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制作者:アサドリさん 第三章 「なんで、お前がこんな」 「るせえな。どうだっていいだろが、んなこた」 アリゲイツはゆらりと構える。 「……抵抗をやめて、おとなしく投降するんだ。さもないと、隊長権限でお前をイレ ギュラー認定するぞ」 じりじりと距離を開けながら、Xは警告した。 「へ、何言ってやがる。仲間ぁ叩っ壊して逃げたあの時から、俺はお尋ね者さ。そう だろ?」 「…………」 事実だった。どのみちアリゲイツは、もう戻れないのだ。 ぎいいいん、と耳障りな音をたて、彼の両肩のホイールが回り始めた。 「最後に教えろ。なぜ、おまえは仲間を壊した。なぜ反乱に加担した」 「言ったろ、『んなこた、どうだっていい』。……ま、強いて言うなら、ブッ壊した くなったのよ」 「何を……」 「何もかもを、さ。……もういいだろ? んじゃ、とっととおっ始めようぜ!」 言うなり、アリゲイツは両肩のホイールを同時に発射した。 ―――ブッ壊したかったんだよ、何もかも。 あの日……小学生・まどかと屋上でしゃべった、あの日。 彼は、不仲だったあの部下を破壊して、そのまま逃げたのだった。 「……わっ!」 Xはあわてて身を伏せた。 ホイールは彼をかすめて飛び、そのまま壁を突き破って消えた。 Xもバスターを打ち返すが、アリゲイツは次のホイールでそれを相殺する。 あの後、アリゲイツは部隊のオフィスルームに戻った。 別に、好きでそうしたわけではない。そもそも、勤務中に無断で部屋を離れてはい けないのだ。 オフィスルームは、思ったとおり気まずい雰囲気だった。 そして、非難の目はほとんど自分に向けられている。これも予想通りだ。 今回、先に手を出したのは彼自身だったし、アリゲイツの短気と乱暴ぶりは有名 だったのだから。 だが、先にケンカをふっかけたのは、実を言うとその部下の方なのだ。 ……なんで、俺だけ。 口には出さなかったが、また気持ちがとげとげしくなっていく。 無論、『仲直り』など、とうの昔に頭から吹き飛んでいる。 「よお、やるじゃねえか。ただのボーヤかと思ってたら」 それには答えず、Xはバスターを連射した。 「じゃ、こいつでどうだ?」 アリゲイツは跳び上がり、体ごと回転しながらXに突っ込んだ。 「……!!」 避けきれず、Xは弾かれて壁に激突した。 オフィスルームが再び険悪になりかけたその時、幸か不幸か、第6艦隊に出撃命令 が出た。おかげで、とりあえず部隊内のもめごとはそこで中断された。 アリゲイツはイレギュラーに八つ当たりすることにし、それを実行した。 そのまま放っておけばいいものを、例の部下がぽろりと言ったのだ。 ―――暴力ふるうのがお好きだね、うちの副官どのは。 決定打だった。アリゲイツは、攻撃の的をイレギュラーからその部下に変えた。 「げほっ!!」 一瞬、意識が遠のく。床に落ち、それでもXは立ち上がった。見ると、相手は次の 突撃体制に入っている。 壁蹴りで逃げようとしたその途端、ぎざぎざにえぐれた壁に足を引っ掛けた。 さっきの突撃で、壁がやられたのだ。 壁蹴りはだめだ。あわててあたりを見回す。……と、その眼が、壁の一点に吸い寄 せられた。 その部下は、あっけなく大破した。仲間が呆然としている間に、アリゲイツは逃げ た。 ……ちくしょう、ちくしょう。 楽になっただの、スカッとしただの、そんな気持ちはみじんもなかった。 ただただ憎かった。あの部下も、周りも、みんな。 ……なんで、俺だけ。 声をかけられたのは、その時だった。 ―――先ほどのあなたのご様子、拝見しましてね。 馬鹿ていねいな口調で、その男は言った。 ―――我々に、力を貸していただけませんか…… 反乱のお誘い、だった。 ……おもしれえ、こうなったら壊してやる。何もかも。 やけを起こして『正義』と引き換えに得た陸上空母というオモチャは、まったくす ばらしい代物だった。 「死ねえ、小僧!!」 アリゲイツの突撃が来た。Xは、壁からもぎ取った『それ』を、アリゲイツに向 かって思い切り投げた。 「……ぐわっ!?」 ぎりりりり、とすさまじい音がし、アリゲイツは勢いよく床に落ちた。 「こいつぁ……」 「チェーンだよ、壁にあった」 回転攻撃があだになり、アリゲイツの体には頑丈なチェーンがめちゃくちゃにから まっている。 「……くそっ!」 「最後だ!」 Xは、動けないアリゲイツに向けてバスターを連射した。 ―――なんで、俺だけ。いつも、いつも。 いくつもの暴力事件。必ずしも、アリゲイツだけが悪いわけではなかった。 事実、今回のケンカの原因も、あの部下だ。 それらがみんな、自分のせいになる。いつだってそうだ。 ……だが、本当は分かっていた。それらの理由が。 持ち前の気の荒さと、その強いパワー。 よせばいいのに、つい殴る。そして相手を傷つける。 よせばいいのに。 ―――バカな大人が、ケンカするのよ。 つまりは、まったくその通りなのだ。 ずううん、と重たい音をたて、アリゲイツは倒れた。 ―――やった、のか? Xは、恐る恐る近づいた。と…… 突如、がっ、と相手が脚にかみついた。そのまま引きずり倒される。 「!?」 途端、部屋の四方から何かがあふれ出て、見る見る床を浸していく。 Xは、あわててバスターをアリゲイツに向けた。が、 「撃てよ。撃ってみろ」 彼の脚をくわえたまま、アリゲイツが低く笑った。 「こいつは重油だ。撃ったらお前ごと、火だるまよ」 ―――アリゲイツは、バカな大人? ―――そうさな…… 「馬鹿な! お前だって死ぬぞ」 「構わねえ。気に入らねえ部下はブッ壊したし、街だってガラクタにしてやった。も う、やりてえ事はみんなやっちまったのよ」 アリゲイツの眼が、異様にぎらついた。 「あと残ってるのは、お前ぐらいだ。英雄道連れに死ぬってえのも、オツなもんだ ろ。ええ?」 彼は、くっくっと喉の奥で笑った。 ぎぎぎぎ、と妙な音がした。見ると、鎖で押さえられている肩のホイールが、無理 やり回ろうとしている。 ぞっとして、Xはもがいた。この重油の海だ。火花一発で火の海になる。 しかし、そのアゴはXを捕らえたまま、びくともしない。 (続く) | ||
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