「ん・・・ここは・・・車の・・・中?」
気がつくと僕はロードスターの助手席に座っていた。そして運転席には・・・・理恵がいた。
「気がついた? 恵ちゃん・・・大丈夫?悪いと思ったんだけど車の鍵勝手に開けさしてもらったよ」
そっか・・・僕は・・・恵ちゃんの身体で酒を飲んで酔いつぶれたのか。気をつけなくちゃ・・・
そうだ・・・とりあえず代行を探そう。早く帰らないと杉田が心配する。
ずきずきといたむ頭を何とか持ち上げ携帯電話に手を伸ばす。
「ん・・? 恵ちゃんどこかに電話?」
「はい、運転代行を頼もうかと思って」
「なんだ・・・それなら私が送っていこうか? 私飲んでないから」
「あれ? グレープフルーツサワー頼んでませんでしたっけ?」
それを聞き理恵は少し笑いながら答えた。
「ああ、あれね飲まなかった。だって、恵ちゃん私たちが飲む間もなく、つぶれちゃうんだもの私もチーフも一口しか飲んでないのよ」
そんな・・・30分は飲んでいたと思っていたのに。自分が思っていたよりもひどい状態だったのかもしれない。
「とにかく、私に先輩らしいことをさせなさい、ほら、シートベルトを締めて」
結局、理恵に押し切られ理恵の運転で我が家・・・杉田家に帰ることになった。
杉田家に着くまで気が気ではなかった。とにかくぼろが出ないように極力会話を避けた。
・・・話したい・・・僕が恵一であること・・・今こうして姿を変えて生きていることを。
だが、それは出来ない。杉田が言うにはこのプロジェクトは、国家プロジェクトで今のところ用途ははっきりしていないが、
将来日本がこの分野で主導権を握る為に極秘裏に進められているという。
だから他国の産業スパイから守る為に絶対にばらしてはいけないということだ。もし秘密が漏れたら杉田も僕もただではすまない。
もうすぐ杉田家につく、このことになると酔いもだいぶ覚め、冷静に考えることが出来るようになっていた。
だが、冷静になってひとつの疑問が頭をよぎった。
『なぜ理恵はこんなに強引に僕を送ると言い出したんだろう』
普段どちらかといえば控えめな理恵がこんなに自分の意見を押し出したのは珍しい。
・・・まさか酔っている間に何か言ってしまったんだろうか? 今度こそ酔いが完全に覚め、冷や汗が額を伝う。
・・・・どうか思い過ごしであってくれ。
「ねえ、理恵ちゃん」
「は・・・はい!?」
「どうしたの? 汗かいて、クーラーでもつけようか?」
「い・・・いやいいです。もうすぐ着きますし。・・・あ・・・そこを右に曲がって3軒目です。」
角を曲がると既に窓には明かりが灯っていた。どうやら杉田が帰宅しているようだ。頼む・・杉田うまくフォローしてくれ。
僕は甘い期待を持ち、今、車は駐車場に静かに停車した。