「よかったよ、陽ちゃん」
ぼくから『ぼく』のモノが引き抜かれる。と、どろりとした生暖かいものがぼくの中から出てきた。
それが何であるかは知っている──今のぼくの身体では絶対に作れない液体。でも、それが何であるかわかっていてもどうしようもない。
まだ全身が快感の余韻に震えていた。
さっきの絶頂を思い出したかのように、時折身体が痺れる。
胸をさらけ出し足を広げたままの状態だというのに、羞恥より余韻に浸っていたいという思いのほうが勝っていて、
身体を動かそうとかそんな気は全然起こらなかった。
「おかしい……なんで何も変わらないんだ?」
『ぼく』がぼんやりとした視界の片隅で首を傾げていた。
「まだ完全じゃない…? あの女がウソついたってことはないと思うけど……。しょうがない、」
独り言から一転、ぼくに向き直る。
「また来ることになると思うよ。まあその『また』がいつになるかはわからないけど。もしかしたら1日後かもしれないし、1ヵ月後かもしれない。
でも、今回の儀式が完全だってわかったら1万と2千年経っても来ないけどね」
熱がでたときみたいにぼーっとして、頭がはっきりとしない。
結局来るのか来るのだろうか、来ないのだろうか──よくわからない。
それよりも、何か、すごく、眠い。
自然とまぶたが下がってくる。気を抜いたら一瞬で眠りに落ちてしまいそうだ。
「────」
『ぼく』がまだ何か言っている。
大事なことを言っているような気がするのに、聞こえない。いや、聞こうとしてない。そんな気力はもうなく、残ったのは強い眠気だけ。
気が遠くなる。
気が──
…………
……………………
………………………………

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ゆさゆさと揺すぶられているような感じがして、目が覚めた。
「陽姉ちゃん、夕飯だよ。起きて〜」
雪が結構な強さでぼくを揺すっていた。もうちょっと優しく起こしてくれればいいものを…。
「あ、起きた? お母さんたち待ってるから、早く降りてきてね」
窓の外を見ると、空は黒に近い赤い色に染まっていた。昼寝にしては長時間寝てしまった。買い物での疲れはかなりのものだったらしい。
雪を連れてダイニングへ向かう。
「陽姉ちゃん、おっぱい大きくなったね」
ちらちら程度に胸に視線を送るだけならまだ可愛げがあると思うのに、こう直球で言われると呆れるしかない。
一桁年齢に特有の遠慮のない言動をするということは、雪の精神年齢もそれくらいになる。
誤差程度の差だし年相応といえなくもないけど、もっと遠慮というものを覚えて欲しい。
……そう諭したところで聞く耳持ちそうもないけど。
無言タッチにくる手を払いのけながらダイニングに入ると、さすがに攻撃の手はなくなった。
やっぱり無視が一番だ。

昼寝をして明日が日曜だったけど、夜更かしする元気どころかテレビを見る気力もなかった。
こういうときはお風呂でリラックスして、そのままの気分で寝てしまうに限る。
思い描いたプランのまま浴槽の中でだらーっと過ごす。こうしているだけで今日一日の疲れがお湯に溶けていくようだ。今日は疲れた。特に買い物が。
……あれ?
ほかに何か大事なことがあったような気がする。けど思い出せない。
「……うーん」
ダメだ。朝から今にかけて時系列に沿って思い返しても、それらしいことは1件もヒットしなかった。だとすればそんなに重要なことでもないのだろう。
頭の中を切り替え、面接とかで尊敬する人物を聞かれたらお風呂を発明した人と答えよう──そんなことを考えながら湯に浸かっていると、
──ガラガラッ
「陽姉ちゃん、一緒におフロ入ろ」
雪が何の脈絡もなく浴室に入ってきた。
なんで?
入ってくる理由がわからなかった。昔は一緒に入ってはいたけど、それはもう何年も前の話だ。
ここ数年は一緒に入ろうとかいう言葉すら聞かなかった。それなのに何故?
「陽姉ちゃんとおフロに入りたかったから」
理由は簡単でよくわかった。
「ダメ」
だから答えも簡単だ。即断即決で却下。これ以外の答えはありえない。
男のときでさえためらうと思うのに、いまの身体を見せようと思えるわけがない。
「えーなんで?」
「なんででも」
種を詰め込んだハムスターのように頬を膨らませる雪。愛嬌があるといえなくもないけど、前を隠してないせいで酷く滑稽だ。
強硬に反対したおかげか、雪は「わかったよ」と引き戸に手をかけてくれた。
話せばわかるものだ。……まあ、そう言った人は話のわからない人に殺されてしまったわけだけど。
ガシャッと引き戸が閉まる音がして、静寂が戻ってくる。
邪魔されたけど、これでまたリラックスして──
「えいっ!」
──バシャーン
激しく水が弾ける音がして、ぼくにも何か重たい物体がのしかかってきた。
「雪!?」
勢いよく湯船に飛び込んできたのは紛れもなく雪だった。というかいま出て行ったはずなのに、なんでここに存在しているのだろう。
「フェイクだよ、陽姉ちゃん」
作戦が成功したことがそんなに嬉しいのか満面の笑みを浮かべる。
どうやら全然わかってくれてなかったようで……。
「ゆ、雪、狭──」
ウチの湯船はお金持ち仕様じゃないので、当然一人用だ。
そんな広さしかない中に小柄とはいえ2人が一緒にいてしかも二段重ねとなると、下にいるぼくは身動きできない。
「陽姉ちゃんのおっぱい大きくてやわらかいね」
それをいいことに、雪はぼくの胸をむにむにと揉んできた。向き合った状態なのでそうすることも簡単にできる。
「なに触って──!」
ふりほどいて湯船から出ようとして、やっぱりできなかった。
背中を湯船に押し付けられ真上に30キロ近い重しが載っているのだ。縁に手をかけ力を入れてもびくともしない。
その間も雪は執拗に胸を揉んでくる。
「前よりこっちのほうがいいよ」
正直そんなことはどうでもいい。それよりもいまのこの状況をなんとかする必要がある。
まだ『感じる』までは行ってないけど、今後理性のタガが外れないとも限らない。前みたいなことになることは絶対に避けたかった。
「陽姉ちゃん、いいにおいがする……」
「──!」
雪が首筋に顔をうずめてくる。呼吸するたびにぞわりと鳥肌が立った──怖気からではなく気持ちよさからくる鳥肌が。


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