02/BRAWL
シャーロック&ルイ作
私達が部屋に戻り、眠りに着こうとした頃、瑞希さんは袴姿へと着替えた。
患者を診るためだ。
黒陽をつれ、少し離れた場所にある離れに向かう。
「失礼します」
スッと襖を静かに開け、中に入ると、少し元気が無い女の子が寝ていた。
笑顔を見せ、女の子を安心させると隣に座る。
「久しぶりだね、大丈夫かな?」
「うん、お姉ちゃんがいなかった間も良い子にしてたよ」
「よしよし、おとなしくしていたみたね。さて、体を見せてもらおうかしら」
瑞希さんはゆっくりと女の子の服を脱がすと、触診を始めた。
「うん、少しずつ元気になってきている。大丈夫だよ」
瑞希さんはスゥッと息を吸い、ゆっくりと力を女の子へと注ぐ。
暖かい光と共に、女の子の顔には生気が出てくる。
「はい終わり、これで大丈夫よ」
「ありがとうお姉ちゃん」
「じゃ、後は黒陽に任せるからね、良い子で寝るんだよ」
「は〜い」
黒陽に後を任せ、部屋を後にする瑞希さん。
少し疲れている顔をしている。
「お疲れでいますな瑞希様」
「あら、久しぶり巽さん」
ここの専属の医者である磯原・巽さん、今の女の子やこの村のを診察している。
瑞希さんはあまり好ましく思っていない人物であるが、医者の診察能力は評価している。
「ありがとうございました、この頃のあの子はいつもより弱っていましたから…」
「ええ、でもこれで元気になるはずよ」
「はい……、そういえばお友達をお連れになったみたいですね」
「ええ、大切な友人だから失礼の無いようにね」
「分かっていますよ、ご安心ください」
巽さんと別れ、自室へ戻った瑞希さんは椅子に座り、窓から差し込む月光を浴び始める。
袴を着たまま、月光を浴びる瑞希さんの姿は綺麗でこの上ない。
しかし、瑞希さんの目はとても悲しそうな目をしている。
そう彼女は長老に囚われている両親のことを考えていたのだ。
両親が囚われているのには理由がある。
瑞希さんが外界に出てしまい、その責任を両親に負わせたのだ。
そして罰のごとく瑞希さんにも半年に一回しか会うことが出来ないようにになってしまった。
瑞希さんがこの屋敷を出たのは、周りの瑞希さんに対する扱いがストレスになり、半場、家出になってしまったのだ。
瑞希さんはここに帰ってくるたびに、それを考え、部屋で一人泣いてしまうのだ。
そして今も………
私は道場から戻った後、浴場に行き、湯に浸かっていた。
ここの浴場はとにかく大きい。
銭湯を経営できるんじゃ無いかしら?
ほけ〜っとしていたら、誰かがこの浴場に入ってきた。
でも湯煙で見えない。
「おっ、こりゃすごいなぁ」
っえ?
今の声、ユイ?
「あっちぃ!」
目を細めて見ると、ユイは足を付けたところでよそうより熱かった為、足を引いている。
ど、どうしよう……隠れるところ……無いか……。
クルッと背を向け、顔の半分まで湯に入れる。
「おぉ〜、こりゃ気持ちぃ〜」
うわわ………。
ユイはすぐそこまで……。
「んっ? エレイス?」
「う、うん……」
「あっ、ご、ごめんっ! すぐに出るからっ」
「えっ、いや……良いよ出なくて…一緒にはいろ?」
「えっ、あっ………う、うん……」
ゆっくりと湯につかるユイ。
私はクルッと背を向けて、ユイに話しかけた。
「ねえ、一つ効いていい?」
「うん、なに?」
「あの…六道、ユイとはどんな関係なの?」
「………あいつのことは完全には知らない。でも……あいつは父さんの心の中を掌握して、事故を起こしたんだ…」
ユイはグッと力強く拳を握り、きつく目を閉じる。
そう、彼は六道を思うたびに復讐を決意しているのだ。
しかしそれでは彼の両親は望まないかもしれない。
復讐からは何も生まれないのだ。
「ユイ……」
私はそっと彼を優しく抱きしめる。
六道の事を一瞬でも忘れて欲しい。
「ユイ…無茶はだめだよ?」
「うん、分かってる、分かってるよ」
そっと抱きしめている手を包んでくれるユイ。
いつも暖かい手なのに今日はまた一段と暖かく感じる。
ユイはスッと私のほうを向き、優しくキスをしてくれた。
少し驚いたが、私もゆっくりと彼の抱擁に浸る。
するといきなりユイは私の胸を触り、ゆっくりともみ始めた。
驚いて離れようとするが、気持ちよくて逆にユイに近づいた。
そして私達はお風呂の中で何度も愛し合い、湯から出て部屋でも何度も愛し合った…………
その頃、「仲間」になった女性は、身近にいる人間から「仲間」にしていった。
苦しまず、楽に仲間にするやり方は六道とまったく同じである。
友人などの体に自らの手を入れ、「影」を一気に流し込む。
友人とだと油断し、今では屋敷内の3分の1が六道の手中に収まった。
その女性は、六道に報告するために見つからないように外へ出る。
そして六道と合流すると、仲間にしたことや、屋敷内の配置など細かく報告をし、六道は作戦を考え始めた。
六道は怪しまれる前に女性を屋敷へ帰し、自分は屋敷が一望できる木の上から朝になるまで考えた…………。
朝になり、私は日の眩しさに目を覚ました。
朝日が昇るまで愛し合ったせいか少々筋肉痛になってしまった。
裸だった私は服を着て、外へ出るとツバサちゃんとあった。
ツバサちゃんは昨日は黒陽さん、いや今は白影さんと一緒に寝たのだ。
何だかツバサちゃんの頬が赤い……おそらく黒陽さんと「寝た」のかな?
「おはようございますエレイス様♪」
「おはようツバサちゃん」
「もうすぐご朝食をお持ちになると白影様がおっしゃってましたよ」
「おっと、それならユイを起こさなきゃね。ちょっと待ってね」
ユイを起こし、しばらくすると白影さんが食事を運んできてくれた。
ここはほんとに豪華だ。
私達の前にお膳が並べられると、そろっていただきますと言う。
しばらくすると、瑞希さんが個々に来てくれた。
「おはようみんな」
「おはよう瑞希さん」
「おはよ〜瑞希」
「おはようございます瑞希様」
「昨日は一緒に寝たんだってツバサちゃん?」
「えっ、はい♪ ぐっすり寝れました」
ふと白影さんを見ると、少し頬が赤くなっている。
話しているといつの間にか食事を食べ終わり、私は屋敷内を散策していた。
でも、何か昨日と違っていた。
会う人から昨日と違うオーラが放っているのだ。
不気味に思いながらも私は屋敷内を歩き続けた……。
その頃、ユイは屋敷の外を歩いていた。
村がどうなっているかを見るためである。
村は長閑(のどか)で静かな場所だった。
子供が田んぼを駆け回り、鬼ごっこをしているのだろうか、楽しそうだった。
そしてユイは村から少し離れた山に登った。
ゆるいスロープを進み、少し息があがった所で頂上に着いた。
三咲町は見えないが、ここから見える町並みは絶景である。
椅子に座って休憩し、山の空気を吸っていると、急に周りの空気がざわついてきた。
ユイも異変を察知し、瑞希さんから返してもらった麻酔弾入りのワルサーを取り出す。
そして背後に気配を察知し、銃口を向けると、そこにはユイの宿敵である六道がいた。
「ユイ、ここにいたのか?」
「お前……」
「ここはなかなかすばらしい場所だな、緑がすばらしい」
「お前には不釣合いな場所だ六道」
「ふむ、確かにな」
「お前は今の状況がどういうふうに置かれているのか分かっているのかな?」
「どういうことだ?」
六道はゆっくりとユイに近づいてゆく。
「私は昔、ある里で七夜のように殺人に関するあらゆる知識、体術など学んだ。私は完璧に証拠も残さず、依頼された殺人をこなしていった。だが、ある一つの依頼だけは失敗をしてしまった。お前だ」
「………」
「あの日、お前は命の火が消える寸前だった。親は先に召され、後はお前だけだった。しかし私はお前に関する情報を一つだけ誤った。エレイスだ…あの女のことはただの女だと思っていたが、まさか特殊能力を持っていたとはな……」
不敵な笑みを浮かべ、ユイを見る。
銃口を向けたまま、ゆっくりと椅子から立ち上がり、両手でワルサーを構える。
しかし六道はまったく動じようともせず、逆に隙を見せている。
先に動き出したのはユイだった。
もう一丁のワルサーを出し、六道に向かってトリガーを引いた。
血の弾丸は六道に向かって走るが、六道は体を軽く動かしてそれをよけてしまった。
そしてユイに接近すると、顔面めがけて拳を振った。
右手で拳を交わしながら受け流すと、六道に向かって膝蹴りを食らわした。
その隙にワルサーをしまい、素手で六道に殴りかかる。
六道も体制を建て直し、ユイに向かって攻撃を再開し始める。
拳、蹴りを交互に繰り出し、少しづつダメージを当てえてゆく六道。
一つ一つの攻撃を防ぎ、六道に決定的なダメージを与えたいユイだが、俊敏さでは六道の方が上だった。
「はぁ!」
「ぐぅっ!」
強烈な拳を両腕でガードするユイだが、強烈過ぎて後ろに数メートル飛ばされてしまう。
グッと拳を握り、両手を広げると、ユイの体が赤く光りだした。
自分の能力である「血」を、刃ではなく体中の筋肉に集中させ筋力アップを促したのである。
深くかがみ込み、スゥッと息を吸うと、一気に六道に接近した。
地面を蹴り、高く跳躍すると、右足を六道の顔面に蹴り付けた。
のけぞる六道だが、蹴り付けた足を掴み、地面へと叩き付けた。
「がはっ!!」
「貴様の力は惜しい、殺さず、俺の配下に加えてやる」
六道の左手が青黒く光だし、ユイの体へと突っ込ませた。
するとその右手から「影」が体へと流れ込み始めた。
「ぐっ!!がはぁ!!」
「時期に楽になる、大人しく俺に付け」
「ユイ!!」
その時だった。
七夜が六道の背を切りつけた。
目にも留まらぬ速さで切りつけられた六道はユイを離し、数歩後退した。
その隙に私はユイの元へと駆け寄った。
そう、ユイと六道が戦い始めた瞬間、私の中でユイの身に何かが起こったと感じ取り、七夜と共にここに駆けつけたのだ。
ユイの前に立つ七夜、そして影を完全ではないが取り込まれたユイは、手を刺された部分を抑えながら苦しんでいた。
「ふん、邪魔者が入ったか……だが、もう私の勝ちだ」
「どういうことだ?」
「七夜、お前には分かるだろう? 影の見分け方を…七夜の里で覚えたはずだ」
「なるほど、だがそれも終わりだ」
「どうかな?」
不敵な笑みを浮かべると、七夜は六道に向かってナイフで切りつけようとしたが、影となって消えてしまい、その場から消えてしまった。
「ユイっ、しっかりして!」
「まずいな、エレイス、お前の力が必要だ」
「どういうことっ?」
「「不死の躰」をもう一度ユイに注ぎ込むんだ。何度もやっているだろう?」
私はユイの背中にある「印」に手を沿え、目を閉じて力を注ぎ込んだ。
ゆっくりと注ぎ込んでいくと、次第にユイの顔から苦痛の顔が消えていった。
「やはりな…」
「どういうこと?」
「奴はユイを取り込もうとしたんだ。奴には自分の力を相手にコピーさせる能力があるんだろう…」
「と言うことは…」
「ああ、奴のやり方は周りを敵にさせ、追い詰めてゆくやり方なんだろう…自分の手を染めずに殺っていく汚いやり方でな」
「そんな…」
「お前も気をつけたほううがいい、油断していればやられるぞ。前に一度やられただろう?」
「……うん……」
幾度も不思議な力にはめぐり合ったが、六道の力だけは好きになれない。
相手の体を侵略する「影」、私はまだ屋敷にいた時にやられ、ユイを傷つけてしまった。
あの時の記憶がフラッシュバックする。
頭を振り、雑念を捨てる。
「え……れいす?」
「ユイっ、気が付いた?」
「ぼ……くは……」
「大丈夫、傷は私が治したわ」
「そう……っ! こうしちゃいられない!」
ユイは立ち上がり、屋敷へ戻ろうとした。
しかし六道との戦闘でダメージを追った体で、すぐに追えるはずなかった。
「落ち着け、少なくとも多少のダメージは奴に与えている。すぐには奴も動かんだろう?」
「だといいけど……」
「今は屋敷に戻って、体制を整えよう。奴の行動はおそらく夜のはずだ。一番動きやすい時にやるのが奴のパターンみたいだからな」
「そうだね……」
私達はユイを立ち上がらせ、肩を貸しながらゆっくりと歩いていく。
山を降り、村の間を抜けていく。
だがなぜか村全体が静かだった。
何かを予兆するくらいに…………。
屋敷に戻ると、部屋に入り、布団を敷いてユイを寝かす。
「大丈夫?」
「うん、さっきよりはいいよ」
ユイはワルサーを抜き、二つとも床に置く。
そしていつの間にか寝息を立て、仮眠を取り始めた。
ツバサはユイが帰ってきたことを知り、白影から離れ、ユイの元へと向かって飛んでいた。
だが彼女には知っていた。
この村全体が六道の手に陥ったことを……。
ユイやエレイス、そしてその他の人たちを非難させようと考えていた。
だがその時、何者かに体を掴まれた。
「きゃ!!」
「お前がツバサだな…」
「り、六道っ!」
体が鳥の状態で掴まれているために、人間の姿に戻ろうにも戻れない。
「ククク……」
六道はツバサの体を包むように影を流し込み始めた。
苦しむツバサ。
しかし数分して、目の色が変わり、明るく希望に満ちた目から、絶望を望む悪魔のような目に変わってしまった。
「……六道様…」
「よし、お前は身内を取り込んで来い。いいな?」
「分かりました六道様」
ゆっくりと手を離すと、ツバサはある人物の部屋へと向かった……。
それは彼女の好きな人物………そう、白影だ。
ユイと六道が戦っているさなか、瑞希さんはある異変に気づいていた。
そう、彼女はこの屋敷、いや、村全体がおかしいと感じているのだ。
そして、私服に着替え、愛用の棒を懐に仕込んで自室で静かにしていた。
まず向かった先ユイ達のいる部屋だった。
しかし向かっている途中、ツバサと鉢合わせした。
「ツバサちゃん、何処に行くの?」
「白影様の部屋です。一緒に行きますか?」
「うん、行くよ」
この時、ツバサの様子が何処か変だと感じていた。
しかし確証が持てなかったため、その事を聞く気には慣れなかった。
いつの間にか懐に締まってある棒を握ってしまっている瑞希さん。
「白影、いる?」
「はい、いますよ。どうぞ」
中に入ると、ツバサは白影の肩へととまった。
彼女はツバサの変わりように心の中で思い過ごしだろうかと考えていた。
だが、どうしてもツバサを見ているとその様な気持ちになれない。
知らずに棒を握っている手に力がこもった。
「ねえ、白影、何だか周りの様子がおかしくない?」
「はい、私もそれを感じていたところです。ユイ様やエレイス様の所に行きますか?」
「うん、そうしよう…」
その時突然、ツバサが人間の姿になり、白影さんの背中に自分の腕を突き刺した。
前髪の間から見えるツバサの目は赤く、まるで悪魔の使い魔のような目をしていた。
ツバサの腕からどす黒い影が白影さんに流れ込み、次第に苦しみ始める。
普段の白影さんなら、背後を取った敵でも形成を逆転させ、戦闘を有利に運ぶ。
だが戦闘意欲を見せていないツバサに一本取られ、隙を見せてしまったのだ。
苦しんでいた白影さんだが、すぐに苦痛の顔が消え、膝立ちで気絶してしまった。
「ツバサちゃん! やはりあなた……」
「フフフ、とても気持ち良いですよ、ホントにあの人の力は最高ですよ。瑞希様、ご一緒にどうですか?」
「なにをっ…」
「フフ……」
ツバサは一瞬で瑞希さんの背後を取り、関節を逆にねじる。
苦痛で持っていた棒を落としてしまい、完全な無防備になる。
「白影様、瑞希様を…」
ツバサの声で目が覚め、立ち上がる白影さん。
しかし今の白影さんは、私達が知っている白影さんではなくなっていた。
闇の力で心を支配された白影さんだった。
「はい、分かりましたよツバサ様」
妖しい笑みを浮かべ、瑞希さんに近寄る。
「白影! 聞こえないの…目を覚ましなさい!!」
「目は覚めていますよ……目が覚めていないのは………あなたではないですか?」
瑞希さんに脱出の余地は無かった。
部屋から聞こえる悲鳴……。
そして………瑞希さんは取り込まれてしまった……。
ふと、悲鳴が聞こえた。
私は立ち上がり、静かに耳を済ませた。
「七夜、ユイを見ていて」
「今は行かないほうがいい、周りは敵だらけだ。うかつに行動しない方が身のためだ」
「でも瑞希さんはほっとけない。ツバサちゃんもだよ」
そのまま部屋を出て、瑞希さんを探し始めた。
でもこの屋敷全体が何か異様な空気に包まれていて、気持ち悪い。
そして……人が誰もいない。
周りの異様さに思わず手に力がこもり、刃を出そうになる。
ちょうど、中庭が見える場所に来た時、白影さんを見つけた。
でも………何か違う。
何かが分からないけど何かが違う。
「は…くえいさん?」
「おや、エレイス様、ちょうどよかった…あなたにご用がありまして………」
「わ、私に?」
「はい、こちらにどうぞ」
私は彼に付いていくと、徐々に人が見え始める。
でも、会う人会う人に別の何かを感じる。
そして長老の間に招かれると、私は背筋が凍りつくような何かを背後に感じた。
振り返りたくない……でも何かを見なきゃ………。
「ようこそ、我々の元に」
「っ!」
バッと跳び、背後にいる誰かを確認するとともに、刃を出す。
六道だった。
私は手足に血の力を流し、両手で刃を構える。
しかし六道の背後にここの門番や警備の人間がそれぞれの武器を持って立っていた。
そして白影さん、ツバサちゃん、瑞希さんも……。
この屋敷を包んでいる異様な空気が何かも今分かった。
六道の影だ。
彼が何らかの方法でみんなを洗脳し、自分の配下にしたのだ。
「みんな、あなたの仲間になったわけか……」
私は刃をきつく握りなおし、覚悟を決めた。
そして心の中で呟いた。
ユイ、ごめんね……と…。
ユイはふと目が覚め、体を起こした。
部屋は薄暗く、さっきとは違う空気が流れている。
脇に入れてあったはずのワルサーを探すと、枕元に入れてあるのに気づいた。
こうしたのは彼女だとすぐに分かった。
そして二丁手に取り、異常が無いかを確認すると脇のホルスターに一つずつしまう。
フッと人の気配を感じ、膝越しで立ち上がって周りにワルサーの銃口を向ける。
「物騒なもんを向けるなユイ」
物陰からスッと姿を現す七夜。
その顔には何処か悲しそうな表情があった。
「どうしたんだ?」
「俺達以外の仲間がみんな『奴』の手先に落ちた。エレイスも瑞希、そしてツバサもな……」
「あいつ、何時の間に………うかうかとあいつからダメージを追わなければ………」
「今悔やんでも仕方が無い。俺もあいつを止めればよかったんだからな……」
「それは何時?」
「一時間ほど前だ」
「変だな……それだけの時間があれば僕達を襲えたはずだ…」
「分からん…だが、奴はお前を簡単には殺さないだろ? おそらくじわじわとお前を苦しめる為に何か策でもあるんだろ…」
ユイはその場に座り込み、頭を抑えた。
その隣に七夜が座ると、今後の対策を練り始める。
七夜はユイにワルサーの麻酔弾の残弾数を聞いた。
ユイは床にワルサーからマガジンを取り出し、一つ一つ置いてゆく。
そしてサブマガジンを二つ置くと、麻酔弾を一つ一つマガジンから取り出す。
麻酔弾は一発も使用していない為60発あった。
「俺はナイフが一本……後はお前の能力か……」
「ああ……これだけあれば、まずはここの一般人を眠らすことが可能なはずだ。しかし……」
「エレイス、白影、ツバサ、そして……」
「六道……このメンバーは容易じゃないな…」
「どうする? 先輩に連絡を取る?」
「圏外だ………運がよければ一本だがな」
ユイは携帯を取り出し、画面を見ると圏外になったり、一本になったりと繰り返したりしていた。
一本になったところでユイは意を決し、携帯をスライドオープンし、まずは屋敷にかけてみた。
コール音が何度かなり、意外な人物が電話に出た。
『はい、もしもし?』
「青子先生? よかった……先生でいいや」
『どうしたの?』
「今、友人の屋敷にいるんですが、緊急事態で………」
『声からして、かなり切羽つまっているわね……今何処?』
「え〜っと………今…」
そこでぶっつりと切れてしまい、ユイは画面を見ると電波が圏外となっていた。
「青崎が出たのか?」
「ああ、でも場所を言う寸前に切れちゃって……」
「となると援軍は求めれないか………」
ユイと七夜はともに顎に手をあて、ジッと対策を考え始めた。
しばらし、二人の出した結論は………強行突破だった……。
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