偽典・女神転生 東京黙示録

第六話「饗宴」

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中に入ると、血の海の中に、何と兼嗣の死体が転がっていた・・・・・
「お・・・・御父様!!」
西野が止める間もなく、由宇香は、兼嗣の死体に駆け寄って行った。
その時・・・・・・・・室内に見覚えのある冷気が立ち込めた。
皆の予想通り、そこにはムールムールが再び姿を現わした。
「お待ちしておりましたよ。お嬢さん。」
ムールムールは、素早く由宇香を捕らえ、自らの腕に抱き上げた。
「い・・・・・・・嫌ああああああッ!!放してッ!!」
由宇香の必死の抵抗も、全く、ムールムールには効果が無い様だった。
そして、呪術によって彼女の動きを封じたようだ。
僕はセラミックブレードを構えて、切りかかろうとした・・・・・・・・
しかし、悪魔の冷たい視線に、体が震え一歩も動けなかった。
「葛城くん・・・・・・・・・・・・・」
助けを求めるように、僕を見つめている・・・・・・
「何やってんだ、葛城ッ!!
橘さんを、助けないと!!」
「達也、危険よ!!」
「早まるんじゃない!!」
「放っておけません!!見殺しには出来ない!!」
早坂は剣を構え、ムールムールに突っ込んで行った!
「小うるさい人間共です・・・・・
何故、そこまでするのか・・・・・・理解できません・・・・・。
致し方ありませんね。
客が到着するまでの間・・・・お相手しましょう!!」
早坂の渾身の力を込めた斬撃は、ムールムールは簡単に楯で受け止めた。
「・・・そんな剣の振り方では私を傷つける事は出来ませんよ。
そんな貴方にプレゼントをあげましょう。・・・・ムド。」
早坂はその言葉を聞いた途端、倒れ込んだ。
「達也ーーーーーー!!」
「騒々しいお嬢さんですね・・・・・・・」
いつのまに桐島の後ろにムールムールが移動していた。
そして、彼女の首に手を置いた。
「ああああぁぁーーーー!!」
桐島は悲鳴を上げ、そのまま気を失った。
桐島の仇を取るかのように、ニュートンはムールムールに駆け寄り、喉を狙うように、牙を剥いた。
しかし、その前にムールムールの大槌がニュートンの横っ面を叩き、ニュートンを壁までふっ飛ばした。
ニュートンは動かない。
西野さんは必死に自動小銃で悪魔に攻撃したが、まるで効いていない。
ムールムールは悠然と西野さんの前に歩いてきた。
西野さんはセラミックブレードでムールムールを斬った。
しかし、浅い傷しか負っていなかった。
「まだまだですね。」
嘲笑するかのようにムールムールは言い放ち、そして呪いの言葉で西野さんを倒した。
「おやおや、坊や、独りになって寂しいですね。
どうです。貴方の力を見せてくれませんか?」
薄ら笑いで、挑発していた。
恐怖で一歩も動けなかった僕の中に、だんだんと怒りが湧き出てきた。
僕に取り憑き、シェルターを壊滅させ、そして仲間をも今手を掛けようとしているこの悪魔を殺したい・・・・・・
呪文の一句一句を唱え、怒りを込め、魔法を放った。
「アギラオン!!」
炎で視界を塞ぎ、悪魔に突撃した。
「そんなものですか?」
体重をかけた突きを余裕で受け止めるムールムール。
炎による傷も負っていない様だった。
「やはり人間は非力ですね。」
ムールムールの手に触れた途端、痛みとともに力が吸い取られていく・・・・
「ぎゃああああーーーー!!」
身体が地面に倒れ込む・・・・・・・
「雉も鳴かずば撃たれまい・・・・古いこの国には、そう言う美しい言葉もありました。
さあ、貴方がたは苦痛にもだえながら、そこで、これから繰り広げられる、素晴らしい宴を見ているがいいでしょう。
・・・・・・・主賓方が見えられた様だ・・・・・・・」
辺り一面冷気が漂ってきた。
アームターミナルのゴーグルから次々と悪魔名が表示されてきた。
どうやらニュートンがデビルアナライズを実行し、データを転送しているらしい。
「無残に虫けら共が倒れているな・・・・・
ムールムール殿、何故、止めを刺されない?」
はじめに現われたのはイボスという悪魔だった。
その姿はライオンの顔で、アヒルの足と翼、そして右目からアヒルの首が生えている見るも堪えない獣人であった。
その右手はまるで、腫れ上がったかのように異常にでかかった。
次に黒白の二匹の犬と二匹のヘビを連れ、女ライオンの顔とタカを思わせる足を持つ女性が出現した。
「ゲームですよ・・・・・
英知を独り占めしたと錯覚する、愚かな人間を駒に、絶望と恐怖を与え、のたうちまわる姿を楽しむ・・・・・。」
ラマシュトゥというその悪魔は嘲るように言った。
「なるほど。
殺してしまうはたやすく、味気ないものですものね。」
角を持つ黒やぎを連れた半裸の美しい女性、アシラトが感心するかのように頷いた。
「陳腐なゲームだわ。
私ならば、男達には皆、私にひざまづかせ・・・・・・・
私の愛を乞わせてから、心臓をえぐり取ってやるわ。」
アスタルテと解析された右手に槍を持ち、巨大なヘビの乗る、二本の角と口と魔性の光を放つ片目をさらす仮面を被るウェーブかかった長い髪の綺麗な天使が言った。
「ハッハッハ・・・・・・・それは結構!
しかし、今回は、それが目的ではありませんぞ。」
双剣のワニ顔の騎士、アバドンは豪快に笑った。
「左様・・・・・・・。」
それに同意するかのように、まるでロビンフットかのようないでたちの弓を携えたレラジエが答えた。
五芒星の形をし、女性が海星に埋まったかのようなデカラビアが
「このような不快な場所にまで、我らが足を運ぶだけの素晴らしい宴が、用意されている筈だが?」
不満そうに言った。
「勿論でございます、皆様方。
さあ、この娘めが、そうでございます。」
「・・・・・・・あ・・・・・・・・・・・・・い・・・いや・・・・・・・・・」
まるでムールムールは極上のご馳走かのように由宇香を見せた。
「・・・・・・・その小娘が?」
「人間に転生したのですから、致し方ありますまい。
しかし、得られるパワーは、保証致します・・・・・・・。」
イボスのいぶしかげな様子にムールムールは自信をもって保証した。
「しかし・・・・・・・・
バエル様も、我らをつなぎ留める為とはいえ、中々思い切った事をなさる。」
と、アバドンは頷く一方、デカラビアは辛抱がたまらないかのように、
「つべこべ言わずに始めよう!!
わしは、もうこれ以上我慢は出来んッ!!」
「御存分に、御賞味下さりませ・・・・・・・・・。」
異形の悪魔達は、そのムールムールの言葉を皮切りにし、一斉に由宇香の身体に襲いかかった。
「キヤャアアァァァアアアアアアアアアアアアアア!!!」
「お待ちッ!私は心臓よ!
バエル様は、私には特別に心臓を取らせると約束なさったわ!」
アスタルテの叫び声が響いた。
「分かっている!」
アシラトは腹を引き裂きながら答えた。
異形の悪魔達は、由宇香の四肢を生きながらにして、無残にも引き裂き、
その心臓をえぐり・・・・・・頭部のみを残し、見る間に全てを喰らい尽くしてしまった。
「・・・・素晴らしい・・・力が内部からみなぎる様だ・・・・・」
イボスの笑い声が聞こえる。
「ぐぐぐわああああ!!」
「デカラビア、どうしたッ!!」
「足が・・・・・足が・・・・・・・・・!!」
アスタルテの問いに苦悶しながらデカラビアが答えた。
「私もそうよ。
喰らった身体の一部が、同化せずに残っているわ。」
「バラバラにされてもなお、その意志を保っているのね。」
「何と・・・何と凄まじいパワーだ!!」
ラマシュトゥとアシラト、レラジエは驚きの表情を浮かべながら、言った。
「同化しなくとも、パワーが得られれば同じ事よ!」
アスタルテはどうやら同化していない事を気にしていない様だ。
「そうだとも!
早速、バエル様に報告しなくては!」
アバドンもアスタルテに同意した。そして、彼の姿は消えた。
悪魔達は意味不明な会話の後、何事も無かったかの様に、現われたときと同じく一瞬にして消え去った。
「おっと・・・・・・・大切な御首を忘れてはいけません。
バエル様にお届けせねば、ならないのでね。
さて、宴の最後の仕上げをして行きましょう。
皆さん、さぞや御苦しいでしょう。
そんな、ボロ布の様では、ゲームに面白味が無い。
それに、せっかくの労働力を損なわせていては、ダンタルオンも良い顔はしません。」
ムールムールは、回復魔法をかけた。
一行の全身を襲っていた、激痛が跡形も無く消え去る・・・・・・
「これから、このシェルター内部に、強力な毒ガスを蔓延させます。
生き残って地上に出られた者を、祝福しましょう。
せいぜい、頑張って下さい・・・・・ククククク・・・・・・!」
ムールムールは、白煙状になり、ゆっくりと四散した。
その白煙の中から、何やら喉を突く、甘い香のガスが発生し、辺りに充満して行くのが分かった。
「・・・・グホッ・・・・・・・毒ガスだ!!」
すぐに西野さんが僕たちに警告した。
「ニュートンに装着してる、救命用の酸素吸引機を!」
「これだな!」
桐島の声に、すぐに早坂がニュートンの吸引機を取り出した。
「それ程、時間は持たないわ。
皆で交互に酸素を吸いながら、何とか化学戦スーツを・・・・・。」
「しかし、対化学戦スーツ室はB5Fだぞ!」
「いや、B9F、この部屋を出てすぐの所に、予備のスーツ室がある!」
西野さんの冷静な声が響く・・・・・
「そこまでなら、何とか持ちます!
急ぎましょう!!」
僕は、西野らの動きをよそに、血塗られた床に立ち尽くし、呆然としていた。
自分の顔にも血がついている・・・・・・
これが夢であって欲しい・・・・
「葛城・・・・・・・」
「早坂、葛城に肩を貸せ!
引きずってでも、スーツ室まで連れて行くぞ!!」
「はいっ!!」
「あたしも手伝うわ!!」
早坂達が僕を無理やり管理室から連れていった。

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