──誰だろう?
小刻みな呼吸音が聞こえる。女の子のものだ。
ハァッ、ハァッ、という呼気。それに混じる鼻にかかった甘い声。
ぼんやりと瞼を開けても最初は濃密な闇に視界が覆われていた。
ずっと喘ぎ声が聞こえている。
すぐ間近なところから……。
「アア……」
甘く腰に響くような声が喉を震わせたとき、はっきりと自覚した。
この甘ったるい喘ぎ声を発しているのがほかならない自分自身だということに。
なんで僕はこんな声を……?
訝しく思う暇もなく、体の中心を甘い快感が走りぬけた。
「ふぁぁ……」
目が覚めたのに、体を起こすことができなかった。
やがて、闇の中に誰かの姿が浮かびあがった。上から覆い被さるようにして誰かがのしかかっている。
その何者かの吐息が生温かく首筋にかかる。
「……真人……?」
暗闇の中、おぼろに浮かび上がったのは、まぎれもなく親友の真人の顔だった。
ぎらぎらとした欲望の色を浮かべた真人の顔が頭上こにあった。
「ああ……いい……」
「や……」
ズン、と何か体の中で動いた。
ニチュと湿った音。
股の間、本当ならペニスのあるべき部位から、何かが体の内部に侵入していた。
「いい……すごくいいよ……」
かくかくと顎を震わせて真人が息をもらした。
顔を背けようとすると再び、ズゥンと衝動がくる。固くなって熱を帯びた“塊”が下腹部で蠢いていた。
ズチュゥッ……
塊がひいていく。圧迫感から解放され、息をつく。
ズウンン……!
「あうあっ!」
粘膜を押し広げて、あの熱いモノが突き入れられる。
ヌラヌラとまとわりつく粘液が、そのモノの侵入をひどくたやすいものにしていた。
ズチュ、ズチュ……
静まりかえった空間の中、その淫猥な音だけが大きく響いた。
体内に侵入してくるモノから逃れようと腰をひくと、真人に軽々と腰を抱かれ、あっさりと引き戻されてしまった。
いやだ、こんなのはいやだ!
そう思っているのに、鼻にかかった声で喘いでいるのは僕自身だった。
「最高だ、ヨシ。止まらないよ」
「あっ……ふぁ……あくっ……」
真人が腰を振ると、そのたびに秘所の柔らかな粘膜がかき回され、熱いモノ……ペニスが深く入り込んでくる。
犯されている……僕は男に犯されている……!
ぎゅっと腰を掴まれると、どうしようもなかった。なす術もなく、固いペニスが中に分け入ってくる。
そしてこの唇がわなないて甘く誘うような吐息をはき出す。
「や……やめろ、マサ……あくうううっ!?」
ひときわ深く挿入されて僕はのけぞった。
「マサ? 誰のことだよ? ヘヘヘ」
「な!?」
見上げた先にあったのは、圭一の顔だった。
「せいぜい楽しませてくれよ」
「や……アアッ!」
いつのまに、全裸にされてたのだろう。
圭一の顔が迫ってきたと思うと、それは胸の上で落ち着きなく揺れるやわらかなふくらみに向かった。
かさついた唇が乳房の敏感な肌をかすめ、次の瞬間乳首をすっぽりと口にくわえられた。
「クク……」
「あ、すう……な……ふあぁぁぁぁぁ……!」
覚悟を決める暇も与えられず、容赦なく乳首を吸われた。
ジィンと痺れるほどの衝撃が走って、頭の中に霞がかかった。
舌の先端が乳輪のあたりを這うと、それだけであまりの強い快感に、カクカクと体が震えた。
「もう……やめ……」
「バーカ。これからだよ」
胸から顔が離れると同時に、下半身へのピストン運動が激しくなった。
ズプゥッ……!
深くゆっくりと挿入されたかと思うと、次はパシパシと打ちつけるように早く短く挿入される。
「アッ……アン……アッ、アッ……」
ペニスで秘奥をえぐられるたびに、大事な何かが心から抜け落ちていくよ
うな気がした。このままじゃ犯されたら、おかしくなる……。男なのに……男なのに……犯されることが快感に……。
「い……や……」
いやだ──!
心の中で絶叫した。
一瞬つぶっていた目を開けたとき、圭一はいなくなっていた。
かわりにそこに存在していたのは、人間ではない何か、だった。
人間の半分ほどの大きさ。黒い皮膚。背中の大きなコウモリ羽。
ヨーロッパのゴシック建築によく見られるガーゴイルによく似ている……。
人ならざる貌が奇怪な笑いを浮かべたように見えた。
そいつの頭部は僕の股間のすぐそばにあった。異様に長く伸びた舌の先端は僕の体内で蠢いていた。
「夢魔……」
どうしてその言葉を自分がつぶやいたかは分からない。
自分の言葉にハッとした。
夢魔。
何かの本で読んだことがある。中世ヨーロッパに伝わる悪魔の一種だ。
寝ている人間に淫らな夢を見させて、惑わすという……。
ニュルン、チュポッ!
「くあっ……!」
下腹部にひときわ甘美な電気が走った。
舌が引き抜かれるとき、湿った音がすると同時に僕は達していた。
体が自然と弓なりに反り、ヒクッヒクッと痙攣した。
「……ふう……はあ……あ!?」
その瞬間、ぱっちりと目が開いた。あわてて僕はごわつくマットの上で体を起こした。
教室内にはうっすらと明かりが入っていた。
時計を見ると、ちょうど七時だった。誰かがカーテンを半分ほど開放していた。
さっきまでの濃密な暗闇はどこにもない。
「いまのは、夢……?」
呆然として僕はひとりごちた。


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