<緋色の猫>
建物の入り口で、私は賞金首の手から別の男の手に引き渡された。
金髪で細身のその男は、私を観察するようにじっと見た。
不思議と、嫌悪感はそれほどなかった。
「へぇ、レイン。こんな知り合いがいたんだね」
「……傷をつけさせるな。一応、一般人だからな」
「分かってるさ。
…じゃあ、君はこっちに。」
眼鏡の下から鋭い視線を賞金首に送ったその男は、私を建物の中へ促した。
…一般人と言う響きは初めてだったから、違和感を感じて抗議するつもりだったのだが、
私をここまで乗せてきたブラック・ドラゴンは、飼い主の合図でもう飛び立ってしまっていた。
長い無機質な廊下を歩きながら、金髪の男が私に話しかけた。
「何か質問があるなら今のうちだよ。…もっとも、僕が君に答えてあげられることは少ないけど」
全てが質問だ。
そう言いかけて私は、代わりに小さくため息をついた。
「あの男に…大金を渡されてすぐ、連れてこられた…
状況が、分からない」
「やっぱりね」
歩行の振動で少し眼鏡がずれたのが気に食わなかったのか、立ち止まって片手で直しながら
男が呆れたような声を出した。
「レインのやり方はたいていそんなもんだよ。口下手だからね。」
「……」
「僕が言えるのはこれだけだな。
ひとつは、君の安全は保証されていること。
もう一つは…この先何が起きても、慌てないでほしいってこと。いいかな?」
「何が起きても…?どういうことだ?」
返された男の言葉に、私は絶句した。
「おっ、来た来た〜っ♪」
アレクの指摘どおり、最終便のFDCでベガスに到着した彼らを出迎えたのは
呼び出した張本人の姿だった。
しかしいつもと違うのは、彼の手にしている武器が槍ではなく剣だと言う事だろうか。
素早く視線をめぐらせて、いつもの同行者が全員そろっている事を確認する。
そして、突然同行者達の名前を呼んだ。
「カーティス、馬鹿エルフ、白翼族。
お前らは裏口だ。残りは正面から突入しろ」
「…と、突入…って?レイン?」
突然の不穏な言葉にクリスが顔を緊張させる。
疑問のつけたしをしたのは最初に呼び出された本人…ニールだった。
「突然呼び出して突入しろ、と言われても何の事だか分かりませんよ、レイン。
順序だてて説明出来ないようでしたら、私達は貴方の依頼を受ける事はできません」
「ニール神父の言う通りだ。我々には状況を知る権利がある」
質問と言うよりも詰問に近いものをうけて、レインは顔をしかめる。
しかしここで依頼内容をたずねられる事は想定の範囲内だったのか比較的あっさりとその答えを出した。
「ここの地下にある競売組織を潰す。二手に分かれて確実に潰せ。
ただし、中にいる関係者は一人も逃がすな。売られてる奴ら以外はな」
「売られてる……奴ら?」
もう一度疑問を口にしたクリスへの返事は簡潔だった。
「ベガス地下の密売組織、【The Shop of Cats】。…女専門の人身売買組織としては世界最大級だ」
「……!」
引きつったシャイアとエストスを一瞥すると、俺は別行動だと言いながら、賞金首は立ち去ってしまった。
Back?
なんだか妙な事になってしまいました。
前回書きましたが今回の作品ではあまり活躍の予定のない神父様。
わたしにしては珍しい、レイン偏重でお送りする予定です♪