ルフィの家は純和風。
家の外側は、時代劇に出てくるみたいな白い壁に囲まれている。白い壁の途切れる所には、これまた時代劇に出てくるみたいな門がある。
門扉は格子ではなく、一枚板で、向こうを覗き視ることは出来ない。鍵だけは現代式の厳重なオートロックで、なおかつ3重、年がら年中監視カメラが
作動中という、まるでヤクザの親分の家のような厳戒態勢だ。
ルフィは出し抜けにインターホンを押した。
ピンポーン! ピンポーン! ピンポンピンポンピンポンピンポーン!
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ピンポーン! ピンポーン! ピンポンピンポンピンポンピンポーン!
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「よし!」
別にイタズラしてるわけじゃなくて、警戒のためだそうだ。
反応無しと見ると、ルフィはようやく鍵を開けた。
一つ目はシリンダー鍵、二つ目はカードキー、三つ目は指紋認証キーだ。
何もそこまで、というほどに厳重な鍵の数々は、ルフィ曰く「エースの趣味」なのだそうだ。「仕事上色々危険だからなんだってさ!」…そんなにヤバイ
仕事してんのかしら?
ピピッという軽い電子音と共に、門が勝手に開いた。
ルフィの家は純和風。
だけど中身はとても近代的だ。
門から玄関までは飛び石が敷かれていて、その間を緑色の鮮やかな苔が埋めている。裸足で踏むと、ちょっと湿っぽくて柔らかくて弾力があって…と
ても気持ちがいいんだ。だから靴では絶対踏まないように気をつけている。
歩くのに合わせて、置かれた灯篭に火が灯る。正確には電気がつくのだけれど、配線なんかを絶対見えないようにしてあるせいで、幻想的ですらあ
る。
数10メートル行くと、ようやく玄関に着く。
今度は何故か暗証番号入力式で、10桁の数字を正しく入浴して初めて開くことが出来る。しかも、毎週数字を変えるそうで、記憶力がとてもあやふや
なルフィがよく覚えられるものだ。
ガラガラと引き戸を開けると――引き戸は格子と防弾ガラスで出来ている――ルフィは玄関に飛び込むなり靴を放り出すように脱ぎ、廊下の奥のほう
を指差した。
「じゃ、おれカレー作ってくっから、ナミは部屋でくつろいでてくれよ!」
「えぇ!? 手伝わなくていいの!?」
「すっげぇ美味いカレー作っから待っててくれよな!」
私の質問は無視ですかい! しかも行っちゃうし!
まだ靴も脱いでいないのに置き去りにされて、私は渋々ルフィの部屋へ向かった。
廊下はいつ来てもピカピカのツヤツヤだ。一体誰が掃除してるんだろう?
ルフィの部屋は家の奥の方にある。この間みんなでドンチャン騒ぎした居間からは随分離れている。廊下は暗く、本当に時代劇みたいな雰囲気だ。
一応衾をノックして、突き当たり一歩手前の部屋に入る。
…ルフィの部屋は変だ。
散らかっているようでいて、それは理路整然としている。多分、部屋の主は部屋中の情報についてきっちり把握していることだろう。
机の上には雑誌や筆記用具や小説が雑然ときっちり積まれている。使うときはどうするんだろう?
後ろ手に衾を締め、コタツ机の前に置かれた座布団に座る。
くつろいでてくれよと言われたが、どうくつろいだものか。
ルフィの部屋にはコタツ机が1つと本棚が2つ、MDコンポに洋服ダンス、壁に大きなリトグラフ。あとは押し入れとテレビとゲーム機、デスクトップタイプ
のパソコンが一台――つまりは普通の男子の部屋だ。
押入れを探るのはあんまりだと思ったからやめておいて、私は取り合えず机の上の雑誌をパラパラとめくった。
ルフィもこういう男性向けカジュアルファション雑誌なんて読むんだなぁ、と感心しつつページを追う。ところどころ赤ペンで丸く囲まれているのは、欲しい
ものとか気に入ったものだろうけど…どうも兄弟揃って同じ雑誌に書き込んでいるようで、時々明らかにルフィの趣味ではなさそうなものに丸が書いてあ
る。ルフィはこんな革ジャン絶対着ない。
値段が値段なので買うに買えない感じのものが大半だが、こういうのを読んで研究するのは大事なことだ。人間中身が大事というけれど、外見の印象っ
てそれよりもっと大事なのよね、実際問題。
しばらく雑誌を見ていたものの、どうにも飽きてきた。
他に何かないかと辺りを見回すと、一瞬窓の外で何か動いたような気がした。
電気をつけているせいで、外が良く見えない。
私は速攻で立ち上がり、窓を勢いよくあけた。
「おわっ、ナミ! びっくりしたぁ」
「びっくりしたのは私の方よ!」
それは、庭にせっせとテーブルを整えているルフィだった。
緑の苔の絨毯の上に、家庭用キッチンテーブル。――正直な話、珍妙な取り合わせだ。
「まさか、そこで食べるの?」
「たまにはいいだろ、こういうの!」
物凄く嬉しそうに言われて、私は庭とテーブルとルフィを見回した。
晴天の空には星が瞬き始め、風は冷やりと冷たい。足元の苔は柔らかく、ルフィは自信満々の笑顔で立っている。その上、台所からはカレーのいい匂
いが漂ってくる。
…まあ、悪くは、ないわね。
「いいんじゃない?」
そう答えると、ルフィはますます笑みを深くした。
「よぉし、それじゃもうちょっと待っててくれよ、カレー持ってくるからなー!」
ルフィは台所へすっとんで行ってしまった。
裸足だった。
本当に子どもなんだから、今年で自分が幾つになると思ってるんだろう。
私が椅子に座った所で、ルフィが嬉々として戻ってきた。
大きなお盆に、出来たてのカレーと、オレンジジュースの入ったコップを乗せて。
「にしし、おまたせー!」
運命の時間がやってきた。
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