「佐渡君……ちょっと、やりすぎじゃ?」
それまで傍観者だった一人が、おずおずとたしなめた。
もともとこのグループに体育会系は少ない。その数少ないうち圭一と健士・剛士兄弟がつるんでいる。
あとに残されたのは顔ぶれは、隆哉を除けば、腕力で圭一たちに対抗できるようなやつはいない。
圭一はみせしめのように、フラフラと立ち上がろうとしていた真人の腹を蹴り上げた。
うっ、と呻いて真人が膝をつく。
その様子を目の当たりにしていながら、下半身がとろけて自由にならない僕はそばに駆け寄ることさえできなかった。
「俺は必要な検査をしてるだけだぜ。どこがやりすぎなんだ、ん?」
暴力をちらつかされて圭一に凄まれると、それ以上異議を唱えるやつは現れなかった。
いまこの場は、完全に圭一たちに支配されていた。
圭一も、双子も、目が異様にぎらついてる。普通じゃない。
この学校が巻き込まれた異常事態が、圭一たちをおかしくさせてるのかもしれない……。
圭一は僕を含む女性化した五人を黒板の前で横一列に並ばせた。
「全員、服脱げ」
さも当たり前のことのように圭一は言った。
「なんで、そんなことを!」
良祐が口を挟んだ途端、圭一に頬を張られていた。
「馬鹿か、てめぇ? 身体検査で裸にならなくてどうすんだよ」
そして圭一は僕を指して顎をしゃくった。
「久住みたいにオモチャ突っ込まれたくなかったら、おとなしく言うこと聞いとけよ」
僕の股間ではまだローターが唸っていた。
腕を縛られたままの僕にそれを引き抜くすべはない。
結局、僕以外の四人は脅迫されて自分から服を脱いだ。
僕は双子の手によって完全に服をはぎとられた。
自分以外の女性化した生徒の完全な裸を見たのは、このときが初めてだった。
僕自身と同じように、皆、下半身も完全な女の身体になっていた。
教室のあちこちから息を呑むような声が聞こえた。
小春と真紀は正視するのに耐えられないというように顔をそむけた。
一方で、それ以外の男たちの視線は痛いほど突き刺さった。
何人が、僕の腿の付け根をつたう雫を目にしてしまっただろう。
視線から逃れるように智史は黒板側を向こうとした。
「誰がケツ向けていいって言った?」
智史の白くなめらかな尻を強く平手で叩き、圭一は無理やり智史に正面を向かせた。
せめて体の一部でも隠そうとしたのか智史は胸をかばうように腕で隠し、もう片方の手を股間の前にやった。
そうやって女体を隠そうとする智史の
姿はまるで扇情的なショーかなにかのようで、ひどくエロティックだった。
ニヤつきながら、健士・剛士が並んでる僕らの胸を片端から触っていった。
痛さとおぞましさをこらえようとする押し殺した喘ぎが連続して聞こえた。
双子は僕の前にくると、二人で分担して左右の乳を責めてきた。
武骨な手で掴まれてぐに、とやわらかな肉が押し潰される。
こんなことをされて気持ちが悪いはずなのに、さきほどからローターの振動で内側から刺激され続け、
すっかり火照っていたこの体は、敏感になっていた。
「はぁう!」
二人によって同時に乳首をつままれたとき、甘ったるい女の嬌声が響いた。
それが自分自身の声だというのが信じられなかった。
その反応に、双子は瓜二つの下卑た笑いを浮かべた。
悪夢だ……。
ほんの数時間前まで、僕はまっとうな男で、普通の生活を送る高専生だった。
一瞬の異変を境に、どうしてこんなにも境遇が変わってしまったんだろう。
望まない快感に身じろぎしながら、夢なら醒めてくれと僕は一心に念じた。
「ヨシ……!」
フラフラと立ち上がった真人が僕の名を呼んだ。
真人が僕に近づくのを、圭一たちは黙って見ていた。
「いま、抜いてやる!」
真人は僕の前で屈むと、股間に顔を近づけてきた。
吐息が秘所にかかって、ゾクリとした。
挿入されたままのローターのコードを真人の指がたぐり、慎重な手つきでそれが引っ張られた。
「あ、あ、あっ……」
感じやすくなっていた体に、その刺激はあまりにも強烈すぎた。
ぬるり、とローターが引きずり出されるのと同時に体が勝手に反応して──僕はイッてしまった。
ひく、ひく、と下腹部が痙攣していままでせき止められていた液が一気に内腿をつたい流れ落ちた。
なすすべもなくイッてしまう姿を、教室にいた全員に晒してしまった。
圭一が嘲るように甲高く笑っていた。
顔を紅潮させ、はぁはぁと息を弾ませる僕を見て、真人はどんな顔をしていただろう。
それを確かめる勇気はなかった。
「羽村真人クンよぉ、ずいぶんと必死じゃん。まさかと思うけどお前ら二人、デキてるとか? ククッ」
真人はすっくと立ち上がると、無言で僕の腕を拘束していたタオルをほどいてくれた。そして圭一と正面から向かい合った。
「お前らおかしいよ……なんで、仲間にこんなひどいことできるんだ!」
「仲間? てめぇこそ、こんな奴らが仲間だなんてオカシイんじゃねえの? 気味悪くないか? 突然、女に変わってるなんて」
「だから、こんなひどいことをしてるのか!」
「俺たちゃグループのためを思ってやってンだよ。
このにわか女どもをよく調べりゃ、何が起きたか手がかりが掴めるかしれないだろ?」
「こんなやり方じゃリンチと変わらない!」
「おーお。アツイねぇ。クククッ」
真人は床に脱ぎ捨てられていた僕らの服を拾うと、一人一人に手渡してくれた。
僕らはそそくさとそれを身に着けた。
乱暴に脱がされたシャツはところどころ大きく破れていたが、裸よりはよほどマシだった。
ただ智史だけは原形をとどめないほどカッターシャツが破られていて、肌が派手に露出していた。
真人は教室のほかのみんなに向き直り、大きな声で呼びかけた。
「みんなも、こんなこと許してていいのかよ! 黙って見てて、それでいいのか?」
真人に加勢するように、真紀が言った。
「そうだよ。みんな、こんな非道いことはやめさせて!」
傍観を非難された男たちは揃って困惑気味の表情を浮かべていた。
真人たちの言うとおりだとは思っても、暴力で優位に立ってる圭一たち相手にことを構えるのは……ということだろう。
正直いって僕だって、みんなの立場だったら、真人のように正論を主張できたか自信がない。
気まずそうに押し黙ってる男子の中で、一人だけ堂々と立って発言したのが、牧村始(まきむら・はじめ)だった。
始は、クラスどころか学科で常にトップかそれに近い順位の成績を残してる秀才だ。
「僕は圭一たちを支持するね、悪いけど」
「なっ!」
思いがけない発言に真人は顔色を変えた。
僕もぎょっとした。ほかのみんなは、少なくとも内心では圭一たちに反感を抱いてると信じてたからだ。
「外を見てみなよ。正体不明の靄だか霧だかのせいでグラウンドも半ばまでしか見通せない」
始は窓の向こうに目をやったまま続けた。
「外がこうなったのとほぼ同時に、そこの5人は性転換した。なぜかその5人だけがね。
……そこに何らかの因果関係があると疑うのは自然なことだ。
そもそもいま仮に“性転換”って言ったけど、そうだという確証もない。
じつは元の5人に顔立ちの似た女性5人がいつのまにか本人たちとすりかわって入り込んだのかもしれないな。
ほかに幾らでも検討しなきゃいけない可能性がある。
そのためには“異分子”であるその5人を一時的にでも拘束しとくべきだ」
淡々と言いたいことを言うと、始はすとんと席に着き、涼しい顔で腕を組んだ。
始のいってることは、恐ろしく理不尽なことだった。
だけど決して冷静とはいえない僕の頭では、理屈立ててその言い分に反論することができなかった。
「だとさ。援護射撃してもらえなくて残念だったな」
圭一が勝ち誇ったように言うと同時に双子が左右から真人の腕を絡め取った。
「クソッ、離せ!」
「ま、ちょっと大人しくしてろや。てめぇにもいい目みさせてやっからよ」
そう言うと圭一はおもむろに真人の股間のジッパーを下げた。
「おまえらにわか女の中から一人だけ、俺の助手にしてやる。俺の手伝いをする限り、ほかのやつより優遇してやるぜ」
薄笑いを浮かべ、僕らの顔を見渡して言う。
「誰でもいい。今からこいつの●ンポを手でしごいて発射させてみろ。それができたやつを助手にしてやる」
「ばっ……!」
真人はもがいたが、もともと小柄な真人が、上背のある健士と剛士の二人に押さえ込まれては勝ち目はなかった。
「早い者勝ちだぜ。一人だけいい目を見るのは誰かねェ?」
なんてことを思いつくんだ、こいつは。
そんな最悪な提案を受け入れるやつなんているわけがないと僕は思っていた。
「……おれがやる」
低い調子の、それでもはっきり女のものとわかる声が告げた。
荻野政(おぎの・まつり)のその一言は、僕を愕然とさせた。
「いいだろう、やってみな。ほかに希望者がいたら、荻野を押し退けてもいいんだぜ。
最終的にコイツを射精させたやつの勝ちだ。ケケッ」
政(まつり)はこわばった表情で真人の前に立った。
「荻野! マサに助けてもらったのに!」
僕の糾弾に、政はただ無言で目を伏せただけだった。
「やめろ! こんなやつのいいなりになるな!」
「……ごめん……」
ぽつりとつぶやくと、政は真人の股間に手を伸ばした。
「あっ……」
真人がびくりと震えた。
政の手が、開放されたジッパーの隙間から真人のペニスを導き出したからだ。
ごくり、と政の喉が鳴るのが聞こえた。
やがて、ゆっくりと政は男の性器をしごき始めた。
「や、やめ……」
「五分以内にイカせられなかったら失格だぜ」
自分勝手なルールを圭一が告げる。
「いい加減に──うくっ」
政の指使いが真人の抗議を断ち切った。
最初はどこか恐る恐るペニスを扱っていた政だが、圭一の付け加えた5分という条件にせかされて、
その動きが激しくなっていた。
真人は宙の一点を睨んで深呼吸をしていた。
下半身に加えられる刺激をそうやって感じまいとしている。
「フン。ちょいとばかり手助けしてやるか」
そう言うと圭一は政のワイシャツを力任せに左右に開いた。
ちぎれたボタンが飛んで、パラパラと床に落ちた。政はその下に肌着を着ていた。
それをグイと捲り上げると、、豊かに発達した乳房が顔を出した。
一度ふくらみの上までシャツがまくられると、圭一が手を離してもそれはずり落ちることはなかった。
真人は、間近で露出された政のバストを見せつけられたのだ。
その効果は、えげつないほど鮮やかに現れた。
ググッ……
真人のペニスがその体積を増していった。
健康な十代の男だったら誰でも、意思とは関係なく肉体がそういう反応をしてしまう。
同じ男の僕には──それが分かる。
真人は悔しそうに呻いた。
「頑張らないと時間がもうないぜ〜」
政と真人と、両方の反応を楽しみながら圭一が焚き付けた。
政の手の動きがそれを境に変質した。
機械的に前後にピストン運動をするだけだったのが、
いまでは肉棒に指を絡めるように蠢かしながら、変化をつけて愛撫している。
怪しい指の動きを見ているだけで、それがどんなに快感を送り込んでくるか、いやというほど分かる。
もはや真人には抗議の声をあげる余裕などなかった。
歯を食いしばり、脂汗を浮かべて必死で、与えられる快感と戦っている。
なぜか、その姿から目を逸らすことができなかった。
真人、耐えてくれ──!
その祈りを打ち砕こうとするかのように、政は両手をペニスにからめていった。
あるときは浅くしごき、あるときは根本まで深くしごく。
そうしつつ、ざわざわと複雑な動きで指を動かし、刺激されない箇所を残さない。
どうすればペニスが気持ちよくなるか。
それは政にとっても、僕と同様に己自身で知り尽くしてることだったろう。
──たとえ、その男性の象徴がいまは喪われていたとしても。
いつしか真人の小柄な体がブルブルと震えていた。
それを目にして僕は悟った。真人はもう、我慢の限界を越えさせられてしまった……。
つうっと真人の口の端から透明な唾液が落ちていった。
いま、真人の頭の中は真っ白な快感で塗りつぶされてることだろう。
政がペニスの根もとまでくいこむようにひときわ大きなストロークで手を動かし、
もう片方の手を真人の股間に添えるように当てたとき。
「────!」
びゅるるっ!
勢いよく大量の白い粘液が放たれ、政の腕に付着した。
射精のメカニズムが完全に真人の体を支配した。
政の手に打ちつけるように、カクンカクンと真人の腰が動き、そのたびに大量の精液が放出された。
政がぎょっとしたように手をひっこめても、しばらくのあいだ射精は止まらなかった。
さんざん耐えた挙げ句に絶頂を迎えさせられたことで、逆にすべてを吐き出すような深い射精に導かれてしまったのだ。
「ごめん……でもおれ……」
政は二の腕についた白濁液を拭って、それをじっと見つめた。
どんな感情がいまの政を支配してるのか……。
胸を露出させた格好のまま、政は動かない。
「……5分ちょうどだな。よくやった、合格だ」
圭一はポケットティッシュを政に放り投げた。
政ははっとした様子でそれを受け止めると、手に付着した粘液をティッシュで拭いた。
「う……あぁ……」
ようやく射精から解放された真人は、掴まれていた両腕を自由にされると、
そのまま自分の放出した精液が付着した床にくずれ落ちた。あまりのむごい姿に見ているだけで胸が痛くなる。
「お前はこっちにこい」
と、圭一はようやく胸を隠した政を、自分の傍らに呼び寄せた。
「圭一。彼女たちに尋問したほうがいい。女性化した彼女らが僕らと何か違う体験をしていないか。
事態の解決につながることを知っていないか聞き出すべきだ」
こんな一幕の後に不似合いなほど冷静な調子で始が発言した。
「違いねえ。秀才クンの言うとおりだ」
圭一は肯くと、手近な机に腰掛け、腕組みをした。
「さて、どいつから尋問してやるかな……」
「尋問っていうのは、なんのことだ? 説明してもらおうか、佐渡」
ハッとして僕は声のほうを振り向いた。
教室の入り口に、隆哉が立っていた。
校舎の外へ出ていた隆哉たちがようやくいま戻ってきたのだ。
隆哉は眉をひそめて教室内の有様を見回した。
「……ちっ」
圭一が毒々しい舌打ちをした。


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