DB用の小型対化学戦スーツ室に入った一行は、目の前に配置されたスーツ装着用ケースを見て愕然とした。
ケースは五着分あるのに、そこには三着しかスーツはなかったのだ。
「隊長である私が助かり、君達を死なせるなんて事は、到底出来ない。
私はスーツを着ない・・・・・さあ、お前達は急いで着るんだ!」
「何を言ってるんですかッ!
俺は・・・・・俺は、隊長をこんな所で死なせたくない・・・・・。
隊長が着るまで、俺は絶対に着ません!!」
「馬鹿な事言うな!」
「ここで隊長を犠牲にして生き残っても、俺は一生後悔し続け、そして、悩み続けて生きるでしょう。
俺はそんな将来の為に、生き残りたくなんてないんです!!」
「止めてッ!!私が残ります!!」
「何言ってるんだ、英美!!」
「私だって嫌だよ・・・達也や隊長を犠牲にして、生き残るなんて!
どうせ、私は足手まといになると思うし・・・・・皆生き残って!!」
誰一人、犠牲なんか出したくはない・・・・・
究極の選択に皆が揉めている間に、僕は考えた。
・・・・・・ここで死ぬ訳には行かない・・・・・
奴等を殺したい。
ただ、自分だけ助かる事しか考えられない。
僕は、皆の押し問答を横目に、自分はスーツを装着し始めた。
「いい加減にしろ!さっさと着るんだ!!」
「いいえ、俺は絶対に着ません!!」
「・・・・・・・・・仕方がないッ!!」
西野は、早坂を突き飛ばして部屋を飛び出して行った。
「隊長!!隊長おおおおおっ!」
「隊長ッ!
ニュートン行って!!隊長を守って!!」
「アォォオオーン!!」
早坂は、西野を追って部屋を飛び出して行った。
・・・・・・・・・しかし、すぐに戻って来た。
「だめだ、もう姿が見えない・・・・・・・
ニュートンは、センサーを頼りに追って行ったようだが・・・・・
・・・・・・隊長・・・・・・くそォ・・・・くそッ!!!」
「隊長・・・・・・・。」
早坂の目からは、大粒の涙がこぼれ落ちた。
早坂にとって西野は、一番信頼できる、かけがえのない理解者だったのだ。
「・・・・・・・隊長がくれた命、無駄には出来ない。
皆スーツを着ろ!!一刻も早くここを脱出する!!」
早坂の言葉をきっかけに、皆我に返り、スーツを着込んだ。
スーツを着終わり、これからどうするかを相談した。
まず僕が
「脱出する前に、管制コンピューター室からソフトを入手しておこう。
プログラムはあればあるで、邪魔にはならない。」
「食料庫と武器庫にも立ち寄って、武器と食料の調達もしましょう。
外に出るんだから、万全の準備をしないと・・・・・。」
「賛成だ。そうしよう。」
早坂の同意も得られ、小型対化学戦スーツ室から出る準備をした。
「じゃあ、まずは管制コンピューター室からね。
あんな、モンス・コンピューター、扱えるかどうか不安だけど・・・・・・
何とかやってみるわ!」
そして、僕達は、管制コンピューター室に向かった。
血の海を見て、再び悲しみに襲われる・・・・・・・・・・
そんな姿を見て、早坂も英美も思わず目を伏せる。
ふと見ると、血の海の中に輝く物があった。
手に取り上げてみると、
それは、由宇香のペンダントだった。
僕は、由宇香のペンダントを首にかけた。
「・・・・・・・・・・・・・・さてと、急いでやんないとね!
待ってて、何とかデータを引き出してみるわ。」
英美はキーボードを叩いている・・・・・・
「OK!D.D.C.とD.A.S.、D.D.S.だけは何とかなったわ。
D.D.C.は悪魔と会話する事を可能にする、いわば翻訳用プログラムよ。
D.A.S.は、戦った悪魔の情報をストックできるアナライズ・プログラムなの。
そして、D.D.S.は悪魔を実体化する為のプログラム。
そうね・・・・・
これは、葛城くんのアームターミナルに入れちゃうのが一番ね。
どう考えても、短気な達也には悪魔と会話なんて、向いてそうにないもの。」
「反論はしない。」
「アームターミナルに接続して・・・・・・・・OK!
これでバッチリ、葛城くんのに組み込んだわ。」
「先を急ごう!」
一行は、プログラムを入手し、管制コンピューター室を後にした。
B8Fは悪魔の姿が見られない・・・・・・・
どうやら完全にクリーン化出来た様だ。
それでも警戒しながら、何とか武器庫に辿り着いた。
「扱えそうな物で、なるべく強力な物を選んでくる。
二人は、ここで待っていてくれ。」
早坂は、武器庫の奥へと消えて行った。
奥の方からは、何やら荒っぽく、ものを引っ掻き廻す音がする。
桐島と僕は、早坂が戻るのを待った。
「待たせたな!
まあ、大体こんなモンが精一杯ってとこだな。
さ、とっとと装備してしちまおう!」
早坂はウージー二挺とモスバークM500を取り出してきた。
僕達は、黙々と装備を整えた。
「さ、行くか。」
B7Fでは実体化した悪魔が多数存在している・・・・・・
敵と戦わない様にすぐに食料庫のあるB6Fに登った。
B6Fでは巨大な体を持つドモボーイやレプラホーンがいたが、どうやら襲ってくる様子はなかった。
食料庫に着いた。
「外に出るにしても、安全な場所が見つかるまでの間、どのくらいかかるか、見当もつかない。
邪魔にならない程度といえど、食料ばかりは可能な限り持ち出さないとな!」
「分かったわ。手分けしてやりましょう!」
一行は各自分担し、食料の調達を行なった・・・・・・
「レーションパックを3つ・・・・・・大体こんなところが限界ね。」
・・・・・・・ん?
缶詰を探していたら、何か生き物を掴んでいた。
「・・・・放して・放して・・・放して・・」
その小人が何か叫んでいるようだ。
デビルアナライズが悪魔名を検索した。
地霊ブラウニーのようだ。
必死に抵抗している。
慌てて手を放したら、ブラウニーは思い切り地面に激突した。
「いたいホー・・・・・・。ヒーホー突然、放すなホー・・・ぷんぷん・・・・・」
「ごめん。」
「そんな言葉はいらないホー。ヒホーお詫びの気持ちがあればホー、この桃の缶詰開けてくれ!!そうじゃないとゴーツーヘルダホー」
仕方ないから、缶詰を開けてやった。
ブラウニーはおいしそうに桃を食べた。
食べ終わって、ブラウニーはどうやら僕に興味を持っているかのように見つめていた。
「ヒーホー!!アンタ、僕と喋れる?人間にしちゃ珍しいホー。・・・・・せっかくおいしい桃を食べさせてくれたお礼だホー。仲魔のなってやるう?」
「いいのか?」
「もちろんだホー。契約のサインだホー。」
「かわいい。葛城くん、この悪魔を仲魔にしたんだ。」
桐島はブラウニーを頬擦りをした。
「姉ちゃん、今後とも夜露死苦だホー。」
ブラウニーも幸福そうに踊った。
早坂はすこし困っている表情を浮かべている。
頬擦りから解放されたブラウニーは
「あまりこき使わないでくれホー。」
といって、魔界に戻った。
思わぬ戦力増加に得をした気分だ。
どうやら、もう荷物の限界になるまで非常食を詰め込んだ。
「よし、行こう!」
一行は食料調達を終え、食料庫を後にした。