プロボーズの夜

 その夜、クレイジーロックはいつにも増してギャラリーが多かった。理由は分かりきっている。愛抱夢対スノーのビーフ観戦が目的だ。

 トーナメント決勝で凄まじい戦いを見せたふたりの再戦が行われるのだ。盛り上がらないわけはない。トーナメント決勝とは違いスタート前からふたりともどこか楽しそうだった。もっとも和やかという雰囲気からは程遠い。愛抱夢もスノーも本気だ。ギラギラとした闘気が全身から溢れている。


「賭けの賞品は何にするんだい? スノー」

 愛抱夢は、唇の両端をオーバーアクション気味に持ち上げた。目元がマスクで覆われている以上、表情は口元だけで作るしかない。これはごきげんな笑顔のつもりだ。

「いらない」

「そうはいかないよ。トーナメントとは違うんだ。規則だからね」

「最初にあなたと滑ったときは何も賭けなかったよ」

「あのときは、君と滑ることが目的だったからね。お互い賭けはどうでもよかった。でも今は違う。僕には賭けたいものがあるんだ」

「ふーん、何?」

「君だよ」

「俺?」

「そうだよ、スノー。僕が勝ったら、君は僕のものだ。なあに大したことはない。ただ一生、僕の側にいてくれればそれでいいんだ。簡単だろ?」

「うん。そんなのでいいの?」なんて素直な子なんだ。

「ちょっと待て! そんなのでいいの、じゃねー」やはり赤毛はここで出しゃばってくるか。ふん、邪魔をしようとしたって無駄だ。それでも穏便な対応で収めることにする。なんといっても赤毛はランガの大切な親友なのだから。

「なんだい? 赤毛くん。Sの掟は? 賭ける賞品については……」

「対戦する者だけで決めるものとする」

「赤毛くんにしては上出来だ。よく覚えていたね。偉い偉い」

「どうも……じゃねぇよ! そんなこと言われても、こいつは、そーゆーことに関して幼稚園児並みなんだよ、いろいろピュアっていうか」

 知っている。ランガがピュアだなんて言われるまでもない。

「そうやって、いちいち保護者ヅラしないでくれないかな? 規則は規則だからね」

「暦、最後まで話を聞こう」チェリーが赤毛の肩に手を乗せ制止した。やはり君は友達だ。助かるよチェリー。

「さて、邪魔が入ったけど。君が勝ったら何が欲しい?」

 うーんと、ランガは首を傾げている。スケートと賭けを結びつけることは、この子にしてみたら難問だ。

「思いつかない」予想通りの返答だ。

「なら、僕が提案しよう。採用するかどうかは君次第だよ」

「どんなの?」

「君が勝ったら僕は君のものだ。僕は一生君に尽くすよ。悪くないだろう?」

「わかった」

「契約成立だ」

 再び赤毛が身を乗り出した。今度は飛びかかってきそうな勢いだ。

「わかったじゃねーよ、ランガ! 気を確かにしろ」

「落ち着け、暦」ジョーが赤毛を羽交い締めにして、蛮行を防いでくれた。よくやった。君も僕の友達だ。

「暦、気持ちはわかるがSにはSの守るべきルールがある。ランガだって子供じゃない。信じてやれ。愛抱夢はランガが嫌がるようなことはやらないはずだ」

 そんなことは当然だ。

 ジョーを見れば視線で静かに圧をかけてくる。お前、わかっているよな? と。もちろんランガのことは一生大切にする。誓うとも。

「あれって、実質……」実也のボソリという声が聞こえた。シャドウが続く。「プロポーズ?」

 まあ君たちなら察して当然。気づいていないのはランガだけだ。

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