『 兄妹 』 11 「いいえ・・・。あなた様がそういうのも当然ですよ。あなた様ほどの年の娘が親元から引き離されて戦に巻き込まれて恐ろしい怪我まで負って・・・。今度は怪我をさせた当人の保護を受ける立場」 ムーラは心からの同情と優しさを込めて少女の細い肩を抱いた。 「あなた様の自制心の強さには感心いたしますよ。本当なら私を側近くに置くこともお嫌でしょうに」 「・・・・あなたは・・・・優しくしてくれるわ。ママ・・・みたい。うまく言えないけれど・・・」 不器用にキャロルは言い、母親を喜ばせようとする幼児のように薬湯を飲み干して見せた。薬湯はまろやかに喉ごしがよく、身体の奥に活力の炎が灯ったような心地にさせられた。 「よくお飲みになりました。さぁ、これで少しずつ良くなられますよ。・・・・キャロル様。どうかお聞き下さいませね。王子は確かにあなた様をお刺しになりました。混乱した戦場の中、エジプト軍の方へと闇雲に駆け出されたあなた様を。それは紛れもない事実でございます」 キャロルは固い顔つきでムーラを見守った。 「王子は確かにあなた様を傷つけられ・・・・でもその後にあなた様を保護され、最高の治療を受けさせて下さいました。王子は心からあなた様をご心配なされておいででございます」 「それは・・・私が捕虜だから?死んだら困るから?エジプトを手に入れる手駒だから?矛盾だらけよ、王子のやり方は!」 「つまらぬ策を弄せずとも王子ならばエジプトを手に入れられましょう。お聞き遊ばせ。王子は本気であなた様を刺された。戦場で、足止めのためには手段を選べなかったのだと私には打ち明けて下さいました。そして王子は本気で、心からあなた様を心配してくださっています。・・・人は・・・全く矛盾するふたつのことをやりおおせるなど簡単なのですよ。小憎たらしいと思い、愛しいと思い・・・。どちらも本当の姿です。分かって下さいませとは申せませぬ。でも覚えておいては欲しいのです。私がお育てした王子は、あなた様がお考えのような醜い怪物ではございませぬ」 12 王子から薬草が届けられるようになって5日ほど過ぎた。 あれからキャロルとムーラは王子のことを話題にはしなかった。しかしキャロルはいつも王子と、そしてムーラの言葉のことを考えていた。 (私は・・・いくら吼えたって所詮、王子に守られているってことよね。滑稽だわ。滑稽で悔しい) 戦場でキャロルを刺したのは、闇雲に走り出したキャロルを止めるためだったとムーラに聞いたとき、キャロルの中で何かが変わった。 (あのとき、私はどうしたかったのかしら?メンフィスの許に帰りたかった?いいえ、エジプトに・・・家族の所に帰りたいとは思ったけれど、メンフィスの所なんてとんでもないわ!私のために戦を起こしたメンフィス・・・。私のために傷つき、死んでいった人たち。でも私は・・・メンフィスが恐ろしい。あの人の望むままに振る舞うなんて出来ない) キャロルはぶるっと震えた。強引で傲慢だったメンフィス。戦まで起こして自分を手許に引き戻そうとした彼に疎ましさすら覚えた。 あのまま放っておいて忘れてくれたなら、キャロルは戦の元凶という重い重い枷を着けずに済んだだろうとまで思った。その勝手さがまた吐き気がするほどの自己嫌悪を誘うのだが。 (王子は私をメンフィスの所から連れだしてくれた。そして私はと言えば、王子を恐れ嫌いつつ、最初に会ったときの優しさが忘れられない。馬鹿みたいだわ!あの思い出に縋ろうとして!) その時。部屋の扉が開いてキャロルの錯綜した思考は断ち切られた。 「王子!どうして・・・!」 「具合は・・・どうか?ナイルの娘よ」 いつもの薬草を手ずから持ってきた王子は素早くキャロルの顔を上向かせ、顔色と熱を改めた。 「かなり落ち着いたと聞いた。様子を見てみたいと思ったのだ。我が儘は言っておらぬか?」 キャロルは真っ赤になって首を振った。ムーラが王子にだけ分かる視線で、キャロルは全く問題のない患者であったと素早く告げた。 「では少しずつ、身体を動かしてみるのだな。外気に触れたり・・・」 そういいざま、王子はキャロルを抱き上げた。 キャロルは本調子でない身体が許す限りの激しさで暴れ、叫んだが、王子は涼しい顔で彼女を王宮の屋上に連れていった。 13 薄暗い階段は不意に途切れ、目の前に雄大な高原都市の風景が広がった。 「わ・・・・あ・・・・」 久しぶりに感じる風、目映い真昼の光が煉瓦づくりの都市群を彩っていた。 キャロルの目の前には幾重にも重なるようにそびえたつ宮殿群、神殿、家屋、城壁がパノラマのように拡がり、抗いを忘れさせた。 (これが・・・ハットウシャ!何て見事な大きな都市かしら?今となっては失われ誰も見ることの叶わない都・・・) 目も口も大きく開け、あまりの感動と驚きに喘ぐように呼吸するキャロルをそっと見下ろすイズミルの視線は優しかった。 「我がヒッタイトの誇るハットウシャだ、ナイルの娘よ。あれが嵐の神の大神殿、あれが政務の行われる表宮殿・・・」 「すごいわ!・・・」 紅潮した頬にうっすらと笑みのような表情すら浮かべて歓喜のつぶやきを漏らしたキャロルだったが、自分を抱き上げるイズミルの大きな腕に気付き、途端に表情を強ばらせた。 「お・・・降ろしてちょうだい、王子!一体どういうつもり?私、赤ん坊じゃありませんものっ、一人で立てます!」 振り上げられた白い手を難なく避けると王子は皮肉に笑った。 「元気なことだな・・・。病人が退屈であろうと連れてきてやったのに」 王子は軽く腕を揺すってキャロルを抱きなおすと、そのまま説明を続けた。 「王宮の表門を出て、嵐の神の大神殿に至り、そして大城門に伸びる、あれが都大路だ。その左右に拡がるのは高官達の屋敷、向こうには民の家々。市場もある」 低い王子の声が直接キャロルの身体に伝わってくる。王子は詳しくキャロルに都の説明をしてやる。 「・・・ああ、姫。すっかりおとなしくなったな。疲れたか?連れて帰ってやろうか?」 「なっ・・・!結構です!私、一人で・・・」 14 キャロルは王子の腕の中から滑り降りた。長く伏せっていた身体はめまいに襲われ、ひどく気分が悪くなったがキャロルは身体を矢狭間で支え王子を見返した。 「ふふ・・・。気の強い子猫だ。よしっ、頑固な子猫は一人で帰るがよかろう」 王子はそう言うと本当に一人で戻っていってしまった。扉の陰で見守っていた人々に手出しは極力するなと言い残して。 病み上がりのキャロルは、自尊心と負けん気でふらつく自分を叱咤激励してどうにかこうにか自室に歩いて戻ったのである。 「・・・全く!王子様もあなた様もなんでございましょう!病人を放って帰ってしまわれる、足許もおぼつかないのに意地を張って一人でお戻りになる!」 ムーラはぷりぷりしながらキャロルの身体のあちこちにできた青あざに軟膏を塗りつけ、薬湯の用意をしていた。 キャロルは目眩と疲労で身体を壁にぶつけ、引きずるようにして―それでもみっともなく這ったりしゃがみ込んで休むような真似はしなかった―部屋に戻ってきたのだ。 ムーラも含めて召使い達は万が一に備えてキャロルを陰から見守っていたが、彼女は自力でやりおおせたというわけだった。 「でも大丈夫だったわ。本当よ、ムーラ。もういつまでも寝ているわけにはいかないわ!」 キャロルは勇ましく言った。 (今日見下ろしたハットウシャの都!王宮を上手く抜け出して、城壁の外に出て、きっとエジプトに帰るわ。エジプトに戻りさえしたらきっとアイシスに頼んで現代に返して貰うから!) ムーラはつい先ほどまでの生気のない輝きの失せた瞳をしていた娘が、今はこちらが圧倒されるほどの生気を取り戻していることに驚いた。 王子はどんな薬もなしえなかったであろう事をいとも易々とやりおおせたのである。 15 キャロルが床上げを済ませたのはそれからまもなくのことだった。 元気になったキャロルは屋上にまた行きたいと言ってムーラを困らせた。 「ね、いいでしょう?外の空気に当たりたいの!」 退屈を持て余す病み上がりの娘に手を焼いたムーラは、彼女を屋上ではなくて中庭に面した露台に連れていってくれた。 「ここならばまだ風も穏やかでございますからね」 美しく装われ、幼さを残す容貌をベールで慎ましく隠したキャロルは王子の宮殿の露台に出た。見下ろす中庭では王子が精鋭の近衛兵を相手に剣の稽古をしていた。 鋭い金属音が響きわたり、真剣が激しく舞った。 「あれは・・・?」 「王子が剣の稽古をなされておいでなのです。王子ほどの使い手はそうそうおりませぬよ」 ムーラは自慢げに説明した。 「でも本物の剣を使っているのよ?怪我でもしたら・・・?」 キャロルの心配そうな様子が思いがけなくて、ムーラは嬉しい驚きを感じた。 「ほほ・・・。王子は大丈夫でございますよ。真に優れた使い手であられるのですもの。ご自身はもとよりお相手が酷く傷つくというようなこともなさいませぬ」 その時、王子が顔を上げ、キャロルに気付いた。 (おお、ずいぶんと快復いたしたな。あの露台に娘を連れてくるとはムーラの心遣いか) 中庭の他の兵士も露台に立つ佳人の姿に気付いたようだ。キャロルの姿を余人の目にさらしたくなくて、王子は剣を従僕に預けると建物の中に入っていった。 「元気そうで安心したぞ」 不意に後ろから声をかけられてキャロルは驚いて飛び上がった。大柄で秀麗な容貌の青年は面白そうに自分を見ている。 「王子・・・。キャロル様がお外の空気に当たりたいと申されましたので」 ムーラの言葉にキャロルは思わず頷いてしまった。王子はくすりと口の端で笑った。 「そうか・・・。そろそろ退屈なのだな。よかろう、小人閑居して不善を為すなどとも異国では申すそう。私が何とかしてやろう」 16 「とりあえずこれを読んでみるのだな・・・」 召使いに運ばせた浅箱から無造作に書物を取りだしてやりながら王子は言った。粘土板もあれば皮の巻物もあり結構な分量だ。 「地誌に歴史書などなど・・・。私も幼い頃に親しんだものだ。どうだ、読んでみたくはないか?」 書物の山から目を離せないでいるキャロルに王子はからかうように言った。 キャロルは自分が「憎まなくてはいけない」相手から、このような心遣いを示されたことで戸惑いと不愉快さが混ざったような顔をしていた。 「でも、私・・・」 「口答えは許さぬ!」 王子にぴしゃりと言われ、キャロルは思わず身をすくめた。 「読んでみたくはないか、ではなくて読んでみよ、だな。そなたは放っておくと何をしでかすか分からぬ油断ならぬ娘。良いか、療養の時間を無為に過ごすことはよくない。私の貸し与えた書物を読み、勉強するのだな。私は怠けやの愚か者は嫌いだ」 「私は怠け者じゃないわ!馬鹿にしないで!」 王子は、元気に囀る金色の小鳥に嬉しさを感じながら、それをつゆも表さず言った。 「そのうちに試験をしてやろう。馬鹿にされるのが嫌ならば、それなりの努力をしてみせよ!」 そういうと王子は午後の執務のために出ていった。 その後ろ姿に憎たらしげに舌を出すキャロルに、ムーラはまたまた驚かされた。 (まぁ、王子のなされようは!大切な書物を惜しげもなくキャロル様に貸し与えられる。なのにキャロル様は王子のご親切に気付こうともなさらぬ 17 ムーラが驚いたことに、キャロルはすぐに書物の山に手を伸ばし、慎重な手つきで中身を改め始めた。キャロルはざっと書物に目を通し、ふたつの山を築いていく。 ムーラの視線に気づいたキャロルは少し赤くなりながら言った。 「読めるのと、そうでないのを選り分けているの。ヒエログリフやアッカド語のは何とか読めるわ。でもヒッタイトの文字は読めなくて。残念ね、ヒッタイト語の書物の方が多いんですもの。 ・・・・・そうだわ、ムーラ!私にヒッタイトの文字を教えてくれない?」 「私が、でございますか?」 「ええ、だめ?私、読みたいのよ。王子に馬鹿にされるのは嫌。ねえ、だめ?お願い!」 結局、ムーラは金髪の娘の熱意には勝てず、にわかの教師になることを約束させられたのであった。 キャロルの熱意は周囲の人々を驚かせた。 文字を読める人間などまだ少なかったこの時代、キャロルは割に短い時間で自分が理解できる文字で書かれた書物を読破した。 ヒッタイトの文字はムーラが教えた。 キャロルは自分が知らないこと、理解できないことを質すのを少しも恥ずかしいとは思っていないらしく―キャロルの年と身分を考えれば珍しい―ムーラや他の召使いにもどんどん質問をした。 「ナイルの娘の部屋はにわかの学校になっているようだな」 王子はムーラの報告を聞きながら笑った。 「娘は落ち着いてきているのか?無茶をしてはおらぬか?身体の方はどうなのだ?」 ムーラはキャロルを心配し、普通以上の気遣いを示しながらも、肩に傷を負わせたという負い目故かろくに彼女を見舞わぬ育て子に答えた。 「王子、あの方は健康も、もともとの明るく優しいご気性も取り戻されたようにございます。どうか試験かたがた、ご自分でお確かめ遊ばして」 18 「王子?! 何か用ですか?」 しばらく、床に座り書物に没頭しているキャロルを愛しげに見ていた王子は、固い少女の声に皮肉な笑みを漏らした。 「ご挨拶だ。勉強は進んでいるか? 怠けずに励んだかどうか確かめてやろうと思ってな」 王子は無遠慮にキャロルの隣に座り込むと無造作にキャロルの膝の間から書物を取り上げた。 「さて・・・と。何から試験するかな・・・」 王子はキャロルの気持ちにわざと気づかぬふりをして、質問を始めた。 試験は単純に暗記した内容を問うものから、知識をもとに考えをまとめなければならないものまでずいぶんと多岐に渡った。 半時ほどして王子は試験を切り上げた。キャロルは最初こそ緊張のせいか少しどもり気味に答えていたが、最後の方はしっかりと思慮深さと自信を感じさせる口調になっていた。 「ふーん。なるほど、そなたは確かに怠け者ではないようだな」 王子の言葉にキャロルは頬を紅潮させ、勝ち誇ったような笑みを浮かべた。 「言ったでしょう?私は自分が知らないことを知るのが好き。書物は面白かったわ」 「書物は全部読んだのか。文字も勉強しているそうだな」 「ええ、まぁ・・・」 キャロルは答えた。 ムーラは他の仕事があるのでしょっちゅうキャロルの教師役を務めることはできないし、召使い達もキャロルの知識欲を満たすには難しくなってきていた。 「もっともっと色々なことを知りたそうだな・・・。ムーラに聞いた。何故にそのように学びたい?若い女であれば美しい衣装や華やかな楽しみ事に心惹かれるだろうに」 王子は学問を重んじ、他者にも怜悧さや思慮深さを求めた。彼はますますキャロルに惹かれているのに、その口は心を裏切って皮肉な言葉ばかりを紡ぐのだった。 19 キャロルは王子の下手な挑発に乗るかとばかりに険悪に目を眇めた。 「何故って・・・。私はこの世界に興味があるからよ。何でも知りたいわ。何でも見たい。もし偏った知識しかなければ、物事を公平に見られなくて恥をかくでしょう?例えば・・・若い女性は馬鹿で虚栄心の塊だとか、男というのはすべからく賢いだとか!」 王子は自分よりはるかに年下の少女の強気な言葉に笑みを誘われた。 生意気な口のききかたをする無礼な少女なのに、不思議と腹立たしさはない。 幼いとばかり思い、侮って相手をしていたキャロルの思いがけない反撃が新鮮だった。 (なるほど、この娘、馬鹿でも詰まらぬ人間でもないらしい。面白い!) 「何に一番興味を覚えた?」 「え・・・? あ・・・・そうね、地誌と歴史」 「そなたが怠け者でなかった褒美をやろう!今望みうる限り最高の教師を差し向ける。そなたの望むままに知識を授け、ついでに礼儀作法も教えられる教師をな」 王子はくしゃっとキャロルの頭を撫でると、上機嫌で出ていった。 後に残ったムーラや侍女たちは、いたく王子のお眼鏡にかなったらしい少女の幸運を羨んだ。王子が他人にあのような心遣いを示したことはついぞない。 その王子の優しさに気づかないのは当のキャロルばかりというわけだった。 次の日の午前中。 教師はいつ来るのだろうと思いながら、ペンを弄んでいたキャロルは唐突な王子の訪れに飛び上がった。 「な、何をしに来たのっ?」 「ご挨拶だな、自分の師に。約束通り、最高の教師がやって来たぞ。さぁ、学びたいことは何だ?何でも教えてやろう。そのような顔をいたすな。私はまじめに言っている」 キャロルはやっとの思いで自制した。 「何を学びたいかというと・・・色々とあるけれど一番知りたいのは地誌と旅の方法。一日も早くこの国を出てエジプトに帰りたいから!」 キャロルは一気に言い放った。 今度は王子が目を眇めた。哀しみと不快が混じった危険な色。 20 「そんなにこの国に居るのが嫌か。エジプトを・・・メンフィスを嫌って泣いていたそなたが、な。あの戦の中、エジプトに戻りファラオに陵辱されるのが本望であったか?」 イズミル王子は言いながらどんどん、どす黒い嫉妬の蔓に心絡め取られていった。 身分を隠して初めて出会ったときから、キャロルは印象的な相手だった。 少し言葉を交わすようになり、ついにはヒッタイトへさらった。 はじめこそ、計算尽くでキャロルに近づいた王子だったが、じきに初めての恋に絡め取られる愚か者に成り下がった。 王子の強引で性急な求愛に、全くの子供であるキャロルは少しずつ傾いていった。 だが戦が起こり、失われていく人命の多さに絶望した少女は王子から離れようとした。闇雲に不幸に向かって走り出した。まるでそれが贖いであるかのように。 だから王子はキャロルを刺した。守るために。全てから守り、ずっと側にいて自分を愛させるために。幸せにするために。 矛盾した理由。 (娘は私を嫌い抜いている・・・) 王子は内心の絶望を押し隠し、キャロルを睨み付けた。 「どうしてそんなこと言うのっ?私に何と答えさせたいのよ?」 とうとうキャロルは自制がきかなくなった。 「分からないわ、分からない。あなたの心が。あなたのせいで私は戦の元凶になってしまったのよ。私のせいで多くの人が倒れた。あなたは私を刺して・・・でも気まぐれとしか思えないやり方で親切めいた真似をする。私は・・・私が一番知りたいのはエジプトに帰る方法なの!帰って・・・戦の償いをして・・・それから帰るの、帰して貰うの、アイシスに!分かった?」 イズミルは自分の心を知ろうともせぬ、つれない娘に意地悪い感情を覚えた。 「・・・・ふーん。そなたはまだ知らなかったかな。女王アイシスは死んだ。ファラオの身代わりに暗殺者の手にかかってな」 王子の復讐は予想外の結果をもたらした。キャロルは声もなく床に倒れたのである。 |