『 後宮物語 』


常夜灯が淡く照らし出す寝所で一組の男女が睦み合っている。

「イズミル王子様、もっともっと、ミラを可愛がって下さいませ。ああ、私もお供したい。何故、お許しいただけなかったのでしょう。エジプトはあまりに遠うございます」

イズミル王子は側室ミラの頬を撫でてやった。今のところただ一人の側室としてイズミルの後宮の寵姫達の頂点にあるミラは、イズミルをこの上なく慕っている。母の意向で彼女を迎えたイズミルは、女の愛情と依存が度し難く疎ましい。
眉目秀麗、文武両道の怜悧な若者と諸国に名高い大国ヒッタイトの王子は、多くの人から愛され、また慕われ、尊敬されていた。
しかし・・・・・。当の本人は愛することを知らぬ人間だった。誰かに、何かに心を傾けることは弱点にしかならぬと思い、そのような感情を軽侮して生きている・・・・それがイズミルであった。

「そのように恨みがましい顔をいたすな、ミラ。私は父上の命を受け同盟締結のためにエジプトへ参るのだ。我が妹ミタムンを無事、ファラオの後宮に入れるが我が務め。女など足手まどいだ」

「冷たいお言葉。私はいつも心配なのです。王子様にいくら笑われようとも。
誰か他の女人が王子様のお心を盗むのではないかって」

媚びを含み、そんなことはない、という男の甘い返答を期待した上目遣い。
イズミルは小さく吐息をつくと、うっとおしいお喋りを封じ込めるかのように行為を再開してやるのだった。
目を閉じて悦びに身を任せるミラの目にイズミルの冷たく醒めきった表情が映ることはなかった。

翌朝早く、ミタムン王女の輿を護るヒッタイト王国の使者達はイズミル王子を先頭にはるかエジプト目指して旅立ったのである。
イズミルが見送りの後宮の女達を振り返ることはなかった。


「アイシス、お願いがあるの。私をヒッタイト王子への贈り物の中に入れてちょうだい。何人かエジプト後宮から女性がヒッタイトへやられるでしょう?
その中に私を入れて欲しいの!」
異世界から迷い込んだ世間知らずの金髪の少女の言葉に、黒曜石の美女アイシスの顔が曇った。
「何を申すのです、キャロル。そなた、ヒッタイトへやられる女がどのような目的で行かされるのか、もとい贈られるか知らぬわけではないでしょう?
そなたがここに居たたまれぬ理由はよく知っています。私のためにそなたが故郷を離れざるをえなかったことも。
自棄になってはなりませぬ。ライアン達の許に帰れぬなら、せめて私が保護して何不自由ない生活を・・・」
キャロルはただ、黙って首を振るだけだった。
「あなたをこれ以上、苦しめるわけにはいかないの。それに・・・私、ギザに行ってみたいの。何か手だてがあるかもしれないわ!」

弟にして夫たるエジプトのファラオ メンフィスの病気平癒を祈るアイシスの祈りは20世紀からキャロルを呼び出した。
心優しいキャロルはアイシスに深く同情し、またアイシスも無邪気に彼女を慕い、心配してくれるキャロルに姉のような愛情を覚えるのだった。
キャロルの持っていた薬で命を救われたメンフィスはアイシスを娶り、そしてアイシスの保護下にある金髪の少女キャロルを愛するようになる。
王家に生まれた女性として夫の側室を認めようと苦悩するアイシス。あたりを憚らぬ強引な求愛をするメンフィス。
望みの殆どない帰郷の念に囚われているキャロルは、ファラオを恐れ、アイシスの苦悩に悩み、とうとう王宮から姿を隠す決意をした。
ただキザに行けば何か新しい道が開けるかも知れないと言う何の保証もない望みに縋って。


「さようなら、アイシス。最後にお別れを言えないのだけが気がかりだわ。
お姉さんのようであったあなたの幸せを・・・心から祈っているわ」
同盟締結の使者として訪れたヒッタイト王子への返礼の女性―彼の後宮に貢納される女奴隷―として、華やかに装われたキャロルはベールの陰からそっとエジプト王宮を見上げた。
輝く太陽が彼女の従う華麗な行列を眩しく照らしていた・・・。

「女、そのように初な思わせぶりなフリをしても無駄だぞ。私は貰い物の女を抱くほど不自由はしておらぬわ」
夜、キャロルが緊張して座り込んでいた天幕に入ってきた王子の第一声はこれだった。
大柄な体躯。知的な整った顔立ち。低い落ち着いた声音。全体に漂う傲慢さと近寄りがたさ。
どさりと座り込んだ王子に与えられたのは驚くべき返答だった。
「本当? なら有り難いわ! アイシスに無理を言って出して貰ったけれど、どうしていいか分からなかったの」
「?! そなた、何者だ?」
てっきり愚弄されたのだと思って女のベールをむしり取ってみれば、露わになる白い肌、青い瞳、こぼれ落ちる金色の髪。
「・・・・・ナイルの・・・・娘・・・・?何故に・・・?」
「あ・・・・。ら、乱暴しないで!それに私にはキャロルという名前があるわ」
刺すような王子の視線に負けまいと小さな身体を精一杯伸ばしてキャロルは答えた。そのまま、王子の氷の沈黙に押しつぶされまいとでもいうように彼女は自分の身の上と、何故このような仕儀になったかを簡単に説明した。
王子は、冷静沈着、どのような時も取り乱さず的確な行動を取る若者は、この時初めて言葉を失い、目の前の状況に対処できなかった。
「・・・だから、私をギザまで一緒に連れていって欲しいの。そうしたら後はご迷惑かけません。もちろん途中だって、あなたの邪魔をするようなことはないわ」
気がつけば目の前の金色の小鳥は、身の上話を終え、仰天するような「お願い」まで話し終え、こちらを凝視しているではないか。


イズミル王子の一行は風のように砂漠を渡る。
エジプトから貢納された女奴隷ということになっているキャロルは、王子の側近くで旅の日々を重ねた。

キャロルが全てを打ち明けた夜。イズミル王子は小鳥の囀りに何と返事をしたのかよく覚えていなかった。それくらいナイルの娘と綽名されていたキャロルの出現は衝撃的だった。
「・・・・ナイルの娘よ。いや、キャロルとやら。何故にそなた、女奴隷などに身をやつした? そなたの噂は聞いている。
途中まで連れて行けだと?そなたが消えたと知ったならファラオはどう出るか? 我らを恨み、未来を見通し叡知を持つそなたを取り戻そうとするのではないかな?」
「私は神の娘なんかじゃないわ。私はただ家族の許に帰りたいだけなの。
ねえ、イズミル王子! お願いよ。私を途中まで連れていって。私はあなたにまとわりついて迷惑をかけるような類の女じゃないから」
キャロルは本能的に、イズミルがライアンと同じように全く女に興味のない堅物の美男子だと見抜いているらしかった。
「私がいれば、ミタムン王女にとってもよくないでしょう? そ、その・・自分で言うのも何だけれど確かにメンフィスは私に・・その興味があるようだし」
誰もが望むファラオの寵を受けながら、それを厭う娘の様子にイズミルはたいそう興味をひかれた。
「ふん・・・・。確かにそなたのように王の位にある男を恋狂いにさせる女は姿を消すのが一番よいのであろうな。よかろう、そなたを途中まで同道してやろう。だが面倒が起きるのであれば即座に見捨てるぞ」
人を見下しきったイズミルの言葉にキャロルは顔を強ばらせた。
「いくらあなたが口のききかたを知らない失礼な人でもこの場合は、ご厚意ありがとうって言うべきなんでしょうね。
いいわ、ギザまでおとなしくして決して迷惑をかけないようにするから」

イズミル王子は彼女を常に身近に置くようにした。だがそれはエジプト奴隷の媚態に惹かれたわけではなく、身分を隠した、度し難く突飛な少女をいつも監視するためであった。


イズミル王子が砂漠のサソリに噛まれたのはギザまであと少しという場所であった。にわかに慌ただしくなるヒッタイトの野営地。
医師が呼ばれ処置が施されるが、毒の回りは早すぎ、王族の体に触れることを懼れる医師は萎縮してか満足な治療も行えない有様である。
医師の手伝いのために夜半過ぎに呼び出されたキャロルは、王子の体が断末魔じみた痙攣を繰り返すのを見て、思わず叫んだ。
「何てひどい!私、解毒の薬を持っています。使わせて下さい」
「何を申すか、この女!王子の玉体に仇なすエジプトの間者かっ!」
逆上した王子つきの将軍は、キャロルのベールを乱暴に引っ張り床に転がした。
灯火のもと、露わになる金色の髪。
「な、何と。ナイルの娘・・・。何故にこのような所に御身が・・・」
これまで慰み者の卑しい奴隷だとばかり思っていた娘が、実はとんでもない貴種の娘であると知った人々の驚き。
ファラオが人目も憚らず熱愛し、執着している賢く優しい神の娘の噂は皆が知っていた。
だが問答を繰り返し、時間を無駄にすることは許されなかった。王子にもっとも近しい将軍と、腹心の部下ルカの不承不承の許しを得てキャロルは瀕死の王子の傷口から膿を吸いだし、ロケットの中に仕舞っておいた抗生物質を含んだ薬を投与した。
それはメンフィスをコブラの毒から救った20世紀の奇蹟の薬。人々はただ王子を見守った。

当然のように、いや古代の人々にとっては奇跡的に王子は命を取り留めた。深刻な後遺症もなしに猛毒から快復した王子を看護するのは、今は「ナイルの娘」とヒッタイト人の尊敬を一身に集めるキャロルだった。

王子を気遣いつつ、一行は進む。キャロルは気がつけばギザから遠く離れた地中海に来ていた。これからは海路でヒッタイトへ向かうのだ。
人々はキャロルを決して一人にはさせてくれなかった。いかなる理由があるにせよ、王子の側にいるのは貴重なエジプトの神の娘。どうして手放したりできる?


ぎいっ、ぎいっ・・・・。
単調な櫂の音。帆に当たる風の音。かもめの声。
(ああ・・・・もう地中海に出たのか? 私はどれくらい臥せっていたのだ?
船に移動したことも気付かぬとは)
王子はゆっくりと目を開けた。
青い瞳が心配そうに自分を見ていた。熱と悪夢の中で苦しんでいたときに、いつも見守り力づけてくれた青い瞳が。
「・・・ナイルの・・・娘・・・?」
「イズミル王子!気分はどう?・・・ああ、熱が下がったのね。なかなか熱が下がらなくて心配したのよ」
キャロルは病室の外に控えていた人々を呼び入れた。ヒッタイト人達は主君の快復を心から喜んだ。

その夕刻。
「ナイルの娘よ。そなたが私に貴重なる薬を与え、ずっと看護していてくれたのか?」
自分が臥せっていた間のキャロルの献身ぶりを聞かされた王子はそう問うた。
キャロルは無言で頷き、皆が私を信じて任せてくれたからよと控えめに付け加えた。
「・・・・・で、そなたはギザへは行かなかったのだな。いや、行けなかったのか。・・・・・・何故だ?」
ぼそりと呟くように言った王子の言葉は、キャロルの中の何か張りつめていたものを毀すには充分すぎる力を持っていた。
「あなたはサソリに噛まれて病気だったわ。私、病人を放っておけなかった。帰りたかったのよ。今でも帰りたいわ。でも、でも出来なかった。理由ですって? あなたはお願いを聞いてくれて私と一緒に旅をしてくれたからよっ!」
乱暴な言葉のなかにキャロルの優しさと耐えがたい望郷の念が覗く。
王子の胸の中に何か今まで知らなかった感情が萌した。それが何なのか自分の中で分析するより先に、王子は泣く娘を腕の中に抱え込んでいた。

7(ダイジェスト版)
船旅は続く。回復期の王子はキャロルの看護を受け日々を過ごす。
何も言わないキャロルの心を思いつつ、その心配を素直に口にして気遣ってやることの出来ない王子の不器用さ。
それは初めて王子が知る恋情であったのだが、馴染みのない感情に王子自身まだ自覚していない。ただ常に側近く置き、娘が物思いに沈み悲しむ暇がないように次々用事を頼み、こき使い、徒然の話し相手にするだけの不器用な初恋。

キャロルは望郷の念を押し隠して王子の看護に励んだ。体を動かし、我が儘な病人につき合っていればほんのつかの間でも悲しみは忘れられるような気がした。
陰日向なく王子を看病し、付き従う兵士らにも心遣いを忘れないキャロルに好意を抱く者は多かった。人々はキャロルの苛立ちをよそに、勝手に自国の優れた王子と、エジプトの神の娘の恋物語を紡ぎだしては喜んでいた。
ファラオに熱望されていた神の娘はヒッタイトの王子を選び、卑しい奴隷に身をやつしてまで駆け落ちする道を選んだ、と。

ルウイヤ国の近くを航行中の船を突然の嵐が襲う。必死の操船にも関わらず、船は沈没。王子とキャロル、そして生き残った兵士らは這々の体で上陸する。
船を仕立てて、帰国を急がねばならないが身一つで脱出した彼らに金銭はなく、無論、ヒッタイト王子の身分を立証するものもない。
ようやく同乗させてくれそうな商船が見つかったが、船主は法外な値段を吹きかけた。兵士らは怒るが、どうにもならない。
「では、これでどうかしら?あなたが言うくらいの値段にはなるでしょう?」
キャロルが差し出したのは薬を入れていたロケットだった。細やかな金銀細工、はめ込まれた宝石貴石。ライアンから贈られた大切な品。20世紀の形見。
「ほう・・・。だが、まだ足りませぬなぁ。ふぅむ・・・いかがかな、あなたの髪の毛をちょうだいできませぬか?知り合いに鬘職人がいましてな」
人を馬鹿にしきった商人の言葉に、キャロルをナイルの娘と信じて疑わぬ人々は怒り狂った。
しかしキャロルは何の躊躇もなく髪を切ったのである。
「こんなものでよければ。そのかわり、あなたも約束を守ってちょうだい」と。

8(ダイジェスト版)
王子達の一行は商船に乗り、今度こそようやくヒッタイトの岸辺を目指すことが出来た。とはいえ、一行の無事を未だ本国には連絡できぬ歯がゆさ。
生き残った人々は指折り上陸の日を待ちわびるのだった。

キャロルはすっかり短くなった髪の毛をベールで隠して王子に接した。だがじきに王子はキャロルが大切なロケットと自分の金髪を売り渡して一行の足を確保してくれたことを知らされる。
「何ということを・・・あの見事なる金の髪を。兄より贈られたという美しい飾りを・・・。さぞや、さぞや辛かったであろう。そなたが我らを救ってくれたのだな・・・」
王子は乱暴に切られてぎざぎざになった髪の毛を手の中で慈しむように触れながら言った。
キャロルが如何に家族を大切に思い、恋しがっているかは王子がよく知っていた。彼女は王子に請われるまま、よく故郷の思い出を話して聞かせていた。
ロケットを抱き、静かに涙を流しているキャロルのことも知っていた。
「そなたの献身に対して、どのように報いればよいのであろう? そなたがいなければ我々は異境の地で野垂れ死にをしていたであろうよ・・・」
王子は生まれて初めて「愛しい」とはどういうことかを知った。彼を取り巻く女達が幾度となく口にしていた言葉の意味を。
自分の身も省みず、王子の寵愛を代償に求めることもなしに、ただ尽くす女など彼は知らなかった。
「可哀想なことをした・・・・。許せよ・・・」
キャロルは抱き寄せられるまま、王子の胸で泣いた。ひとりぽっちの心細さが王子の温かみの中で少し溶けていくような気がした・・・。

やがて王子は手ずからキャロルの髪の毛を切りそろえてやった。顎のあたりまでで揃えられた金髪は、キャロルの白く小さな整った顔をより幼く、少年とも少女ともつかぬ性的に未分化な生き物のようにも見せた。

9(ダイジェスト版)
髪を切り終えて、王子はキャロルに腕輪を与えた。
金の細い腕輪に、自分の髪を纏めていた革ひもに通してあったビーズを通しただけのもの。だが、そのビーズは王子だけに許された紅玉髄のそれだった。
「綺麗・・・。でもいいの?こんなものを貰っても?」
「良い。それは護符のようなものだ。そなたが失った首飾りには及ばぬであろうが、無いよりは良かろう。身につけておけ。さすれば男に間違えられることもあるまい」
「やだっ、もうあのロケットのこととか言わないでって言っているでしょう?
別にあれが惜しくて夜も眠れないってわけじゃないわ。役に立って良かったって思っているのよ?」
王子がキャロルに話しかけるとき、その声には冗談めかした調子や慈しむような優しい色合いがあった。もっともその声に語られる言葉は皮肉っぽく、キャロルを子供扱いするものであったけれど。
人々はそんな王子の様子に驚いた。
まさか王子はあの神の娘を真実、愛しく思っておいでなのだろうか。王子があのように気を許され、優しくされる相手は今まで無かったのではないか、と。
キャロルもまた、王子に気を許すようになってきていた。旅路の徒然に交わす会話からは彼の教養や野卑ではないバランスの取れた性格が窺われた。
いつも自分を皮肉っぽくからかい、子供扱いする相手ではあったけれど、何かの折りに優しくさり気なく甘やかしてくれる年上の男性に頼るのは心地よかった。
そして二人の心は急速に近づいていく。初めて人を愛しく思うことを知った男と、気の狂いそうな孤独と寂寥に打ちのめされかけていた少女は。

10(ダイジェスト版)
ようやくヒッタイトに上陸した一行。
「おお、よくご無事でお戻りなされました」
平民のような格好をした王子一行を恭しく出迎えたのは一人の老人であった。
「ラバルナ師よ! 久しゅうございます。よく我らのことがおわかりになったものだ! まだ誰にも我らの無事到着を知らせてはおりませぬに!」
「何、王子よ。半ば盲したとはいえ、空を渡る風や、地中深き所より出ずる水、この世のあらゆるものたちが私に万象を教えてくれまするぞ。
無論・・・我が教え子よ、あなたが風に託して飛ばされた念も聞こえました。
お教えしたことをお忘れではなかったかと嬉しく思いましたぞ。
・・・さぁ、参られませ」

その昔、王子が師事したという不思議な老人ラバルナの住居―といってもそれは仮住まいの目立たない小屋だった―に一行は落ち着いた。
早速、最寄りの砦とハットウシャに伝書鳩が飛ばされる。王子は迎えが来るまで、この恩師とともに過ごすことに決めたようだった。
不思議そうな顔をしているキャロルに将軍が、王子とラバルナ師の関係を説明してやった。
その昔、ただ一年だけ少年であった王子が師事した不思議な力を持った老人。彼は気楽な一人住まいだが、折に触れ王子は師を訪ね、共に過ごす事をタノシミにしていると。

楽しそうにくつろぐ王子達を見ているとキャロルはより強く疎外感を味わった。自分はこの世界では一人だという寂しさ。
一人、夜空を眺めるキャロルの側にいつの間にかラバルナ師がいた。彼は王子の変化を見抜き、教え子に「人の心」を教えた少女を見に来たのだ。
しばし会話を交わす二人。キャロルの話す未来の世界の話を老人は興味深く聞いた。やがて教え子の選んだキャロルの優しく聡明な気質に安堵した老人はキャロルに言う。
「そなた様がこの世界でどのように生きられるにせよ、御身の上に幸いが多くありますように」

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