019:玉石 -3-
−奇跡ノ歌イ手一行ニ関スル報告書 青草月ノ壱拾日− ・ルフィ ・ナミ ・ウソップ ・サンジ ・ゾロ 以上五名、ドラム王国首都・ドラムヘ入国。 入国直前ニ、ぞろ以外ノ四名、魔導ニヨリ姿ヲ変ジヌ。 入国目的ハ、観光、物資ノ補給。 タダシ、さんじトぞろノ以上二名、入国直後ヨリ別行動ニ移ル。 都市上部ノ小庭園ニ向カイ、獣ノ民ノ少年ト接触。 少年ノ名ハとにーとにー・ちょっぱー、獣ノ民、馴鹿族ノ出ナリ。 少年、魔導科学者ひるるく、くれはト親密ナ関係ニアル者ナリ。 青草月ノ壱拾日現在、さんじトぞろノ両名、ちょっぱー・くれはト接触中。 会話内容ヲ追ッテ報告ス。 |
報告書を作成しながら、私は同時にサンジとゾロを、そしてルフィたちを観察してい
た。
一方では、丁度ゾロが隠し通路の奥へ消えていくところであり、一方では、ナミが1 人部屋に篭って地図や星図を睨んでいるところが見えていた。
少し“目”を動かすと、大イビキで眠るルフィと、しきりにうめいているウソップが見え た。
…まったく、底の知れない若者達だ。
それだけに、面白いとも言える。
サンジやルフィは勿論のこと、一見して弱く思えるウソップですら、実は相当な力を秘 めている。恐らくルフィとサンジだけがその事に気付いている…はっきりと意識して気付いてい るわけではないだろうが。
一方では、丁度ゾロが隠し通路の奥へ消えていくところであり、一方では、ナミが1 人部屋に篭って地図や星図を睨んでいるところが見えていた。
少し“目”を動かすと、大イビキで眠るルフィと、しきりにうめいているウソップが見え た。
…まったく、底の知れない若者達だ。
それだけに、面白いとも言える。
サンジやルフィは勿論のこと、一見して弱く思えるウソップですら、実は相当な力を秘 めている。恐らくルフィとサンジだけがその事に気付いている…はっきりと意識して気付いてい るわけではないだろうが。
るふぃ、うそっぷ、なみノ以上三名、けいぜるノ宿屋ニテ休息中。 なみ、地図ト星図モテ、今後ノ旅路ニツイテ思案セリ。 買物、情報収集、星読ミハ行ワズ。 るふぃ、動キ無シ。接触無シ。 現在都市内ニカノ者タチ無シ。 なノ刻、わぽる帰還。 依然、国内ノ反政府勢力静観ヲ保ツ。 さんじ、不審ナ行動多シ。 体調不良ノ観アリ。 情緒不安定。 首都ニ入リテ以降悪化。 本日ノ報告ハ以上ナリ。 ――R |
作成し終わった報告書を御大の下へ送りながら、思う。
御大は私などとは比べ物にならないほど強い“目”をお持ちだ。それこそ、王都にい ながらにして、世界のあらゆる場所を見通せるほどに。当然、歌い手一行の動きも全 て把握なさっているはずなのだ。
なのに、わざわざこうして私を放たれたのは一体何故なのか。
幾つか理由は考えられるが、どうも釈然としない。
――考えても仕方のない事だ。
そう思って来たが、近頃疑問が頭を離れない。
私が不要になって、消すおつもりなのかも知れないが、それならそうお思いになった 瞬間に私は死んでいるだろう。もしかすると、何か事が起こったときの魔術の媒介とし てお使いになるためなのだろうか。もしくは、途中で不要な者を暗殺させるために? あの《紅蓮竜》や《災火の黒》を一行から遠ざけるため?
――ひまつぶし。
不意に浮かんだのは、人を食ったような笑顔で言い放たれたルフィの言葉だった。
…まさか、そんなことは。
あり得ない、とは言い切れない。
御大はあまりに強大な力をお持ちであるがゆえに、あらゆることに飽いておられるの だから。
けれどもそれゆえに、力なき者、小さき者が秘める爆発的な力を甘く見ておられる所 がある。
もしも帝国がほころび始めるとすれば、それはきっととても小さな事から始まるのだろ う。小さすぎて目に見えなかった波が、海岸に近付くにつれ一気に巨大な津波となる ように。
…大体、このようなことを考えているのに、自分が一向に死ぬ気配の無いことが不思議でなら ない。
別に死にたいわけではないが、御大のお力を考えると、不思議で仕方が無いのだ。 用済みのものは、虫を潰すように破壊なさるお方なのに。
ああ、分からない。
溜息の後、私は再び“目”と“耳”に集中した。
サンジと老魔導科学者くれはの密談を聞いておかなければ。
…サンジはヒルルクに会いたがっていた。やはり、気付いているし理解しているよう だ。けれどもヒルルクは既に死んでいる――となれば、頼るのは。
“目”の向こうに、向かい合って座るサンジとくれはが見える。
“耳”に、2人の交わす低い声が聞こえてきた。
その会話は、半分は私の予想通りで、もう半分は――予想以上の内容だった。
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御大は私などとは比べ物にならないほど強い“目”をお持ちだ。それこそ、王都にい ながらにして、世界のあらゆる場所を見通せるほどに。当然、歌い手一行の動きも全 て把握なさっているはずなのだ。
なのに、わざわざこうして私を放たれたのは一体何故なのか。
幾つか理由は考えられるが、どうも釈然としない。
――考えても仕方のない事だ。
そう思って来たが、近頃疑問が頭を離れない。
私が不要になって、消すおつもりなのかも知れないが、それならそうお思いになった 瞬間に私は死んでいるだろう。もしかすると、何か事が起こったときの魔術の媒介とし てお使いになるためなのだろうか。もしくは、途中で不要な者を暗殺させるために? あの《紅蓮竜》や《災火の黒》を一行から遠ざけるため?
――ひまつぶし。
不意に浮かんだのは、人を食ったような笑顔で言い放たれたルフィの言葉だった。
…まさか、そんなことは。
あり得ない、とは言い切れない。
御大はあまりに強大な力をお持ちであるがゆえに、あらゆることに飽いておられるの だから。
けれどもそれゆえに、力なき者、小さき者が秘める爆発的な力を甘く見ておられる所 がある。
もしも帝国がほころび始めるとすれば、それはきっととても小さな事から始まるのだろ う。小さすぎて目に見えなかった波が、海岸に近付くにつれ一気に巨大な津波となる ように。
…大体、このようなことを考えているのに、自分が一向に死ぬ気配の無いことが不思議でなら ない。
別に死にたいわけではないが、御大のお力を考えると、不思議で仕方が無いのだ。 用済みのものは、虫を潰すように破壊なさるお方なのに。
ああ、分からない。
溜息の後、私は再び“目”と“耳”に集中した。
サンジと老魔導科学者くれはの密談を聞いておかなければ。
…サンジはヒルルクに会いたがっていた。やはり、気付いているし理解しているよう だ。けれどもヒルルクは既に死んでいる――となれば、頼るのは。
“目”の向こうに、向かい合って座るサンジとくれはが見える。
“耳”に、2人の交わす低い声が聞こえてきた。
その会話は、半分は私の予想通りで、もう半分は――予想以上の内容だった。
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