『 後宮物語 』

11
ハットウシャから出迎えの使者が遣わされて、ようやくイズミル王子の一行は身分に相応しい旅をすることが出来るようになった。ラバルナ老は出立する教え子と、不思議な金髪の少女に祝福を与えて送り出してくれた。
王子を護衛する兵士達の他に、細々とした身の回りの世話をする侍女たちも王子を迎えに来ていた。侍女たちの頭は細身の女性で名をムーラと言った。

「さぁ、姫君。こちらのご装束をお召し遊ばせ。お済みになりましたら王子がお召しでございます」
いつの間にか姫君、と呼ばれるようになったキャロルにてきぱきと言いつけながらムーラは油断なく少女を値踏みしていた。
(なるほど、いつものお相手とはお扱いが違いまする。私の王子をお助け下された神の娘と聞いておりますが、さて本当のところどの程度のご器量の御方か)
彼女は王子の後宮の女達を監視し管理する役割も持っていた。
王子が言いつけて持ってこさせた装束は、上流階級の未婚の娘が着るようなものだった。幼げなその姿は、いつも王子の周りにいる豊満で艶やかな女達とは全く違ったものだった。
(漏れ聞けばこの御方は16くらいだとか。それなのに殊更幼げな格好をおさせになるとは王子もどういうおつもりか?)

「おお、姫。支度はできたか」
王子は自分が言いつけて持ってこさせたヒッタイト風の衣装がキャロルに映える様子に深い満足を覚えながら声をかけた。彼は宮廷の主席医師の手当を受けているところだった。厳めしい医師はキャロルの姿を認めると恭しく言った。
「姫君のご処置は全く的確でございました。傷は膿んだりすることもなく、また麻痺や引きつりといった後遺症もござりませぬ。信じられぬことでございますが、これも全て姫君が差し上げられたという不思議な薬のせいでございましょう」
褒められて控えめに会釈するキャロルに王子は言った。
「とはいえ、医師は尚しばらくの看護が必要だと申しておる。姫、ハットウシャまで同道し、医師と共に私の看護をするように」

12
ギザへ行くはずが、反対にハットウシャまで行くことになったキャロルだったが、抗うことなど許されなかった。
サソリ毒がまだ残っているのか、それとも体力が全体的に低下しているのに冷涼な大気が堪えるのか、王子は夕方になると微熱を出した。
医師が用意した薬を王子に与えたり、ムーラに手伝ってもらって半病人の体を拭いたり包帯や衣装を換えるのは当然のようにキャロルの役目とされた。
キャロルは気づきもしなかったが、いつの間にか人々はキャロルを「王子が特別に目をかけておられる女性」と見なし、未来を読むという優しい異国の神の娘を王子の側近くに置いておこうとするのだった。

(私は姫の優しさを利用している・・・)
王子は寝台の側で目を伏せて包帯巻きに熱中するキャロルを眺めていた。
その優しさ故に―無論、王子も含めた周囲の人々の有言無言の圧力もあろうが―彼の看護を骨惜しみすることなくしてくれる少女。
話し相手をさせてみれば、ずいぶんと知識の深い賢い相手だと分かる。
才気煥発、深慮、知識といったものを重んじる王子は、キャロルの知識の広さに舌を巻いた。キャロルはそれを鼻にかけるどころか、誰でも知っていることなのだと困ったような顔をする。
ナイルの姫、と呼ばれる少女は身分高い姫でありながら、高慢ではなくむしろ誰に対しても穏やかで丁寧だ。といって卑屈なのでもない。
(このまま、姫を側に置いておけたならどのような望みも叶え、きっと幸せにしてやるのだが。
・・・・・・いや。この娘の幸せは故郷に帰ること。幸せにしてやるために手放さねばならぬとは皮肉な事よ)

(王子の側にいると兄さんの側に居るみたい)
キャロルは睫越しにヒッタイト王子の手を盗み見た。大きな手。武器を扱い慣れた無骨な固い手。だが驚くほど優しく暖かい手。その手に、その手の持ち主に彼女は幾度慰められ、力づけられたか。
(きっとお別れを言うときは名残惜しく思うんでしょうね。古代での私の兄さんで一番信じられる友達なんですもの)

13
(姫は何をしているのか・・・)
ちょっと外の空気を吸ってきますと出ていったキャロルはなかなか戻ってこない。ここは精鋭の兵士らに守られた野営地の中、ましてや明日あさってにはハットウシャ入城という地なので安全に何ら問題はない。
キャロルにだって侍女を付き添わせた。それなのに王子は側にキャロルがいないことに苛立ち、呼び戻したいと思っている。
「姫を呼び戻して参る。夕暮れの風は冷たい。障りになってはならぬ。今朝も貧血を起こしたくせに・・・供の侍女は何をしておるか」
王子は驚き、押しとどめるムーラを尻目にマントを羽織り、キャロルを探しに黄昏の野営地の中に出ていった。

キャロルの供を命じた侍女が途方に暮れたように立ちつくしている。
何をしている、姫はどこかと叱責しようとした王子は、侍女の視線の先でしゃがみ込んで涙を流しているキャロルに気付き慌てて駆け寄った。
「姫!どうしたのだ?気分が悪いのか?何があったのだ?すっかり冷え切って居るではないか・・・」
王子の声に振り返ったキャロルは真っ赤な目をしてだた一言呟いた。
「お願い・・・一人にして下さい。もう放って置いて」

「姫君、そのようなこと・・・。お願いでございます、どうかお戻り遊ばして」
途方に暮れた侍女を先に下がらせると、王子はそっとキャロルを立ち上がらせ、泥を払ってやった。そのまま泣きじゃくるキャロルが落ち着くまでマントで包み込んでやる。
やがて・・・・。
「私・・・帰りたい。皆のところに帰りたい。皆・・・待っていてくれる人が居るのに、私は一人」
キャロルはこれまで行きすぎた町や村で人々が、家族が楽しげに語り合い、連れだって歩くのにたまらない望郷の念を覚えたらしかった。
今になって、叶うことのない望みを口にして泣く少女の我が儘が王子の胸を打った。
(いくら・・・我が側で大切に扱おうとも、我が側で無邪気にうち解けてこようとも、姫の心はここにはないのか。ただ今まで必死に寂しさを堪え張りつめていただけなのか・・・)
久しく望郷の念は口にせず、王子の看護に心砕いてくれた少女の気遣いが、彼女を愛しく思う若者の胸の内にほのかな希望を育てていた。
この娘もまた私を慕って居てくれているのではないだろうか?ずっと側にいてくれるのではないか、と。
「泣くな、姫。泣くでない・・・。そなたのことをきっと故郷に帰してやる。
この私が約束する」

14
「そなたの献身に対してきっと報おうぞ。私がいつの日かそなたを母の許に帰してやる。その日までそなたは私の大切な妹だ。
良いな、姫。もう泣くな」
王子はキャロルをしっかりと抱きしめ、落ち着くまで背中を優しく撫でてやった。いつの日かミタムン王女にしてやったように。
(そなたに泣かれてはどうしてよいか分からぬ。そなたが泣きやみ、私に微笑んで見せてくれるなら何でもしてやろう。
何でも約束してやろう。
ああ、どうしてかくも心乱されるのか・・・)
キャロル愛しさのあまり、心にもない「約束」を口にしてしまう王子。
それはただ初めて自分が愛しいと思った娘の心を惹きつけるための方便にすぎなかったのだが・・・。
王子の言葉に顔を上げたキャロルは、その言葉に縋り付きやっと微笑んだ。
「本当?本当に約束してくれるの?ありがとう!」
キャロルは王子の望み通り、微笑んだ。晴れやかに愛らしいその笑みは残酷な刃となって王子の心に突き刺さった。

イズミル王子の首都入城は華やかに行われた。呼びかける人々の声に、無事を喜ぶ皆の声に今更ながらキャロルはこの青年の人望に驚かされた。
(何て堂々としているのかしら?整った賢そうな顔立ち、大きな体。高ぶらない、でも犯しがたい威厳。・・・私が一緒にいた人は生まれながらの王者だったのね)
長い旅路を共にして、弱った体を看護し、様々に語り合い親しみを覚えていた相手の立場に思い至り、キャロルはふと孤独を覚えた。

王宮の大広間で、イズミル王子は父母である国王・王妃、それに臣下百官に帰国の報告をしてキャロルを紹介した。
彼がエジプトの神の娘を伴って帰ることはすでに都合の良く膨らませられた恋物語―王子は異国の神の娘を見初め、娘も王子に心捧げ故郷を捨てた―
共々、周知のことだった。
それゆえ、王子がこの金髪の娘を客人として遇すると言ったことに皆、戸惑いと不審を覚えたのである。

15
キャロルが王子に伴われて、世継ぎのための宮殿に入ったのはもう夜も更けてからのことだった。
帰国祝賀の宴で国王夫妻と様々に言葉を交わし、人々の好奇心剥き出しの値踏みするような視線に疲れ果てた彼女は、肩を王子に支えられるようにして歩いていた。
普段ならそんなことは嫌がるキャロルだったが、今は王子に支えられ、労られるようにして薄暗い廊下を歩くのが心地よかった。
「姫、疲れたのだな。可哀想に、長旅に気詰まりな宴では心休まる間もなかったであろう」
大過なく宴をやり過ごし、あまつさえ賞賛の声すら得たお気に入りの娘を王子は褒めてやりたかった。この人にしては珍しいことである。
「大丈夫よ。心配してくれてありがとう。王子こそ体は大丈夫なの?
・・・・でも正直、あんなに沢山の人に見られるのはちょっと辛いわ。旅の間に比べればあんなにたくさん人が居て華やかなんですものね」
無理に微笑んでキャロルは言った。
これまで無意識にせよ意識的にせよ王子に頼り、また王子に頼られしていた兄妹か友人同士の間柄から急に王子の「公人」としての立場を見せつけられたことに戸惑いを感じながら。
王子は自分を心配してくれるキャロルの肩を黙って引き寄せた。

16
薄暗い廊下は不意に途切れ、灯火で明るくなった王子の宮殿の入り口にはミラを筆頭に彼の後宮の女達が居並んで主を出迎えていた。
「お帰りなさいませ、王子。無事のお戻りお喜び申し上げます。お怪我をなさったと聞いたときは胸やぶれる心地がいたしました」
ミラの言葉が響き、それを待っていたように他の女達がてんでに声を上げ、入り口は華やかな賑わいに包まれた。
だが、どの女性も科(しな)を作って囀りながらも、油断なく刺すような視線をキャロルに注いでいる。王子が異国より伴ってきた神の娘。
どの女性も美しく化粧し、艶やかに装い、人目でたった一人の主を待つ女性達なのだと知れる。キャロルは肩を抱かれていることに居心地の悪さを覚え、そっと離れようとした。
だが王子はそれを疲れて眠たがってぐずる子供の我が儘とでも取ったのだろうか?
素早く身をかがめ、キャロルの耳朶に囁いた。もう少しで休ませてやる、だからおとなしく私の側に居よ、と。キャロルは頬を染めた。皆の前で窘められたことや、耳にかかる王子の吐息が恥ずかしくて。
しかし居並ぶ女達はそうは取らなかった。何と彼女らの王子は人目も憚らず新しい金髪の女と戯れている!何と憎らしいナイルの姫!まだほんの子供ではないか!
「・・・・王子、そちらの女人が噂に聞きましたるナイルの姫、と呼ばれる方ですの?」
ミラが王子の片方の手を取りながら聞いた。刺すような視線。琥珀色の瞳の奥に嫉妬の炎が揺らめき、神経質そうな顔に癇性の色が走った。
キャロルは居並ぶ女達の自分を侮り、貶めるような視線にぞくりとしたものを感じた。だがそれに臆するには彼女も負けん気が強すぎた。キャロルは今度こそ王子の手から離れると女達の顔をぐるりと見回し優雅に会釈した。

17
「王子・・・・お戻りになっておしまいなのですか?」
寝床の中から甘い声で拗ねたようにミラは言った。
王子がめでたく帰国してきた夜。王子の後宮の女達の頂点に立つミラは当然のように彼女が愛してやまない男性を自室に請い招いた。
「・・・起きておったのか?」
王子は振り向きもしなかった。いつも行為の後に感じる白けた気怠い気分が今宵は殊更強く感じられた。
「長旅の疲れがまだ取れぬ。一人で休みたい」
腰布を纏い、寛衣を逞しい体に羽織った男をミラは寝床の中から黙って見送った。王子は女の部屋で夜を明かすような男ではなかった。ひとときが終われば出ていき、女が入ることは許されぬ私室で書見をしたり、酒を嗜んだり。

(王子はいつもそう・・・。今宵だっていつもと同じ夜のはず。でも何故に心が波立つ?)
ミラはまだ火照りの消えぬ身体を物憂く起こした。王子を彼女は愛している。彼をかけがえのない相手として大切に独占したいという欲望は誰よりも強い。
王子はミラを公認の側室の座に据え、後宮の頂点に立つことを許してくれている。ミラは自分を重んじてくれる王子の心を疑ったことなどなかった。
(ナイルの姫とかいう女。王子はきっとあの女の側に行かれたのだ。変わった毛色の異国の小娘・・・!)
ミラはぎりぎりと歯がみした。冷たく気高い側室の仮面を被ったミラは初めて他の女達のように男の心を疑い、ライバルたる女の面影に嫉妬と怒りの涙を注いだのである。

「あ・・・王子、お戻りなされませ」
私室に戻った王子を甲斐甲斐しく迎え入れたのはムーラであった。
「思ったより遅くなったかな。姫はどうした?待っているように言い聞かせたのだが」
「はい・・・。王子をお待ち遊ばしておいででございましたが・・・あの、お疲れのご様子にて・・・」
ムーラの視線の先には長椅子に凭れて寝入る少女の姿があった。

18
「ふふ・・・。幼いことだ。待っておれと命じたにこのように寝入るとは何と大胆な娘か」
ムーラは驚いて王子の顔を盗み見た。その言葉に反して王子の顔には柔らかな笑みが広がっている。

後宮の女達との「義理」を果たすために部屋を出ていく王子はキャロルに命じた。私が戻ってくるまでムーラの言うことを良く聞いて待っておれ、と。
キャロルはすでに兄同然に思っている王子の言葉に素直に頷いた。
王子の笑みは暖かく、その気配が染みついた私室は居心地が良かった。先ほどの後宮の女達の視線など、とりあえずは気にならなくなるほどに。
そしてキャロルはムーラ達の手で入浴させられ、衣装を変えられ、薄く化粧すら施されて王子の帰りを待っていたと言うわけである。侍女たちは今晩、王子がキャロルと寝所を共にするのだろうと察していた。
だが王子を兄のように、年の離れた友人のように思い、いつかはギザに送っていってもらえると縋るように信じているキャロルはただ手持ちぶさたに王子の帰りを待っているだけだった。
慣れぬことばかり続いた一日の疲れは重く、侍女たちがはっと気付いたときにはもうキャロルはぐっすりと眠り込んでいたというわけだった。

「申しわけございませぬ、王子。姫君は起きておられて、私どももお話相手など勤めさせていただいていたのですが・・・ほんの一瞬のうちに眠り込まれて。本当にこのようなことって初めてでございます・・・」
畏れ多くもヒッタイト王子の寵を受ける夜に先に眠り込んでしまった少女の「失態」にムーラはおろおろとするばかりだった。
「かまわぬと申しておろう。子供とはそのようなものだ・・・。ふふ、眠ると重くなるのだな」
王子は驚き呆れて口も利けないでいるムーラを尻目に、キャロルを軽々と抱え上げ垂れ幕の後ろの自分の寝台に連れていったのである。今まで女を呼び入れたことのない寝台に。キャロルの部屋は別に用意されていたというのに!
「ムーラ、今宵はもうよい。下がれ」
王子は垂れ幕の向こうからそう言った。

19
王子がそっとキャロルを寝台に降ろしても、彼女は身じろぎもせず深い吐息を漏らしただけだった。
(完全に寝入っている・・・か)
王子は少しがっかりした気分で肩肘で体を支え、幼い寝顔を見下ろした。
(このような寝顔を見るのは初めてだな)
王子が知っている女の寝顔はいつも行為の後の火照りと淫靡な疲労を宿していた。男を独占したがる女の匂いを強くさせながら、強かさと強欲さ、それと裏返しの不安を孕んだ脆さ。
眠っていながらもなお男に絡みつくように、底なしに愛を請うように・・・。
だが目の前の金髪の子供はただただ眠っていた。安心しきって安らかに優しい穏やかな顔つきで。
だが本当の子供でない証拠に、その寝顔にどこか男を誘うような、男を狂わせるような処女の無意識の媚態が透けて見える。そう見えるのはあるいは王子がそのような対象としてキャロルを見ているからなのか。
「姫・・・」
王子は囁き、そっと白い胸元に手を這わせた。大理石のように白い肌は確実に生きた暖かみを宿していて、不埒な手に吸い付くような甘い感触を与えた。
王子はなだらかな隆起を愉しみ、やがてその頂に触れた。
「う・・・・・ん・・・・・?」
その途端、キャロルが身じろぎしたので王子は悪戯を見つかった子供のように手を引っ込めた。だが聖なる膨らみを知った手はひどく火照っていた。
「・・・・許せよ、姫。そなたはまだ無垢な子供であったな。母君の膝下を恋しがるばかりの幼い子供だ」
王子は切ない微笑を漏らした。初めて自分から望んだ存在は、未だ無垢で幼く、その愛しさ故に触れて子供時代に別れを告げさせることが出来ないのだ。
王子はそっとキャロルの頬に接吻した。
するとキャロルがうっすらと目を開いた。
「だぁれ・・・・・・?」

20
見開かれた青い瞳は霧にけぶる水のように曖昧な光を宿していた。意識は半ば以上、眠りの世界にあるのだ。
「すまぬ。起こしたかな?」
王子はそっと小さな背中を撫でて、寝入らせてやろうとした。キャロルは母親に甘える子供のように王子の温かみに体を寄せてきた。
「姫・・・?! どうしたのだ、そのようにしたりして・・・」
「兄さん・・・・・・大好き・・・・・」
王子は狼狽え、喜んだがじきキャロルが寝ぼけているだけだということに気付いた。
「まこと・・・・困った子供だな」
王子はしばらくの間、薄く青い目を開けて覚醒と睡眠の狭間を漂うキャロルを見つめていた。
(ただ寝顔を見ているだけなのに、ただ寝ぼけて私を兄と呼び、身を寄せてきただけなのにこんなにも愛しく思えるとはなぁ。このまま抱いて私のものにも出来るのに・・・ただ今は見守っていたい。いや、ずっとずっと側に置いて成長させ、私を愛させ、子を生ませて・・・・)
王子はまじめな顔になると優しく耳元に囁いた。
「姫・・・私の姫。ギザになど帰るな。ずっと私の側に居よ。
ここにはそなたの好きな書物も絵図もたくさんある。私と旅をすれば色々なものを見せてやれる。私はそなたに多くのことを教えてやれるし、そなたは私の国に多くの恵みをもたらすだろう。
私の側に居てくれ。望みは何でも叶えてやろう。私を愛すると言ってくれ。他の女達のように。私もそなたに愛していると言うから・・・!」
柄にもなく熱烈な恋の告白を眠る少女にした青年は、頬を赤くして相手から離れた。旅の日々が王子の心を確実にキャロルに繋ぎ止めていた。
「う・・・ん・・・。は・・・・い・・・・」
寝返りをうったキャロルは王子を一瞬見上げ、うっすらと微笑むとまた寝入ってしまった・・・・・・

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