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制作者:アサドリさん 第三話 真相 動けない。 ぞっとするほど冷たい目。それは明らかに、獲物を捉えた暗殺者のそれだった。 『紅のアサッシン』――マグネ・ヒャクレッガー。 立ちすくむXの脳裏を、そんな言葉がよぎっていく。 アクエリアスが、悲鳴のように兄の名を呼んでいる。 そんな彼女に一瞥もくれず、ヒャクレッガーはゆっくりと腕を上げる。その手には、手裏剣。視認した瞬間、呪縛が解けた。 「下がって!!」 Xは叫んだ。途端、手裏剣が飛ぶ。彼はアクエリアスをかっさらうように床に伏せた。鋭い音をたてて手裏剣が壁をえぐる。 彼女を物陰に突き飛ばし、バスターを連射する。相手はそれをあっさりかわし、再び手裏剣を放つ。横に跳んでかわしたが、すぐに次が飛んでくる。それらはみな、恐ろしいほどの正確さでXの関節を狙っていた。 完全に主導権を握られている。 さっき盗られたデータが、ヒャクレッガーにも転送されている可能性が高い。 それだけでなく、強い。先ほどのメカニロイドなど比べ物にならない。 (まずい……!) と、手裏剣が一つ、妙な飛び方をした。 (!?) 一瞬気を取られたXの左肩に、手裏剣が鋭く叩き込まれた。 「ぐあっ!?」 なすすべもなく、彼は床に倒れこんだ。 「Xさん!!」 思わず飛び出したアクエリアスに向け、ヒャクレッガーが無造作に手裏剣を放った。 (……!!) Xは辛うじてバスターを撃った。手裏剣は彼女をわずかにそれ、背後の壁に刺さった。 「よせ!! 彼女は君の妹だぞ!!」 床にへたり込んだアクエリアスをかばうように、Xは彼女の前に立った。 ――なぜだ! 本当に犯罪者になり下がったって言うのか? 第0も妹も捨てて!? だが、 (ありえません、失踪も犯罪行為も……) (私にとって『兄さん』はあの人だけなんです……) 結びつかない。どうしても。 「……兄さん……!」 アクエリアスが、震える声で呼びかける。 そんな妹を、兄は見ようともしない。 ――まさか、『分からない』のか!? 彼女が…… 「『洗脳』だ……!」 Xは思わず声に出していた。 「ええっ!?」 アクエリアスが声をあげる。 「そうだ、間違いない。洗脳です。だから、彼はあなたのことが分からないんだ」 レプリロイドへの『洗脳』。 保安上、そして人道上の理由から、タブー中のタブーとされている行為だった。 「そ、そんな……!!」 「何とかして、彼の人格を取り戻さないと……」 ゆらり、とヒャクレッガーが手裏剣をかまえる。 やむを得ず、Xもバスターを挙げた。 「兄さん!! 兄さん、やめて!!」 アクエリアスが悲鳴のように叫ぶ。 だがそれにすら、ヒャクレッガーは何の反応も見せない。 何とかしないと。このままでは…… (……万一の時は……お願いします……) ホーネックの言葉が脳裏をよぎる。 万一の時は破壊せよ、と。 無理だ! 彼女の前で、そんな事はできっこない! ……でも、それじゃ、どうやって彼の心にアクセスしろって言うんだ!? 手裏剣が飛んだ。それを撃ち落とした瞬間、相手は大きく跳んだ。着地点を予想し、Xはそこへバスターを撃った。が、相手は降りて来ず、そのまま天井に立った。 ……どうやってアクセスすればいいの!? アクエリアスは絶望的に周囲を見回した。 兄が、兄でなくなる。もう二度と手の届かないところに行ってしまう。 そんな事は、死んでもいやだった。 何とかして…… ふと、少し離れた壁の一点に目が行った。 あれは…… ヒャクレッガーが天井を蹴り、床に降り立った。慎重に間合いを取りながらじりじりと動く。Xも相手を見据え、少しずつ場所を変える。 と、アクエリアスが走った。Xの制止より先にヒャクレッガーの手から手裏剣が飛ぶ。それは風を切り、アクエリアスの左腕に真っすぐ突き刺さった。 Xはヒャクレッガーに向けてバスターを連射した。相手はそれをかわすと、突然一気に距離を詰めた。 その尻尾の先端は、ぴたりとXに据えられている。 (しまった!!) やられる……と覚悟した瞬間。 ヒャクレッガーの動きが、止まった。 (……!?) 「ア……クエリアス? 俺は……」 かすれたような声で、ヒャクレッガーがつぶやく。 (洗脳が解けた!?) 「……兄さん!」 アクエリアスの声。見ると、彼女はあのカメラアイの前に立っていた。 一か八かで、自分のデータをヒャクレッガーに送ったのだ。 それが、彼の洗脳を解いた。 操られていても、心のどこかで妹を覚えていたのだ。 彼女が、そのまま兄に駆け寄った。 「アクエリアス! お前、どうしてここに……」 「……ごめんなさい……心配だったの……でも、よかった……」 「ヒャクレッガー! 意識が戻ったんだな?」 「……X隊長!」 「誰に操られていた? イレギュラーか?」 「そうです……任務中に……う!?」 突然、ヒャクレッガーが脇腹を押さえてうずくまる。 「ヒャクレッガー!」 「どうしたの!?」 Xとアクエリアスが駆け寄った時、微かな音を立てて剣の投影機が作動した。 (!!) 思わず身構えた三人の前で、投影機の上に人影が現れた。 反射的にXはバスターを撃ったが、その弾は人影を突き抜けて壁にはじけた。 (立体映像!?) 『……おや、ご挨拶ですね。色々お教えしようと思って来たんですが』 薄笑いを浮かべ、人影が口を開いた。 「誰だ!」 『おっと、これは失礼。私はアジールと申しまして、そこのマグネ・ヒャクレッガー君の拉致・洗脳に関わった者……と言えばお分かりいただけるでしょうね』 「何!? ……お前が!!」 『私は……いえ、我々はカウンターハンターと申します。<イレギュラーハンターを始末する者>とでも理解していただきましょうか。……なに、目的は単純です。レプリロイドによる革命、および人間に加担するイレギュラーハンターの抹殺ですよ』 「……!?」 背筋がぞくりとした。半年前に、同じ理由で反乱をおこしたある人物の記憶がよみがえる。 その思想が、まるで亡霊のように自分の前にたちあらわれている。 そして、最近のイレギュラーに組み込まれていたイレギュラー化チップ。 そこには、確かに『その人物』のマークが刻まれていた。 「……『シグマ』か!?」 『おや、お察しがいい。そこまでご存知なら詳しい説明は省きましょう。……結論を申し上げると、あなた方に生きていられては都合が悪いんですよ。X君、あなたは言うまでもないでしょう。ヒャクレッガー君は少々知りすぎている』 「俺たちを消す気か」 Xはバスターを構えた。 『バスター、ですか。まあレプリロイドには有効でしょうが、爆弾相手にはどうかと思いますよ』 「!?」 『爆弾、ですよ。爆発すれば、このセントラルコンピューターぐらいは確実に吹っ飛ぶでしょうね』 「……何だって!?」 (続く) | ||
制作者コメント 管理人コメント |
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