『 ヒッタイト道中記 』

51
木立を抜けると、月を映し出した紺碧の水面が視界いっぱいに広がった。
静寂の中にかすかな水音だけが響く。
柔らかな風が静かにさざ波を立て、水面に儚く宿る星影を揺らす。
(王子はどこ・・・?)
キャロルは月明かりを頼りに愛しい王子の姿を探す。
しかしそこには脱ぎ捨てられた衣装が岸辺にあるばかりで王子の姿は見当たらない。
(王子・・・王子・・・どこにいるの)
その時、泉の淵から銀色の水滴をしたたらせ、しなやかな筋肉を纏った彫刻のような身体が悠然と立ち上がった。
黄金の月を仰ぎ、長い髪を左右に振って水を払うその優雅な仕草にキャロルは思わず息を呑んだ。
その姿はいにしえの神が地に降臨する一場面を見るかのように、厳かで美しかった。
泉のほとりに立ち尽くすキャロルに気づくと、王子はゆっくりと腰に衣を巻きつけた。
月光に照らされた気品ある顔が真っ直ぐこちらを向く。
「そなた・・・なぜここに?」
キャロルはもう何も考えられずに王子の胸に飛び込んだ。
火照ったキャロルの頬に冷たく濡れた肌が触れる。
「王子・・・王子・・・王子!!」
伝えたい言葉がもどかしいまでに胸を突くのに、愛しいその名を呼ぶことしかできない。
王子はキャロルの身体をしっかりと腕で受け止め、抱き寄せる。
「・・・どうしたというのだ、夜半にそなた一人で何故このような場所に来た?」
少し咎めるような口調で王子は問う。

52
「王子・・・王子・・・わたし・・・」
ただ縋り付いて自分の名を呼ぶキャロルの様子に、王子は何事かあったのではと戸惑った。
「なんだ? ・・・言いたいことがあらば申せ」
可憐な口元は小刻みに震えている。
消え入りそうな声が漏れる。
「・・・好き・・・王子が好き・・・」
琥珀色の瞳が大きく見開かれた。
王子は一瞬自分の耳を疑った。
これは酒の酔いが見せる残酷な幻か?
しかし腕の中で震える少女は、王子の背を愛しいとばかりに強く抱きしめてくる。
その心を伝えんがためにキャロルは一人ここに来たのだと、王子はすぐに悟った。
「・・・今、なんと・・・何と申した? ・・・今一度、今一度聞きたいっ!!」
祈るような気持ちで再び唇が開かれるのを待った。
「お・・・王子が・・・好き・・・側に・・・側にいて欲しいの」
泉の水で冷やしたはずの身体が一気に熱くなる。
「おお・・・!」
王子は壊れんばかりにキャロルを抱く腕に力を込めた。
「言われずとも・・・そなたを離してはおくものか!
そなたは私の・・・私だけのものだ」
呼吸もままならない程に身体を締め付けるその腕の強さがキャロルを安堵させる。
王子に強く求められ、望まれているという喜び。

「わたし何を失くしても・・・王子と一緒にいたい」
「どれほどにその言葉・・・私が待っていたか。
そなたは誰にも渡さぬ!
未来永劫に・・・この私のものだ」
キャロルは王子の逞しい胸に頬を擦り付けるように、何度も頷いた。
「もう・・・もう20世紀には帰らない・・・ずっと・・・ずっと王子の側にいるわ!」
王子はキャロルの顔を自分に向けさせた。
柔らかな長い髪は月の光をうけて白金のように輝き、碧い瞳には天上の星が映りこむ。
白い頬にかすかに残る幾筋もの涙の跡が王子の胸を優しく締め付ける。
何と美しく何と愛らしいのかと、王子は腕の中の少女をあらためる。
琥珀色の熱っぽい瞳が真っすぐにキャロルを捉える。
「もはや待てぬ、そなたは今宵から私の妃。
その身も心も・・・そなたの全てはこの私のものぞ!!」
言い放つと同時に、キャロルの身体はふわりと宙に抱き上げられた。
王子は夢中で腕の中のキャロルの唇を求め吸い立てながら、脇目もふらず天幕へと続く道を急いだ。

53 Ψ(`▼´)Ψ
王子は天幕に着くやいなやキャロルを抱いたまま、もつれる様に寝台になだれ込んだ。
「ここまでの距離がいやという程遠く感じられたぞ!」
そして息つく暇も与えず接吻を繰り返す。
王子の手がいささか乱暴にキャロルの夜着を剥いだ。
暗がりにほの白く浮き立つ白い肌を目の前に、王子は今一度キャロルの瞳を見据えた。
「もう逃がさぬ・・・そなたを私のものにするぞ! 良いのだな?!」
硬く怒張した王子の自身がキャロルの身体を圧迫し、どれほど王子に求められているかを言葉以上に伝えて、キャロルをいやでも昂ぶらせる。
恥ずかしさと嬉しさに震えながらもキャロルは大きく頷く。

王子の大きな両の手のひらがキャロルの乳房を包み込み、ゆっくりと揉み立てる。
それぞれの頂にある桃色の蕾を交互に唇で吸われた。
巧みな舌先で執拗に愛でられると、胸の蕾は恥ずかしいほどにツンと勃ち上がる。
触れられてもいないはずの秘所の花芯が自ら収縮し、すでに蜜を滴らせているのをキャロルは感じた。
(わたし、こんなに・・・恥ずかしい)
重くのし掛かる王子の身体も、肌も、唇も、驚くほどに熱い。
キャロルは目を瞑りその熱さと押し寄せる甘美な眩暈に耐えていた。
耳もとで王子が何度も何度も「愛している」と囁くのが、身体の芯に心地よくこだまする。
王子がキャロルの脚の間に指をしのばせると、そこはもう熱く潤み、愛する男に触れられるのを待っていた。

54 Ψ(`▼´)Ψ
手馴れた仕草でキャロルの脚を大きく折り曲げ高々と持ち上げる。
王子は眼前に剥き出しになった潤んだはざまの美しさにしばし見惚れた。
(ここに触れられるのは私だけ・・・ぞ)
そしてゆっくりとそこに顔を埋め、口づける。
舌先を花びらに割り入れ、その奥深くまで泳がせる。
「あっ・・・はぁっ・・・いや」
情欲の赴くままにそこを愛してやりたかったが、キャロルがまだ快楽に慣れておらず、耐え切れずに意識を失った事を思い出した。
(・・・手加減してやらねば。 私とて楽しみたいのだ!)
王子の唇が割目の奥を探るようになぞり、震える小ぶりな真珠を捉える。
舌で弄ばれるうちに、さらに蜜は溢れ真珠は固く尖り始める。
「あぁっ・・・!」
真珠を甘噛みされた時、キャロルの全身は突然に強張り、そして一気に脱力した。
一瞬呼吸が止まり身体がビクビクと小刻みに震えたが・・・やがてそれは荒い吐息に変わった。
(・・・なんと感じやすいのか)
王子は自分の施したささやかな愛撫で呆気なく絶頂を迎えたキャロルが殊更に愛しく思えて、引き寄せて優しく抱きしめる。
胸に抱いて息苦しそうに上下する背中をさするように撫でてやった。

55 Ψ(`▼´)Ψ
「ふふ・・・もう達したのか、可愛い姫よ。
しかし、この程度で果てていてはこの先に進めぬではないか。どうするのだ?」
キャロルは恥ずかしさに顔を隠すように王子の胸に顔を埋める。
しかしそれはもう、恥じらうだけでなく愛しい男に甘える仕草であった。
「王子・・・大好き・・・愛してるの・・・!」
胸に縋り付くキャロルの媚態、柔らかな身体の感触、そして囁かれた言葉が王子の男の部分を今だかつてないほど熱く脈打たせる。
男を知らぬ身体をゆっくりと慣らしてから、あまり痛まぬように抱いてやりたいと考えていた王子であったが、股間にいきり勃つ男根はもはや限界が近いことを切に訴えていた。
突然王子は起き上がりキャロルを身体で組み敷いて、荒々しくキャロルの両脚の間に身体を割り入れる。
熱く火照り、蜜に濡れた花びらの中心に、王子の雄々しい強張りがあてがわれた。
キャロルはそれの熱さに思わず声を上げた。
王子の琥珀色の瞳にどうしようもないほどに昂ぶった欲望が揺らめく。
「そなたを可愛がるのは・・・また後だ。
もう待てぬ・・・そなたを今すぐ・・・!!」
「お・・・王子・・・?!」
王子の突然の激しさに驚くキャロルの中に、王子はゆっくりと腰を沈める。

56 Ψ(`▼´)Ψ
「痛いっ・・・王子、やめ・・・!!」
身体の中心を太い火柱で貫かれるような熱さと痛み。
キャロルは唇を噛みしめて、その大きな圧迫に耐えた。
王子は自身をキャロルの最奥に沈めると、ピタリと動きを止めた。
「今、私はそなたの中だ・・・わかるか?」
王子を押出さんとばかりに締めつけて来るキャロルの暖かな感触を確かめ、王子はキャロルと一つになった喜びに胸を熱くする。
「おお・・・これでそなたは私の妃…ぞ!」
身を裂く様な辛さが、その言葉で痛い程の幸福感に変わる。
今ここに、王子と結ばれ、身体の奥深くに王子の刻印を押されたのだ。
痛みではなく、嬉しさに涙が溢れた。
「辛いのか・・・?」
王子の瞳はキャロルを案じながらも、切なく燃えている。
キャロルは首をゆっくりと横に振るキャロルに唇を重ねあわす。
「愛している・・・愛している、姫・・・そなたを・・・命よりも」
王子は耐え切れず、突然に激しく腰を動かし始めた。
キャロルをいたわってやらねばと心では思うのに、積年の想いが叶い今、ついに愛しいキャロルを抱いているのだと思うと、男の部分が枷を外された獣のように猛り狂って自制が効かない。
欲望のまま、キャロルを壊さんばかりに突き上げ責め立てる事しかできなかった。
その間をキャロルは、あまりはっきりと覚えていない。
あまりにも激しくて熱かった。
冷静さを失い、こんなにも激高した王子は初めてだと思った。
でも、不思議と恐ろしいとは思わなかった。
王子が我に返ったのは、キャロルの中に一度ならず二度も激情を迸らせた後だった。
王子は脱力しきった身体をキャロルの上で伏せるようにして、荒い呼吸を繰り返していた。

57 Ψ(`▼´)Ψ
(なんという事だ・・・私とした事が。姫は乙女の身であるというのに!)
王子は少し照れたように目を伏せて苦笑した。
「すまぬ・・・そなたを苦しませたくはないと言うに・・・愛しさ余って加減が効かぬ。
痛むであろう?今、手当てをいたそう」
王子は優しく言うとキャロルの脚をそっと開かせ、乙女の純血の滲む痛々しい箇所を清水で洗い、清潔な布で拭おうとした。
「あっ・・・痛っ・・・!」
「む・・・痛むのか? ・・・ならば」
布よりも遥かに柔らかな王子の舌がそこを伝う。
「あ・・・イヤ、王子っ!!」
触れられた箇所からまた、妖しい感覚が湧き起こりキャロルは身を捩った。
しかし王子は、なおも痛む箇所を優しく清め、さらにその上の真珠までからかう様に舌を伸ばす。
「あんっ…やだったら、王子!もう離して」
「ならぬ・・・今宵はそなたを離さぬ」
嫌がってはみせるものの、甘い声が唇から漏れる。
「ふふ・・・私がどれほどそなたを想い、眠れぬ夜を過ごしてきたと思っておるのだ。
甘いな、そなただけ眠らせてやる訳には行かぬ。」
王子は意地悪く口端に笑みを浮かべると、キャロルを膝の上に載せて再び胸に抱きしめる。
「私がそなたをどれ程愛しているか・・・嫌という程分からせてやらねば」
「ダメっ、もう痛いの・・・今日は許して」
少し怯えるキャロルに、王子は優しく微笑んだ。
「案ずるな・・・今宵はもうそなたを痛めつけぬ。 
まだそなたが私を妃にした実感がつかめぬゆえ、もう暫しこうして触れていたいのだ」
先ほどの激しさと打って変わって、王子の手はいとも優しくキャロルの身体を心地よく撫でる。
キャロルは目を閉じて心地よさに身を任せた。このまま眠りの淵へ落ちてしまいそうだ。

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しかし、じゃれ合う様にキャロルの身体を愛しむ王子の手が突然止まった。
「むっ・・・何事か」
天幕の外のにわかな物音に鋭い視線を投げつける。
王子は俊敏に身を起こすとキャロルの裸身をシーツで覆い隠した。
手元の剣をスラリと抜き取った。
「王子・・・?どうしたの?」
キャロルは王子の背中に隠れ怯えた様子で問うたが、それには答えず剣を構えたまま天幕の外の様子を窺う。
刃の交わる音と衛兵の叫ぶ声。王子の背に緊張が走り、筋肉が張り詰める。
天幕に複数の男の影が映し出され、刃が幕を切り裂き、二人の天幕に怒声がなだれ込んだ。

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山賊のいでたちの武骨な男達がぞろぞろと二人の前に立ちはだかる。
王子の影に身を寄せて、シーツを纏っただけの身体で震えるキャロルを見て卑猥な笑い声を上げる。
「へへ・・・女とお楽しみのところ悪いな」
「見ろよ、あの女! めずらしい髪をしてやがる、黄金みたいじゃねぇか!」
「男は殺して、女は生け捕りにしろっ!高く売れらぁ」
しかし王子は落ち着き払った様子でキャロルを後ろ手に庇い、下卑た言葉を吐く男達の前に立つ。
端整な顔に冷酷な微笑が浮かんだ。
「ふ・・・何が目当てかは知らぬが・・・命知らずの下郎どもよ」
「なにぃ・・・何様だと思ってやがるんだっ?!」
「衛兵―――!!出合え―――い!!」
王子の太い叫びが響き渡ると同時に、一斉に男達が王子に斬りかかる。
キャロルは耳を押さえて悲鳴をあげた。
振り下ろされる刃を王子は巧みにかわし、並みいる男達の隙を抜いては斬り付けた。
「女を捕らえろ、女をっ!」
「そうはさせぬ!」
キャロルを襲おうとした男の喉もとに王子の剣先が鋭く走る。
怯えるキャロルの眼前に、血潮をあげる男の身体が崩れるように倒れ込む。
「きゃぁぁぁ!!」
片端から賊を斬り捨てて行くものの、天幕の外から男達の仲間が飛び入ってはかかって来る。
「むうっ・・・きりがないではないか! 衛兵は何をしておるのだ――っ!!」
天幕の外に火の手が上がり、喧騒が巻き起こる。

60
力任せに斬りつけてくる刃を、王子は強靭な腕と鉄の剣で受け止め、男の動きを読みつつ剣先を振るう。
賊の数は多かれど、華麗なまでに鍛え上げられ磨かれた王子の剣技の前には立ち向かう術がない。
ついに最後の一人を床に倒し、容赦なくとどめを刺した王子は、肩で安堵の息を漏らすと床に膝をついた。
王子の背後で床に這うように倒れていた男が腰元の短刀を抜き、ゆらりと起き上がる。
ふらふらと男は王子に歩み寄り、最期の力を振り絞って王子の背中に刃先を向ける。
王子が殺気に振り返った瞬間、王子が制するより先にキャロルが立ち上がった。
「いやああっ!!王子・・・逃げて!!」
王子の背中にキャロルの身体が衝突する。
倒れかかるキャロルの身体を腕で受け止めた。
薄絹の夜着を羽織った肩に深々と短刀が埋まり、鮮血が溢れる。
「姫・・・姫―――っ!! 
馬鹿なっ!! なぜだ・・・なぜ飛び出した? なぜに私を庇った!?」
指がキャロルの血で染まる。
「おお・・・なんと・・・なんという事・・・おのれ!!」
凄まじいまでの怒気に、男達は短剣を持ったまま尻餅をつき、その場に凍りつく。
王子は怒りに震える手で剣を振り上げた。

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