親が危険な目にあっている・・・・・・・。
それが如何に心配な事か身をもって知っている。
由宇香の部屋の前で彼女が帰って来るのを待った。
「史人くん。
うちの人からの連絡で、大体は聞いたわ・・・・
私も由宇香さんと英美さんの事が気になってきたのだけど、
まだ、管理部から帰って来ていないようね。」
陽子さんの問いに、僕は頷いた。
「管理部のお偉方は、どうしてああなのかしらねぇ・・・・・・」
陽子さんが去った後も、僕は待ち続けた。
「葛城くん?
もしかして、私の事を待っていたの?」
少し驚いた表情で由宇香は僕を見つめた。
「少し話をしたいのだけど、、いい?」
僕は由宇香と共に部屋の中に入った。
少しの沈黙の後、由宇香は静かに喋り始めた。
「管理部なんて、信じられないわ。
大勢の人が危機に陥っていうのに・・・・・
なんで・・・・・・・あんな対応しか出来ないの・・・・・・かしら・・・・・」
そういうと、由宇香は俯いてしまった・・・・・
その肩は、小刻みに震えている・・・・・・
僕は、下手に何かしても仕方が無いと思い、由宇香を見守っていた・・・・・・
由宇香は、しばらくの間嗚咽した後、ばつの悪そうな表情で顔を上げた。
「・・・・・・・ごめんなさい。葛城くん・・・・・・・・・・
いきなり、泣いちゃったりして・・・・・・
困らせてしまって・・・・・ごめんね。」
僕は、そんな由宇香を、そっと抱き寄せた。
「葛城くん・・・・・・・・」
由宇香は、腕の中に身体を預けた・・・・・・
・・・・・・・どのくらい、そうしていただろうか。
由宇香は、ゆっくりと僕の身体から離れた。
「ありがとう・・・・・葛城くん。
・・・・・少し、落ち着いてきたみたい・・・・・・。
まだ・・・・・原宿が助からないって、決まった訳じゃないものね。
しっかりしなくちゃ。
でも私・・・・・管理部のやり方は、どうしても許せないわ・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
葛城くん・・・・・ごめんね。
何だか、急にいろんな事が起りすぎちゃって・・・・・
それで・・・・・。
本当に、ごめんね」
由宇香の部屋を出た。
桐島の事も気になったので、部屋を訪ねた。
「・・・・・・ああ、もう!
管理部のやる事って、どうしてこんなに無駄が多いの!?
あたし達だったら・・・・・
あ、葛城くん・・・・・・来てたんだ。
それにしても、管理部って何て、頭が固いの!?
規則を破ったのは事実だけど・・・・・
あんな状態、見過ごしに出来る訳ないよ・・・・・
本当に、管理部は第一部隊を原宿に向かわせてるのかな。
早くしないと、手後れになるって言うのに・・・・・
・・・・・原宿、大丈夫なのかな・・・・・
・・・・・・お父さん・・・・・・・・お母さん・・・・・・
・・・・・ごめんね。葛城くん、こんな話しちゃって。
・・・・あたし、まがりなりにもDBなんだから、もっとしっかりしなくちゃね。」
部屋を出て、達也の部屋に向かった。
彼も悩んでいた。
「お、葛城か。
俺、また、隊長に迷惑をかけちまった・・・・・・・・
俺がもっと冷静になっていたら・・・・・・
でも、俺はあんな事態を見過ごしには出来ないよ。
英美・・・・・・大丈夫かな。」
さっき訪ねた時の様子を言った。
「そうか。原宿シェルターの調査状況とかを、調べているみたいなのか・・・・・・・
両親が原宿に閉じ込められてる訳だし・・・・・・
やっぱり、俺がついていてやった方がいいのかな・・・・・・」
「うん、そうした方がいいと思う。」
「少し、英美のとこに行ってくるよ。」
部屋に戻るとメールが入っていた。
開いてみると、由宇香からだった。
由宇香:ちょっとだけ・・・・
自宅謹慎中なのは仕方が無いのだけれど、何だか管理部の、
いいえ、父の酷いやり方を思うと、本当に悔しくて涙が出そうです。
最低だと感じてしまいます。
西野隊長にも申し訳ないし・・・・・・・。
ごめんなさい。
こんな、メールで愚痴ったりして。駄目だな私って。
勝手な気持ちだと思うし、何故だか分からないのだけど、でも、どうしても私・・・・・葛城君に言いたくなってしまったの・・・・・。
気にしないでね、ごめんなさい。
それじゃあ・・・・・・。
由宇香
慰めの言葉を返信しようと思って、キーボードを叩き始めた時、
通信が入った・・・・・・
取るのが面倒だったので、そのまま放置した。
通信は留守録モードに入った。
『・・・・あ・・・・・葛城くんいないのね・・・・
えっと、橘です。
これから、ヴァーチャルトレーナーに行って来ようと思います。
その方が気が晴れるし・・・・・・・・・・
良かったら一緒にやりませんか?
それじゃあ・・・・・・』
通信は切れた・・・・・・
せっかくのお誘い、断る理由はなかった。
むしろ、僕の方がいろんな理由を付けて会いたかったぐらいだ。
さっそく、ヴァーチャルトレーナーに向かった。
中ではまさに今からトレーニングを始めようとしていた由宇香がいた。
「葛城君!来てくれたのね。
じゃあ、一緒にトレーニングしない?」
「いいよ。」
憂いを秘めた顔に少し微笑みが見られた。
「レベルは・・・・・・LOW・・・・・っと。
頑張りましょうね。」
「アギヤード!!」
灼熱の炎が、ドラゴンを焼いた。
声も発せず、そのままドラゴンは消えた。
『トレーニングヲ終了シマスカ?』
無機質の機械の声が響いていた。
「すごい!!あのドラゴンを魔法で一発なんて信じられない。
葛城くんって、魔法だけでなく剣も銃も扱いがうまくて、うらやましいわ。」
驚きの表情で、由宇香は僕を見つめた。
「私なんかより・・・・・・ずっとデビルバスターに適任なのに・・・・・・」
また、哀しい顔をした。
どうやら、原宿でなにも出来なかった自分を責めているようだった。
僕はなんて声をかければいいのだろうか?
「そろそろ疲れたし、もうトレーニング止めるよ。」
これ以上由宇香と一緒にいる事が堪えられなかった。
「・・・・・そう。」
由宇香はさらに暗い表情をしたが、
すぐに明るい表情を無理につくった。
「それじゃあ、葛城くん。
私、もう少しトレーニングしていくから。
お疲れ様!」
トレーニング室を出て、ふらふらと辺りを歩いていた。
シェルター内で唯一太陽光が注ぎ、自然とふれあう事が出来るファームに足を運んだ。
一般の人は樹木エリアにしか入れない。
そこで僕は太陽の日を浴びながら、うたた寝をした。
「あ!葛城お兄さんだ!」
目を開いたら、知多が僕の顔を覗き込んでいた。
「知多か。何しているんだ?」
「パパとキャッチボールしているの。」
西野さんが歩いて近づいてきた。
「おう、史人か。
あれだな、たまには家にいるのも悪くないものだな。
陽子のヤツは、少し嫌な顔をするがな。はっはっは!」
「僕は嬉しいよ!」
「はっはっは!
こんな事でもない限り、長く家にいることが無いからな。」
「パパー!次は何して遊ぶ?」
親子のふれあいを見ながら、由宇香のことを考えていた。
結局、僕は由宇香の役に立たなかった。
もし僕がデビルバスターだったら、原宿シェルター救援に一緒に行っていたのに・・・・・
自分の無力さを噛み締め、部屋に戻った。
何か通信が入っている・・・・・・・・・