「謝るっつってもなー」
ドアの前でハボックは思わずため息をこぼす。そう簡単に機嫌がなおるとも思えない。
だが恋人に触れられず心身共に飢えているのは自分も同じ。
これは、多少の犠牲は考えておかねばならないだろう。
「うし!」
決意を固めて、ハボックはノックをしてドアを開けた。
「失礼します」
「ほぉ、ハボック少尉ではないか。死ぬほどイソガシクテモわざわざ自宅から通勤ご苦労様だな」
デスクに頬杖をつき、不機嫌そうな声、表情。皮肉らしいその発言に、エドの言った通りだと、妙に納得できた。
ロイはきっといつ申し出るか待っていたに違いない。そう思うとただの仏頂面もむくれた顔のように見えて来て愛しさが込み上げるからふしぎだ。
おもわずにやけそうになった口元をひきしめて、ハボックは慎重にロイヘ近付いた。
「仕事がかなりあったのでてこずりまして」
「要領がわるい貴様が悪い」
「おまけに大佐とプチ同棲できる千載一遇のチャンスを逃して」
「……」
ゆっくり、頬杖をつくロイヘ身を折り曲げ、耳元に甘く掠れる声で囁くのが、
「自分で首しめたみたいで。今禁断症状でてるんスよ。大佐」
そっと髪をかきあげる手は振り払われなかった。そっとその額に唇を落とすと彼の体が震えた。
「……馬鹿者」
普段不遜きわまりない上官から漏れた弱々しい言葉に、ハボックは予想以上にロイが参っていることを知る。
途端に愛しくて愛しくてどうしようもなくなる。デスクの裏に回り、座ったままうなだれる彼を思い切り抱き寄せれば、自分が彼に贈った揃いの香水の香りがした。
「たまらなく愛してるんスよ、大佐」
今週末は珍しく二人の非番が重なる日だ。さっさと仕事を終わらせて週末はみっちり一緒にと思っていたのだが。
一緒に過ごせる休日、にとらわれすぎていて、ロイが日常のささやかな幸せを求めてくれたことも気付かなかったなんて。
「ほら、今週末、あんたも俺も非番でしょ。だから、週末までには仕事どうしても片付けたくて、それで頭がいっぱいになってたんス。せっかく大佐のところから堂々と出勤できたチャンス、逃して結構悔しいんスよ?」
でも、さびしい思いをさせてごめんなさい。
素直に謝り、久しぶりの恋人のぬくもりをもう一度抱きしめると、ふとさきほどの鋼の錬金術師のキスマークを思い出す。壁越し聞いていた、あの生々しい水音も。
思わず眉間に皺を寄せて、
「でも、大将相手とはいえ、毎回結構キツイっすよ、アレ」
「……これでも最大限の譲歩だ」
アレ、の意味に心当たりがあるのだろう、一瞬しまった、という顔をしてから、ハボックの愛しい上官は不遜に笑って見せた。
まあ確かにそうなのかもしれない。少なくとも攻めにまわってくれているだけでもよしとしよう。不安定にさせたのは自分がわるいのだから。
また許してしまった、と内心ため息をついた後、ふと意外と積極的にキスをしかけてきたエドを思い出し、今度本気で大将からおすそ分けしてもらおうかな、なんて、ハボックは考えてはいけないことをひっそりと考えた。
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