何か通信が届いている様だ。
『こちら原宿シェルター。
救援を求む!救援を求む!
シェルター内に悪魔が侵入。
侵入経路は不明。
外部に破損はなく、結界も無事機能している。
住民の大半が、ゾンビウイルスに汚染され、
死傷者も多数発生。
状況改善の見込みが全く無い。
今後の予測も全く不可能。
絶望的だ。
至急、デビルバスターの・・・・・・・』
そこで、通信文は終わっていた。
原宿シェルターに悪魔が侵入し、シェルター内が壊滅状態にある。
これは、大変な事が起ってしまった様だ。
一刻も早く、西野達にこの事を伝えなければならない。
僕は、部屋を飛び出した。
すぐにB5Fのデビルバスター詰め所に向かった。
「どうしたんだ、葛城君。血相を変えて。
何かあったのか?」
僕は、原宿からの緊急通信について、詳しく西野に報告した。
「原宿って言ったら、ここ初台シェルターよりも、規模のでかいシェルターだぜ!
それだけ、デビルバスターの人員もいるし、シェルターの防護力も上だ。
それってさ、ガセじゃないのぉ?」
山瀬は明らかに嘘と決め付けていた。
「勿論、偽りであるという事も考えられる。
しかし、仮に本当だとすれば、一刻を争う事態だ。
管理部に報告し指示を仰ごう。」
西野は管理部へ、通信を入れた。
「こちらは、デビルバスター第二部隊、隊長、西野だ。
管理部の橘兼嗣上官に、取り次ぎ願いたい。」
西野は、葛城から報告を受けた内容を、余すところなく、管理部に報告した。
「・・・・・・は、しかし、それでは万が一に・・・・・はい。
・・・・・・・・・・・そうですか、了解しました。」
「どうだったんですか、隊長!」
「すぐに出動ですか!?」
英美は今にも飛び出そうな様子だった。
「管理部の意向では、事実柄を調査した上で、出動命令の必要性を検討したいと言って来ている。」
「・・・・・・・そんな!
懸念通りデマであった場合はいいですが、もし、本当に原宿シェルターに悪魔が侵入し、危機に瀕していたら、一体どうするつもりなんですか?!」
「私も同じ事を言った。
しかし、確認が済むまでは待機せよとの命令が出されただけだ。」
「なんて悠長な事を!!
現に原宿からは、明確に応援を求める通信が届いているってのに!
隊長、それに原宿シェルターには、桐島隊員の両親と、橘さんのお母さんがいるんです。
私情なのは分かっていますが、黙って放ってなんか置けません!
どんな処分を受けても構いません。
俺は、ひとりでも行きます!」
「達也・・・・あ・・・・・早坂隊員!!」
早坂はひとり、詰所を飛び出して行った。
「隊長、私も行かせてもらいます・・・・済みません!」
「英美さん、待って!
済みません、隊長・・・・・私も行かせてもらいます!」
英美も、由宇香も、行ってしまった。
それを、無言で見送っていた西野が、
おもむろに通信ボタンに手を延ばし、管理部に通信を行なった。
「DB第二部隊より、志願者のみで編成した原宿救援部隊は、
ただ今より、原宿シェルターに向け、緊急出動致します。
人命救助最優先。
事実柄の調査も、それと同時に行なう所存です・・・・・以上!!」
西野は管理部の返答も聞かず、一方的に通信を切り、山瀬の方に目をやり、こう言った。
「私は、今から原宿に向かう。
おまえ達に、無理について来いとは言わない。
しかし、早坂たちを、あのまま放っておく訳にもいかんのだ。」
「上層部の命令に背く何て、そんな気違い染みたこと、オレはごめんですよ。」
「そうか、ならば仕方ない。
山瀬、お前には、ここでの待機を命ずる。
有事の際には、適切な判断の元に行動せよ。
そして、葛城君。
申し訳ないが、山瀬だけでは手が足りない。
我々が戻るまで、通信関係のオペレーターとして、山瀬の手助けをしてやってくれ。
管理部からの通信は、私のターミナルにつないでくれればいい。
宜しく頼んだぞ。」
由宇香の側にいたかったが、デビルバスターでない僕は素直に従うしかなかった。
詰所の中には、重苦しい静寂が続く・・・・・・
出動した部隊から、状況を説明する通信が入ったようだ・・・・
山瀬にも聞けるようにスピーカーに切り替え、通信スイッチを入れた。
『我々は今・・・・
原宿シェルターの隔壁扉前にいる。
シェルター内の電気系統が全てストップしており、
隔壁を開く事が出来ない。
生存者の確認も不可能。
これ以上、我々には講じる手段がないと判断し、
これより帰還する。』
黙って聞いていた山瀬が、マイクを引っつかみ、通信する。
「原宿シェルターの状況はどうなんですか!」
『原宿シェルターの状況はきわめて危険だ。
ただし、悪魔の侵入によって壊滅状態に陥ったという様な痕跡は、外部に見られない。
何らかの事故が、内部で発生した事に間違いないが、応援の通信はパニックを起こした住人による、誤報である可能性も考えられる。
だが、電気系統がいかれている状況から推測するに、シェルター内の酸素の供給が断たれている可能性が、非常に高い。
救援が必要な事に、変わりはないのだよ。
そこで・・・・・・
他の部隊に対し、技術陣を伴わせた、救援部隊を要請する事にした。
原宿シェルターの状況は以上だ。』
「了解!直ちに帰還して下さい。」
西野からの通信は終了した。
山瀬が意外に真剣に、西野らを心配している姿が、何だか微笑ましかった。
「なんだと、葛城。
ニヤニヤして、こっちを見てんじゃねぇよ!!」
通信が入った。どうやら管理部の様だ・・・・・・・・
『デビルバスター第二部隊隊員中、命令を背き、原宿救援に向かった者は、帰還次第、管理部に出頭せよ。
繰り返す・・・・・・・・・・・・・・・』
管理部の通信がまだ終わらない内に、西野達が帰還して来た。
「管理部からの通信は、私の方でも受信した。」
「俺のせいです!
隊長、また、隊長に御迷惑を・・・・・・・」
早坂が申し訳なさそうに言った。
「私も、あのまま原宿を、放って置くつもりはなかったんだ。
第一、本当にまずいと考えるなら、あの時に止めていたよ。
だが、隊員の事を考えるなら、どんな事をしてでもあの時止めるのが、
立派な隊長のする事だろうがな。」
「隊長・・・・・」
「では、我々は管理部に出頭するぞ。
葛城、山瀬、お前達はもう解散して良い。」
「じゃあ、俺は帰るとすっかな。じゃあな!」
山瀬と入れ替わりに、デビルバスター1部隊入ってきた。
「謹慎処分となった、第二部隊に変わり、我々、DB第三部隊が急遽当直となった。
さあ、用のない者は立ち去りたまえ!」