シーソー

□□ピリカ

 

私は蓮さんにあることを頼みたくて部屋に向かった。
向かう、って言っても隣だけど、心配と緊張がそのわずかな距離を長くした。
心配のタネはお兄ちゃんのことだった。
さっき下の階の手伝いが終わって自分の部屋に戻ると、お兄ちゃんが壁にもたれて、ぼーっとしてた。
聞いても、疲れてるだけだって言ってたけど…。
“あること”は初めからお兄ちゃんに頼むつもりはなかったけれど、
これで蓮さんのところに行くしかなくなったな、って思った。これが、緊張のタネ。
私は長くて短い距離を進むたび、緊張のタネから期待が芽生えてくるのを感じた。

「後にしてくれ」
そう、蓮さんに言われたけど別にそれほどショックじゃなかった。むしろ逆。
断られたわけじゃないし、蓮さんには自分の用事があるんだ、そう思ったから。
でも、今より後ってことは……真夜中?

いやらしい考えが頭いっぱいに広がる。前みたいに部屋に入ったらキスされて…。
って、やだ、私…。変なことばっかり考えちゃう。お風呂でも入ってこよう。
…お風呂に入って、それから……。うう…もう、えっちなことしか思い浮かばない……。
頭の中に映り続けてるやらしい映像を断ち切るように首を振って階段へと進んだ。
その途中、ある部屋につながる襖が目に入ってきた。葉さんと……アンナさんの部屋。
また妄想が始まる。…ダ、ダメ、そんなこと想像しちゃ。
私は襖の前を足早に去ろうとした。
「ちょっと」
アンナさんの声がして、足が止まった。わ、私……?
おそるおそる、振り返って襖の方を見る。閉まってた。
その後に、葉、という言葉が小さく聞こえてきて、
自分が呼ばれたんじゃない、とわかって胸をなでおろした。
心の中でも読まれたのかと思った…。
どきどきしながら再び妄想が始まる前に、今度こそ、その場を離れてお風呂へ向かった。


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