『 人形姫 』

21 求愛
イズミル王子は目の前で慎ましく目を伏せる娘に語りかけた。
いかにもたおやかに儚げに見えるその姿。でも彼は知っていた。伏せられた目の奥に宿る熾火のような強く輝かしい意志と感情を。誠実でしなやかに強い心を。巧まずして人の心を妖しく絡め取る魔性を。
一目見て激しい欲望を感じ、相手が抗えぬ立場であると踏んで抱いた相手に、今や彼は完全に絡め取られてしまっていた。
「姫、私ヒッタイトのイズミルは御身に請う。どうか私の妻として生涯を共に歩んで欲しいと。かけがえのない伴侶として、国を共に治める者として、私を愛して欲しいと」
誇り高い大国の王子は静かに小柄な姫の膝下に跪いた。

キャロルの青い瞳がまっすぐにイズミル王子に向けられた。それは対等の者を見つめる強い光を帯びていた。はしばみ色の瞳もまた白熱する激しい光を帯びてそれに応える。
―この人は変わったわ。気まぐれに抱ける人形としてではなく、間違いなく生きている私全部を・・・知ったうえで求めていてくれる―
―私を・・・。私を認めて・・・私の返事を待っていてくれている?! 強引で傲慢だったこの人が!―
キャロルは震える手をそっと秀麗な顔に伸ばした。恐ろしいほどの幸福感と、畏れに似た感情が渦巻いた。それと同時に初めて味わう激しい征服感!
「姫・・・許しを。今までそなたに為したことに対して。そなたを妻とすることに対して。そなたを求めることに対して。」
キャロルは初めて自分からイズミルの唇に接吻を贈った。
「あなたが心から私を求めてくださるのなら、私もあなたを求めます」

22 初子の王子(最終回)
父上が母上を呼んでおられる。政務の相談事か、それとも他愛ない雑談のためか。母上は嬉しそうに微笑んで父上の声のほうに顔を向けられた。私の勉強など、もうどうでもいいのだ。
「母上、父上が呼んでおられますよ。早くおいでにならないと」
「そうですね、イルダーニ。・・・行かなくては。お勉強は続けるんですよ。後で見に来ます」
私が言うと母上は頬を赤らめて立ち上がった。若い侍女たちが何とも言えないくすぐったそうな顔をして笑いさざめいた。ムーラが睨んで見せたって効果はない。

私だってちょっと気恥ずかしい。本当に・・・母上はもう3人も御子がいて、父上と結婚なさって12年ほどにもなる。それなのに本当に・・・ちょっとしたことでくすくす笑いをして、顔を赤くする若い侍女みたいにみえることがある。父上のことになるとすぐあれだ。
父上も母上にはこの上なく弱く甘い。まじめな相談事も母上相手になさるけれど、たまらなく気恥ずかしいことをおっしゃったり、なさったりもすることを私は知っている。
昔は世の夫婦というのは皆こんなものだと思っていた。でも違うのだ。お祖父様は愛妾やなんかをたくさんお持ちだ。綺麗な女達は私や弟妹達をちやほやする。でも父上は母上しかいない。
これは珍しいことなんだそうだ。私はもう大きいからそういうことも分かってきている。でもまだ小さいディヤルやミタムンはどう思っているか。

父上と母上がこちらに来られる。ぴったり身を寄せて。弟妹達も駆け寄っていく。私も行こう!恥ずかしくて馬鹿みたいと思いながらも私も父上と母上が好きだ。
「おにーさまっ!早くぅ!」
ミタムンが呼んでいる。
私は西日が目映い庭に走り出ていった。父上と母上は笑いながら私とディヤルとミタムンを見ておられる。

私は・・・気恥ずかしいけれど今の家族はなかなかいいものだと思っている。

   終

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