「ま、とにかく週末は一緒に過ごしましょうね」
「ん」
「じゃ、その前に」
「おい」
ペロ、と、唇を舐められてビクッと震えたロイの耳元の唇を寄せ、ハボックはややかすれがちになる甘い声で囁いた。
「久しぶりに喰わせて下さいね?」
もう一度ぺろり、と唇を舐めると、おずおずとその唇が開いた。
それは、二人が身体を重ねる時ハボックから仕掛ける始まりの合図であり、それに答えてロイが唇を開けばそれは了承の意味を示す。
「ん……ハボ……」
「しっ。黙って。久しぶりすぎて、話す余裕もねぇや」
そう言って笑うブルーアイは、確かに雄を強く匂わせていて。
間近で直視したロイは無意識に震えた。
口腔に侵入した舌は苦い。苦さに甘さを絡めて、ロイの舌を捕らえ、絡めて翻弄する。
後頭部と腰に添えられた大きな熱い手は、さらに深く舌を絡ませあうことを望み、息継ぎすら許さない。
深く口付けを繰り返し、時折唇を離しては舌を引き出させ、絡ませあうという繰り返しに、腰から下が情けなく震え、ロイは荒い息を隠しもせずにハボックにすがりついた。
やがて唾液の糸をひき離れた唇が、くつろがせた軍服の影の首筋を舐め上げた時。
「ひゃ、あっ」
そのもどかしい感覚に、ロイが大きな体躯にすがりついた、まさにその時。
「お取り込み中、申し訳ないのですが」
「「!!!!!」」
扉越しではない、直接部屋に響く冷ややかな声に、二人はもつれあったまま即座にフリーズしてしまう。
扉のあたりから漂う冷気は決して気のせいではないはずだ。
「もうこれ以上、あまやかすことはできません大佐。書類の提出の期限時刻が迫っていますので、早急にそのデスクの書類の山を片付けられますよう」
その声があまりにも淡々とし、動揺がないので、二人は逆に恐ろしく、見られた、関係がばれた、というショックよりも、いたって普通の対応を(怒りを多分に含んではいるものの) する中尉にあっけにとられた。
ゆっくり身体を離しながら、(力のないロイを後ろ手で支えることは忘れずに) ハボックはロイと仲良くわがマスタング組の裏番長を振り返った。
「中尉……?」
少々震えるロイの声に、書類を手にしたホークアイは美しい笑みを返した。
ぞっくううう。
ロイの背筋を寒いものが駆け抜ける。
「大佐。そのデスクの上の書類を一枚でも残したら、今夜は少尉を私が引き取ります」
「なっ!?」
「ちょ、ちょっと待て中尉! どういうことだね!」
「あら、当たり前でしょう? 大佐、あなたはさきほど誰とそうしていらっしゃいました?」
「う……っ」
あちゃー、とハボックは心の中で首をすくめた。そうだ、自分が部屋に来た時は、ホークアイはすでに執務室の前にいたのだ。気付いていないわけがない。
これはどうやら、こんなところでこんなコトに及ぼうとした自分へというよりもむしろ。
「大佐、私は曲がったことが嫌いです」
にーっこり。
何も知らなければ、なんて美しい微笑みだろうか。
だが残念ながら、ロイは彼女の笑みの裏に隠されたものを全て知ってしまっていた。
「もう一度言いましょう。そのデスクの上の書類を今日中に済ませない限り、ハボック少尉の相手は私がつとめますので、そのつもりで」
「い……っ!? 」
「ちょ、ちょっと待って下さいや、中尉!」
「あら何かしら少尉? 私では不足だと?」
「そ、れは」
そうだと断言できずにハボックは口ごもる。
その瞬間、ぎっとにらんできたロイに、目だけで訴える。
(あんたにしか興味がないのは本音ですけど! 怖いでしょうがんなこと言ったら!)
思わず理解せずにはいられないロイだ。
そして、彼には彼女の怒りを解く術も、この無理難題を跳ね除ける術も残されていないのだ。
「では、失礼いたします。ああ、大佐、これは特に急ぎの書類ですので、五分以内にどうぞ。ハボック少尉、来なさい」
「……イエス、マム」
はあああ、と重いため息を一つついたあと、ハボックはロイの頬に軽い口付けを残す。
「何とかなりますよ。俺のためにも頑張って下さい。週末はたっぷり甘やかしてあげますから」
なごり惜しそうに振り返りながら部屋を後にした少尉。
その日執務室では、愛しい恋人の口付けに奮起した男が尋常ではない速度で仕事をこなしてゆくペンの音が響いていたという。
さて、結果は一体?
END
コメント:いやー、寸止め寸止め(笑)
実は、急に続編で「ハボエド」「ハボアイ」かきたくなって。
どうでしょう?続きはどのカップリングかしら(笑)
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