冷たい風、熱い体。
さっきまで続いていた話が急に途切れて、沈黙が降り積もる。
風は静かで、ルフィも静かだ。
繋いだ手だけ、熱くって。
カレーは。
美味しかった。とても。
私が素直に美味しいと誉めると、ルフィは笑った。
夜の無人駅は、とても静か。
虫が鳴き始めるまで、まだもう少し季節が早い。
通る人もなく、車の行き来もほとんどない。
帰りの電車を、2人、待つ。
実は、泊まらないかと誘われたけど、断った。
だって。
ちょっと早すぎよね。
そう簡単に、一線超えさせないわよ。
そりゃ、家で2人きりにはなったけど。
まだ、その…そういうのはちょっと早いと思ったし。
私、初めてだし。
そういえばルフィはどうなんだろ。
彼女がいたって話は聞いたことないから、つまり、その。
…っていうか、いざ付き合うことになった途端、こういうこと考えちゃうのってどうなの。
明日ビビに聞いてみようかな。
あ、そうだ、カレーのこと考えよう。
カレーはとっても美味しかった。
チョコにキャラメル、赤ワインにニンニク、ショウガ、バナナ、ルーにコンソメ、その他諸々で作られたカレーは、素材が絶妙に溶け合っていて、これまで
食べたどのカレーより美味しかった。
でも、ルフィに「他の料理も作れるの?」と聞いたら、「卵焼き!」という答えが返ってきたのだった。
カレーだけはルフィ任せにしよう。
それにしても、チョコやキャラメルを入れたカレーがあんなに美味しいなんて知らなかった。ただ甘くなるかと思いきや、量の加減さえ工夫すれば、カ
レールーと相まって深い味わいを作り出すなんて。
今度私もこっそり練習してみよう。そしてルフィを驚かせよう。
2人してお腹一杯になるまで食べた。
なのに、食べ終わってしばらくしたらスナック菓子食べてるんだもんねぇ、私達。
食べすぎもいいところだ。
美味しかったけど。
「ナミ、もう電車来るぞ」
「あ、う、うん」
ルフィの手をパッと離して立ち上がり、線路の向こうに目をやる。
遠く遠く、光が近づいてくる。
隣でルフィが立ち上がった。
「じゃ、気ぃつけてな」
「うん。駅前だし、大丈夫」
「分かんないぞ、玄関開けたらぐわーって!」
「ないない、うちオートロックだもん」
「油断は禁物!」
「ルフィの家が厳重すぎんのよ」
電車がもう来るって言うのに、なんだかしょうもない話になった。
それはそれでいいかな、なんて思う。
メロメロ?
メロメロ。
線路を伝って音だけが先に到着する。
眩しい光の電車がすぐに後を追ってくる。
「ちゃんと気をつけるから…」
ぽん、と頭に手を置かれた。
私より少し背の高いルフィ。
おとこのひと。
降ってくる、キス。
「また、明日」
電車の扉が開く。
車内に足を踏み入れて振り返れば、そこにはいつも通りのルフィ。
「また明日」
言葉はふわりと風に乗り、ルフィの髪を撫でた。
閉じる扉、ゆっくりと動き出す電車。
また明日、また明日。
ねえルフィ。
そんなに手を振らないでよ、恥ずかしいでしょ。
私が電車に弱いの知ってるくせに。
そっと手を振り返す。
ルフィに見えたかどうかは、分からない。
今日という日は、あっという間に昨日になっちゃうけど。
また明日会おうね。
ルフィのキスは、ちょっとだけ、カレーの匂いがした。
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