この世には、時として予想だにしない出来事に遭遇することがある。
彼、一条朔太郎だった人物も『それ』に遭遇した一人である。
彼の場合は……

「まいったな……」
 清々しい朝の日差しを浴びて、目覚めの一言がこれである。さわやかさの
欠片もない、後ろ向きな言葉である。それは仕方のない、しかし一般人にしては冷静だと思う。
「どう見ても胸…だよなぁ〜」
 体を見下ろすとあるはずのない膨らみ。股間の物足りなさ。色々なところが昨日寝る前と変わってしまっている。
何となく落ち着かないので視線を離す。視線を上げると別の視線とぶつかった。
「ようやく気がついたか」
「………ダレデスカ?」
 小柄な女の子がいた。長い黒髪と白い肌が目を引く人形のような子だった。
「我の名はサクシヤだ。悪いが貴様に憑かせてもらうぞ」
「わかった! これは夢だ! そうに違いない! だから俺が女になってて訳分からん奴が出てくるん…あいた……」
「目が覚めたか愚か者。次はこのカッターを投げるぞ?」
 手近にあったものを投げつけて言い放つサクシヤと名乗る女。
「くそっ、お約束の現実逃避ぐらいさせやがれ」
「だまれ、そんなことではこの先生きていけんぞ?」
 起伏のない胸を反らし、偉そうに語るサクシヤ。正論のような気がするが起きたら性別が変わっているなんてこと、すぐに受け入れろというのが無理なのだ。
少しは常識ってものを考えてほしい。俺はただの小市民なのだ。
突然のことに言葉を失っていると、
「朔ちゃん起きてる?………えっと〜どなたですか?」
 気まずい沈黙という混沌な状況に新たなる混沌が現れた。哀れな乱入者の名前は紅葉という。
二つ上の大学生で、傍目にはどこにでもいる姉である。ただし、趣味が呪術というどこにでもいない趣味を持つ、変わり者の姉である。
「よく知らないんだけど朝起きたらいたんだ。悪いけど追い出してく…」
「お前が誰だ」
 追い出してくれないかと言おうと思ったのだが……最後までしゃべらせてもらえなかった。
「……朔ちゃんはどこ?」
「朔太郎ならそこにいるではないか。まあ、多少姿形が変わってはいるがな」
「またまたそんな嘘ついちゃって〜」
「この邪神サクシヤの名にかけて断言しよう、嘘ではない。我が手を下したのだ、間違いは起こらん。なんなら本人に確かめればよいだろう」
 どうも軽く落ち込んでいる間に話に置いていかれたようだ。邪神だとかそんな物騒な言葉が聞こえたような気がしたが気にしない。
気にしたら負けだ。
「サクシヤって昨日朔ちゃんがくれた本に出てくる神様の名前よね?」
「そうだ。あの本を媒介にこちらにやってきた。こやつに馬鹿にされたのでな、少しばかり仕返しをさせてもらった。保管してあった呪薬を使わせてもらった ぞ」
 話が見えん。紅葉は何か気づいたようだが、俺にはまったくわからん。
「馬鹿にしたって言われても覚えてないんだが…」
「あれだけ酔えば仕方あるまい。あれほど純度の高い呪薬を飲み干すなど正気の沙汰ではない。だからこそ力の弱った我にも術が使えたのだがな」
 呪薬ってあれの事か? 紅葉が作る怪しい液体…もといアルコールの入ったジュースのことか?
「あれって酒じゃないのか紅葉?」
「アルコールなんて入ってないわよあれ……」
「呪薬に酔っているのだ。呪いの効果を設定してないから力が体に溜まってしまうのだ」
 ……もう訳が分からん。そろそろ脳もオーバーヒートしてきた。ここで意識を手放しても誰にも責められはしないだろう。
「悪い、頭痛いから寝る」
「つまりあの術薬は成功していたと…」
「あれほどのものはなかなかお目にかかれんぞ。その筋の奴に売ればかなりの額になるはずだ」
 当事者がすっかり蚊帳の外か…。もうちょっとかまってくれてもいいと思うんだがな…。


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