『 初恋物語 』

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ところが、キャロルはなぜかメンフィスのことを嫌っていた。
「アイシスには悪いんだけど…メンフィスは本当に我儘ね。アイシスの血の繋がった弟だなんて信じられない。」
「メンフィスは生まれながらの王者…幼き頃はわたくしが厳しく叱る事も出来たのだが、エジプト王の地位に就いてからはさすがにそれも叶わぬ。 メンフィスはそなたに何ぞ無体な仕打ちでもしたか?」
「えっ…そうじゃないけど…」
キャロルは顔を赤くして目を伏せながらアイシスに言った。
「とにかく私はアイシスと一緒でなければ、メンフィスのところには行きたくないわ。」

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(キャロルはどうしたのであろう?メンフィスに乱暴なことをされたのであろうか?)
アイシスはメンフィスと共に政務の間に座っている間中、キャロルのことを考えていた。
(もしも、メンフィスがキャロルに危害を加えようとするならば、他の事とは違うのだから諌めねばならぬ。)
一日の政務が終わった後、アイシスはメンフィスに問いただした。
しかし、メンフィスは不貞腐れた子供のように
「姉上には関係ないこと!」
と言ってさっさと自分の宮殿に帰ってしまった。

「キャロル、久しぶりに一緒に湯浴みをいたさぬか?」
アイシスは宮殿に戻るとキャロルを気遣って声をかけた。
いつもは忙しいアイシスが珍しく早く宮殿に戻ったので
それだけで嬉しそうなキャロルは声を上げて喜んだ。
侍女のアリも遠ざけて湯殿で二人だけになる。
アイシスはキャロルにメンフィスの仕打ちについて聞くつもりであった。

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「うふ。アイシスと一緒にお風呂に入ると、小さい頃ママと一緒にお風呂に入ったことを思い出すわ。」
「ママ、とは母上のことじゃな。」
「そうよ、アイシスはママのお気に入りで…多分、今も私と一緒に居なくなったアイシスのことを心配していると思う…」
「す、すまぬ、キャロル。」
アイシスは慌ててキャロルの肩に手を置いた。キャロルの涙にアイシスは弱いのであった。

「うんん…最初はアイシスを恨んだけれども、今はこっちのアイシスも大好きよ。そして私がもう現代には帰れなくて、ここで生きるしかないんだってことも…」
キャロルはそのままアイシスの胸に抱きついて泣いた。
アイシスは黄金の冠を持つ白い小さな塊が二つの乳房の間に飛び込んできたことに驚きながらも、その柔らかな甘い香りに身動きすることすら忘れてしまった。
(なんということでしょう…この娘の甘く芳しい香り、細い肩、そして何よりも透けるように白い肌に、流れるような黄金の髪…我が弟のメンフィスはこのような娘に何をしたのであろう…!)

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アイシスはキャロルの耳朶に優しく語りかけた。
「ねぇキャロル…ここには誰もおらぬ。メンフィスがそなたに何をしたのか教えてくれぬか…」
「…!…」
キャロルの身体が腕の中で一瞬硬くなるのがアイシスにもハッキリとわかった。
そしてアイシスの腕から逃れようとキャロルがもがく。
「いやっ!アイシスには言えないわ…だって!!」
「キャロル!そなたにはわたくしと共に妃としてメンフィスを支えていってもらいたいと思っているのじゃ。そのそなたとわたくしの間で隠し事などあってはならぬ!」
アイシスはキャロルをきつく抱きしめながら言った。

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「ぅぅっ!」
キャロルの呻き声が聞こえたのでアイシスが驚いて力を緩めると、顔を真っ赤にしたキャロルが叫んだ。
「ぷはーーーっ!やだ、もうっ!アイシスったら!胸の谷間で窒息しそうだったわ!」
さっきまで湯殿に充満していた淫靡な空気はどこへやら、アイシスは声を上げて笑った。
「ほほほ、済まぬ。そなたが余りにも愛らしい故、そなたの母上のような気分になってしもうたのじゃ。」
「うふっ、ママのおっぱいよりもアイシスの方がずっとずっと大きいわ。」
「そうか?そなたの白い胸は…まだ小さいが形は良い。メンフィスに愛されればきっと豊かに美しくなろうて。」

途端にキャロルの碧い瞳が曇り、くるりとアイシスに背を向けた。
「だから……なのよ…」
「キャロル?如何いたしたのだ?」
「…だから…」
「わたくしには何でも話せと言っておるではないか、キャロルよ…」
アイシスはキャロルを抱くように腰から腕を回し、肩越しにキャロルの顔を覗き込んだ。

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自然とその両手は先ほど褒めたまだ小さいが形の良いキャロルの乳房をそっと包む。
アイシスは男達が自分にそうするように
−その中には当然メンフィスも含まれている−
キャロルの胸の頂を指先でそっと触れ刺激を与えた。

「ア、アイシス?!」
「動くでない。メンフィスとて当然そなたに同じ事をしておるであろう?ミタムン王女亡き今、我らは三人が一心同体となりエジプトを守っていかねばならぬのだ。メンフィスの悦びの為に…いや、わたくし自身がそなたを愛しく思うているのかもしれぬ…」
「そっ、そんな…」
アイシスは息遣いの大きくなったキャロルの唇を肩越しに奪おうとした。
「そなたも悦びを感じているのではないのか?」

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「違う…アイシス…やめてっ!」
「なぜじゃ?キャロル。メンフィスはそなたにまだこの様なことを致していないのか?」
「だから、それが嫌なの。だっ、だってこんなこと、愛し合う人と…でしょう?アイシスのことは嫌いじゃないけど、女性同士よ!うんん、それ以上に私はメンフィスに身体を触れられるのが嫌でしょうがないの!アイシスには悪いけれども、メンフィスはもっとしつこく私に触れようとしてくるわ。私はそんなメンフィスが大嫌いよ!」

それだけ言うとキャロルは真っ赤になってアイシスの腕の中で意識を失った。
「キャロル?!だ、誰かある!アリはおらぬか!」
キャロルは湯中りでのぼせてしまったのだ。

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心地よい涼風と口に流し込まれる冷たい水でキャロルは目を覚ました。
目の前にはアイシスの心配げな顔。
「キャロル…大丈夫か?」
「…私…」
「申し訳なかった、キャロル。あまりにもそなたが愛しい故、つい。」
「アイシスったら!アイシスにはメンフィスという人がいるのに、レズかと思ったわ。」
キャロルは湯殿での出来事を思い出したのか、真っ赤になりながら抗議した。
「レズ、とは何のことじゃ?」
「んー、この時代にはそんな言葉はなかったのね…女性同士が愛し合うことよ。」
「ほう…先ほどのような行為ならば女同士でもよくあること。特に戦の時期にはそうやって互いを慰めあうのじゃ。戦場では男同士で慰めおうているらしい。」
「そーいうのは、ホモって言うのよっ!いやらしい!」
キャロルは薄衣を被ってしまった。
「いやいや、本当に申し訳なかったと思っておるのじゃ。機嫌を直しておくれ。」
狼狽するアイシスの声にキャロルは薄衣から目だけを出した。
「本当にもうあんなこと、しないって約束してくれる?」
「もちろんじゃ。そなたの嫌がることは金輪際しない。」
「じゃ、じゃあ…メンフィスにもそう言って…アイシスからきつく言ってもらいたいの。」
ここに来てアイシスはようやくキャロルの本心が理解できた。
いや、確かにメンフィスを好きではないらしい、ということが分かったというだけで、エジプトの王をなぜ愛そうとしないのか?
そういった肝心の事はアイシスには理解できないままなのだが。

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「のう、キャロル。そなた、どうやらメンフィスのことを好きではないらしい。しかし、エジプトのファラオという点を除いても、メンフィス程の男はこの世にはおるまい。メンフィスの妃となり、メンフィスに愛されることこそ、そなたの幸せぞ。」
「アイシスだって、私がライアン兄さんのお嫁さんになって、と言った時には断ったくせに。」
「そのようなことがあったのか?しかし、わたくしには愛するメンフィスが…いずれにせよ無理な話じゃ。」
「そう!私が言いたいのもそれなのよ、アイシス。私だって愛する人と結婚したいわ。一方的に愛されるだけでは、結ばれたって言わないと思うの。」
「ふむ…。確かにそなたの言うことも尤もである。して、そなたは誰と結ばれたいと願っておるのじゃ?」
「だからその相手と巡り合う前にアイシスに古代に連れて来られたのよ…」
「そ、そうか…では、やはりメン…」
「メンフィスみたいな我儘な人は絶対にイヤ!それだったらアイシスのお嫁さんになった方がマシよっ!」
アイシスが言い終わらない内にキャロルは言い放って再び薄衣を被ってしまった。

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確かに我が弟メンフィスは王者たる故傲慢である。)
アイシスは普段のメンフィスの行いを王者として当然の振る舞いだと思っていた。
(しかしキャロルはナイルの女神ハピの娘、メンフィスの治世を女神ハピはお喜びではないのであろうか…)
アイシスは大きくため息をついた。

そんな様子を薄衣から目だけだして覗き込んでいたキャロルは、アイシスの前でメンフィスを貶してしまったからアイシスが悲しんでいる、と勘違いした。
「あの…ごめんなさい、アイシス。アイシスの愛する人を悪く言ってしまって。アイシスのことは大好きよ。…でも自分の愛する人だったら独占したいと思うのが普通なのに、私とも結婚するように勧めるなんて、アイシスもちょっと変だわ。嫉妬しないの?」
「そなたは優しい娘じゃ。そなたが悪いのではないから心配いたすな。」
「アイシスが男でファラオだったら、きっと私、アイシスと喜んで結婚していたのに。」
「そのようなこと…ほほ。そなたはいつも突飛なことを言ってわたくしを笑わせる。」
アイシスはキャロルに優しい笑顔を見せながら言った。
「わたくしとて、どのような女子でもいいからメンフィスの妃に、と勧めておるのではない。そなただからこそ。いつまでもそなたにはわたくしの側にいてもらいたいのじゃ。それにはメンフィスの妃になることが一番だと思ったのだが…そなたはそうは思わぬようじゃ。」

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