『 祈り 』 21 怒りなのか驚愕なのか、力のある黒い瞳が私を見据える。 結ばれた口許。先ほどまでとは違う、闘われる表情だと思った。 「・・・そなたは真実しか申さぬ、誰がキャロル様を殺そうとしておるのだ?」 私は首を振ってミヌーエ将軍の指先から離れ、そこがまるで私を守ってくれるかのように、そっと祭壇の方へと寄った。 それから背の高いミヌーエ将軍を下から見上げて一息に告げた。 「・・・婚儀までの間、どうかキャロルから目をお放しなさいますな、キャロルを一人にしてはなりませぬ。 例えキャロルが嫌がろうとも、必ず武官を側にお付けくださいませ。 私には未来は読めませぬ、分かっているのは、ただ、キャロルを亡き者とするよう、命が下されたことだけです。」 私にはここまでしか言えない。 何の力もない、人の心も、未来も何も分からない。これで精一杯なのだ。 本当はもう一つ分かっていることもあるけれど、それは言ってはならないことだと思っていた。 「・・・分かった、キャロル様の警護を厳重にし、決してお一人にはすまい。 私はそなたの口から出る言葉を信頼している。今までも、そなたに救われたのだから。 だが・・・そなたは、まだ私に隔しておろう、キャロル様へのその命を下した者の名を! そなたには分かっているはずだ、申してみよ!」 その言葉に私は思わず目を閉じた。言われるであろうとは思っていた。 風はなんでも知っている、なんでも私に囁いて、知りたくないのに知らされてしまう。 でも、それは簡単に口に出していいものではないのだ。 特に愛情の絡むものなどは! 「ハプト、私はそなたを信じておる、そなたは真実しか口にせぬ、その身を挺して、キャロル様や我がエジプトに尽くしてきたではないか。 キャロル様は王妃になられる尊い方、そのお方を守られずして将軍として側におるは、武人としての名折れなのだ。 ハプト、分かってあるのならば、今一度力を貸してくれ。」 怒鳴るわけでなく、深く諭されるように優しく響くお声は、私に一度決意したことを覆させるような気にさせる、不思議な力を持っていた。 でも、私はもう一度言わないと決めたことを思い出し、一つ息を吐いてから、左右に首を振った。 「・・・・私には全て分かるわけではありませぬ、あなた様も以前そう仰せになられたはずです。」 「ハプト、そなたがその者の名を知っているのは分かっておる。 ただそなたが聡明にもその胸に一人仕舞いこんでおるのであろう? 警備上、その者の名を知れば、格段に警備はし易くなるのだ、頼む、ハプト。」 私の両肩に大きな手が食い込む。私が顔を上げると驚くほどにお近くにミヌーエ将軍のお顔があり、その表情は真摯で私の決意をくじきそうにさせた。 でも、私が告げた名を聞いて、このお方は私を恨まれるだろう。 誰が愛しく思う人が人を殺す算段をしたと聞きたいなんて思うだろう? このお方は私に優しくして下さった、感謝もしている。 ナフテラ様ともに、どれほどの感謝をしても足りないほどに。 その御恩に報いることなどできず、苦しめる事ばかり告げる私は、なんていやな存在なのだろうか。 もう、この方とお会いすることもあるまい、と私は心を決め、唇を開いた。 「アイシス様です、あなた様が恋焦がれるアイシス様が、キャロルを殺す命を下されました。」 22 ミヌーエ将軍のお顔の表情は硬く強張っていた。 肩を掴んだ手から力が抜けていくのを感じながら、私はさらに続けた。 「アイシス様が如何にキャロルの存在を苦々しく思っていらっしゃるか、 ファラオのお側にいらっしゃるあなた様はよくご存知でしょう。 ましてやあのお方は、幼き頃よりファラオの妃となることをどれほど切望されていたことか、キャロルさえ現れなければ、当然妃として婚儀を挙げられたことでしょう。 あのお方には、ファラオ以外の殿方など存在せぬと同じです。 ・・・・・・今まででも、キャロルが無事だったのは、ファラオが配した警備が厳重だったことと、運がよかっただけに過ぎませぬ。 でも、今度こそは仕損じることはお許しになりませぬ、そうお命じになれらました。 あなた様がアイシス様を熱愛されてるのも、それを拒まれたのも知りながら、このようなことを申し上げる私には、さぞご立腹でございましょう。 でも、あなた様にしかおすがりするしかないのです。」 「・・・あのお方は、確かにそうされるであろうと、想像はしておったが、やはりそなたの口から聞くのは堪える・・・・・。 確かに私はあの誇り高い方を娶れるならば、と願ってもいた。 その方を、この私に捕らえよと申すか?」 己を嘲笑うような声音は、いつも私に語りかけらえるものとは全く違う。 なんて残酷なことを私は告げるのだろう。 隠していらしたはずの恋心まで、気味の悪い小娘が知っておりながらも、人を殺める企みをしたと、愛しい女人の名を告げるのだ。 「あなた様を必要とされる方々が、この神殿の外に沢山いらっしゃいます。 ここを出て職務を遂行なさいませ。 もうこの気味の悪い小娘の事などお忘れになって下さいませ。この神殿には参られますな。」 すっと風が吹いてきて、ミヌーエ将軍の体を入り口の方へと押しやる。 「巫女よ、ハプト!」遠ざかるミヌーエ様のお声が響く。 「どうかキャロルをお守りくださいませ。」 私は祭壇に向かって目を閉じた。 人気のない静寂が戻ってきた。 23 「とっても豪華な衣装なのよ、素晴らしい婚儀になるわよ、ハプト!」 お忙しい合間を縫ってテティ様がこちらへお寄りになる。 婚儀の準備にお忙しい宮殿の様子を話して下さる。 「ほら、あなたもしっかり食べないと!私なんてすぐお腹すいちゃって大変なのよ!」 お持ちになったお肉を食べながらテティ様がお話になるのに私は頷く。 「あと二日よね、楽しみだわ、そうそう、ミヌーエ様が私にあなたのこと尋ねてらしたわよ。 眉間に皺寄せちゃって、お難しいお顔でね。 あなた、ミヌーエ様を怒らせたの?そんなことないわよね、ここによくお見えだし。」 やはり御立腹なのだろう、当然だと思う。なのに、何故、私の事を気にかけていらっしゃるの? 「・・・・もう、お見えにはならないでしょう、ここへは参られますなって申し上げましたから・・。」 「ええっ?!ハプト、あなたがそれを言ったの?ミヌーエ様に?どうして?」 テティ様が矢継ぎ早に私に詰問されるのに、私はただ首を左右に振るだけだ。 生意気で気味の悪い小娘など、誰が好き好んで相手にしたがるだろう。 それに触れてはならないことにすら、私は触れてしまったのだ。 あの方が神殿に参られる前の生活に戻るだけのこと。 私はやはり人とは相容れない存在なのだろう、笑いかけてくださっただけでも有り難い事だったのだ。 「随分とあなたのことを気に入っていらっしゃったようなのにね。」 テティ様の一言が何故か胸に突き刺さる。 「テティ様、近隣諸国からもお客様がおみえなのでしょう?お話を伺いたいですわ。」 私は無理に話をそらせた。 テティ様の朗らかなお声を聞きながら、胸の奥に穴があいたような気持ちがしたのを忘れようと思った。 それが何なのかは知りたくなかった。 24 「そろそろ戻らないと。また来るわね、ハプト」 テティ様がそう言って腰を上げた時だった。 急に荒々しい風が押し寄せてきた。それは禍禍しい知らせを持っていた。 「ああっ!、キャロル、キャロル、危ない!」 脳裏に浮ぶ恐ろしい光景、奥庭の池の中、水かさの増した回廊の上で、キャロルがワニに襲われている! しかも、それだけではない。キャロルを狙う兵士がいる! 「ハプト?ハプト、どうしたの?」 テティ様が心配そうなお声を出していらっしゃるが、私にはそのお顔を見る余裕がなかった。 脳裏に浮ぶ恐ろしい様、キャロルがなんとか池から逃げ出し、逃げ遅れた侍女が何人かがワニの犠牲になっている。 そこへファラオやミヌーエ将軍が現れたが、兵士がキャロルのみならず、ファラオにまで刃を向けた様が、まるで目の前で起こっているように浮ぶのだ。 「ミヌーエ様!ミヌーエ様が!」 ファラオを庇った時にミヌーエ様の左腕に食い込む剣が浮んだ時、私の口からは悲鳴が飛び出し、目を思わず瞑った。 それでも次々に脳裏に浮ぶ光景に、私は気を失いそうになる。 「しっかりして!ハプト!」 足に力が入らず、崩れ落ちた私の肩を揺さぶるテティ様のお手が、なんとか私をこの神殿の内庭へと意識を取り戻させる。 心配そうに覗き込まれるお顔。 「姫様に何かあったのね?ミヌーエ様にも」 答えようと頷こうとした私に、キャロルの声が届く。 『だめよ、殺さないで!メンフィス!いくら罪人でも、命の尊さは同じなの!お願い!』 殺されそうになったというのに、キャロルはファラオに命乞いをしているのだ。 その言葉にまるで私の胸のあった蟠りが解けていくよう。目に映るものが急に色鮮やかになったようにすら思える。 何?これは?あの澄んだ結晶のようなキャロルの心を思い出したからか? 『ならぬ!そなたの命を狙い、この私に刃を向けた挙句、ミヌーエをこのような目に遭わせた者を! おお、ミヌーエ!しっかり致せ!』 ファラオが怒っていらっしゃる、そして刃向かったものを殺そうと剣を振り上げたのに、キャロルの懇願を、全身を駆け巡る怒りを無理に押し殺して、剣を投げ捨て、反逆者を捕らえる命を下された。 私はそれをこの神殿で全てを見届けたのだ。 25 「テティ様、ミヌーエ様がお怪我を・・・・・。」 多分私の状態はテティ様から見れば、錯乱状態にしか見えないだろう。 幼い頃も、そしてこの神殿に来てからも、それに立ち会ってしまった人は皆私を気味悪がった。 「ミヌーエ様がどうなさったの?ハプト」 私を立ち上がらせようとするテティ様には、不思議なことにとても真面目な表情だった。 「左腕を切りつけられてしまって、このままでは、切り落とさなければならないのかもしれません。 あまりにも傷が深すぎて・・・・・。どうしたらいいのでしょう、私はあの方の御恩に何も報いていないというのに・・・・。何も出来ないのです。」 そうだ、私は何のご恩にも報いていなかった、あのお方に幾度も助けられ、お優しくしていただいたというのに。 この神殿であのお方とお話するのは嫌いじゃなかった。 「私、あなたが姫様を目覚めさせたのを見たの、あなたには不思議な力がある。 何ができるかわからないけど、行きましょうよ、ミヌーエ様のところへ!さあ、早く!」 そういってテティ様は私の手を掴むと神殿の入り口に向かって駆け出し、私も駆けた。 たくさんの人がいるところへいくのはいつも恐ろしかったけれど、この時ばかりは怖くなかった。 それはテティ様が手を握って下さったせいなのかは分からない。 風が私達の味方をするように、背中を押し出していてくれたのを私は嬉しく思った。 26 「お待ちください!巫女をお連れしました!」 何処をどう駆けたのかはわからない、でも私達はミヌーエ将軍が左腕を切り落とす寸前に間に合ったのだ。 テティ様がその場にいた沢山の人と話してる隙に、私は痛みに耐え、苦しまれるミヌーエ将軍のお側へと行った。 お側にはファラオがいた。 「巫女よ!ミヌーエを救ってやってくれ!ミヌーエはこの私を庇ったのだ、そなたの望むものならば何でも叶えようぞ。 だからミヌーエを救ってやってくれ!」 ファラオの放つ力はやはり私には強すぎる、全身がぴりぴりとするような気がする。 「私に何ができるかは存じませぬ、ですが全力を尽くします。」 そのお答えをしてミヌーエ様のご様子を見た。 冷や汗をかいて苦痛に耐えながら、ミヌーエ将軍はうっすらと目を開いた。 「・・・・そなたか、巫女よ、何故に来た?」 「私にもわかりませぬ、ですが、私に出来る事をしに参ったのです。」 私は私にもわからない衝動に突き動かされてミヌーエ将軍の上に屈み、苦痛に耐え食いしばる口に唇を寄せて息を吹き込んだ。 27 唇が触れ合った時、ミヌーエ将軍の黒い目が驚いたように大きく見開かれたけど、その直後に何故だか楽になったように目がゆっくりと閉じられたのは見えた。 息を吹き込む度、私の体の力が抜けていくのが分かったけれど、やめてはならない、という声がしたよう名気がして幾度も私は同じ事を繰り返した。 「おおっ、奇跡じゃ!」 「腕が見る間に元通りに・・・・・。」 人々のざわめきが耳に入ったけれど、私は徐々に重くなっていく体をなんとか自分の足で支えるのが精一杯。 吹き込もうとする息も、私が苦しくなってしまって、短い息を最後にやっと吹き込むとその途端に足が萎えて、こともあろうに横になっていらっしゃるミヌーエ将軍の上にずるずると覆い被さるようにもたれこんでしまった。 「・・・・そなたのおかげだ、礼を申そう、ハプト。」 床にずり落ちそうになった私の体はがっちりとした腕に抱きとめられた。 目の前が揺れて見える、柱が歪んで見える。瞼を開けるのも辛い。 「ハプト!すごいわ!あなたはミヌーエ将軍を助けたのよ!ありがとう、ハプト!」 キャロルの声がして、誰かがが私の手を握った。 「巫女よ!なんでも望みを申すが良い!よくぞ助けたぞ!」 ファラオの声もしたのに、私にはもうそのお姿も目に入らない。 「ハプト!しっかりして!ハプト!誰か、早くお医者様を!」 キャロルの声も遠くなる。お願い、誰か私を神殿に帰して・・・。 誰か、私を、帰して・・・・。 28 ふっと優しく頬を撫でる風の気配に私は目を開いた。 見慣れた神殿の天井、私の寝台。 そして横にはキャロルがいた。 キャロルは先ほどこの神殿に私の具合を尋ねてきたのだ、と、寝台に軽く腰を降ろしながら話した。 「昨日はありがとう、あなたがミヌーエ将軍に私を厳重に警護するように忠告してくれたのを、彼から聞いたのよ。それにあなたはミヌーエ将軍の腕の傷もすっかり直してくれたわ。 彼はメンフィスの片腕と言われるほど、信頼を寄せている人。メンフィスもどれほど感謝していることか。 本当にありがとう、ハプト。」 体は酷くだるかった、けれでもそれをキャロルに悟らせないように私は半身を起こしながら、礼には及ばない、と答えた。 私の方こそキャロルに礼を述べたかった。 キャロルに出会うまで、私は生きていく事に何の望みも感じなかった。 風の囁きがあまりにも人の醜い部分を私に教えてしまうので、人を信じる事も出来ず、早く言えば生きていく事に絶望していたのだ。 祈ることだけが私の救いでもあり、苦しみでもあったけど、その一方で自分が何の力もない事の無力さを知り、起こる事だけをただ淡々と受け止めてきたに過ぎない。 自らで何かに抗ったり、全力で成し遂げようなどと考えた事はなかった。 でも、キャロルの美しく澄んだ結晶のような心を知り、その滋味溢れる優しさを知り、私にも何かできることがあったのだとわかったのだ。 それが分かった今、体の疲労は激しいけれども、それを心地よく受け止められる自分が、ほんの少しでも嬉しいと思ったのだ。 それからキャロルと取りとめのない、邪気のない会話を交わし、しばらく前の私達のようになっていた。 でももうキャロルは明日には婚儀を挙げ、王妃となり、この神殿にはそうそう足を運べなくなるだろう。 私達に残された時間は短いのだと、私は胸の中で思いながら、キャロルの笑顔を見た。 29 「さあ、早く戻らないと、ウナス様がお待ちだわ、キャロル。」 私の言葉にキャロルは少しがっかりしたような表情を見せた。 「あなたはよい王妃になるわ、いつもあなたの為に祈るわ、キャロル。おめでとう。 婚儀の後、アメン祭もあるから、国中で大賑わいね。」 「そうね、もう、今から胸がどきどきするわ。婚儀が終わったらまた来るわ、ハプト。」 嬉しそうに幸福そうに微笑んで手を振るキャロルに私も微笑んで別れを告げた。 黄金に輝く見事な髪、ナイルを映したような澄んだ美しい瞳、白く透けるような肌、神々の祝福をその身に受けたようなキャロル・・・・・。 もう会う事はないだろう、でも私はあなたの為に祈ろう。 何に対しても希望のなかった私に、無気力だった私に、役目を果たさせてくれたはあなたなのだから。 重い体をゆっくりと祭壇の前に運び、神々に祈ろうとする。 でも風の囁きがたくさんの出来事を告げるので、私の心は落ち着かない。 結局キャロルが襲われた件の首謀者ははっきりしないまま、ただ、アイシス様に疑惑がかかってしまった事や、そのアイシス様にはバビロニアの王が目下求婚しており、それを承諾したことなど。 そして思いもかけない客が入り口に向かってきていることを風は告げた。 私はその客の為に神殿の中庭を通り、入り口の近くに立った。 護衛官をやり過ごし、カプター大神官は内庭まで入って来られた。 「此度はよくやったぞ、巫女よ。」 あまり近くに寄れないほどのどす黒い風がカプター大神官を被っている。 重い体でカプター大神官のお側にいるのは酷く苦痛だった。 30 カプター大神官は婚儀の前の忙しい合い間にわざわざここへ訪れたのを私は知っている。 昨日私がしたこと、ミヌーエ様をお助けしたことを聞きつけたカプター大神官は、このような小さな神殿で務めず、自分の下で神々に仕えよ、と言い渡しに参られたのだ。 「・・・・そもそもこの神殿は先々代の王であったアイ王様の妃がお忍びで祈る為のものであったのだ。 このような小さな神殿では先々不便もあろう、どうじゃ、我が下で、もっと立派な神殿に仕えぬか?」 奇跡を起こした私を手駒にしようとの企みなのは分かっていた。 私がカプター大神官に仕える事で、自分の名声が益々轟くことを予想して。 私にはとても使える事などできない、以前だってこの方の目の前で倒れたくらいなのに。 今ですらお側にいるのは酷く辛い。 「せっかくのお申し出、感謝いたします。ですが、私めはファラオより終生この神殿において神々に仕えるお許しを頂きました。 まさかファラオの命に違う事など出来かねます。どうぞお許しを。」 ファラオの御名が出るなどとは予想していなかったようだけれども、それでも「自分が口を聞けばファラオもお許しになろう」とあくまで諦めるつもりはない様子は私にもよくわかった。 「・・・・山ほどの黄金の像が見えますわ、まあ、あれはプントの国の商人なのでしょうか? 便宜を図るように見事な黄金の箱が・・・・。」 風が囁くままについ口に出してしまった言葉に、見つかってはならぬことが分かってしまったようなようなお顔のカプター大神官。 「な、何の話じゃ!」憤慨された声音。 「黄金ばかりを集めたお部屋が・・・・。まあ、ファラオはご存知では・・・・。」 ああ、こちらに向かわれた気配がする、お元気そうな足の運び。 「何やら聞き捨てならぬような話だが、神殿の中には相応しくないと見受けるが。」 「ミヌーエ将軍!」 そこには逞しい武人そのままのお姿のミヌーエ様がいらした。 カプター大神官は、用事があると、すぐに去られてしまった。 ミヌーエ様の黒い目が楽しそうに細められ、二人で同時にくすくす笑ってしまったのだ。 |