の心を読まないで欲しい。絶対に他人に知られたくない秘密なのだ。
「それよりも、学校とやらはいいのか?」
 気まずくなったのか話を変えてきた。思ったより話のわかる奴かもしれない。
「あ〜…行けるわけないよなこれじゃ」
 背丈は縮んでるし、出るとこは一応出てる。絶対に気味悪がられるって…。
「ふむ……一時の感情とはいえ実生活に影響するとなると我の良心が痛むな」
「邪神にも良心があるのか?」
「茶化す出ない。何とかしてやろうというのだ、素直に聞け」
「なになに? 何の話?」
 戻ってきたのか…。さっさと呪薬を作ってればいいものを。
「ちょっとな…。まだ呪薬は残っておるか?」
「少しだけなら余ってるけど…元に戻すのに使うならあげないよ?」
 ………こいつはだめすぎる。
「元に戻すのには全然足りん。ちょっと生活しやすくするだけだ」
 もうどうにでもなれだ。やるならさっさとやってほしい。嫌な事は最初に済ましてしまう性質なのだ。
「何でも良いからすぐにやってくれ…」

 こうして彼、朔太郎は非日常へと巻き込まれていった。果たして彼は元に戻ることができるのか?


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