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制作者:アサドリさん 第二章 けたたましいサイレン。怒号と通信、足音が入り乱れる。 『十番区、住民避難率57パーセント!』 「くそ……十三番区はどうした?」 「十三番区、応答ありません!」 「十三番区、応答願います! 聞こえますか!?」 「落ち着け! 残り区域はどうなってる」 『ほ、本部! 本部! 七番区近郊に……』 「おい、どうした!?」 「七番区! 通信途切れました! 七番区どうぞ!」 『…………ザ……ザザ……応援を…………至急……だめだ……』 「な、七番区! 七番区!? くそっ、切れた!」 「七番区に至急増援! どの部隊が残ってる?」 「どこも出払ってます! もう本部警備用の部隊しか……」 「人員が余っている区域は?」 「総監! 四番区に派遣中の第17部隊、動けます!」 「よし! ……第17部隊! X! 聞こえるか」 『……はい、こちらX』 「七番区に向かえ! すぐにだ」 『了解!』 累々と積み重なるがれきの間をぬうように、ライドチェイサーたちは疾駆する。 巻き上げられる土ぼこりがひどい。街全体が破壊されているのだ。 ライドチェイサーの乗り手は、イレギュラーハンター第17精鋭部隊。 「いました、隊長! あれです! 前方三百メートル!」 先頭のハンターが前方を指差す。 「よし、そのまま接近!」 無線で全員に伝え、隊長……Xは、前方の『あれ』……恐竜型陸上空母をにらみす えた。 これが、この巨大空母が、この惨状の元凶なのだ。 ―――そして、こいつの裏で糸を引いているのは、おそらく…… 『カウンターハンター(イレギュラーハンターを始末する者)』を名乗る3人組の イレギュラーが起こした反乱は、Σの乱の恐怖も覚めやらぬ世界を再び混乱に陥れて いた。 彼らの手段はΣと同じく、部下のイレギュラーを使った、世界中枢への同時多発型 の攻撃。その手腕は恐ろしいほどに的確で、すでにセントラルコンピューターが乗っ 取られ、そのシステムを悪用したサイバーテロが起こっている。 ついこの間、それが解決したばかりだというのに、それに追い討ちをかけるかのよ うにこの陸上空母事件が起こった。 何の前触れもなく都市圏に現れたこの空母は、そのまま都市圏への攻撃を開始し た。 そして、不意を突かれたイレギュラーハンターベースが最初の一手で出遅れたのを いいことに、都市を我が物顔に荒らしまわっているのだ。 前方百メートルに迫った陸上空母。間近で見て、Xはその巨大さにぞっとした。 この規模の空母だ。もし正規に登録されている物なら、自分たちが知らないはずは ない。 ―――やはり、奴らだ。 もはや、確信だった。 Xは一度ライドチェイサーをとめ、部隊全員に早口で指示を出した。 「みんなよく聞け。今から空母に突入するが、この大きさだ。一人ずつでは危険すぎ る。班単位で行動して、一斑はメインエンジンの破壊、二班は武器系統の制圧、三班 は外で待機してハンターベースとの連絡を担当してもらう」 「隊長は?」 「俺は中枢を叩く。各班の指示は班長に任せるが、連絡だけはしてくれ」 「了解!」 「よし、行くぞ!」 Xは、再びライドチェイサーを発進させた。 ―――冗談じゃない。 空母突入後、最初の感想がそれだった。 複雑に曲がりくねった通路。今来た道を覚えるのがやっとで、それも方角や距離な ど複雑な暗算をして、やっとマップが作れる程度だ。 しかも、すさまじい量の戦闘用メカニロイドが、ミサイル、体当たり、ライドアー マーなど考えられる限りの攻撃を仕掛けてくる。文字通りの物量戦だった。 そんな中でXがライドアーマーを奪えたのはほとんど奇跡で、それも敵の猛攻をし のぐのが精一杯だった。 ほとんどがむしゃらに攻撃を仕掛け、それでもXは前に進んだ。だが、中枢までど のくらいなのか、いや、そもそもそこへちゃんと向かっているのか。 正直、見当もつかない。 絶望的な気分になった時、ばっと視界が開けた。 真正面から、ものすごい風。 ―――外? 窓の強化ガラスを突き破り、Xはライドアーマーごと、空母の艦橋へ出ていたの だ。 艦橋のふちに立ってみた。めまいがするほどの高さに、思わず後ずさりする。 我に帰り、周囲を見回す。 ―――ここは、この空母の最前部だ。 怖いぐらいの速度。両脇を、景色がぐんぐんと流れていく。 ―――最前部!? もしかして…… ライドアーマーから降りる。風に飛ばされそうになりながら、艦橋の手すりにどう にかつかまる。そのまま、思い切り身を乗り出して下をのぞく。 すぐ下に、強化ガラスの窓。その中に、制御パネルらしき物がちらりと見えた。 ビンゴ。ここが中枢だ。 すぐに使用武器を切り替える。 マグネットマイン。その名の通り、磁力設置式機雷。ぎりぎりまで腕を伸ばし、窓 のふちに向かって発射する。 かすかな音。機雷がうまく貼りついたのを確認し、すぐに身を引っ込める。 直後、轟音。 再びのぞいてみると、窓ガラスはきれいに吹き飛んでいた。 ―――よし! Xは手すりの外側にぶら下がり、そのまま室内へと飛び込んだ。 途端、がっ、と強い衝撃。頭部が、何かにつかまれた。 「―――!?」 そのまま、万力のような力で頭部が締め上げられる。 何がなんだかわからないまま、Xはマグネットマインを撃った。 爆発音。力がゆるむ。その一瞬を逃さず、彼は後ろに跳びすさった。 そして、自分を殺しかけたものの正体を見た。 「よお、X『隊長』さん」 相手はにやりと笑みを浮かべ、相手は据わった目でXを見すえた。 「おまえは……」 ホイール・アリゲイツ。 少し前、任務中に同僚を破壊してそのまま逃走した、第6艦隊の副官だった。 (続く) | ||
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