#2 賢者の選択、令嬢の決断 1

そんなこんなで定期テストは普段通りに行われ、結果発表の日。
この日は授業が午前中で終わるので、殆どの生徒は終了と同時にテスト明けの自由を求め、方々へと散っていく。
カイルとシャロンは、そんな誰もいなくなった教室で、お互いの成果を見せ合っていた。
「まさか…そんな…。こんなの、嘘ですわっ!」
「うーん、どうやら僕の勝ちのようですね」
勝負の結果は、僅差ながらもカイルの勝ちだった。
芸能と雑学とノンジャンルではシャロンがリードしたものの、反面スポーツやアニメ・ゲームが振るわず、平均的に高得点をマークしたカイルを上回る事は出来なかったのだ。
「でも、芸能ではやっぱり負けちゃいましたから。おあいこみたいなものですよ」
「そんな慰めなんて…かけていただきたくないですわ…」
シャロンは本気で落ち込んでいる様子だった。
「それで…、貴方は一体私に、どのような辱めを要求なさるつもり…?」
「はっ、辱めっ!?」
「負けた者は勝った者の言う事を聞く…自分が言い出した事を反故にする程、私は落ちぶれていませんわ!」
「いや、別にそんな事しなくても…」
「なんですって?!私の提案に、今さら不満がおありだとでも言いますの?!」
(…これはどうにも、まいったなぁ…)
カイルは心の中で大きなため息をつく。
シャロンのこの様子では、何かしらの要求をしないと場が収まりそうに無い。
しかし、考えてはみたものの、カイル自身には特に彼女にしてもらいたい事など、何も無かったのだった。
(ここは、簡単な事で済ませるのが一番かな…)
そう思い立つと、カイルはシャロンに向き合う。
「それではシャロンさん。今度、僕にお昼をご馳走していただけますか?」
それを聞いたシャロンは、急に憮然とした態度になる。
「あら、そんなことでよろしいんですの?私に勝った方にしては、慎ましやかな願いですわね」
「えぇ、まぁ。こういう事には慣れてませんから…」
「分かりました。それでは、どのようなメニューがよろしくて?和、洋、中、その他何でも用意させますわ」
「…はい?」
「私の意地と誇りにかけまして、考えうる最高級のランチを貴方に披露する事を約束いたしましょう」
「ちょ、ちょっと待ってくださいっ!」
慌てて止めに入るカイル。
「なんですの?最高級と聞いて、ランチだけでは物足りなくなったのかしら?」
「いえ、そうじゃなくてですね…その、学食にある、日替わりマジアカ定食とかで、いいんですけど…」
「な、なんですってっ!?」
しまった、地雷を踏んだ。カイルは思う。しかしもう遅い。
「貴方は、わっ、私の用意するランチよりも、庶民風情が曜日によって変わる、質素なおかずに一喜一憂するような、そんなレオンさんの主食である粗食を、お選びになると言いますの!?」
「いや、その、あ、あははは…」

一方その頃、アカデミー内にある学食にて。
「おっ、今日のマジアカ定食、一口カツじゃん!!やべぇ、俺ってば超ラッキー!」
「レオン、君は本当にそれが好きだなぁ」
「まぁな。このマジアカ定食の内容こそが、俺のその日のバロメーターみたいなもんさ!セリオスもそう思うだろ?なっ?」
「いや、僕はやはり高貴な香りが漂う、アカデミー特製スペシャルカレーが一番だな」
「けっ、そんなマジアカ定食より80円も高いもん食えるかよっ」
似たもの同士による会話が、そこにはあった。


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