『 遠い約束 』 31 兄と大臣達の話が始まって、キャロルはさり気なくそこを離れた。兄ライアンは仕事のことにキャロルが過剰に興味を持つことを許さなかった。 (それにしても華やかねぇ。領事館とはいいながら中は宮殿だわ・・・。 シーク・イズミルは本当に王子様なのね。話しかけてくださらなかったら私、あの方は私の知らない誰かだと思ったかも) キャロルはさり気なく壁際に移動して、窓辺の椅子にそっと腰掛けた。 着飾った人々、ざわめき、まるで華やかな芝居でも見ているような錯覚を覚える。 (のぼせたかしら?) キャロルは開け放たれたフランス窓からテラスに出た。月明かりに照らされるナイルに面したそこは、カーテンと植え込みのせいで静かな個室のようだった。 「いい気持ち・・・涼しい」 キャロルはうっとりと目を閉じた。 その時。 「キャロル嬢?このようなところでどうしたのだ?」 「!・・・シーク・・・・・?!どうして・・・」 (お前を捜して・・・) シークはくすりと笑った。 「何、少し外の空気を吸おうと思っただけだ。宴もたけなわ、かなり酒も入っている、皆、私が居なくても気がつかぬよ。 アラブ風のなりをしていれば、特に外国人はまるで区別がつかぬと言う。キャロル嬢、あなたもそうか? 私ではなく、世間知らずの娘をくどくならず者だとでも思ったかな、あの驚きようでは」 「あ・・・シークだとはすぐ分かりました。だ、誰だって分かります、きっと。ただ驚いてしまって。シーク・イズミルが急においでになったから」 少女の口から「シーク・イズミル」と呼ばれると、無味乾燥な尊称も急に暖かみを帯びるように思える。イズミルは微笑するとゆっくりと手すりにもたれかかった。 そしてキャロルの緊張をほぐすように様々に話しかける。世間知らずなキャロルはじきにライアンに対すると同じようにイズミルに話しかけ、笑うようになった。 「・・・キャロル嬢は本当に兄君思いだな。兄妹仲がよいのはいいことだ」 「ええ。私は昔から兄さんっ子でしたから。兄はとても優しいから私も兄に何でもしてあげたいんです。兄がいつも私にしてくれるように」 イズミルは全身がかっと燃えるような気がした。 「・・・だがいつまでも兄妹で一緒にいるわけにもいくまい。何でもするといっても・・・」 イズミルの視線がキャロルを絡め取る。甘く強引な手がキャロルを引き寄せる。 「兄に妹がしてやれぬこともある・・・」 「!」 イズミルはキャロルに口づけた・・・・。 32 ―愛しい愛しいお前をずっとずっと捜していたのだ (捜していた?私を) ―夢の中でずっとずっと逢っていたのだ、私たちは。もう兄のことは忘れよ。 これからは私がお前を大切にしてやろう。いつまでも子供のままではいさせない・・・。 (私は兄さんが好きなのよ?夢の中ってどういうこと?どうしてシーク?私は分からない) ―分からぬならそれでよい。いっそお前は思い出さぬ方が幸せだ。私はあの悪夢から、大事なお前を守ってやれなかった悪夢にもう苛まれずにすむ。 お前は何も知らぬ無垢な心のままに私を・・・愛してくれ。 (愛する?あなたを?私は・・・私が好きなのは・・・ライアン兄さん・・。 大好きな・・・ライアン・・・兄さん。私は兄さんの妻になる・・・) ―ふふ。‘大好き’と‘愛している’は違う・・・違うのだよ。 口づけた唇は離れないまま、二人は言葉を紡ぐ。 イズミルの腕はしっかりとキャロルを抱きしめ、金茶色の危険な光を帯びた瞳は、焦点の定まらない碧の瞳を絡め取る。 ―思い出せぬならそれもよい。だが、だが私は忘れてはいない。お前を如何に愛したか。幸せにしてやりたかったのに、どうしてもそれが叶わなかった口惜しさも・・・覚えている。 イズミルの体に抱きすくめられ、身体に直接響いてくるような低い声を聞き、だがキャロルは彼を拒否することは出来なかった。 (私はこの人をどう思っているの?どうして動けないの?この人は何を言っているの?) キャロルの瞳に映る男性。アラブの装束に身を固めたシークと・・・キャロルがいつか壁画で見た古代の衣装を着たシーク・イズミル。二人?いや、一人? いつの間にか深くなったシークの接吻にキャロルは抗うことをしなかった。 33 ―思い出すな、あのような恐ろしい場面は。思い出せば、そなたは私を厭うだろう。妖かしなどでそなたを娶り、子まで生ませた私を軽蔑するだろう。 ああ・・・だが、思い出してはくれぬか。私の心を。私が生ませた子ゆえに私にも穏やかな笑みを見せてくれた日を・・・! いつしかキャロルの目の前にいるのは古代の衣装を着たシーク・イズミルだけになった。 低い哀切な声。生まれながらの貴人だけが持つ威厳と気品。だがその瞳の奥に罪におののく罪人のような哀しい色が宿るのは何故? ―姫、私はそなたを愛している。天にも地にも我が愛するはそなただけだ。 許しを請わせてくれ、償わせてくれ、私を嫌っても・・・良いから。私はそなたを側に置きたいのだ。 何ひとつ愛さぬと思っていた私が初めて愛したそなたを。 (どうしてあなたは謝るの?私は本当は知っていたのよ。あなたが・・・) 「どうして・・・・?」 低い小さな声でキャロルは問うた。半ば以上、夢の中のようなぼんやりした気持ちで古代装束の誰かに・・・シーク・イズミルに・・・。 だがキャロルの問いに答えたのは、アラブの衣装を着たイズミルだった。 「私はお前を愛しているから。シークとして、お前の兄の取引先の責任者としてお前の心を取り引きするように扱いたくはない。 私は一人の男として、イズミル・ハールーン・スレイマンとしてお前を・・・妻にと求める・・・!」 キャロルが小さく息を呑んだ。あまりのことに息が止まりそうだ。不思議な二重写しの映像と声。気がつけば自分はまだ兄以外の男性の腕の中に居て・・! イズミルはふっと表情を緩めると、もう一度キャロルに接吻した。 彼は苦もなく人形のようにぐったりとした少女の身体を支え、唇の中に馴れ馴れしく舌を差し入れ、しばらく慣れないゆえに硬直して無反応なキャロルを楽しんだ。 34 不意にキャロルの瞳から涙が溢れた。真珠のようにぽろぽろと零れる涙にイズミルは驚いて白い顔を覗き込んだ。 (しまった、性急にすぎたか。困ったな・・・加減を忘れた) だが。 「ど、どうしよう。私ったら・・・私ったらライアン兄さんがいるのに、兄さん以外の人と・・・こんなこと・・・。やめて、も言えなくて・・」 「キャロル嬢、泣かないでくれ。驚かせ怖がらせるつもりはなかったのだ。私はただ・・・」 おろおろとイズミルはキャロルを腕の中に抱きしめ背中をさすった。いつのまにかキャロルのことも「お前」とは呼ばなくなっていた。 「嫌であったか?怖がらせてしまったのか?」 キャロルはしゃくり上げながら呟いた。 「い、嫌じゃなかった。こんなこと・・・兄さん以外の人とキスして嫌じゃないなんて、私、いやらしい最低の人間。兄さん、ママ、ごめんなさい・・・。 私がこんなだから兄さんは目が離せないって言うんだ」 「はっ・・・・はは・・・はははは」 イズミルは笑った。こんな熱烈な告白を返してもらえるとは思ってもみなかった。 「キャロル嬢、キャロル嬢。嫌でなかったとは・・・私のことが、私のしたことが嫌ではなかったということか!」 だがキャロルはそれには答えなかった。シーク・イズミルが腕の力を緩めたその瞬間に怯えた小鳥のように部屋の中に戻ってしまった。 「知りません、分かりません、私、兄さんの所に行かなきゃ・・・!」 シーク・イズミルは自分の体のそこここに残るキャロルの気配を愛おしむようにしばらくの間、テラスに立ちつくしていた。 (今度こそ・・・私はお前を幸せにしてやろう。私の側で) 35 「キャロル!どうしたんだ?捜したぞ」 ライアンはやっとキャロルの姿を見てほっとしたように駆け寄った。 「ごめんなさい、ちょっと洗面所に行っていたの」 泣いた跡を消して、シークの唇に取られてしまった口紅を直してキャロルは広間に戻った。何事もなかったように、心配をかけたライアンに微笑みかけて。 「ならいいが。そろそろお暇しようか。やはり僕たちはこの中にあっては異分子だよ。徹夜のアラブ式宴会にはつき合えない」 ライアンはキャロルの手を取って、シーク・イズミルに暇乞いをした。白いドレスを着たキャロルは正装のライアンの傍らにあって花嫁のようだ。 もちろんライアンもそれを知ってわざと義妹に白を着せた。シークにキャロルは自分のものだと改めて知らせるために。 でも。 そんな二人の様子を見てもシーク・イズミルの心は少しも波立たなかった。むしろ勝者の余裕のようなものをもってライアンにエスコートされたキャロルを見ることが出来る。 (キャロル・リードはまだほんの子供だ。‘大好きなライアン兄さんのお嫁さん’と‘自分の愛する男性の妻’になることの違いすら自覚していない。 私を愛するようにさせる。あの子供を、大人の女にしてやるのはライアンではない、私だ) 「ミスター・リード、楽しく有意義な夜を過ごされたことを祈っている。 我々は仕事の上では良き仲間、良き隣人、それ以外の時も良き友人でありたいと思う」 「恐れ入ります、シーク・イズミル。今宵得た知己は何にも勝る宝です。今後の我々の友情が長く続きますように」 ライアンの傍らでキャロルの膝を折り、礼をした。顔を伏せていてもシーク・イズミルの燃える炎でできた鎖のような視線を感じる。 (私は・・・あの人に掴まってしまったの?それとも今夜のことはただの夢? 明日になれば、また兄さんのお嫁さんになる日を数える私に戻れる・・・のかしら?) 「そう、我らの友情は長く続き、その結びつきは多くの喜びを生み出すだろう。貴殿が我らに多くの喜びをもたらしてくれることをアル・シャハルのイズミルは期待する」 シーク・イズミルの声がキャロルの身体の奥深いところを揺さぶった。 36 ―私に優しくするのはやめて。私はいくら優しくされても、あなたに応えられないの。私を騙して滅茶苦茶にしたあなた。あなたが本当に見下げ果てた非道い人間ならよかった― ―可愛い子、大事な私の・・・。あなたはお父様に似ているのね― ―私はいつか素直にあの人に言うことができるの? でもあの人に愛しているって言ってもいいの?あの人は私が初めて愛した人ではないのに― ―ああ、イズミル。私はあなたが・・・・・・・・・・・― 「・・・・夢・・・・?」 キャロルはぼんやりと起きあがった。そこは見慣れた自室。寝る前に脱いだ白いパーティ・ドレスが椅子の背にかけたままになっている。 時計は午前1時過ぎだった。シーク・イズミルのパーティを辞してからまだいくらも経っていない。 「不思議な・・・夢・・・・。シーク・イズミルの名前を呼んでいた?」 キャロルはぶるっと身震いした。思いだそうとすれば意識の深淵に沈んでいって失われてしまう不思議な映像、ざわめき。切なくて哀しくて、それでいて愛おしい・・・思い出のような。 夢を思い出すと、おのずとシーク・イズミルの接吻が思い出される。ライアンと同じような深い接吻。まさかライアン以外の人間とあんなことができるなんて思いもしなかった。 (愛している・・・・って私は言っていた。でも誰を?) キャロルはその答えが出るのを恐れるように、勢い良く起きあがった。 「・・・兄さん?まだ起きている?」 「! キャロル?! どうしたんだ、こんな夜更けに?」 帰宅した後、自室で早速アル・シャハル進出に関するプロジェクトの青写真を作っていたライアンは驚いたようにパソコンから顔をあげた。 キャロルは答えずに、ライアンの背に抱きついた。慣れ親しんだ兄の匂いと暖かさがキャロルを安心させた。 「どうした、キャロル。急にこんなに甘えて」 ライアンは嬉しさを押し隠して義妹を膝の中に抱き直した。 「さては怖い夢でも見たのかい?一人じゃ眠れないほど怖い夢を」 「・・・・そう、なの・・・。兄さん、今日は一緒に寝てもいい?お願い。 何だかいろんな夢を見て・・・誰かと居たいの。一人は・・・怖い・・・」 「よしよし、分かったよ。さ、おいで」 ライアンはキャロルを軽々と抱え上げてベッドに連れていった。 37 (幼い顔をして眠るんだな・・・) 仕事も一区切りついて、先に兄のベッドで寝入ってしまったキャロルの顔を眺めてライアンは優しい微笑を漏らした。 小さい頃はよく怖い夢を見たと言ってはベッドに潜り込んできたキャロルだった。それがいつの間にかすっかり大きくなって愛らしい少女になった。 「・・・キャロル・・・?寝てしまった?」 「う・・・・ん。大好き・・・兄さん・・・」 目は瞑ったままで、手を差し伸べるキャロル。 「愛しているよ、キャロル」 ライアンは上着を脱いだラフな格好でキャロルの横に潜り込んだ。ベッドが軋む。キャロルは小さい頃そのまま、半分眠ったままでライアンの腕の中に潜り込むのだった。 (本当に・・・無防備だな。安心しきって全てを僕に委ねている。僕のキャロル。僕だけを愛する僕の大事な義妹・・・妻。誰にも渡さない。) ライアンはそっとキャロルに接吻すると目を閉じた。 しばらくの間、ライアンの脳裏にはキャロルへの求愛を仄めかした厚かましいシーク・イズミルの顔がちらついて苛立たせたが、キャロルの甘い匂いがじきにそれを忘れさせた。 (早くお前を妻として抱いて眠りたい。僕以外の男などキャロルは目もくれまいと分かっているのに・・妙に落ち着かない気分にさせられるのはどうしたものかな) 38 朝。キャロルが目を開けるといきなりライアンの胸の中に抱きしめられた。 「おはよう、キャロル」 ライアンはキャロルにキスした。昔は頬にしていたおはようのキス。でも今朝は唇に、深く。 「・・・おはよう、兄さん」 キャロルはライアンの首に抱きついて頬にキスを返した。小さい頃と同じように。ゆったりとした寝間着のボタンが外れて白いうなじと華奢な鎖骨が男を誘う。 「よく寝ていた。・・・怖い夢はもう見なかったかい?」 「ええ、大丈夫。ごめんなさい、私がいたから兄さんはよく眠れなかったんじゃないかしら?寝相が悪くて蹴ったりしなかったかしら?」 「大丈夫だよ。お前はもう子供じゃないんだから。眠るのもお行儀のいいものさ」 ライアンはキャロルを抱き寄せた。何も着ていない鍛え上げられた上半身の筋肉が鋼鉄のようにキャロルを縛める。暖かく柔らかい身体を抱き寄せて、ライアンは下半身がぎゅっと強ばるのを感じた。 「兄さんったら、やだもう・・・!」 (大丈夫、昨日のはただの夢。シーク・イズミルとのことだって・・・何でもないことよ。私が好きなのは兄さんだけ。兄さん以外の男の人なんて!) キャロルは自分を安心させ、納得させるように言い聞かせた。 (私がいるのはこの胸の中だけ) そんなもの思いはキャロルを物憂く、艶めかしく見せた。 そんな「女」の貌を見せるキャロルに、不意にライアンは思う。 (この場で抱いてしまおうか?この場で結婚してしまおうか?キャロルは拒めない、僕が本気で抱けば。そうすればこのわけの分からない不安は・・・) ライアンは腕に力を込め、細いキャロルの腰を自分の方に引き寄せた。熱くたぎり、決して感情を偽ったりできない自分の分身の方に。 「・・・本当に・・・お前はもう子供じゃないよ・・・。僕を誘うことのできる・・・大事な僕の・・・」 「やっ・・・!」 キャロルは小さく叫ぶと思い切りライアンを押しのけた。だがライアンの体はびくともしないのだ。 (嫌、助けて!私はあなたのものにはなれないの!) 39 ライアンは力を緩めなかった。震えるキャロルのうなじに耳朶に唇を這わせる。 「っ・・・・!うぅっ・・・・・・!は・・ぁ・・・!」 キャロルは身体の芯が熱くなるのを感じた。恐ろしいはずなのに、嫌なはずなのに、身体は勝手にライアンの与える刺激に反応するのだった。涙が溢れ、ライアンの顔がぼやけた。 「ふっ・・・・・」 不意にライアンは身を離した。 「もう・・・お前とは一緒に眠れないな。結婚までは触れない、と自分で決めていたのに・・・守れそうにない」 「兄さん・・・・」(私は兄さんが好きなのよ。でもこういうのは嫌い。何だか違うの) 「・・・愛している。お前は僕の妻になるんだ。僕だけを見ておいで」 (いつもの兄さんだ・・・) ライアンはキャロルにそっと接吻すると、出ていった。 (ライアン兄さんは私を愛していてくれる。ずっとずっと昔から。私を守って、私を大切にしてくれる。 でも何だか・・・・少し窮屈。兄さんの腕の中から出られないようなそんな気がするのは何故?) キャロルはほうっとため息をついた。目の前にはライアンが用意してくれたアメリカ行きの航空券。 婚約発表はアメリカの本邸で行うとライアンはさっさと決めてしまって、キャロルだけを一足先に帰すことにしたのだった。 (あの朝から、兄さんは何だか私を閉じ込めるみたいにして。私がどこかに行くなんて思っているのかしら?私は兄さんしか・・・) 不意にキャロルの脳裏にシーク・イズミルの顔が浮かんだ。キャロルをお前、と呼び、強引な接吻で彼女を絡め取った異国の王子の顔が。 40 ―大好きと愛しているは違うのだよ― キャロルはぶるっと震えた。自分はどうしようもなくあのシークに、謎めいた異国の王子に惹かれているのだと思った。 (兄さんは私の・・こんな心の動きを見破って・・・?) キャロルの予感は半ば当たっていたことになる。 リード・コンツェルンの総帥との諸々の折衝を自ら行うことになったシーク・イズミルは、同じ領事館に滞在中の妹ミタムン王女の話し相手としてキャロルを指名したのだった。 その見え透いた口実にライアンがライアンが激怒したのは当然である。ライアンはシーク・イズミルがキャロルへの興味を露わにしたことを決して忘れなかった。 「シーク・イズミル。せっかくのお言葉ですが妹はまだ15歳。とても御妹君の話し相手は務まりますまい。 年が近いならまだしも、王女殿下はもうご結婚もなさっておいでの貴婦人であられる。 ・・・妹はアメリカへ帰そうと思っています。婚約発表をするために。 性急と思われるでしょうが、婚約・結婚をしても僕は妻には勉強を続けさせるつもりです。 妹も・・・キャロルも僕のやり方には賛成のようです。それに本邸に戻った方が彼女も落ち着いて安定するでしょう。それがあの子のためです。」 どうしてそこまで言い募るかと、側のロディが蒼くなるほどのライアンだった。 シーク・イズミルはただ、興味なさそうに頷いただけだった。しかし内心は煮えくりかえり、じきに手の届かぬ存在になるキャロルを何とか手に入れたいと気も狂わんばかりだった。 そしてキャロルが帰国する日が来た。 しかしキャロルが乗った飛行機はアメリカに到着することは出来なかった。彼女を含む大勢の人が乗った飛行機がハイ・ジャックされたというニュースが世界を駆けめぐる・・・。 |