■シーソー
□□マッチ2
「ゃ………!」
まさかまた抱きつかれるとは思わなかった。
けど振り払うのにためらった。びっくりして体が動かないわけじゃない。
どうしてこう感じるのかわからないけど、彼の腕の力が優しかったからかもしれない。
…彼とあたし、何かあったのかな? 一度死んだとき、もしかしたら頭を打ってて忘れてた、とか。
こんな状況でこんなこと思ってる自分が変だって感じないのは何故だろう?
まるで遠くにいる自分を見るみたいに、いろいろ考えて、記憶を探ろうとしたとき、
また、ハオ様の声がして、あたしが見ていた“あたし”が消えた。
何もなくただ広い空間に放り出されたみたいだった。
いやだ、怖い…これ以上、踏み込んじゃだめ。
あたしは彼から抜けようと、腕を掴んだ。
そのとき、あるものが目に入った。飛び込んできた、のほうが正しいかもしれない。
とにかく、それはあたしの頭の中に飛び込んで、思い出させた。
手首に巻いてある、オレンジ色のゴム。あたしの、髪止めだ。
いつの間にかさっきの“あたし”も頭に入り込んでいて、
彼との、ホロホロと過ごした時間の記憶も蘇った。
ハオ様の声でバラバラに散っていた記憶が髪止めを纏うようにして組み上がった。
頭の中が澄み切ったみたいに、首の後ろが冷える。もう声は聞こえない。
不安を煽るだけだった声。過ぎてしまえば何てことない。考えすぎちゃ何もできない。
掴んだままのホロホロの腕。縛り付けようと力を込めたりしない。
そうだった。あのとき、布団の中で、あたしはいやなら逃げられたはず。
そうしなかったのは、ハオ様の代わりを求めてたから? それとも、泊めてもらえたから?
欲のない出会いなんて、あるわけない。言い訳はしない。
きっかけは何だっていい。自分で決めたなら、何だって。今も自分で決める。
「ホロホロ」
後ろから抱かれてるから表情はわからない。でも、腕が震えた。あたしはその腕を抱きしめた。
「泊めて、くれる?」
少し間が開いて、彼の腕に力がこもる。苦しいぐらい、だったけど、安心した。
そして突然腕が解かれたと思うと、今度は向かい合わせに抱き締められて、唇から直接返事を貰った。