『 人形姫 』

11 イズミル
姫の姿が見えぬという報告をもたらした侍女と兵士を私は思わず怒鳴りつけた。
そなたら一体何をいたしておったのかと。
いつも私の手の中にあった宝石のような姫。いつも私だけを慕い、待っていてくれた姫。私だけを見ているように、私自ら教え込み仕込んだ娘。
その姫が姿を隠したという。
私の脳裏に昨夜来の光景が蘇る。

姫に与えた指輪を、私はミラを黙らせるためだけに取り上げてしまった。
姫に大切にいたせと命じ、姫もまた嬉しそうに填めていた指輪を。
姫は私のやり方に初めて感情をむき出しにして怒った。私を罵り、初めて私の顔色を窺いながら喋る人形であることを止めてみせた。
いきいきとした感情の迸り、輝く瞳に燃える強く激しい意志の煌めき。優しくたおやかな如何にも男好みの飾りモノのような女には決してない強い個性。

・・・・私はそんな姫を初めて見た。そして何よりも美しく愛しいと思った。
だが私は身勝手だ。姫が私を大嫌いだと罵ったことで、完全に理性を捨てた。
愛しい姫に謝罪し、事の次第を言い聞かせるより前に、彼女を荒々しく扱った。生きている姫を、再び私の人形に戻そうとした私の醜悪さ。
・・・・私は酔っていた。しかし本当にそれだけであそこまで醜く振る舞えるのだろうか?

警備隊長は私に切り取られた長い金髪をもたらした。そして内密にミラのことも告げてきた。
激しい怒り。ミラに対する。世間智の長けた警備隊長の目の奥に宿った微妙な光に対する。そして・・・そして今回の騒ぎを招いた己自身に対する。
私は姫を捜せと命じた。私もまた底冷えする冬の夜の中に出ていった。

私は初めて感じた。私が愛し求めているのは人形の姫ではなく、生身の、私を罵って大嫌いだと叫んだ娘なのだと。

12 ルカ
姫君がおわしたのは王子の西宮殿の奥庭だった。常緑の木々が濃い影を落とす、奥庭の特に人気のない場所。夏にはその涼しい木陰を求めて人々が集うが、冬の今となっては全く忘れられた寒々しい場所。
ほのかな、しかし冴えた月明かりが探し求める小さな姿を照らし出していた。真夜中もだいぶ過ぎた時刻であった。

小さな姫君は思い詰めた顔をして、小さな泉をのぞき込んでおられた。背を丸めしゃがみ込んだ姿勢で一体どれほどの時間を過ごされたのやら。
―ありがたい、姫君はご無事だ―
私は強い緊張が一気に解けるのを感じながら、姫君のお側に行き、お声をかけようとした。後宮の女とは感情の赴くままに何でもしてのける不貞不貞しい強さがある。ミラ以外の女が、尻馬に乗って姫君を害するという最悪のことだって十分考えられたのだ。

だが。
私が近づいても微動だになさらぬ姫君のご様子は狂気じみた鬼気迫るものを感じさせ、この私をして側近くに近づき得なかったのだ。王子の影として、今一人の王子として、主君のご意志を実行することに慣れたこの私が!

無惨に切り刻まれた金髪に縁取られたお顔は、僅かな光の中でもそれと分かるほど白かった。ただ御目だけが青白い、凄みのある光を宿している。引き結ばれた口元。思い詰めた表情。握りしめたお手。固く緊張した背中の線。
ミラは姫君に何をしたのだろう?何を言ったのだろう?

―姫君、ご無事でございましたか。王子が・・・ご心配でございます。さぁ王子の御許にお連れいたしましょう―
私はやっと声をかけた。その途端、姫君を捕らえていた沈黙の呪縛は溶けたらしい。
姫君の御目から涙が一筋こぼれ・・・姫君は首を横に振られたのだった。

13 キャロル
―私は王子の許には行きたくないのです。あの人の許にだけは行きたくないのです。私はあの人の人形ではありません。ルカ、私はここにいたくありません。私は生きたいのです。城壁の外に出る道を教えて下さい―

毅然とした硬質な声。私の声? そう間違いなく私の声。
ずっとずっと言いたかった言葉。ずっとずっと解き放って楽になりたかった鬱屈した想い。
私は人形じゃない。でも、ここにいる限り人形の呪縛は解けない。私は呪縛をうち砕かねばならない。私は・・・私に戻らなくてはいけない。

契約の指輪は失われた。
王子の許に私を縛り付けていた黄金の鎖は断ち切られた。
私は私の意志と力を取り戻した。

口癖のように私を美しいと言ってくれた王子。私の髪を撫でた王子。
今の私は醜い。髪はざんばら、凍えた肌は蒼白、半ば狂っているのかもしれない。王子が愛した私はいない。男の子のように短い髪。

ルカが困ったように帰りましょう、と繰り返す。私は首を横に振る。
こんなになっても・・・私は王子を愛している。私があの人を愛したように、いつかあの人も私を愛してくれると思っている。
いつか言ってくれると思っている。
―さぁ、人形の姫よ、生きよ。そなたは我が側で人として、妻として生きよと。

愛している。愚かに見果てぬ望みを抱いて。私はあの人を。
でも、だからこそあの人を断ち切らねばならない。私はルカに言う。
―私は王子の許には参りません―

14 兵士
あんな綺麗な人は初めてでしたよ。誰ってイズミル王子様のお妃様ですよ。
お馴染みのっていえば言葉が悪いけど、よくあるらしい後宮の女同士のもめ事で金髪の姫君が行方知れずになったっていうんで、王宮は大騒ぎでした。
交代も済ませて、飯でも食って休もうと思っていた俺の所にも捜索命令が来ましてね。俺は新兵ですから大急ぎで命令に従いましたさ。

寒い夜でした。
知ってます?ヒッタイトの冬の寒さは命に関わるんですよ。
震えながら歩いていた俺は庭の隅でお目当ての姫君を見つけました。いえ、俺が最初に見つけたんじゃないですよ。王子様の信厚いルカ様が先にお見つけになったんです。
しかし雰囲気が普通じゃなかったですねぇ。何てんですか、恋人同士の別れ話の真っ最中ってかんじで。不謹慎だけどホントにそう見えたんですよ。
勿論、そんなことはありえないんですけどね。たとえて言えばってこと。

俺が固まってるのにルカ様はじき気付かれて、俺を手招きしました。
俺は恐る恐る近づきました。
―姫君はひどくお疲れのようだ。宮殿にお運び申し上げる故、手伝え―
姫君はルカ様の声を聞いてびくっと震えられました。でもその唇から何か声が出るより前に、ルカ様は姫君に・・・そのう・・・当て身を喰らわされたんですよ。姫君は他愛なく気を失ってしまわれました。
俺は呆然としてしまいました。だって当然でしょ?王子妃様を捕虜か何かのように扱ったりして、ね。

でも結局、俺は何も言えませんでした。ルカ様の視線はつまるところ絶対的な箝口令に他なりませんでしたから。
思うに・・・姫君は何か駄々を捏ねられたんじゃないですかね。だから言うことを聞かせるためにとりあえず気絶させたっていうか・・・・。
俺は姫君の作り物めいた綺麗なお顔を盗み見しながら王宮に戻っていったんです。

15 侍医
姫君がお戻りになったのはもう夜明けのほうが近いような時間でございました。
一目、ご様子を拝見して私は思わず目をそむけたいような気持ちになりました。じゃきじゃきに切り刻まれた髪の毛、蒼白の顔、光の失せた瞳。人形のような力の入らぬ身体。何と酷いことでございましょう。心を、誇りを踏みにじられた人間の有様でした。私は思いました。
・・・・・この方のお心は壊れかけている、と。

ムーラ様からだいたいの事情は伺っておりました。王子が大切に傅いてこられた方がどんなに辛い目にお遭いになられたのかは。
あの王子贔屓の、王子の御為ならば非も是と言い切る強いムーラ様が、王子のなさりようを控えめな言葉遣いながら非難するのにも驚かされましたな。
―姫君はそのお心に深い深い傷を負われたのでございます。今は姫君のお心とお身体を休らわせて差し上げて下さいませ。王子にも・・・姫君には何よりもご休息が必要な旨、お伝え下さいませ。今は姫君はお一人でおられるのがよろしいでしょう。

王子が荒々しく求められた跡も鮮やかなお身体にお薬を塗り、泣きむせぶ力もないほどに憔悴し、疲れ果てられたお身を眠らせる鎮静剤を差し上げ、私は退出いたしました。
王子には診察の結果をお伝えし、今はお一人にして差し上げるよう進言いたしましたが・・・。
私はあんなに恐ろしい思いをしたことはございませんでした。
いつも冷静で、静かな水面のような雰囲気を漂わせた世継ぎの君は、怒りに声を荒げられ私を責められました。
何故、夫たる我が妃を見舞うことが叶わぬのか、と。
私はただただ平伏して、王子の激情が鎮まるのを待つのみでした。王子はじきに落ち着かれました。姫君がご自身を遠ざけられる理由は誰よりもよくご存じでございましたろうから。

私は御前を下がりました。私は幼少の頃から医学一筋の不調法者ではございますが・・・金髪の姫君のお心を思うとただただお気の毒でございました。
狂うにはあまりに怜悧で、王子のご寵愛を得ることに汲々とするにはあまりに賢い、あの世慣れぬ姫君。

16 ヒッタイト王妃
イズミルの愛した姫が、イシュタルの神殿に籠もって、もう三月ほどになりましょうか?ハットウシャの都にもじき春が巡ってくる。

正直言って、かの姫がこれほどまで長く神殿暮らしを続けられるとは思ってもみませんでしたよ。
そうでしょう? 大切な存在を失って俗世に倦んだ女達が祈りを捧げる場所。国王様はじめ身分ある男性の寵を失って絶望した女達が身を隠す場所。
身にまつわる俗世のしがらみ、愛憎の蔓草、そんなものに別れを告げひたすら神に祈る場所。
女であることの哀しさを忘れるために。女であることの罪深さを忘れるために。それは私も含めた女達の悲しみと安らぎの砦。聖なる世捨て人達の郷。

そこでの暮らしは質素なもの。粗末と言い換えてもいいでしょう。贅沢に慣れた女も貧しさの中で慎ましく生きてきた女も、皆、等しく不便不自由と
紙一重の質素に慣れるのです。それすらも魂の安らぎを得られるのであれば何の痛痒も感じぬのでしょうけれど。

それにしても。かの姫は若い身でありながらよくその境遇に馴染めたものだこと。王子が大切に傅き、贅沢に養い慈しんだ子供のようなかの姫が。
あの花のような姫はひとたび外の風に晒されればたちどころに枯れてしまうと思っていたけれど存外、強い心身の持ち主であったと見えまする。
知らせによれば姫は毎日陰ひなた無く働き、落ち着いた暮らしぶりであるとか。
髪を短くして、やつれた顔には不似合いな強い光を宿した目をして、私に神殿行きの許しを請いに来たときの姫は本当に美しく見えました。
あれに比べれば半ば狂って宮殿を下がっていったミラは何と俗な女でありましたことか。
あれに比べれば自分の無体を棚に上げ、神殿に籠もった妃―ええ、私はこの言葉を使います―への恋に悶える息子の何と不甲斐ないこと!

それにしても、もう三月。季節も変わる。季節が変われば若い娘の心も変わりましょう。
私は母として、あの金色の髪の娘を迎えに行こうと思うのです。

17 神殿に隠棲する女
金髪の娘さんは本当にくるくるとよく動くこと。

冬の夕暮れに扉の前にやって来た時はひどく疲れて老婆のようにも見えていたけれど。髪の毛は男の子みたいに短いし、やつれて目の下には黒いクマ。
―ああ、またお仲間が来たのね―
私は思いましたよ。
―あれは未亡人じゃないわね。後宮の女でしょう。失寵の憂き目を見て、自分の不運と哀れさに涙するしかない類の女かしらね―
ふふ。私もかつては王の寵愛をいただいたことがあるのですもの。ここに来る女についてはかなり正確に見抜けるつもりでいましたよ。
新参者にはね、同情したふりをしてやり、優しく話を聞いてやり、涙と愚痴が枯れ果てた頃を見計らって静かな神殿暮らしの良さを説いてやるのがいいのですよ。
結局、運命を受け入れるのが一番ですからね。

ところが娘さんは並のご身分じゃなかったんですよ。何でもイズミル王子様の思い人。どういうわけか、その王子様を振ってここに自分から、いいですか、止める王子様を振りきって神殿に来たと言うんですよ!自分から!
ええ、言ってみれば「捨てられた」のは金髪の娘さんではなく王子様!

変わった娘さんだと思いました。
落ち着いてくると娘さんは本当に可愛らしい性質でしたよ。結局、人間関係に疲れてたってとこでしょうかねぇ。知っている人もいないこの神殿がかえっていい避難場所になったみたいで本当に楽しそうに働くんですよ。

でも、そんな娘さんを王子様だって放っておけないんでしょう。毎日、お使者がやって来るんですから。もちろん、「姫君」と呼ばれる娘さんは会いはしません。王子自らおいでになったときもですよ!
どうなるんだろう?って心を封印して人形のように無感動な毎日を送っていた神殿の世捨て女達は久しぶりに姦しいうわさ話に興じました。

季節が変わって春になったある日、とうとう王妃様がおいでになりました。
王妃様と娘さんは長いこと話していました。本当に長いこと。
王妃様がお帰りになったあと、娘さんは黙って神殿の回廊を歩き回っていました。何周も何周も・・・。

18
 イズミル
無慈悲に閉じられた扉の前に私はしばし立ちつくした。端から見ればかなり滑稽だろう、今の私は。

母上が会った姫はすっかり落ち着き、大人びた様子であったという。世を捨て神に生涯を捧げる誓いもまだで、神殿の下働きのような地位にいるらしい。
私が贅沢に傅き守った姫が粗末で不自由な暮らしに甘んじているという話は私に手ひどい衝撃を与えた。

―私の側にいるより世間に忘れられた女としての暮らすほうが楽しいのか?―
―そなたを傷つけ辱めたのは私だ。私の心驕りがそなたを滅茶苦茶にした。でも私はそなたが心底愛しい。そなたを気まぐれに抱く人形のように扱ってしまった私はそこまで厭わしいか?―
自問自答。
答えは分かっている。私はかの姫をあの忌まわしい晩に乱暴に抱き、汚した。でもあの姫は気まぐれに抱き弄ばれるだけの人形ではなかった。
私だってそれを知っていた。知っていたのだ。初めて目を見交わした瞬間から!

春のある午後、私は神殿に赴いた。姫は会ってくれなかった。
私は扉の前に立ちつくしている。
―あの者は王子様には会わないと申しております。お引き取りを―
神殿の女達を束ねる女は無表情にそう言った。

母上は愚かな私にこう申された。
―姫をまことに愛するのならばそなたの心の誠を見せよ。かの姫は心閉ざしてはおりますが愚かに頑なな女ではありませぬ。
そなたは償わねばなりませぬ。私もまたそなたが償いを為し、かの姫を連れ戻すのが未来の国首としてのそなたの務めと思っております―
母上が他の女を褒められるのは滅多にないこと。

私は姫を求める。端から見ればさぞ滑稽だろう。だが私は恋の奴と成り下がってかの姫を求めている。あの姫の中に棲む魔性もまた・・・私を求めているのが分かるから。

19 キャロル
この頃、窓の外を眺めやることが多くなった。高い場所に設えられた幅の狭い明かり取り窓の向こうの青い空。春めいた日差しは白に近いほど薄かった空の色を徐々に明るく濃いものに染め上げていく。飛び交う雲雀。暖かな風。
春の光の下で、私を待って立っていてくれるあの人。

―姫、そなたはいつ、そなたの為すべきことを為すために戻ってきますか?―
王妃様がおっしゃってからもう十日。
―私の為すべきこと?―
問い返す私に、私を「娘よ」と呼びかけられた誇り高い大国の王妃は告げた。
―そなたは国を統べる者です。私と同類の女。人形のように愚かな男に翻弄され心閉ざして生きるにはあまりに強く奔放。
人形のふりをするのはやめよ。死んだふりをするのはやめよ。生きよ。生きて本来の居場所に戻られよ。
・・・・・・よろしいな、姫。いえ、王子妃殿?―

私の居場所。
ママや兄さんのいる現代にはもう帰れない。アイシスに這い蹲って元いた場所に帰してと嘆願する?冗談ではないわ。
では、それはどこ?
私は知っている。敢えて考えないようにしていたけれど。心は叫んでいる。
・・・・・・・・・私の居場所はイズミル王子のいる場所。

イズミル王子。
私を弄び、辱めた憎い人。私を人形のように抱き、気まぐれに全てを与え、全てを奪ってみせた人。あの指輪をミラに渡したときに見せたあの人の冷たさ、身勝手さ。
イズミル王子。
頼る人とていないこの世界で私を受け止め、大切にしてくれた人。私を抱き、何も心配することはないんだよと心と身体に信じさせてくれた人。不器用で傲慢で・・・でも私を愛してくれた人。
いいえ。相手が私をどう思っているかなんて関係ないとまで思い詰め、私が心から愛した最初で最後の人。

―もし、あなた。イズミル王子様が今日もおいでですよ。ほら神殿の扉の外にあのように―
神殿に隠れ棲む女性が教えにきてくれた。私は・・・私の為すべきことは・・・。

私は立ち上がった。閉ざされた扉を開けて、生きた私として初めてあの人に会うために。

20 イズミル
空の色はずいぶんと濃くなった。空気が暖かくなってきているのが分かる。
春なのだ。

―王子、そろそろ・・・―
ルカが遠慮がちに声をかけてきた。じき執務に戻らねばならない時間だ。
私は無言で頷き、しかし身じろぎもせず再び神殿の扉を見やった。この頑なで愛想のない扉の向こうに私が初めて愛し、今も、そしてこれからも愛するであろう女がいる。
世間のことなど何も知らぬ子供のように無邪気で従順で頑固で愛らしく。
男女のことなど知ろうともせぬ年頃の乙女のように潔癖で恥ずかしがりで男嫌いで。
男慣れした女のように強かで、自分でも知らぬうちに男を狂わせる魔性を発散させる罪深い女が。

命宿らぬがゆえに美しく神秘的な人形のような貌をして。愛されることは知っていても愛することは知らぬ人形のようにも見える貌。
いいや、違う。
私が待っている女は生きている。強い意志と激しい気性。穏やかな優しさ、思いやり。限られた相手にしか見せぬ真の心。普通のつまらぬ女ではない。あれは、あれこそは並ではない強い女。強さと慈悲深さと優美を併せ持った女。
―私はあなたの人形ではありません。あなたなんて大嫌い!―
私の頬を撲った女・・・ナイルの姫・・・キャロル・・・私の妻・・・。
私は待っている。

不意に扉が開かれ、外界と神聖な神殿の空気が混じり合う。二つの空気の混じり合うその場所に立つ女。私の待っていたそなた。
―戻ってきました。あなたが請うてくださるなら私はあなたの許に参ります―
間違いなく生きて、私を求めていてくれる女!

私は手を差し伸べた。私はとうにそなたの聖性と魔性に絡め取られている。

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