シーソー

□□ホロホロ2

 

………………?

オレの肩のあたりに細い糸みたいなもんがついてるのを見つけて、指でつまみ上げた。
あいつの髪の毛だった。少し落ち着いてきた矢先、また頭がごちゃごちゃになる。
忘れちまおう、紛らわそうって引き離すように記憶を包んでいた膜が開いた。
まだ、未練がある。手首にくくりつけたこの髪止めとおんなじだ。
あいつとあのとき別れた浜辺。オレにこいつを渡して、さらさらした髪を揺らしながら帰ってった。

ハオのところに。―――ハオ、か。
そういえばハオは、オレに『さもなくば、お前の好いてる女の名を言うぞ』、こう凄んだことがあった。
ハオは心が読める。当然あいつのことも気付いたはずだ。
自分の仲間が敵と関わりを持った。そう知ったら、どうする?
忘れさせるはずだ。ハオならそんなことぐらいできたはずだ。

…って、そこまで思って空しくなった。『はずだ』ばっかしで、憶測に過ぎねぇ。
とっくにオレのことをどうでもいいと思ってる、そういう可能性から逃げてる自分が情けねぇ。
…そうだ、もう、なんとも感じちゃいねぇんだ。
オレは備え付けの冷蔵庫からペットボトルのミネラルウォーターを出して、飲み干した。
「失礼、します…」

今飲んだ水を吐き出しそうになった。…またあいつがやってきた。
振り切った思いはすぐまた集まって―――「何だ?」とオレは妙な昂りを抑えて言った。
さっきはいきなりで驚いたから、そう答えて欲しかった。けど、またオレはがっかりすることになる。
「さっき、途中だったから、また、掃除……」
さすがに二度目だ。かなり落ち込んだ。
あいつはオレを横切って、さっさと電気の笠にハタキをかけた。気まずい雰囲気が漂う。
胃の中の水が重く感じる。オレは部屋を出たほうがいいのか?
気分が悪くなってくる。出ちまえ、と諦めんな、って思いが交互に傾く。どっちがオレにとって幸せか。
…なに期待してんだ、オレは。……とっとと出てくか。
開き直ると体が軽くなった。そん時だ。腹ん中の水が沸騰したみてぇに熱くなったのは。

五臓六腑が怒ってやがる。目の前に本当の自分がいるような気がした。そのもうひとりのオレが言う。
…女々しいことすんな。自分で決めたくねぇって、結局逃げてるだけじゃねぇか。
その声は胸に深く響いて、よどみを、記憶を切り離そうとしてた膜を取っ払った。
…その通りだな。やっと気付いたよ、怖ぇのをごまかしてたんだ。
覚悟したオレは“オレ”に近付いて重なり、そのどろどろしたもんがなくなった心の中で、呟いた。

…じゃ、決めるか。


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