01/Welcome to the Hayama's residence

シャーロック&ルイ作


 遠野家を離れ、電車を乗り換えること二回。
私たちは瑞希さんの家から近い駅に着いた。
 神奈川の鎌倉から揺られること1時間、さすがに疲れが出る。
しかしまだここから30分くらい歩かなければならないのだ。
時刻はもう夕方になり、空は赤く染まり遠くでカラスが鳴いている。
 何より歩いていると、疲れのせいか次第に足の裏が痛くなってきた。
服と最低限の荷物しか持っていないユイでも、慣れない長旅のせいか疲労の色が出ている。

「ユイ君、大丈夫?」

「けっこう距離がありますね瑞希様」

 頭の上にちょこんと乗っているツバサ。
いいなぁ〜鳥は…と思ってしまう私。

「うん、大丈夫……まだいけるよ。あっ、あれかな?」

 ユイが指差す方向に門が見えた。
あれが私たちの目指す瑞希の実家である。

「あっ、七夜、少し姿を消してくれない?」

「なぜ?」

「ここで、あなたが七夜の人間だと知れたら大変な事になるから」

「そうか…仕方あるまい…」
 
 ふっと煙のように姿を消す七夜。
 やっとのことで瑞希の実家に着き、ユイが門の中に入ろうとした時だった。
どこからか二人の門番が現れ、ユイの首元を押さえるように棒を向けたのだ。

「何者だ?」


「ここは貴様のような来るところではない、早々に立ち去れっ」

 ふとユイを見ると左手がコートの中に入っていた。
 まずいと思ったその時、瑞希さんが門番たちの前に立った。

「下がりなさい」

「み、瑞希様っ、しかし……」

「聞こえなかったの? 下がりなさい」

「はっ、はぁ……かしこまりました」

 すっと姿を消し、何事も無かったようする瑞希さん。
この時点で私は、瑞希さんがここでどれほどの権力を持っているか分かった。

「ごめんねユイ君、不快な思いをさせて」

「い、いや、いいよ」

 瑞希さんは玄関の引き戸を開けると、そこには白い和服を来た青年が立っていた。
年齢は私たちと同じくらいだろうか?

「お帰りなさいませ瑞希様、皆様もようこそいらっしゃいました」

「ただいま白影」

「長旅でお疲れでしょう、お部屋にお連れします」

 足音を立てずに廊下を歩く姿に私たちは感心し、同時にここが旧い家なのだと実感した。
 白影という瑞希さんの使いについていくと、畳張りの広い居間へと案内された。
 瑞希さんは自室へ戻り、白影さんは一礼して部屋を去っていった。

「畳の匂いがいいね、ユイ」

「うん、あぁ〜〜、畳に引き寄せられるぅ〜〜♪」

「ユイ様、かなりお疲れのようですね、大丈夫ですか?」

「あぁ、大丈夫だよツバサ。ツバサもゆっくりしてくれ」

「はい、ユイ様」



 瑞希さんは部屋に荷物を置き、ある場所へ向かっていた。
 それはこの村の長…彼女にとってあまり会いたくない人物………。
 長老の部屋の前に着くと、一度深呼吸し失礼しますと言う。

「これはこれは瑞希様、お帰りなさいませ」

 畏まりながら礼をする長老。
 瑞希さんは静かに襖を閉め、すっと座布団の上に座る。

「ただ今戻りました…私がいない間、何もありませんでしたか?」

「はい、特には…あるとすれば、患者が待っていることです」

「そう、分かりました………後で寄ります」

「よろしくお願いいたします、皆瑞希様をお待ちしておりますので。…あと、お父様とお母様にお会いになった方がよろしいのでは?」

 それを聞いた瞬間、瑞希さんの顔に驚きと怒りの表情が表れた。
しかし長老は妖しい笑みを浮かべただけ……、瑞希さんは怒りを抑え、その場から去ろうとした。

「とにかく、後で患者に会います。それではっ」

「はい、後ほど瑞希様」

 長老の部屋を出ると、瑞希さんは目に涙を浮かべ、拳をきつく握り締めていた。

「父さん……母さん…………」



 村の外れ、ここに一人の男が立っていた。
影に隠れ、ユイの後を追ってきた。
 そう、六道神楽…………、ユイとは正反対の「闇」。

「ふむ、ここなら楽しめそうだ……」

 六道は影から影に移動し、村の人々を観察し初めた。

「のどかな村だ……しかし………能力保持者が少ないな……」

 六道は破山の里が見渡せる場所を探し出し、屋敷内を観察し始めた。



 しばらくのんびりしていると、ツバサちゃんがあたりを散歩すると言い部屋を出て行った。
 ツバサちゃんは廊下を飛んでいると、廊下を移動していた白影さんと会った。
フッと白影さんの隣を通り過ぎると、白影さんが声をかけた。

「ちょっと待ってくださいっ」

「?」

 首を傾げながらクルッと旋回し、床に着地する。

「お散歩ですか?」

 コクッと頷くと、白影さんがしゃがみ込み、スッと腕を差し出した。
それにトンと乗ると、白影さんの肩に移った。

「一緒に来ますか?」

 コクッと頷くと、白影さんはこの屋敷の調理場へと向かった。
 調理場では、今日の夕食の準備が進んでいた。

「夕食は何時頃出来そうですか?」

「あら、白影君。そうねぇ、多分7時ごろになると思うよ?」

「後……一時間くらいですね。分かりました、また後で取りに来ます」

「はいはい、待ってるからね。」

 調理場を離れると、白影さんは窓から見える夕日を一度覗いた。

「まだもう少し大丈夫ですかね? では少しエレイスさん達の居間へと行きましょうか?」

 私たちの部屋の前に着き、失礼しますと言って中に入ると、お茶を差し出した。
 う〜ん、どこからどう見ても白影さんは凄く真面目な人だな。

「長旅でお疲れでしょう? お風呂はこの先の浴場になっています。お好きなときにお好きなだけ入れますよ」

「はい、ありがとうございます。後で入らせてもらいますね」

「あの…白影さん」

「何でしょうかユイさん?」

「僕がここにいてもいいでしょうか? さっきも門番に止められましたし、ここへ来る時もなんだか胸騒ぎがしましたし……」

「大丈夫ですよ、瑞希様からあなたの事も聞いています。でも私はあなたを差別の目で見ることはありません、むしろ友人としてみています」

「ゆ、友人なんてそんな初対面の人を……」

「いえ、瑞希様から話を聞いたときから会いたいと思っていましたし、きっと仲良くなれると思っていましたから。」

「な、なんだか照れるな……」

 その時、襖の奥から声が聞こえ、白影さんが開けるとそこには長老とその配下の人が二人いた。
 思わず私たちはビクッと背筋が伸びる。

「そう緊張なさるなエレイス様、ユイ様。こんな山奥の里に来て頂き、誠に感謝している。私はここの里の長を務めておる者です。
以後、お見知り置きを…」

「は、ハァ……」

「私が言うことでは無いかも知れんが…門での非礼、深くお詫び申し上げる…」

「長老さん、大丈夫ですよ」

 しばらくすると、長老が軽く咳をし、私をじっと見始めた。

「エレイス様、この先もずっとここに残ってはいただけないだろうか?」

「「えっ?」」

 突然のことで私達は驚いた。
 長老は話を続けた。
長老は、この村、そして長老達の力が弱ってきている事で悩んでいるという。
そしてこの時に、私達が来たことが大きなチャンスだと考え、ここに来たという。

「ち、長老、そんな急に言われても……」

「そ、そうですよ。いくらなんでも……」

「勿論すぐに返事を出して頂く必要はありません、こちらにいる迄にお返事を出してくだされば良いのですから。」

 そう言うと、長老は立ち上がり、部下と共に居間から去っていった。

「白影さん、一つ聞いてもよろしいですか?」

「はい、何ですか?」

「あなたはどちらの味方ですか? 長老、瑞希さんと……」

「私はどちらの味方かと言われれば、私は瑞希様の味方です。それは同時にあなた達の味方でもあります」

 それを聞くとユイは笑顔になった。
 白影さんは何かを思い出したような顔をすると、失礼しますといい、居間から出て行った。
 ツバサちゃんも白影さんに付いていく。

「ツバサ、白影さんの事気に入ったのかな?」

「あの子も女の子だからね、恋心でも持ったんじゃない?」

 そう思いながら私達はツバサちゃんを見ていた。
 白影さんの部屋に近づくと、白影さんは、肩に乗っているツバサちゃんを床に下した。
首を傾げ、何をするのかと伺うツバサちゃん。

「少し待ってください、今、『彼』を起こしてきますから」

 彼とは誰だろうと頭の中で考えながらジッと待つことにしたツバサちゃん。
 白影さんは部屋に入ると、クローゼットを空け、中から黒い着物と袴を出した。

「そろそろ時間ですね、今日はお客様が来ているので失礼の無い様にお願いしますよ……黒陽」

 日が完全に落ち、あたりが完全に暗くなると同時に、白影さんの表情と意識が切り変わった。

「ふぅ…それ位は分かっているさ、白影。 さて、ご挨拶しに行かないとな」

 白い袴を脱ぎ、黒い袴に着替えると襖を開けた。
ギョッと驚いて目を丸くするツバサちゃん。

「あぁ、ツバサってのはお前さんか。よろしくな、黒陽だ」

 スッと腕を差し出すと、驚きながらもその手に乗る。

「へぇ〜、尾が長く、翼は白銀か…中々可愛いじゃないか」

 ツバサを褒めながら、居間へ向かうと、白影さんと同じように襖をノックする。
 返事を確認し、黒陽さんが襖を開けると、私達はツバサちゃんと同じように驚いた。

「驚かせてすまんな、俺は黒陽だ。あんた達の事は白影から聞いてるよ。まあ、あいつと俺は同じ体だからな」

「つ、つまり二重人格と?」

「ま、そういうことだ」

 最近は現れなくなったが、以前の私とユイの裏の人物が出たと思えるとすぐに黒陽さんを受け入れることが出来た。
 黒陽さんは、日が沈むと同時に白影さんと黒陽さんのスイッチが切り替わるという。
これは幼い時からずっとあると言う。

「もうすぐ夕食だから待っててくれ」

「はい、分かりました。ツバサ、おいで」

 ユイに呼ばれ、ツバサはトンと飛び出すと、ユイの肩に乗る。
 黒陽さんは居間を離れると、食堂へと向かった。




 あたりが完全に暗くなると、六道の活動範囲は大幅に広がる。
 影から影に移り、気づくことなく背後に忍び寄り、相手を殺すこともあれば、自らの欲望に身を任せ、何度か女性を犯したこともある。
 しかし今回は違った。
長老という存在だ。
 六道が移動すると、どこからか見られているという感覚に襲われるのだ。

「長老、戦闘能力は無いが五感が以上に優れている。まずは長老から叩くか………?」

 今回の任務、いや、数年前から依頼されたこの任務は簡単なはずだった。
 キサト家を抹殺せよとの依頼を受け、ユイとその両親が家に帰宅している途中、父親の精神に攻撃をかけ、三人が乗る乗用車を事故に見せかけ、一家は全滅した……………ハズだった。
しかし六道はここで大きなミスを犯した。
 ユイにの友人関係でミスを犯したのだ。
 ステアー家の存在だ。
 彼は友人関係まで細かく調べてなかったのだ。
エレイスに直接、体に「不死の躰」の力を注ぎ込まれ、傷を癒したのだ。
 そして六道は何事も成功したと過信し、ユイはこの間まで普通に生活をしていた。
 それを気づいたのはユイの両親の命日、11月8日だった。

「よもや私の人生でこのような大きなミスを犯すとは……」

 六道は屋敷に潜入するという手段をあきらめ、誰かこの屋敷から外出するものはいないかジッと待ち続けた。
 一時間くらいだろうか、屋敷のから一人の女性が現れた。
どうやら買い物みたいである。
 年は20代前半だろうか?
 六道は先ほど思いついた作戦と同時に、自らの欲を久々に発散するかという衝動に駆られた。

「ふん、自分の欲に逆らっても意味は無い………」

 六道は影から影に移り、女性の後をつけた。
 そして女性が木の影に入った瞬間、六道は女性を影の中に引きずり込んだ。
衣服を脱がすと女性は悲鳴を上げるが、その声は闇の中で反響し、外には聞こえなかった。
 六道は女性を撫で回し、自分のモノを中に入れると、それと同時に女性の心を自らの影で支配した。
 これで女性は六道が死なない限り、永久に六道の配下になり、彼の意のままに操ることが出来る。
 そして自らの欲を、女性の中で爆発させると、女性に屋敷内の人数などを調べるよう命令した。
女性はコクンと頷くと、六道は再び欲を発散させようと体を動かした……………。
 そして時間の許す限り、自分の欲を女性の中に出し続け、そして女性もその快楽に浸り続けた………




 夕食が済み、一段落すると、ふとユイは黒陽さんに何処か広いところは無いかと尋ねた。
 道場があると聞き、ユイはそこに向かうと、ワルサーを取り出した。
そして弓道で使う的を用意してもらい、射撃訓練を始めた。
的確に中心を狙い、トリガーを引き続ける。

「中々の腕前だな。それに見たことの無い銃だ、どこで手に入れたんだ?」

「手に入れたのは教会の知り合いからです。それもついこの前です」

「7割は中心にヒットしている、凄いもんだな」

「あっ、ここにいたんだ」

 瑞希さんが私達を探していたらしく、道場に入ってきた。
何をしているか気になったらしく、そっと私に近づいてきた。

「瑞希、ここは中々住み心地がいいね」

「そう? あっ、ねえねえユイ、あなたの銃の弾丸はどんな性質なの?」

「これは僕の能力で撃っているんだ。刃を出し続けたら体へのダメージも大きいから、フェーダーが制御するためにくれたんだ」

「他の弾丸は?」

「撃てるよ、9mmのパラベラム弾とかね……瑞希、ここで麻酔弾とか作れないか? ここはいろいろな事が出来そうだからさ」

「そう、かな…分かった、じゃあその銃を貸して」

 ユイは二つのワルサーからマガジンを取り出し、それを瑞希さんに渡した。
 任せてねとユイに笑いかけた。

「ねえ黒陽、最近の棒の腕前は?」

「ちゃんと毎日、稽古は積んでいるさ。久々に手合わせするか?」

「棒術を使うんですか?」

「まあなエレイス、瑞希の棒術、体術も俺と白影が教えたんだ」

 小さく声を上げて感心する私とユイ。
 ユイは何かを思いつき、黒陽さんに一勝負申し込んだ。
ちょっと驚いたが、すんなりと受け容れ、怪我をしても知らないぞ? と軽口をユイに叩いた。
 瑞希さんは壁に掛けてある竹刀をユイに投げた。
パシッと受け取り、二、三度振り回し、黒陽さんに先を向ける。
 黒陽さんは懐から三つに折れた棒を取り出し、それを一つに組み合わせ、長い棒にした。
 両腕でまわし、棒を水平にするようにして構えた。
 緊張の空気が回りに流れる。
 先に攻撃を開始したのは黒陽さんだった。
 棒を回しながら、ユイの肩を狙い振り下ろす。
 ユイは竹刀を水平にし、棒を受け止める。
 しかし黒陽さんは打ち付けた方とは反対側の棒で竹刀を再びたたきつけた。

「ほらっ、もう一本ユイ君」

 瑞希さんは竹刀をもう一本投げると左手でそれを受け取り、再び黒陽さんに切りかかった。
しかし黒陽さんは右手の竹刀をなぎ払うと、ユイの腹に向かって撃ちつけようとした。
ユイは左手の竹刀で棒を何とかなぎ払い、後ろに下がる。

「やるな、なかなか」

「どうも…まだまだ行きますよ!」

 ユイは左手の竹刀を黒陽さんに投げると、一気に黒陽さんに接近した。
竹刀を棒でなぎ払い、同じようにユイに接近する。

「はぁぁ!!」

 腕に力を込め、血の棒を出すとそれを振りかざした。
そしてそれを振ろうとした瞬間、黒陽さんの姿が消えた。
 ユイが黒陽さんの姿を探し始めた瞬間、ユイはその場に組み倒され、首に棒を当てられた。

「終わりだ、ユイ」

「降参します」

 両手を挙げ、降参のポーズをするユイ。
 う〜ん、やっぱり戦闘技術を瑞希さんに教えたことだけはある。



 六道に操られ、心の隅々まで完全に支配された女性は、屋敷から任された事をやり終え、帰宅する。
そして次は六道の指示通りに動き始めた。
 内部偵察を…………………。



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