第三話 『 決戦前 』
【 瞳 】「よっ・・・と」
女生徒の身体を持ち上げて、ベッドに寝かせた。
【 瞳 】「ふぅ・・・これで良いわね」
女生徒の身体を洗い、寝巻きに着替えさせるのに一苦労だ。
【 瞳 】「な〜んで、私一人でやらなくちゃなんないのかしら」
加賀野さんは女生徒の記憶を操作(って、本当にできているのかしら?)をしたら
後の事はぜ〜〜んぶ押し付けられてしまった。
【 瞳 】「まあ・・・仕方が無いか。 彼女、けっこう落ち込んでいたようだし・・・」
化け物から逃げたあと、加賀野さんの部屋へ行き、加賀野さんの意識がもどってから
これまでの経緯を聞いたのだが、終始うつむいていて話すことも辛そうだった。
あんなコトをされた後だと、ダメージが残っているだろうし・・・
たぶん、一人になる時間がほしかったんだと思う。
【 瞳 】「しかし、加賀野さんが異世界からやってきた戦士で、こっちで発生した化け物・・・
『ゆらぎ』だったけ? と、戦っているって言われてもねー」
―――――――――――――――――――――――――――
バタン、と部屋の扉が閉じられる。
たったいま、『天王寺 瞳』が女生徒を抱きかかえて退室をした。
この部屋にいるのは私(加賀野 愛)だけ・・・
【 愛 】「どうしちゃったんだろう・・・私は・・・・・・」
おかしい。
あんな雑魚にどうしてここまで手間取る?
最初の戦闘のときは本体ではなかったし、『天王寺 瞳』という部外者があった為
しかたがないコトだったが今日の戦闘は酷すぎる。
なんという体たらくだ。
人質を捕られて盾にされたくらいで攻撃を止めてしまうなんて、以前の私だったら
ありえない。
それに・・・
『ゆらぎ』に襲われただけなのに
こんなコト、今までにだって何度もあったコトなのに
どうしてこんなにもツライんだろう・・・
視線をベッドに向ける。
そこには・・・
【 愛 】「・・・・・・ベーチュくん」
べーチュくんを見つめていると、ある想いで胸がしめつけられる。
あのとき、秋俊は汚された私の身体を受け入れてくれたけれど
今日の私の痴態をどう思うだろう。
【 愛 】「・・・・・・」
『ゆらぎ』に犯されて感じてしまった自分が許せない。
この身体は秋俊だけ、秋俊だけにしか触れてほしくないのに・・・
【 愛 】「私は・・・弱くなった」
こんなコトで悩むなんて秋俊に出会うまではなかった。
私たち戦士は『向こう側の世界』に侵入する『ゆらぎ』を倒すこと為だけに存在する。
『ゆらぎ』と戦い、そのうえで身体を汚されようとも、それが『ゆらぎ』を倒す為なら些細な出来事だ。
それなのに、いまの私は汚されることを怖れている。
【 愛 】「こんなんじゃ戦士失格ね・・・」
メグ姉さま。
いますぐメグ姉さまに会いたい。
私の話しを聞いてほしい。
そして、この不安を取り除いてほしい。
出来ない話だ。
メグ姉さまに会うには、この一件を片付けて向こうの世界に戻るしかない。
いまの私を見てメグ姉さまはナンて言うだろう・・・
【 愛 】「ベーチュくん・・・」
ベッドの上のベーチュくんを持ち上げた。
【 愛 】「秋俊のせいだ。 秋俊と出会って私はこんなに弱くなった。 秋俊と出会わなけ
れば、こんな想いで苦しむコトもなかったのに・・・嫌い、秋俊なんて大きらい!」
そう言ってベーチュくんを壁に投げつける。
ボフッ
壁に当たって床に落ちる。
しばらく床に落ちたベーチュくんを見つめていた。
・
・
・
【 愛 】「ベーチュくんにあたってもしようがないのに・・・」
床に転がっているべーチュくんを持ち上げて、そのまま胸に抱く。
【 愛 】「ごめんね、痛かったでしょ・・・」
さらに強く抱きしめた。
【 愛 】「・・・会いたい。 秋俊に会いたい・・・・・・」
――――――――――――――――――――――――――――――――
入りにくいな・・・
聞くつもりはなかったんだけど戻ってくるのが少し早かったみたい。
【 瞳 】「秋俊くん、か・・・」
好きな人がいるのにあんな目にあったら、落ち込んじゃうのもしようがない。
こればっかりは慣れとかの問題じゃないし・・・
コン コン
ドアをノックした。
【 瞳 】「加賀野さん、入ってもいいかしら」
少し間があいてから
【 愛 】「・・・どうぞ」
と、返事が返ってきた。
今の加賀野さんの精神状態が反映されているのか、聞き取れないほど声が小さい。
【 瞳 】「入るわよ」
入室すると制服姿の加賀野さんがこちらを向いて立っていた、が・・・
あちゃ〜〜、私が出て行く前よりダメダメ状態だわ。
ナンていうか目が死んじゃってる。
こんなんじゃ戦えないわ。 たとえ戦えても確実に負ける。
普段はどうなのか知らないけれど意識の切り替えが出来ていないみたい。
やっぱり秋俊くんの名前がでたのがこたえているのかしら・・・
ふぅ、ここは先生らしいコトでもしてみましょうか。
仮にも教師なんだし(笑)
よし!
【 瞳 】「まだお礼を言ってなかったわね。 昨日は助けてくれてありがとう。 おがげで
助かったわ」
【 愛 】「べつに・・・助けたつもりはない」
ぐっ・・・そうきたか。
【 瞳 】「それでも助かったのに変りないわ。 ありがとう」
【 愛 】「ゆらぎを片付けただけ・・・あなたは、たまたま・・・」
【 瞳 】「たまたま・・・ね。 それと人質になっていた女の子を助けてくれてありがとう」
【 愛 】「あ、あれは・・・」
【 瞳 】「あれは・・・?」
【 愛 】「あれは、べつに・・・て、敵を油断させる、為に・・・」
【 瞳 】「油断させる為に?」
【 愛 】「だから・・・」
そう言って加賀野さんは押し黙ってしまった。
どうも加賀野さん自身にも、どうしてあんなコトをしたのかわからないみたい。
【 瞳 】「加賀野さん、あなたが何に悩んでいて、何に苦しんでいるのか、私にはわからない。
たとえ、わかったとしてもそのことを解消できないし」
【 愛 】「・・・・・・」
うーん、どうしよう・・・ こんな時は・・・どうする、どうする、どうする・・・ あ〜〜っ、もう!
【 瞳 】「ごめん! やっぱり私にはむいていないわ。
加賀野さん・・・泣きたいときは泣いていいの」
【 愛 】「・・・泣く?」
【 瞳 】「そう、泣いちゃうの。 泣くことで・・・えーと、ナンだったっけ、えーと・・・
小難しいことはおいといて、根本的な解決にはならないかもしれないけれど
落ち込んでいる気分が発散されるわ」
自分で言っていてナンだけどムチャクチャだ。
でも、泣いて気分スッキリは実際あるんだし、今回のケースに当てはまるか
どうかはしらないが・・・
【 愛 】「私はあんな事で泣いたりしない。 そんなこと、許されない」
ん? さっきより良い反応だ。
戦士としてのプライドがそうさせるのかしら?
【 瞳 】「でもね、このままだとあの化け物には絶対に勝てない」
【 愛 】「そんなことは・・・ない・・・」
【 瞳 】「そんなこと、あるでしょ!」
そう言って加賀野さんとの距離を詰める。
簡単に間合いに入れたので、そのまま加賀野さんの目の前まで接近した。
そして・・・
ぐんにょにょ
加賀野さんの両頬を両手で掴む。
【 瞳 】「全然、隙だらけじゃないの。 こんなのでアイツに勝てるわけないじゃない」
【 愛 】「にゃ、にゃひほふる」
加賀野さんの反撃がやってくる前に加賀野さんの顔を私の胸に埋め、その頭を抱いた。
【 瞳 】「泣きたいのに泣けないのはツライね・・・だから、戦うために泣いちゃいなさい。
あの化け物に勝つために、少しでも勝つ確率をあげるために泣くの。
それだったら、できるでしょう」
【 愛 】「・・・・・・」
・・・ダメかな?
でも、大人しくしているし、もうちょっとだけ・・・あっ!?
私の腰に加賀野さんの両腕がまわる。
でも、泣いている様子はないんだけれど・・・
加賀野さんの頭を撫でる。
何度も何度も撫でているうちに、かすかに聞き取れるかどうか、かすかに嗚咽が聞こえてくる。
涙を流さないで、声をあげて泣くこともしないで、でも確かに泣いていた。
不器用なのね・・・
いっしょに泣いてあげることは出来ないけれど・・・
そのかわりに加賀野さんの頭を撫で続けた。
ドルゥン ドッドッドッドッ ドゥイイイイイイイン ドルゥン
チェーンソーが物凄い音を出して刃を回転させる。
【 瞳 】「破壊力だけはありそうだけど・・・加賀野さん、コレってゆらぎに通用する?」
私の横にいる加賀野さんに聞いてみた。
【 愛 】「だいじょうぶ・・・です。 ゆらぎといっても実体化すれば肉でできていますし、
まれに表面の硬いゆらぎもいますがアイツにはソレで十分です」
【 瞳 】「肉って・・・そっか、だから加賀野さんの武器はソレなのね」
そう、加賀野さんの両手には草刈鎌が二本握られていた。
【 瞳 】「でも、そんなのでいいの? チェーンソーまだ余っているわよ」
【 愛 】「かまいません。 私はスピード重視ですからそんな重いモノを使ったら敵に捕まってしまいます」
【 瞳 】「そっか・・・ところで加賀野さん」
【 愛 】「・・・はい」
私は加賀野さんの顔をジっと見つめた。
うん、もう大丈夫。
【 瞳 】「そんなに畏まらなくてもいいわ。 もっと気楽にいきましょう。
そうね・・・私のことは瞳でいいわ。 その代わり愛ちゃんって呼んでいい?」
【 愛 】「えっ、そっそれは、で、でも・・・」
可愛い反応するなぁー。
【 愛 】「あ、あの、その」
【 瞳 】「なぁに、愛ちゃん?」
【 愛 】「う・・・その、えっと・・・はい・・・瞳、さん」
【 瞳 】「うん、よろしくね、愛ちゃん」
【 愛 】「・・・はい」
【 瞳 】「さてと・・・」
準備は整った。
あとは、目の前の結界を越えるだけだ。
【 瞳 】「行きましょうか。 用意はいい、愛ちゃん?」
【 愛 】「はい・・・でも先に渡しておくモノが」
そう言って愛ちゃんの手が伸びてくる。
そして私の前でゆっくりと掌をひろげる。
【 瞳 】「なぁに、これ?」
【 愛 】「籠球です」
【 瞳 】「・・・籠球?」
【 愛 】「・・・うん。 えっと、簡単に言うと爆弾みたいなものです」
【 瞳 】「簡単すぎる説明、ありがと」
爆弾ねぇ・・・ただのガラス球にしか見えないんだけど。
【 瞳 】「それで、どうやって使うの?」
【 愛 】「ゆらぎに投げつけるだけです」
【 瞳 】「・・・それだけ?」
【 愛 】「・・・・・・」(こくん、と頷く)
むぅ。
【 愛 】「・・・雑魚なら一発」
いや、そんなこと言われても・・・
【 瞳 】「と、とにかく効果は愛ちゃんの保証付きね」
【 愛 】「・・・」(こくん)
【 瞳 】「あ、でもでもコレを使ったら私達も巻き込まれない?」
【 愛 】「大丈夫・・・ゆらぎだけにしか効果は無いから」
そんな、都合のいい・・・
【 瞳 】「ありがとう。 でも、なるべくなら使わないでアイツに勝ちたいわね。」
コレを使うことになるってコトはヤバイ状況だろうから。
籠球をポケットにしまい準備OK。
【 瞳 】「よし、行くわよ愛ちゃん」
【 愛 】「はい」
そして私達は結界を越えた。
第三話 了
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