#2 賢者の選択、令嬢の決断 2

そして舞台は再び教室へ。
カイルは、なんとかシャロンを宥める事に成功していた。
「それでは、何か他に要求したい事をおっしゃってくださいませんこと?」
しかし、やはり学食程度では彼女の気は収まらない。
「そうは言われてもですね…」
「言っておきますけれど、私、勝ち逃げなどは絶対に、認めませんわよ」
(…困った)
片手で頭を押さえながら、思い悩むカイル。
(でも、このまま、下手にずるずるひきずったりしても、彼女の為にならないな…)
(…だいたい、いつまた『アレ』がくるとも分からないし…)
しばらくの間、カイルは考える。
そして、仕方ない。という風に一度肩をすくめると、シャロンに顔を向ける。
「それでは、言います」
「えぇ、どうぞ」
「シャロンさん。今後は僕に、必要最低限、関わらないでもらえますか?」
「っ!!?」
カイルは控えめな態度ながら、しかしハッキリとした口調で、そう言った。
「そ、それはっ、どういう意味ですの…?」
「そのままの意味です。僕に不用意に関わるのは、きっと貴女の為になりません」
「そんなの、答えになってませんわっ!!」
「そうですか…でも、約束は約束でしょう?」
「っ…」
卑怯な言い方だな、と自分でも感じながら、カイルは続ける。
「僕の要求は以上です。よろしいですね?」
「………」
シャロンは動かない。じっと床を見つめたままだった。
「…それでは、僕は失礼します」
カイルは席を立ち、教室を立ち去ろうとする。
「……ですわ」
「え?」
教室の扉を開けようとした、その時だった。
「こんな屈辱、生まれて初めてですわ…っ!!」
カイルは振り返る。そこには、涙を必死にこらえるように震えながらも、じっと彼を睨むシャロンの姿があった。
がたんっ。
彼女は音をたてながら席を立つ。そしてつかつかとカイルの元へ歩み寄ると、言った。
「今回の勝負の立案者として、ルールの変更をここに宣告します」
「えっ?」
「変更となる内容は、全科目合計点数による判定ではなく、各科目毎に、点数が上回った数の多い方が勝ち」
「え、えっ?」
「そして今回の場合、学問が同点。私が勝った科目が芸能、雑学、ノンジャンル。貴方が勝った科目がスポーツ、アニメ・ゲームでしたので…」
すんっ、と一度鼻を鳴らすと、シャロンはにやりと笑いながら告げた。
「3対2で、私の勝ち、ね」
「ええええぇーーーーーっ!?」
「よって、貴方にはこれから、私が言う事を実行していただきます」
「そっ、そんなっ、約束が違うじゃないですかっ」
必死で抗議するカイル。しかし、そんな事など気にかけるシャロンでは無い。
「貴方は私が提案する勝負に従った。それはつまり、私がルールブックと言う事でなくて?」
(…やられました…)
カイルは頭を垂れる。もはやいかなる反論も、彼女には通用しない。それを悟ったからだ。
「…それで、シャロンさんは僕に何をさせたいんですか?」
諦めてそう尋ねる。我ながら切り替えが早いな、と思うカイルだった。
「あら、ご安心くださいな。私の望みはいたってシンプルですから」
「え、そうなんですか?」
「えぇ、そうですわ。本日から私と貴方で、お付き合いをする事にいたしましょう」
「………はい?」
実に奇妙な、カップル誕生の瞬間だった。


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