いよいよ出発の日がやってきた。レオンが寮を出るとロマノフが待っていた。
「先生…俺、頑張るからな。」
レオンが少し寂しげな声を出す。「結局、フランシス来てくれねぇんだな」
「まぁあやつも引っ込みがつかないんだろう。フランシスはフランシスで心配しておるのじゃろうて。ワシも不安はないといえば嘘になるがな。ワシらが手助けできればいいのじゃがそうは行かないからのう…
承知のとおり、お前の父親を倒した敵を打つ権利は身内しかない。赤の他人であるワシらが手助けをしたら大変なこととなる。まぁとにかく頑張れ」
ロマノフも寂しそうだ。
「待て」
二人の背後から声をかけた男がいる。
「セリオス」
レオンが意外そうな顔で返事をする。
セリオスだけではない。クラスメート全員が来てくれたのだ。
「…みんな」
レオンの顔が少し明るくなる。
「これ、身に着けろ」
セリオスがぶっきらぼうにペンダントをレオンに渡す。
「なんだこれ」
そのペンダントは10個の様々な色の水晶が埋め込まれていて、なんとなく神秘的な色彩を放っている。
「これは俺たちの力を込めたペンダントだ。戦闘のとき役に立つだろう。」
いつもは物静かであまり話さないセリオスが珍しく自分からレオンに話しかける。
「ただ…問題はこのペンダントが無関係の我々が彼を幇助することとなる、と判断されると困りますよね」
クラス一の理論派、カイルが心配そうにペンダントを見る。
「それについては問題はなかろう」
ロマノフが持っていた法典を紐解きつつ言った。
「例えば我々は箒を触媒として空を飛ぶように、このペンダントも、それを触媒としてあくまでもレオン本人が魔法力を発揮するということになる。これは問題なかろう。」
ロマノフはゆっくりと満足げな笑みを浮かべてみんなに諭した。
「でも…うちのクラスって12人だろ?俺を除いて11人。何で水晶が10個なんだ?」
レオンは訝しげにつぶやく。
「あと一個は私。怪我したときの治癒の魔法はその場に本人がいないとダメだから」
眼鏡をかけたおさげ髪の少女、クララが少し恥ずかしげにみんなの前に出た。
「へぇ、俺のこと心配なのか?」
レオンがすっかりいつもどおりの口調に戻った。
クララはムキになって反論する。
「そ…それは…け、決してレオン君のそばにいたいわけではなくて…純粋に…治療が必要かなって…」
途中でみるみる顔を紅潮させてフェイドアウトしていった。
「フハハハ、まぁよい。助っ人も治癒のみが目的であれば問題にはならぬ。レオン、一緒に来てくれる人が出来て嬉しいな」
ロマノフが自慢の髭を撫でながらほほえましそうに目を細める。
「な…何だよ先生まで。ま、とにかく誰かがソバにいてくれるだけでも俺は心強いよ。それに…みんなも見守ってくれるしな」
レオンはペンダントをなでながらつぶやく。
「じゃ、行って来るからよ。クララ、ついて来いよ」
レオンはすっかりリラックスして箒に乗るや否やはるかかなたまで飛んでいってしまった。
「あ、ちょっと…待ってよぉー」
あわててクララも箒に乗って飛んでいった。


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