■シーソー
□□アンナ
- 変だとは気付いてた。
『炎』に戻ってから葉の態度と、今は読めないけれど、心にふたつの違和感を覚えた。
今、葉の浴衣の肩についていた髪の毛でそのひとつがはっきりした。
あたしのじゃない。それはどういうことなのか考えたくないけど、心は勝手に邪推する。
「ちょっと、葉」
掛け布団を敷いている葉の背中が震えた。こっちを見る。
「何だ?」
あたしも葉の顔を見る。それだけじゃわからない。表情を近くで見た。
「何なんよ、恐ぇカオして」
いつもの葉と変わりなく見える。…でも。
意を決し、肩についている毛をつまみとって、葉につきだした。
「これ、何?」
催眠術でもかけるように毛を揺らした。
「髪の毛…?」
「…誰のかしら?」
どんな答えが返ってくるのか。
「お前のじゃねぇのか?」
とぼけてるのかしらね。…もしそうだったら。あたしはどうするのだろう。
「長さも色も違うわ」
あたしは自分の髪に重ねて見せた。そして再び葉につきだす。
真実を知って、あたしはそれで幸せだろうか?
「…そんなモンがどうしたんよ?」
葉は首を傾げた。
今なら真実を知らずに戻ることができる。でも。
「…あんた、何か隠してない?」
あたしは、聞いた。そうしないといけない気がしたから。
そして今になって急に答が恐くて、泣きたくなった。葉が何も言わないから。- その沈黙の間にマイナスの結果が浮かぶ。
どうして髪の毛なんかつくのだろう? それは、誰の? 偶然? あたしの思い違い?
それともそんなことを疑うのは、あたしが葉を信じていないから?
次にいろんな疑問が頭の中でぶつかり合って、もつれる。
昔のままのあたしだったら、間違いなく鬼が生まれただろう。そのとき助けてくれたのは、葉。
…安心したい。あたしは葉に助けを求めていた。疑いのタネは葉から出てきたのにも関わらず。
- 「…ねぇ、何とか言いなさいよ」
…助けてよ。今のあたしには、葉しかいない、だから、見捨てないで。
「………ねぇ」
そして、あたしはまた救われた。
アンナ、と呼ばれたかと思うと、唇を奪われてそのまま押し倒された。
…ごまかされてるのかもしれない。あたしはそのとき、そう考えることができなかった。
さらに、もうひとつの心に残る違和感がはっきりしていないのも、気に留めることができなかった。
今は、いい。これで。
疑いの媒介であるオレンジの長い髪の毛を離して、そう思った。