アーロンの寝坊もあって、その日のうちにジョゼまで行きたかった御一行だったが、
ブラスカとアーロンは大事件に巻き込まれてしまった。
酔ったジェクトが、シパーフを魔物と間違い切りかかったのだ。
そのシパーフは後右足に大きな傷を負い、もうジョゼどころではなかった。
酔いのさめたジェクトと3人で地面に額を押し付け謝り、有り金をすべて渡した。
シパーフ使いは心優しく、許してくれたのだが、河を渡るにもシパーフが怪我をしてしまった
ので治るまで待つ事となってしまった。
グアドサラムに戻るのもなんなので、御一行は幻光河近くで野宿する事となった。
1人ムスッと眉間に皺をよせてアーロンは夕飯の支度をしていた。
ジェクトとブラスカは互いにする事もなく、ごろごろしたりしていた。
沈黙が3人を包む。ジェクトはもう見る影もなく黙り込み、いたたまれない。
自分のせいで金を失い遅れをとり、ブラスカはともかく、アーロンの機嫌は正に最悪。
うかつに彼に話し掛ければきっとその包丁で刺されまくる事だろう。
それをわかっていながらもジェクトはおずおずと話し掛けた。
「なあ・・・アーロン・・・・」
「・・・・・・」
「なあ、悪かったって」
ポン、と肩に手をかけたのを合図にアーロンは後ろを振り向くと包丁を振り回した。
「うるさい!あんたのせいでブラスカ様にどれだけご迷惑をかけたかわかってんのか?!」
「うお!あぶねえ!だから何回も謝ったじゃんか。酒もやめるし、機嫌直してくれよ」
「うるさい!邪魔だ!あっち行け!みじん切りにするぞ!!」
怒りのあまり顔を真っ赤にして包丁を振り回すアーロン。
「ジェクト、あまりアーロンを怒らせないでやってくれ」
仕方なしにブラスカが声をかける。
ジェクトもこればかりは仕方がないとアーロンから離れ、河を見つめる。
やっと自分から離れたジェクトを一瞥し、アーロンは鍋の方を向く。
確かに禁酒すると約束したし、過ぎてしまった事を振り返っても仕方ないのはわかっている。
でもアーロンはどうしてもイライラが取れなかった。
昨日のキス。そして今日のジェクトの失態。
考えれば考える程怒りはふつふつとわきあがり、考えないようにしようと努力しているのにそれは
まとわりついてくる。怒りはつのるばかりで一向に消えてくれない。
乱暴に肉を切り、バシャバシャと投げ入れる。
「ああ、もうっ!」
怒りは声になって出て行く。アーロンは声を出しているつもりはないのだが。
アーロンの感情表現に残りの2人は驚きのあまり顔を見合わせた。
特にブラスカの驚きは格別なもので。
大体、アーロンは感情表現は豊かな方だったが、あまり怒りはしなかった。怒ったとしても、
あまり大声で怒鳴ったりはしない。それがジェクトに会った当初から食ってかかったりしていて
どうも不自然だな・・・と思っていた矢先だった。
あんな風にモノに当たる子ではなかったのに・・・。と思う。
単にジェクトの失態だけが原因ではないな・・・と感じた。思えば今日の戦いではアーロンは一度
もジェクトを見なかった。昔のように、嫌な予感がする。そしてブラスカの嫌な予感は良く当たるもの
であった。
「ジェクト・・・ちょっと・・・」
ブラスカはジェクトを誘うと1人イライラしているアーロンを置いて、木の裏へとまわった。
「君、昨日アーロンに何かした?」
アーロンに聞こえない程度の声でジェクトに問うと、ジェクトは右肩に手をおき、首を動かす。
「いや、何も言ってないんだけど・・・」
「じゃあ、何かした?」
確信をもって言うと、ジェクトはギクッと肩を揺らした。
やっぱり・・・。
ブラスカは予感が的中したことに肩を落とす。
アーロンが10代の頃、彼は同性愛を趣向とする連中に何度も襲われた事があった。
その都度ブラスカは権力を使い、退けていたのだが、それも追いつかないほどの男の数だった。
彼もはじめの頃はつらそうな顔をして我慢していたのだが、慣れてくるとその次の日には怒りを
顔中にあらわにしていたものだった。
彼が強くなればなるほど手を出す者は減っていき、最近ではそんな輩はいなくなったのだが。
ここにそんなツワモノがいたとは。
「あのね、ジェクト。別に君を怒るわけじゃないんだけどね・・・」
仕方ない。彼の名誉のためには言わないほうがよいのだろうけど、言わなければジェクトは
止められない。ブラスカは語りだした。
「彼、あの容姿だろ?若い時から男に襲われる事が多くてね。そのたびつらそうな顔して我慢してた
んだ。幸いわたしが気付くのが早くてあの子を襲った輩は処分してきたけど」
ジェクトの顔から照れ隠しの笑みが消える。
「何かされた日はイライラしてて誰も止められなかった。私以外にはね。礼儀正しくて冷静な彼が、
ミスを連発して起こる上司に怒鳴り返したりね。大体、上司は彼を襲った経験があるから強くは
いえなかったけど。とにかく怒っているアーロンは使い物にならないから興味本位で彼に手を出す
のはやめてもらえるかな」
アーロンはその幼い心に、性行為に対する恐怖と嫌悪を植え込まれ、それを許してしまう自分へ
の自己嫌悪できっとイライラしちゃうんだよ、と告げられた。
「それとも、本気なのかい・・・?」
何も言わないジェクトにブラスカは再度問う。
「君は・・・本気なのかい?」
ジェクトは難しそうな顔をしてぽりぽり頭をかく。
「まだわかんねえ。だけど、気になる・・・のは確かだ」
「・・・今まで男性経験は?」
「んなもん、ねえよ」
黙ってたって女の方から群がってくるんだからよ、とジェクトは偉そうに踏ん反り返った。
同性愛者・・・ではない、というわけか。
ブラスカの心境ははっきり言って複雑だった。
ブラスカがアーロンと始めて会ったのは彼が5歳の時。
師に拾われ僧官としての勉強をしていた頃。彼はその小さい体の何倍もの長さの剣を、ふらふら
しながらふるっていた。まだ短い髪の束を揺らして。
表情は険しく、5歳の子供が出来る表情ではなかった。少年期だったブラスカの瞳にそれは
衝撃的なものだった。あれがアーヴァイン様の遺児だよと師に言われたときもさらに衝撃的だった。
次に会ったのは、彼が12歳の時。
通常の人間ならば5年かけてやっと修得できる秘伝といわれる剣技の基本技のテストに、たった2年
で出るやつかいる・・・という噂を聞いた頃。
小さな体の彼が、いくらか成長した後姿を見かけた。
基本技の修得テストに参加した彼は、12歳という若さで修得テストに合格した。その後姿がゆっくりと前
を向いた瞬間。周りの声が止まる。
12歳とは思えない整った美しい顔。しかしその表情は押さなかった頃よりもひどく冷たくなっていた。
ブラスカにはかつて師がみせてくれた召喚獣・シヴァよりも冷たく感じられた。
初めて話をしたのは彼が14歳の時。
僧官として有名になり始めた頃。
ブラスカが先輩の部屋に入ろうとしたとき、急に扉が開いて出てきた彼とぶつかった。勢いでブラスカは
ひっくり返り、彼はブラスカの上にかぶさる形となった。
「いてててて・・・・」
「す、すみません!大丈夫ですか?!」
頭を抱えるブラスカにごめんなさい、と慌てて身を起こす。
「あははは・・・大丈夫だよ・・・それより君・・・こそ・・・」
彼の姿をみて言葉を失った。
はだけた胸元には紅い跡が残り、手首には擦った跡。
何をされたかは一目瞭然。
「あ・・・・」
一杯の涙を必死でこらえ、彼は立ち上がり頭を下げ、走り去ろうとする。
「おい、アーロン、逃げるんじゃねえよ。お前はこれから一生俺に尽くすんだからな」
開いたままの扉から男が顔を出す。
「・・・っ」
アーロン、と呼ばれた彼は唇をかみ締めて走り去る。
「なんだ、ブラスカ。こんな時間にどうした」
あんな子供に手を出すなんて・・・。
ブラスカは目の前の男に激しい怒りを覚えた。
「なんだ・・・俺に抱かれに来たわけか」
そのまま肩を抱かれ、扉がしまる。その瞬間。ブラスカは男を一瞬で殺した。
黒魔法・デス。人には使ってはいけない暗黒魔法。
「お前にあの子を汚す権利なんかない」
肉の塊となったそれの胸に、男の引き出しから布越しにナイフを取り出し突き刺した。
アーロンはその後も執拗に男に追い掛け回された。ブラスカが必死になって止めようとしても、
間に合わないほどに。アーロンの心はどんどん氷付いていった。
だが、それはある日を境にぴったりと止まることになった。
アーロンが4大秘伝のうちのひとつ『牙龍』を会得したのだ。
そしてある晩、ブラスカは聞いてしまった。今まで体を繋げていた相手に彼の言った言葉。
『次に俺を抱こうとしたら確実に殺しますから』
背筋に悪寒が走った。はじめてアーロンを恐ろしいと思った。
そして、こういう子供を作り出してしまったのは、シン、そしてこのエボンの教え。
僧官でありながらブラスカはエボンに不信を抱いた。そしてベベルを離れた。
そして出会ったアルベド族の女性。決して満足とはいえない、しいたげられた日々の中でも
美しく生きる、アーロンとさほど歳の変わらないこの女性と恋に落ちた。
駆け落ち同然で結婚し、妊娠、そして出産。
差別する種族と差別される種族。両方の種族の希望となってほしい・・・と、スピラに希望を
与えたユウナレスカの名を受け継がせた。
きちんとした会話をしたのはブラスカがルカへ赴く時だった。
33歳にしてかなりの権力者となっていたブラスカの護衛に、アーロンが選ばれた。
「この度、護衛を務めさせていただくことになりました、アーロンと申します」
深々と頭をさげるアーロンもすでに20を超え、体つきも男らしく逞しくなっていた。
相変わらず顔は無表情のままだったけれど。
「こちらこそよろしく、アーロン」
ミヘン街道のアルベド族の経営する旅行公司前に広がる夕日を、ブラスカは眺めていた。
明日は妻は1度ホームに帰るといっていた。ユウナはとなりの家に預ける、と。
「ここにいたのですか、ブラスカ様」
急に声をかけられた。見上げた顔には笑みが広がっていた。
思わず言葉を失う。
「?どうされました?」
首をかしげてくるアーロンに我にかえる。
「・・・君はとても綺麗な顔で笑うんだね・・・」
「!」
言われた言葉にムッとするアーロン。きっと、散々言われてきたんだろうと思う。
「・・・・私はね・・・」
ブラスカは、アーロンとさほど変わらない過去を話し出した。
「幼い頃に両親をなくしてね・・・孤児院で育って、師に拾ってもらって20になるまでずっとお世話
をしてきたんだ・・・・・・もちろん、夜の世話もね」
はっと自分の顔を見つめるアーロンの顔を見ずにブラスカは再び口を開く。
「友人に聞けば、誰もが何らかのなぐさみ者になっていてね。師もそうやって権力をにぎったと。
権力を握らなければ一生なぐさみ者・・・・。だから私も例外にもれる事無く体で権力をもぎ取っていった。
ある程度の権力さえ握ればあとは楽だからね」
おそらくアーロンにとっては軽蔑するに値する言葉をブラスカは遠慮なく吐いた。
「・・・でも、それは間違いだったんだ。気付いた時には・・・もう遅かった。自分の後の世代の子達が、
自分の世代のなぐさみ者になるだけだって事に私は気付けなかった。納得できなかった私は僧官で
あるのにエボンの教えを疑った。そして旅に出た」
「・・・・・・」
「そこで出会ったアルベドの女性と私は結婚した。君も聞いたことがあるだろう?
『ブラスカはアルベドと結婚した落ちこぼれの僧官長』って。私は僧官長なんて高位な職を
やっているが、本当は今にでも辞めてしまいたいんだよ」
これは、アーロンにしかいえない事。
「でもね、私はスピラが好きなんだ。シンに襲われながらも懸命に生きるスピラの人々が好きなんだ。
だからそのためにこの権力が使えるのならば辞めるわけにはいかないんだ。シンを倒したいなら
召喚士になればいいと言われるけど、シンの前にまずもう誰もなぐさみ者にならない世界を作らないと
ね。そのために去年孤児院法を変えてやったんだ」
複雑な表情のままアーロンはブラスカの言葉を聞いていた。
「私は私なりに頑張ってきたんだよ。だからアーロンもこの先何があっても決してくじけてはいけないよ。
時代は・・・いつか変わるんだ・・・必ず、変えてやる」
そういうブラスカの横顔をアーロンは勇ましい・・・と思っていた。
「私も・・・この時代を変えたい・・・と思っております」
「・・・私を軽蔑しないのかい?」
「・・・何故でしょうか?」
「だって私は権力を握る為に体を使い、挙句アルベドと結婚した男ですよ?」
普通ならば軽蔑されるのは当たり前だ。
「でも、貴方は誰もが思いつかない様な意思を持っていらっしゃる・・・。
老師でも『時代はいつか変わる』なんていいません。初めて自分と同じ意思を持つ方と知り合えました」
そういって微笑んだ。
「ハハハ・・・君には敵わないよ」
「何がです?」
「いいんだ、こっちの話だから」
「はぁ・・・・」
守ろう。もう悲しい思いはさせたくない。
そう決心したブラスカは翌日、妻の船がシンに襲われた事を知る。
召喚士になる決意をしたブラスカは、シンに対する憎しみに満ちていた・・・。
「ブラスカ、どした?」
ジェクトに覗き込まれて正気に戻る。
「・・・悪い。ちょっと考え事をしていた」
「いいや」
「・・・ともかく、君が本気なら私も文句は言わないよ。ただ、まだその時ではないようだから、
絶対に手は出すなよ。口説いてもいいけど」
「・・・・・マジですか?」
「ああ。彼が幸せになれるのならいいよ」
「父親みてえないい方だな」
ジェクトの言葉にブラスカは笑って、その通りだよ、と告げた。
アーロンの様子を見ると何かまだぶつぶつ文句をいっているが、そのおかげで大分怒りは抜けて
きたようだ。
「アーロン、どうだい?」
「あと少しで出来ます。もう少し煮込もうかと」
そう言って笑顔を作るこの顔はまったく変わらない。
変わったのは・・・
「私の心か・・・」
「何がです?」
「いいんだ。こっちの話だから」
「はあ・・・」
2年前と同じ会話に、すこし含み笑いをした。
ジョゼ寺院でイクシオンを手に入れたあと、一行はルカを目指した。
キノコ岩街道を抜け、ミヘン街道へと差し掛かる。
ミヘン街道まで出てしまえば1日でルカにつく。チョコボを使おうとしたが・・・なにぶん金がない。
「なあ、アーロンv」
「うるさい!ひっつくな!!」
あれから1週間。ジェクトはブラスカの言いつけ通り、手を出さず、懸命に口説いているらしい。
嫌がるアーロンも、表情がだんだんとやわらかくなってきている。
・・・慣れてきたときに襲われたら、きっとアーロンは拒めないね。
などと考えながらこの1週間は2人のケンカも心地よく聞こえた。
ジェクトに追いかけられて必死に坂を駆けて行くアーロンは見物だし、それを追いかけるジェクト
の顔も、まんざらじゃない。
坂で追いつかれて抱き締められているアーロンをみてニコニコしていたブラスカに叫び声。
「ブラスカ様!見てないで助けてください!!」
「あははははは」
「ブラスカ様!!!や、やめろこの馬鹿!!離せ!!」
「やなこった」
「ぐう!!」
アーロンは剣を振り回して反抗してやっとの事で離してもらえる。
「2人とも仲がよいねえ」
「ブラスカ様!そんなことありません!!」
「何言ってんだ。十分仲良しだろうが」
「ジェクト!!!」
「あ〜〜楽しい」
「・・・ブラスカ様・・・・」
ブラスカは今が旅の中で一番幸せだった。
そんな3人が旅行公司の前に差し掛かった時だった。
遠くの海が山盛りになって、一気に弾けた。その中から異型の怪物が姿をあらわした。
「シンだ!!!」
「何?!」
「ミヘン街道・・・?いや、ルカに向かっているぞ!!!!」
旅人の言葉に、ブラスカはバハムートを召喚した。
「ジェクト、アーロン!!下がっていなさい!!やつはこっちにむかってくるかも知れない!」
「ブラスカ様!!」
「ブラスカ!!」
「いいからはやく・・・!バハムート!!メガフレアです!!!」
バハムートの背中の車輪が回りだし、口にエネルギーが溜まる。バハムートはそれを一気に
シンめがけて放った。
シンこれで死ぬとは到底思わない。だが、ルカはスピラ第2の都市。滅ぼされたくない。
せめて注意をこちらにそらしたかった。
思惑通り、シンはこちらに向いた。
「バハムート!!みなを安全な所へ!!」
バハムートが旅人を避難させている間にブラスカはシヴァとイクシオンを召喚した。
「ぐ・・・・」
一気に召喚した事で、ブラスカは体をよろめかせた。
「ブラスカ様!!!」
バハムートの背から飛び降りたアーロンがブラスカに駆け寄った。
「大丈夫ですか、ブラスカ様!!」
「何故来た!!」
凄い剣幕で怒鳴られ、アーロンは身じろいだ。
「君をこんな所で死なせるわけにはいかないんだ!!!」
いいから戻ってくれ・・・・とブラスカはそれだけいうと、近づいてくるシンに真正面から向きなおし、
召喚獣に命令した。
「オーバードライブ技を・・・ダブルで出せ!」
「そんな・・・!ブラスカ様、死ぬ気ですか!!」
アーロンの叫びもかき消され、シヴァとイクシオンは共に必殺技を繰り出した。
だがそれはシンのコケラを生み出しただけだった。
目の前に近づいたシンがその大きな口をあけて吸い込もうとした瞬間だった。
「やめろおお!!!」
2人の前にジェクトが立ちふさがった。
ジェクトはその紅い瞳でシンを射抜く。
そして、シンの動きが止まった。
「・・・・・・・」
「・・・・・・?」
「お前・・・そんなのになっちまったのかよ・・・・」
ジェクトの呟きが2人の耳に届く。
「お前、ザナルの海にいた時は静かだったじゃないか・・・」
ジェクトの言葉に、シンはその鼻先をジェクトに押し付けた。
とたん、ジェクトの脳裏にザナルカンドの光景が映し出された。そして何者かが囁いた。
「うっ!!」
ジェクトが座り込むのと同時に、シンは海の中に消えていった。
「ジェクト!ジェクト!大丈夫か?」
アーロンは激しくジェクトを揺らす。頭を振ってジェクトは起き上がった。
「大丈夫かい、ジェクト」
「あ、ああ・・・・」
おかしい。ジェクトの瞳が、金色に・・・・・
触れていたアーロンの脳裏に、きらびやかな、光り輝く街の光景が映し出された。
機械だらけで水にあふれ、夜なのに街が光っている。
「ぐ!!!」
「アーロン!!」
ジェクトに続いてアーロンも倒れ、ブラスカは焦った。そしてアーロンに触れた瞬間・・・。
ブラスカの脳裏にも、アーロンと同じものが映し出された。
「・・・・・ここは・・・・」
目を開いたら白い壁があった。
身を起こしてみると、ブラスカはまだベッドの中。ジェクトだけがベッドの上であぐらをかいていた。
「・・・よお・・・起きたか・・・ここは旅行公司の中だ」
「・・・シンは・・・?」
「・・・海に消えた。ルカも無事だ・・・」
「そうか・・・」
アーロンはジェクトの瞳を見つめた。もういつもの紅い色に戻っていた。
「・・・シンに触れた時よ・・・」
ジェクトが困ったような顔をして言う。
「俺のザナルカンドが・・・俺の頭ん中で出てきて・・・・・」
「・・・ザナルカンド・・・?」
「ああ・・・・光にあふれてて、機械仕掛けで眠らない街・ザナルカンド」
「光?!」
アーロンは驚いた。ジェクトの言った事は、自分が見た光景とまったく一緒だったから。
「・・・俺も、お前に触れた時、同じ光景を見た・・・」
「おめえも?」
「あ、ああ・・・光がいっぱいで、水が流れてて、海の上にスタジアムがあって・・・」
なんて事だ。ザナルカンドは存在するのか・・・?北の果てにあるザナルカンドなのか?
「・・・ザナルカンドは遺跡なんだろ・・・??」
「・・・そう習った。1000年前に滅びたって・・・」
でも脳裏でみた光景はどう見ても滅びているようには見えない。
「・・・行けば・・・わかるさ」
ジェクトはそういって窓の外を眺めた。
「シンはザナルじゃ一度も人を襲わなかった。海ん中に、クジラみたいにいて。だから、
あんなのが人を襲うなんて・・・考えてなかった。けど・・・今日、アイツは街を襲おうとしてた」
見つめる紅い瞳の先には・・・何が映っているのだろうか・・・。
「倒さなきゃ・・・いけねぇんだな」
だが、ジェクトの頭の中で誰かが呟いていた言葉。
『シンは夢の海で体を癒す。真実に触れた夢は現実に・・・』
何が夢で何が現実なのか、わからない。
だけど、シンによってスピラに飛ばされ、シンに触れてザナルカンドを見た。
シンを倒したら、ザナルカンドへは帰れない・・・?
でも、目的地の北の果てには自分のザナルカンドがあるかもしれない。
「・・・ジェクト・・・?」
どこか遠い目をしているジェクトに、アーロンはふと不安になる。
ジェクトがこういう目をしているときは、ザナルカンドの事を考えている時。
ザナルカンドへ帰る方法がみつかれば、ジェクトは自分達をおいて帰ってしまうだろう。
口では嫌がっていても、アーロンは今の道中が結構楽しく思えている。
僧兵の頃はそんな風にじゃれあう仲間もいなかったし、ブラスカが最後に死ぬこの旅を楽しい
と思う気持ちはまったくなかった。だけど、この男は自分のそんな気持ちを見透かした様に
明るく振舞っている。単に馬鹿なだけかもしれないが・・・・。
もちろん、シパーフ事件の様に失態はおかすし自分にキスした上、絡んでくるし。
だけども、絡まれるのも最近はなんだか心から嫌だとは思わなくなっていた。
もう絡まれるのに慣れた・・・のかも知れないが、ジェクトのする事に最近視線が行くように
なっていたような気がする。
ジェクトの戯言に流されているとでもいうのだろうか・・・。
「・・・何そんな顔してやがる・・・」
両手を顔に添えられてジェクトを見上げる。
「・・・ジェクト・・・」
「俺はどこにもいかねぇよ。シンを倒すまではな」
シンを倒すまでは・・・か。ガードだから当然だな。
「だから・・・そんな顔するな・・・」
ジェクトに優しく口付けられて、アーロンは静かに瞳を閉じた。
触れるだけの、優しい口付け。
(ジェクト・・・・・)
・・・俺は・・・コイツとキスしても・・・いやじゃない・・・。
「アーロン・・・」
「・・・あ」
「すまん、キスする気はなかったんだけど・・つい・・・」
照れ隠しに頭をポリポリと掻いた。
「・・・別に、いい・・・たまになら」
「・・・?」
アーロンは自分の言った言葉に恥ずかしくなり、顔を下に向けてしまった。
こ、これじゃキスしてもいいって言っている様なもんじゃないか・・・!!
「アーロン、何か悪いモンでも食ったのか?」
「・・・二度とすんな」
「ああ!ごめんなさい!撤回するから・・・もう1回・・・いい・・・??」
お願いするように少し首を傾げるジェクトに、アーロンは笑う。
そんなに俺としたいのか、こいつは・・・。
「・・・1回だけだぞ」
「やたvじゃあ遠慮なくv」
柄にもない事を言ってしまった・・・と思ったときにはすでに唇を奪われていた。
「ん!んん〜!」
遠慮なく舌を差し込まれてアーロンは慌てて身を剥ごうと必死になるが、両手をジェクトに
封じられてしまう。
次第に体中から力が抜けてしまい、アーロンは終いにはジェクトに身を任せる結果となってしまう。
「・・・よかったか・・・?」
「・・・っ聞くなこの馬鹿モン・・・!」
真っ赤なアーロンをベッドに押し倒してジェクトはニヤリと笑った。
「ジェ、ジェクト???」
「いただき♪」
「あ!ジェクト!ちょっと!!」
首筋に唇を這わされギョッとしてジェクトの背中を叩くアーロンの必死の反抗もむなしくジェクトの
唇が服の中の素肌に這わされようとした時・・・。
「・・・ジェクト・・・」
「ヒィ・・・・・」
ジェクトの背後で凄まじい殺気を放つ人物の声にジェクトが小さい悲鳴をあげた。
「誰が手を出していいと言ったかい。ジェクト君」
冷たい笑みを浮かべたブラスカに蒼白になるジェクトは哀れな程情けない顔をしていた。
「あ、いや、その、なんだ、まだなんにもしてない・・・・」
「・・・バハムート、出ておいで」
「や、やめろブラスカ!お、俺が悪かった〜!!!!」
ドアを飛び出したジェクトを一瞥したあと、ブラスカはアーロンに目配せをした。
「ブラスカ様・・・」
「ふふふ・・・見せ付けてくれるねぇ、2人共」
「ブラスカ様、何を・・・っ」
何を勘違いを・・・と開きかけた口元に、ブラスカの指が立てられる。
「ジェクトは君が好きみたいだ」
「・・・!!」
「君はどうなんだい??」
「ど、どうって・・・・」
いきなりの事で、アーロンにも良くわからない。
ただ、キスされるのは・・・嫌じゃない・・・。
ジェクトが自分が好きなのは薄々気付いていた。
自分は?といわれると良くわからないな・・・。
なんて、同性愛を嫌っていた自分のセリフとは思えないな・・・。
「結構いい雰囲気だったけど?」
「そ、そんな事ないです!!!!」
咄嗟に口に出た言葉に、ブラスカはそうかな?といった顔を浮かべている。
「・・・君とジェクトが出逢ったのも運命なんだから、たまには流れに身を任せてみても
いいんじゃないかい?」
「・・・?」
「君も、きっと幸せになれるさ・・・」
「ブラスカ・・・様・・・?」
ブラスカの顔の少し影身があったのが少し気になった。
「素直になりなさい、アーロン」
運命には誰も逆らえないのだから・・・。
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