あの隔壁での出来事から数日経った。
桐島も山瀬も無事退院し、デビルバスターに復帰した。
通信が入っている。
通信の応答すると、
『不死身の山瀬くんだよ〜ん!
おーい、史人くぅん。
入隊試験、不合格だったよなぁ?
そんっなに落ち込むなよ!
俺だって一回じゃパスしなかったんだぜ!
それよかさ、お前にすっげぇイイモンやるぜ!
今からさぁ、俺の部屋に来いよぅぅ、なっ?!
何もエッチなことなんてしねぇからよ!
絶対に来いよ!来なきゃ損するぞ!
分かったな!?
んじゃ、待ってるよん!』
一方的に話して、通信は切れてしまった。
仕方ないなあ。
山瀬の部屋に寄ってみるか。
「山瀬、イイモンって何?」
「よお、来たな!
お前って、案外素直じゃないか、可愛いね!
んで、今日呼んだ理由の、例のイイモンってのはこれさッ!
ババーーーーーン!!
おい、何ぼけーーーっとしてんだよ!
これだってば、これ!!」
「山瀬なんかいらない」
「あ〜の〜なぁ〜、葛城君。
温厚なオレでも、そういうジョークにはマジで怒るぜ。
彼女がいないからって、オレはモーホーじゃねぇ!!
・・・・・ったく、このオレの腕に燦然と輝く、チョー絶品のイカス奴が見えないのかよ、
あん?
アームターミナルだよ!あーむたーみなる!!
お前ってば、入隊試験に落ちたろ?
オレはさ、お前のことが不憫に思ってならないから、この芸術的改造アームターミナルを、太っ腹な事にお前にやろうと思った訳よ。
うれしいか?」
「あんまし」
正直、山瀬から物を貰いたくなかった。
どうせ、後で借りを返せってうるさいだろうし。
「あっそ、じゃあ、お前にはやらない。」
「いらない」
「くぬーー!
そこまで言われると、かえって無理やりにでも、このアームターミナルの良さを、分からしてやりたくなるぜ!
おとなしく貰え!!」
「分かった!分かった!貰うよ。」
「よしよし。
じゃあ、ずぶの素人である葛城史人君に、これから、アームターミナルの使い方の説明をしてあげちゃおう。
ウォッホォ〜ン!
君にあげたアームターミナルは、DB隊員の象徴ともなっている物だ。
DB隊員の中でも、コンピューターの扱いに慣れ、悪魔と対峙できるだけの精神力に優れた者だけに支給される。
最大限の注意をもって、ありがた〜く扱うように!
これには悪魔と戦うために開発された、非常に優れたソフトがインストールされている。
まずはマッパー・・・・・・・っと。
初めて訪れた場所でも、周囲にセンサーを発して、ある程度の地形を知る事が出来るって、便利モンだ。
これは、常に君の位置を白い三角で表示する。
オプションにより、北を固定で上に向けておく事も出来るし、自分の正面を常に、上に置く事も出来るってワケだ!
お前がいくら方向音痴でも、これさえあれば大丈夫だぜ!
それと、場所に関する情報を、リアルタイムで衛星から受け取るようになってる。
こういうナビゲーション・プログラムは、シェルターん中で使い方を練習しておくといいぜ!
だけど、お前はデビルバスターでもないし、まぁ、シェルターの外に出るって事は、無いと思うけどな。
さて、われらがアームターミナルの秘めるパワーは、こんな物ではな〜い。」
山瀬の説明は続く。
「次の二つのプログラム、DDSとDDCこそが、その悪魔と実際に遭遇した時に、その真価を発揮するのであるッ!
お前は、滅多な事では地上に出ないだろうが、悪魔の中には人類に対して、必ずしも敵対的でない種族もいる。
それと、会話して仲魔にしちまうのが、DDCだ。
会話したって、滅多に仲魔になってくれるモンじゃないがな。
ま、オレ様くらい魅力に溢れた人物じゃなきゃあ、まず仲魔にできないね!
で、DDCと君の頭脳を駆使して下僕にした悪魔を、デジタル・デビルとして、そのアームターミナルのメモリーにセーブする事もできるんだぜ。
んで、この仲魔にした悪魔を必要に応じて召喚し、使役する。
これを可能にしているのがDDS、デジタル・デビル・サモナーだ。
セーブ・データは悪魔の存在そのものじゃなく、悪魔がこの世界に実体化する為のデータになってる。
そのため、悪魔を実体化する為には、生命エネルギーである生体マグネタイトを大量に必要とする。
昔っから生け贄をささげて生体マグネタイトを抽出して、悪魔を召喚する儀式が行なわれていたが・・・・・・・・
まさか、俺達が生け贄を捧げるワケにゃあいかんよな?
かといって、生体マグネタイトを召喚者から抽出していたんじゃあ、
命が幾つあっても足りねぇ。
んで、オレ達は別の悪魔からそれを頂戴することにしたってワケ。
悪魔を倒した時に、彼らを形づくっていた肉体から四散する生体マグネタイトを収集し、バッテリーに蓄えておく機能、MAGバッテリーがアームターミナルには備わっているのだ〜っ!
便利だろぉ?んん?
あ、そうそう。さっき言ったDDCとDDS。
あれは、お前にやったアームターミナルには入ってないぜ。
シロートに扱えるような、しろモンじゃねぇからな。
ま、そのうち機会があったらやるよ!
機会があったらな。」
まだ、熱演が続く・・・・・・
「ただよ、これらの驚異的な発明品が、いつ誰の手によって開発されたのか、いまだに分かってねぇんだ。
スティーヴン博士という謎の男が、大破壊前の世界各地に出没し、これらのプログラムや、アームターミナルの原形となったハードを広範囲に配布していたらしいって事は分かっている。
謎だよな〜。
ま、それはそれとして・・・・・・・・
オレの改造アームターミナルは最高だろ?」
「分からない?」
正直に言って、さっぱり分からない。
山瀬の説明が早すぎる。
「ま、バンピーの君には、分からなくても仕方ない・・・・・が、しかしだ。
お前が分からなくったって、俺様の超アームターミナルは、
すんげぇ最高なんだよっ!!
分かったな!!もう選択肢はねぇぞ!!
・・・・・・んじゃ、次の説明だ、次ぃッ!!
こいつは、デビルバスターに支給されるヤツよりも、ワンランク、ヴァージョンアップされてんだぜぇ!
さらに、DBにしか支給されない、このプログラムも、内緒で付けてやろう!
じゃじゃ〜ん!オートマッピングぅ!
オートマッピングはお前が移動した場所を、自動的に記録して、ボタン操作一つで、そのドキュメントをスクリーン上に映し出すことができる、方向音痴には憧れのプログラムだ。
本来ならDBにしか、支給されないんだがねぇ・・・・・・
君には特別にあげちゃおう!
くれぐれも、他の皆には内緒だからな。いいな!」
山瀬から、改造アームターミナルと、オートマッピングを貰った。
・・・山瀬って・・・・・・・・・結構、イイ奴かもしれない。
「俺の血と汗の結晶が、そのアームターミナルに詰まってる。
くれぐれも大切にしろよ。
ちなみに、そのアームターミナルの名前は"HIROMI"だ。
ヒロミちゃん・・・お兄ちゃんに、う〜んと可愛がってもらえよ。
・・・・って事だ。」
でも、ここだけは分からない。
「あ、そうそう、名字もついてる。
"MAD-WADA"ってんだ。かっこいいだろ!」
・・・・・・・・・・やっぱり、この趣味だけは分からない。
「じゃ、今日はB5Fで当直だからな。行ってくるわ。
とっとと行かねぇとまた、あの夫婦にどやされちまうわ。」
山瀬は部屋を出て行った。
山瀬からのお下がりとはいえ、憧れのアームターミナルを手に入れた喜びがふつふつと沸いてくる。
早速、いじろうと思い、部屋に戻った・・・・・・