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制作者:真アルティメットアーマーさん #1 Opening / 始まり 自室の寝台から上半身を起こした状態で、ゼロ=オメガは前髪を右手でかき上げた。 「今頃になってあいつのことを思い出すとはな……」 ゼロは苦悩の表情を浮かべた。ゼロの視線は、自室の正面の壁に突き刺さっている。 しかし、藍色に輝く瞳は脳裏に浮かんだ一人の男の姿を見つめていた。 ‘あれ’からどれくらいの年月が経っているのだろうか、シグマ大戦が始まる前のことだから、八年は過ぎているだろう。 (すっかり忘れてたぜ……) ゼロは苦笑した。まあ、ここ四・五年は、それどころではなかったのだから仕方あるまい。 未だこの出来事は解決していない。それどころか‘あれ’から何も変わっていないのだ。 (お前は今も生きているのか? それとも……) 最後に会ったのは八年前。 今頃になってこんなことを考えても無意味だろうか……。 ふいに自室の壁にあるモニターの画面に、一人の老人が映しだされた。老人の顔を見た途端、ゼロは不機嫌になった。 『よぉゼロ……って、何じゃ? その嫌そうな顔は!?』 大げさなリアクションを取る老人。 彼は、レプリロイドの父と呼ばれているジェームス=ケイン。科学者であり、イレギュラーハンターの専属アドバイザーでもある。 「俺はいつもあんたに迷惑かけられてんだ。だから自然に拒否反応を起こしちまうんだよ!」 ゼロは嫌味の様に言った。 「ったく、今日は非番だってのに、何の用だ?」 ゼロは寝台から降りると、不機嫌そうに訊いた。 『明日はクリスマスじゃ。これから街に行こうと思っとるんだが、どうせ暇じゃろうから一緒に連れていこうとな』 ゼロはジロリとケインを見た。元々、人付き合いが苦手なゼロが人ごみの中に行くことを余り好んでいないということを、この老人は知っているはずだ。だが、ケインはゼロの無言の拒絶を察しなかった。あえて分からないふりをしているのかもしれない、ゼロはそう思った。 「そういう事ならエックスの方が合っているんじゃねーのか?」 ゼロはモニターから目を離すと、そなえつけの鏡に向って腰の高さまである長い金色の髪を整え始める。前髪を少し残し残りは後ろに追いやってオールバックにした。 『あの坊主はもう誘っておるぞ。後はお前さんだけじゃ』 「俺は今日、アンタ等とは行動出来ねーよ。今日は友人の命日なんでな。これから墓参りに行かなきゃならねーんだ」 『なら、それが終わってからでいいではないか』 ケインが間髪入れずに訊いてくる。ゼロはお気に入りの黒いロングコートを着ながら訊き返した。 「なんで俺が行かなきゃならないんだ?」 ゼロのその言葉を聞いた途端、ケインはややいじけた様な態度を取り始めた。 『なんじゃ。傷ついたお前を助けていたのは、このわしじゃぞ! 命の恩人とも云うべき者にそんな態度があっていいんか? お主、わしに感謝しとらんな? なら、もうどうなってもわしは知らんぞ。お主が怪我でボロボロになってもわしは治療などせんぞ! お主は痛い思いをしながらジワジワと死んでいくんじゃぁ!! ケケケェ!!』 ケインの脅迫にゼロは、しぶしぶと頷いた。 『おお! 行ってくれるか!? なかなか話のわかる奴じゃのう。いやはや』 ケインが悪魔的な笑みを浮かべた。この老人がたとえ偉大な人物であったとしても、この光景を見ていると、そうは思えなくなる。 (嫌味だ……絶対嫌味だ……) ゼロは自分の情けなさに頭を抱えたくなった。 ケインはそんなゼロを見ながら、 『じゃ、待っとるから墓参りとやらをさっさと済ませてくるんじゃぞ』 「やかましい! 俺はビームセイバーでアンタをぶった斬りたくなる前にさっさと消えた方がいいぞ!!」 本気で怒ると、即座にモニターのスイッチが切られた。 この時、ゼロは夢のことなど忘れていた。それは古すぎる記憶だった。今のゼロは墓参りと、ケインへの仕返ししか頭になかった。そう、この後起きる事件が、八年前のある出来事を再び続行させることになるとはこの時、彼は思いもしなかったであろう。 メモリアル・ホール。 レプリフォース革命事件でレプリフォースの戦士達は激戦のゆえ全滅した。ここには、その戦士達から色々な面でレプリフォースの携わっていた者達の墓地だ。すぐあとに起きたユーラシア墜落事件で地球は荒地となったが、ここは奇跡的に無傷だった。 人工芝が敷き詰められており、一人一人の墓と名が彫られた墓石がある。ゼロは、菖蒲の花束を持って敷地内を歩いていた。一つの墓のまで足が止まる。他の墓よりも若干大きい墓だった。墓石には次の様な文章が彫られてあった。 『若きレプリフォース総指揮官カーネル、美しく可憐な少女アイリス。兄と妹の魂。ソーン兄妹、ここに眠る……』 「もう四年も過ぎちまったのか……」 ゼロはそう呟くと、持ってきた菖蒲の花束を墓に置いた。カーネルは自分の友人にてライバル……。アイリスは、自分が初めて愛した女……。ここに、ゼロはここでエックスと話した時のことを思い出す。ゼロは過去にタイムスリップした。 「セイバーは軍人の誇り! 捨てる時は死すときのみ!!」 突如、イレギュラー認定を掛けられ自分に反発したカーネル。 「……故に我等は貴殿等の命令を不服とし、我々はここに独立を宣言する!!」 人類による武装解除が高まり、怒りを爆発させたレプリフォース最高司令官ジェネラル。 「甘い……甘いんだよっ……俺の行く手を塞ぐ者がいたならば、たとえ正義が相手でも闘う!」 レプリフォースの真意を知るため、単独行動を取ろうとした自分にバスターを向けたエックスを斬った時の自分。 「カーネル殿を裏切った罪! 体に刻みこんでくれる!!」 カーネルを尊敬していた戦士、ジェット=スティングレンと激闘を繰り広げた時。 「でも……これだけは言えるわ……目の前で苦しんでいるいる人に敵も味方もない……って……」 スティングレンとの闘いで傷ついた自分を治療しながら信念を語るアイリス。 「……俺の邪魔をするのなら、君でも殺すよ」 アイリスを助けるために乗り込んだミリタリートレインで、イレギュラーを超えた鬼と化したエックスと再会した時。 (懐かしい未来への扉を皆の力で開きに……) この戦いに終止符を討つためにエックスと共に死地へ向った時。 「軍人はいいよな……こんな立派な墓を貰えて、ハンターは書類書きだけか……」 「……なぁ、ゼロ……もし、俺がまた今回の様にイレギュラーとなってしまったら」 「……」 「……君が俺を殺してくれ」 この場所で、自分にそう頼んだエックス。 ゼロは閉じていた目を、ゆっくりと開いた。 「……行くか……」 無数の人々が行き交う中、ケインが浮かれ気味で歩いていた。そのすぐ後ろにエックスとゼロが歩いている。そしてさらにその後ろに金髪の女性と茶髪の少女が歩いていた。 金髪の女性の名はマーティ=ギブソン。エックス達と共にいくつもの闘いをくぐり抜けて来た元・海空賊団の頭である。ただし、ユーラシア墜落事件で多くの仲間を失った今は救助部隊の隊長を担っている。エックスより四歳程年上(外見的年齢)の彼女は昔エックスに助けられた時に彼に惚れてしまい、それを心の中に隠しながらエックスと馬鹿を遣り合ってきたエックスの親友の一人だ。金髪のロングヘアーに紫色の上着を羽織っている彼女は美人と云える程だった。元々の大人っぽさが上手に出ていた。 茶髪の少女の名はクリス=ディスフォード。レプリフォース革命事件前にエックスの部隊に入隊した少女で、今までのレプリロイド大戦を沈めて来たエックスを敬愛している。外面年齢はエックスと同じ十五歳ぐらいだ。茶髪でポニーテールのこの少女は、やや幼さを感じさせる顔立ちをしており、美人というよりも可愛いという言葉の方が似合っていた。 彼等はおのおのの服を着ていた。戦闘時の鎧を着ていないので、彼等はレプリロイド特有の個人認識派を感知されない限り、人間に成りきることさえ可能である。 「さあて、次は何処に行くかのう」 ケインがはりきりながら言った。 「え? まだ何処か行くんですか?」 エックスが驚く。無理もない。買い物を始めとし、色々なところへ行って来たのだ。 先程も、カラオケボックスに四時間もいてケインを除く四人は精神的に疲れ果てていた。 「もうそろそろ帰りませんか?」 クリスがケインに訊く。 「まだまだぁ。これからじゃぞ! ……しかしまぁ、イレギュラーハンターの最大戦力であり、蒼き救世主・紅き鬼神と呼ばれておるおぬし等がまさか音痴だったとはのぉ」 ケインが目を細めながら呟いた。途端にエックスとゼロは恥かしさで赤くなった。 「だから俺は遠慮したんですよ!」 「だから俺は嫌だったんだ!」 エックスとゼロは同時に叫んだ。 「でもアンタだってすげぇ、じじくせぇやつを歌ってたじゃんか!」 マーティがケインに言うとクリスも、 「本当ですよ。あれ一体、何ですか?」 ケインは足を止めると後ろへと振り向いた。 「フフ、聞いて驚くな。あれは演歌と云って……」 ケインが話しているとその時、突如として爆音が響き渡り、エックス達の鼓膜を強打した。 すぐさま音のした方向へと振り返る四人。 (何だ!? あの爆音は!?) 爆心地の方は、建物が視界を遮っている為、様子は見えなかったが人々の悲鳴や怒号がかすかに聞えてくる。 (何かが起こったな) エックスは直感した。マーティに声をかけると、 「マーティ。急いで本部へ連絡、救助部隊の緊急出動を要請してくれ!!」 「わかったよ!!」 マーティは頷くと、携帯電話を取り出した。 エックスはケインの方へ向くと、 「Drケイン。ここで待っていてください!」 そう言うと、エックスは爆心地の方へと走り出した。 | ||
制作者コメント 管理人コメント |
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