シーソー

□□ホロホロ3

 

「マッチ」
唇を離して体はつけたまま、オレは腕の中にいる女を呼んだ。特に理由はなかった。
「何か、変」
突拍子のねぇ言葉に、思わず、は? と聞き返した。変なこと言ったか?
「そうやって名前呼ばれるの、初めてじゃない?」
…そういやそうだな、考えてみりゃそうだ。あんときゃそんな雰囲気でもなかったし。
「これからは、いやってほど呼んでやるよ」
…そう、これからだ。何かがこみ上げるのを感じて、また唇を重ねた。

ふたりして布団の上に倒れ込んだ。
布団っつっても、押入からシーツ掛けっぱなしのを引っ張り出して畳にぶん投げただけだが。
「…ちゅ……ふぁ、んっ……」
そこで抱き締め、長いこと舌を弄り合った。
何でさっきは逃げられたか。態度がよそよそしかったのか。そんなこたぁどうでもいい。
聞いてわかったからって何かがよくなるわけでもねぇし、
とにかく今はこれでいい。なぜなら、ギンギンだからだ。
一端体を離して、浴衣を脱がした。あ、と声が聞こえたが、構わず脱がした。
どうやって脱がしたか覚えてねぇほど、心が浮いてる。とにかく、オレは脱がした。
素肌が目に飛び込む。細い首筋、強く握れば折れてしまいそうなしなやかな腕、か細い指、
鎖骨の下に膨らむ胸、薄桃色の先、肋骨が微かに浮き出たへその上、
その横のくびれ、そして下にすらりと伸びる白い脚。
あんときと変わりねぇみてぇだ。けど、全体的に細くなってる気がする。
「少し、やせたか?」
オレは聞いた。
「そりゃ、ここにいればいやでも、ね」
苦笑と答えが帰ってきた。頭ん中にはあるひとりの女が浮かび上がる。まあ……、
「そりゃそうだ」
ちょっとだけ笑い合う。そのとき震えた脇腹あたりに、短い、薄赤い線が見えた。
なんだ? と思い顔を近付ける。傷跡だった。
光の加減で時折浮かぶ程度だが、確かに傷跡だ。
「あ、それ…?」
マッチの声で、はっと我に返った。
頭を上げて視線をマッチの顔へと移す。心なしか沈んだ表情をしてた。
「そこだけ、消えなかったんだ」
そして、困ったように笑った。
「…ごめんね」

…は?

何でこいつは謝ってんだ? 傷のことを気にしてんのか? 
こんなちっぽけな傷で。いや、大きさなんて関係ねぇが。
オレは、こんなのが何だってんだ、と呆れて言ってやったが、さらにマッチは暗くなる。
「…そうじゃなくて」
何か言いたくてもできないような顔。そうじゃなくて…、

………ああ、そうか。

物心ついたときからハオに従って、それを裏切られ、しまいには仲間に殺された。
そのことを、傷で思い出したんだろう。簡単に忘れることなんかできねぇはずだ。
頼りがなくなり、仕方なしにここへ来て、オレに甘えてるみてぇに思われたくねぇんだな。
今までこいつが負ってきた不幸はどんだけのもんなんだろうか。それがこの傷に込められてる気がする。
忘れさせてやりたい。過去をどうでもよくしてやりたい。オレはそこに舌を這わせた。
「…………っ」
マッチの体がぴくっと震える。構わず傷を舌先でなぞる。
「…ひゃっ……ぁ…んっ……」
吸い付いて、舐め続けた。マッチの唇から喘ぎとも何ともとれない声が漏れる。
「…ぁんっ……ちょ…と、ホロホロっ…くすぐったい、ってば…」
一度口を離した。舐めたところの肌が赤くなって傷がわからなくなった。
…くすぐったいって言う割には……乳首、上向いてるんだけどな。少し息が荒くなってきてるし。
じれったいんだな。多分そうだろうと、代わりに言ってやった。
「…早くして欲しいのか?」
マッチの耳から頬にかけて赤くなった。そして、小さく俯くように頷いた。
その仕草を見て、どきりとした。
うつ伏せになってて前髪で見え隠れする伏せがちの目、その縁の長い睫、
甘ったるい息を漏らす小さな鼻、ねだるような口元。なんてきれいな女なんだと思った。
見目より心、なんつう言葉はこの女の前ではクソだ。
こういう諺を考えるやつは見目も心もダメに決まってる。
そんなふうに思っちまうほどその仕草はオレを興奮させた。
寝ても崩れない、形のいい胸に手のひらをかぶせる。
いきなり激しくは揉まない。まずは少しだけ指を曲げる程度にとどめる。
「…ん、はぁ……っ」
さっきより心持ち熱っぽい声が耳に響く。ぞくぞくと背中を何かが駆け上る。
次第に胸の先が硬くなってくるのが手のひらに感じられる。
人差し指でそこをつつくと、マッチの体がその度に震える。
「ふぁ…あぁっ…」
そして、不意を衝いて強くつねってやった。
「ゃ、ああぁっ…!」
ひときわ高い声が上がる。それが耳を衝いて頭を揺さぶった。
もう少し焦らしてやろう、と思っていたのが崩された。だが、ここでがっついちゃ男が廃る。
「我慢できないか?」
さも余裕があるみてぇに聞いた。オレはもう無理、だからお前から言ってくれ、と心の中で付け足した。
さっきの覚悟は何だったんだろうな。でも今は別に人生の岐路っつうわけでもねぇ。
だから気にすることもねぇ。まぁ、要するにオレがへたれなだけだが…。
「…っ…それは……」
それは、何だ? 早く言ってくれ。もう入れて欲しい、とか。
そんな手前勝手でへたれな考えは、別の形で叶うことになる。
「それは、ホロホロだって…」
マッチがオレの浴衣越しに、とっくにギンギンになってるモノをさすり上げた。
びくっとそこが脈打った。
情けねぇ、されて喜ぶな、と叱咤したが、それよりもそこはマッチの指先の叱咤に励まされる。情けねぇ…。
「して、あげよっか?」
上目遣いで止めを刺され、今までで一番、そこがびーんと飛び跳ねた。
情けねぇ、情けねぇと頭で嘆きながら、オレは急いで浴衣を脱いだ。
マッチはオレをうつ伏せにして、自分は覆い被さる格好になった。
さっきとは逆の体勢。つまり、主導権も逆になっちまったってことだ。
「…久しぶりだね」
そう言ってオレのモノを、自分の胸に挟み込んだ。
そこいっぱいに感じる弾力に思わず、うっと声が漏れそうだったが、とどめた。
そのまま体を揺り動かす。正直今すぐにもイキそうだが、必死で耐える。
そんなオレを追い込むように、そこの先に舌が添えられる。
胸の動きとは違うリズムで舌先がちろちろと引っかく。
「どう? きもちいい?」
笑みを浮かべて聞いてくる。その顔にまたやられる。こりゃ、もう。

「……まいった」

…焦らさないでくれ。
情けないことに、攻守は完全に逆転した。
だがそうも言ってられない。限界だ。
「ふぁ、んんっ…」
マッチの口から喘ぎが漏れてくる。竿に乳首が当たってるのがわかる。
してる自分も気持ちいいのか、胸を揺するペースと舌の激しさがこれ以上ないほど増して、オレは達した。
「…はんっ……んぅ…」
マッチは口で出たものを受け止め、喉を鳴らして飲み下した。
無念がるのもそこそこに、今度はオレの番だ、と意気込んだのをその淫らな行動で打ち崩された。
…ダメだ、もうダメだ。辛抱たまらねぇ。
体勢を戻して、下着に手をかけ一気に脱がした。
幸い、顔を出したそこは十分に濡れて下着と糸を引いていた。マッチが少し顔を赤くする。
「入れるぞ?」
前までの矜恃はどこへやら、がっついているオレがいる。
なんかもう、情けねぇのもここまでくると表彰もんだな、とか自分でそんなことを思いながらも、
マッチが、うん、と答えたのを見て今度は心の中でガッツポーズまでとる始末だ。
…こうなったら開き直っちまおう。どうせオレはへたれだよ。
マッチの足を開かせて、物足りずにいるモノをあそこにあてがった。


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