001:世界

これは、旅の終わりの小さな物語。



再生できませんでした
「あの夏の思い出」By VaLSe様
OLD WOODS HUT URL:http://valse.fromc.com/



Fortuna divitias auferre potest, non animum.

時に、嵐の海のように。
時に、まどろみを誘う春風のように。
高く低く、歌は何処までも響き渡る。

Fortuna divitias auferre potest, non animum.

抜けるように白い肌と、絹のような金の髪。
細くしなやかな体全身で、歌い手は歌い続ける。その両足で大地を踏みしめ、風を抱くように両腕を広げて。
左眼を隠すように伸ばされた前髪が、甘く香る風に吹かれて舞い上がった。
青と、碧。
左右で色の違う瞳があらわになる。
しかし歌い手は気にとめる事もなく、高らかに歌いあげる。

Fortuna divitias auferre potest, non animum.

そこへ、腹に響く気持ちの良い歌声が重なった。
歌い手は目を細め、振り返る。
そこにあったのは、笑顔だった。
能天気で真っ直ぐな歌声が重なる。
涙混じりの清らかな歌声が重なる。
穏やかに伸びやかに歌声が重なる。
号泣のあまり何を言っているのかわからないが、とにかく歌声らしきものがさらに2つ。

Fortuna divitias auferre potest, non animum.
Fortuna divitias auferre potest, non animum.

歌い手は微笑むと、一つ大きく息を吸い、かつて《紅風の魔獣》と呼ばれた男の胸に、ためらいなく飛び込んだ。
男も、万感の思いを込めて歌い手を抱き締める。
歌はやがて笑い声に変わり(相変わらず号泣している者が2人ばかりいたが)、祝福と少しのからかいが抱き合う2人に送られた。
歌い手は頬を赤らめて抗議しようとしたが、男にそっと口付けられると途端に静かになった。
男の大きな手に何度も髪を梳かれ、ゆっくりと目を閉じていく。
その瞳から滑り落ちた雫が一つ大地に落ちて、すぐに消えた。

吹き渡る蒼い風の中、響くのは仲間達の笑い声。
ああ、何て幸せなのだろう、と誰もが思った。
生きることはこんなにも嬉しい。
愛する仲間と共にある、それだけで、世界はこんなにも美しい。
永遠などないと知っているけれど、このひとときは忘れない。
いつまでも、忘れない。


「――サンジ」
「――ゾロ」


Fortuna divitias auferre potest, non animum.
――運命は財産を奪うことができるが、心を奪うことはできない。





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