教室の固い床に体育用具室から運んだマットを敷き詰めたのは僕の発案だった。
リーダーである隆哉の「よし、そうしよう」という一言でマットが運ばれることになった。
僕は率先してその仕事を担った。
「女になってるんだから無理しなくていいよ」
気を使ってそう言ってくれる人もいたけど、そういうわけにはいかない。
姿形は女の子になってしまっても、心まで受け身になってしまったんじゃないことを示さなきゃいけない。
真人をはじめ手伝いにきてくれた人たちと一緒に用具倉庫から教室までの道のりを重いマットを引っ張って運んだ。
マットの重量に振り回されそうになりながら、必死で踏ん張った。
やはり、というべきか、認めたくないけれども、女の体になったことで筋力は目に見えて落ちていた。
『このぐらい軽く持ち上がる』という頭の中のイメージに反して、
ほっそりとした少女の腕ではマットの耳にしがみついているのがやっとという有様だ。
フラフラとたたらを踏むたびに胸の丘陵が上下におおげさに揺れるのもいやだった。
何人かはちらちらとこちらの胸元を盗み見てる。おなじ男として気持ちはわかるけど……やっぱり気持ち悪い。
それにしても今の僕の腕力は、クラスの女子の平均よりもか弱くなってしまってるかもしれない。
物理的な「力」が奪われることがこんなにも不安なことだとは思わなかった。
多くの女の子たちが暴力を嫌うのは当たり前だ。そして優しい男の手によって守られることを望むのも……。
──何を考えてるんだ、僕は!
くだらない考えを頭の中から追い出すことにした。この変身は一時的なものなんだから。
だから僕はほかの男に守ってもらう必要なんてない!
体育館あたりで寝るという意見は誰からも出なかった。
みんな狭い教室で寄り集まるようにして眠りにつくことを選んだのは、やはり不安が大きかったからだろう。
僕ら二〇人のグループを除くと、学校は無人だ。特にこんな状況では、物陰に何かが潜んでいそうで不安になってしまう。

教室の床の半分ほどにマットが敷き詰められ、そこに皆が思い思いに身を寄せた。
なんとなく仲のいい者同士で固まっていく。
小春と真紀の女の子二人は、掃除用具入れの置かれている側、
教室の後ろ隅で女同士くっついて不安そうに何かを話し合っている。
特に示し合わせたわけではないけど、僕と真人と智史はひとかたまりになっていた。
「アアッ!」
あまり大きな声を出す者がなかった教室で、唐突に悲鳴が、それも女の悲
鳴が聞こえたのはそのときだった。
みんながぎょっとして声のほうに顔を向けた。
声の出所は、佐渡圭一と仲間たちが占拠していた一角だった。
健士・剛士の双子が、政を嬲っていた。
健士(右耳にピアスをしてるから分かる)が後ろから政の胸を揉み、首筋に顔をうずめてる。
剛士のほうは政の両足首を掴んで力づくで左右に開き、そこへ自分の脚を割り込ませていた。
ちょうど子供がいたずらでやる“電気あんま”のような体勢だ。そして靴下をはいた足の先端で政の会陰部をこね回している。
政は断続的に悲鳴をあげ、髪を振り乱していた。
がっちりと体を固定されていて、責めから逃れようもなく、ただ声をあげるくらいしかできないようだ。
「アッ……アッ……」
ピクン、ピクンと双子に押さえつけられた肢体が跳ねる。
嬲られ喘いでいる様は、淫らだった。男子の制服を身に付けていることが
逆に、男装の少女が凌辱されているかのような倒錯の淫美をかもし出している。
媚薬でもかがされたみたいにカッと下半身が熱くなった。
クンッとペニスが勃ったような気がして内腿を擦り合わせた。ペニスは──ない。
むなしい錯覚だった。けれども、下半身が熱くなっていたのは現実だった。
「こんなときだっていうのに。やめないか!」
落ち着いた声で隆哉に叱責されて、女体を嬲る双子の手が一時止まった。
「あまり集団の和を乱すな」
という隆哉に、双子を弁護するように圭一が答えた。
「勘違いしてもらっちゃ困るぜ。荻野は合意のうえで俺たちにサービスしてんだよ。な?」
「はい……」
消え入りそうなか細い声で政は肯いた。
胸を揉む手の動きがゆっくりと再開された。
「本当なのか、荻野? そいつらに合わせる必要はないぞ」
「いいんです。私がいいって言ったから……」
政が自分のことを「私」と言ったのが妙に自然に聞こえて逆にどきりとした。
「わかった。だけど無理やりだろうとそうじゃなかろうと、ほかのみんなの迷惑だ。そういう行為は慎んでくれ」
「ヘヘ……分かってるよ。なあ、マツリ?」
「はい……」
双子に解放され、かわって圭一に肩を抱かれる間、政は大人しく身を任せていた。
政の表情は、戸惑ってはいるけれども……嫌がっては、いなかった。
それからは、何事もなく時間が過ぎていった。
カーテンがピッタリと閉じられ、廊下側の窓にもラシャ紙が張られると、教室内は真っ暗になった。
みんながそれぞれの不安や思惑を胸に抱えながら、横になった。
目が醒めたら何事もない日常に戻れますように。そう心の底から願いながら僕も横になった。
瞼を下ろすとあっという間にドロのような眠りに引き込まれた。
こんなふうにして“異次元”での集団生活は一日目を終えたのだった。


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