約束の地で

   2)自覚





「腹減ったなぁ〜」
マカラーニャ寺院でシヴァを召喚獣としたブラスカ御一行は、そろそろ雷平原へとさしかかろうと
していた。3人はすでに朝食を取った後だったが、ジェクトには満腹になる代物ではなかったようで。
「なあ〜、メシにしようぜ」
「先程食べたばかりだろう!ブラスカ様の分も半分食べたくせに!」
2日連続で祈り子と対面したブラスカはさすがに疲労が残り、昨日はもう一泊する事になった。
夕食にまったく手をつけられなかったブラスカも、朝食は少し取り、残りは前の日に夕食を
2人分食べて調子に乗ってるジェクトにやったのだ。
「お前は遠慮というものを知らなすぎる!」
「あったり前だ!皆が俺様に遠慮してたんだからな」
「そんなの威張って言うもんじゃないだろう!ちょっとは申し訳ない、悪いな、と思う心を持て!!」
「んなもん持ってたらブリッツで頂点取れねえだろうが」
言い合いを始めた2人を、みつめてブラスカはため息をついた。
この先ずっと、この2人は言い争いながら旅をしていくのかな・・・と思うと、賑やか・・・という
よりは少し気が重くなるな・・・と思いながら、先を進もうと2人から視線をそらした時だった。
「ガードになった時点でブリッツなど・・・・・・」
ガサガサ、と前の茂みが動いた。
とたんアーロンの表情が変わり、ジェクトはなんだ?と洩らした。
「ブラスカ様をお守りしろ!!」
なにもわからないジェクトがあっけに取られていると、アーロンが強く叫んだ。
「ああん?」
背中に剣を担ぎ。険しい顔をしているアーロンの視線の先には先程の茂み。
その茂みから狼系の魔物が飛び出してくると、ジェクトはびっくりして尻餅をついた。
「な、なんだありゃあ〜?!」
「魔物じゃないか。何をびっくりしているんだい?」
「な、だ、だって・・・!!」
「もしかして・・・魔物を見るのは初めてかい?」
ブラスカはそういうとなにやらぶつぶつ言い出した。
「・・・・・・・・・ファイア」
すると、アーロンの前にいた1匹の魔物の体を炎が包み込んだ。
「ギャウッ」
パア―・・・と蛍のようなものが舞った。
「な、なんだぁ〜??!!」
ジェクトは自分の周りで起きている事が信じられなかった。
「ブラスカ様!!こんなザコ、俺一人で十分です!」
そういうと、魔物の1匹に向かって背中の剣を振り下ろした。
「ギャッ」
また蛍の様なものが舞う。
「ほお・・・・・・さすがベベル一の剣の使い手だな」
ブラスカが感心している間に最後の1匹を倒したアーロンが戻ってきた。
「見事なものだね」
ブラスカの言葉にアーロンは嬉しそうにありがとうございます、と一礼すると、座ってボーゼンと
しているジェクトに体を向けた。
「ジェクト、お前は一体何をしているんだ。ブラスカ様のお守りしろといったのに!」
だがジェクトはアーロンをみて口をあんぐり開けたまま。
「ジェクト・・・?」
「ジェクトははじめてなんだよ。魔物見るの」
「・・・・・・え?」
まさか・・・と思ったが、ジェクトの反応はさすがにウソをついているようには見えない。
「ザナルカンドには魔物は出ないのかい?」
「あったりまえだ!!あんなの出るか!!」
まだ地面についたままのジェクトはブラスカの言葉に大声でこたえた。
「スピラじゃ魔物なんてそこら中にうじゃうじゃいるんだよ。今まで会わなかったのが不思議
なくらいね」
「まったく・・・・・・この先が思いやられるな・・・どう戦って行く気だ」
アーロンの言葉に、ブラスカがあ、と声を出す。
「そういえば、ジェクトに武器買ってなかったね!この先の雷平原前に武器屋があるから、
そこで買おう」
仕方がありませんね、というアーロンとブラスカを、ジェクトはとんでもない奴らだ、と思っていた。









「どれがいいかなあ」
たくさんの武器の前でジェクトは楽しそうにひとつひとつ手に取りながら言った。アーロンも
せっかく武器屋に寄ったんだから・・・と主人に剣を砥いでもらっている。
「俺のが砥ぎ終わるまでには決めろよ。時間はあっても足りないんだからな」
「へいへい」
ムスッとしたアーロンにブラスカが近寄る。
「そんなにカッカしなくてもいいでしょう。彼も彼なりにここに慣れようと必死なんだからね」
「ブラスカ様・・・」
「君だってずっと怒っていたら疲れるでしょう?ホラ・・・」
「え?」
ブラスカがアーロンに手をのばす。彼の眉間に触れ、クスッと笑う。
「眉間にシワが寄ってるよ。あんまり怒ってるとシワ出来ちゃうよ。まだ若いのに」
「ブ、ブラスカ様・・・!!」
「まあ、怒ってる顔も、可愛いんだけどね」
「か、可愛い・・・?!」
一瞬何を言われたのかわからないアーロンにさらにブラスカは言う。
「ジェクトがふらふらしていない時の、ぽけーっとした顔はもっと可愛いけど」
カッと顔が紅くなっていくアーロンの様子を見て、ブラスカはついに笑い出してしまった。
「ブラスカ様!お、俺をからかわないでください!!」
「なんでえ、何笑ってんだあブラスカ?」
一通り武器に手を通したらしいジェクトはアーロンが真っ赤になっているのに気づく。
「アーロン、何真っ赤になってんだ?」
「う、うるさい!」
「でもまあ、いっつも眉間にシワ寄せてムスッとしてるよりゃイイわ」
誰のせいだ。誰の。
「いっつもそんな顔してりゃ、可愛いんだけどな」
その発言にブラスカはついに腹を抱えた。
「あはははははは!!!」
「ブラスカ様っ!!」









ジェクトも随分と剣になれ、戦いも上手くなった。
もともとの運動神経は良いらしい。ブリッツのエースとは名ばかりじゃないな・・・。
グアドサラムの宿の部屋で剣の手入れをしながらアーロンは思った。
最初はただ振り回すだけだった重剣をうまく力を抜いて調節し、下級の魔物なら一撃だ。
物覚えが良いので、自分の教えた事をすべて吸収する。ブラスカも、彼の上達の早さには
目を見張っていた。このままではいつか自分を追い越すかも知れない。
「・・・ちっ・・・」
アーロンは思わず舌打ちをした。
幼いうちに両親をシンに殺され孤児院に入れられ、物心ついたときにはすでに剣を振り回していた。
10歳から本格的にけいこをはじめ、僧兵となった15歳の頃には敵無しだった。
事実、彼の担当する西エリアでは大きな被害はまったく出ていない。
聖獣エフレイエ並だと老師に褒められた事もある。アーロンの父もまた老師であった上に剣の
使い手だったから、これは血筋なんだね、と昔ブラスカに言われたのを思い出す。
そんな自分に、ジェクトはたった・・・そう、たったの4、5日で追い越されるかもしれない・・・という
不安を抱かせた。
「くそっ」
手にした剣をガチャッと剣立てにかける。
落ち着こうと考え外に出ようと扉をあけた。
「ぐおっ!」
にぶい音がして、なんだとのぞくと。
「いってえじゃねーかアーロン」
鼻を押さえてるジェクトがいた。
「な、なにしてんだお前」
うおー、いてー、とかうめくジェクトに少なからず驚いてしまった。
なぜ、自分の部屋の前にいたのか。
「大丈夫かいジェクト?だからノックしてからの方がいいって言ったのに」
ジェクトの後ろにはブラスカもいた。
「ブラスカ様まで、どうしたんですか?」
ブラスカは少し困った顔をしていた。
「うーん、それがねー、他の召喚士が来たから、部屋を1つで使ってくれって言われたんだよ」
はあ・・・・・・とブラスカがめずらしく嫌そうな顔をした。
「え?」
「ひどい話だと思わねーか?ったく。こっちが先に入ったのによ」
肩に右手をおき、コキ、コキとやりながらジェクトは半ば大声でいう。鼻がまだ赤い。
「どなたがお泊りに?」
ブラスカが嫌そうな顔をしていたのでまさか・・・と思いながら尋ねると、ブラスカはさらに顔を
歪めて間を開けたあと、言う。
「・・・・・・ガルフだよ・・・・」
「呼び捨てとはいい度胸だな」
3人が声をした方を見ると、大柄の男が4人立っていた。
「ガルフ様・・・・」
「もうお前とは身分に差があるんだ。昔の様に呼ぶな」
老師の息子であるガルフはその権力を使い、優秀な僧兵をガードとして引き抜く、ガードの
中では色々な意味でかなり有名な召喚士だった。老師達からしてみれば血筋は優秀、
実力はどうだか知らないが、最もシンを倒すのに似合う召喚士・・・とベベルで言われている
人物だった。歳が近いせいか、ガルフはブラスカを一方的に意識しては自分が彼より優位に
立つ事を考えていて、嫌う者も多いが権力がある為口にしない者が多い。
そしてまたブラスカも彼は苦手だった。
「アーロン、君は本当にブラスカのガードになったのか。この目で見るまでは信じられなかったよ」
ガルフは鼻で笑いながらアーロンをみ、そして再度ブラスカの方を向いた。
「ブラスカ、一体どんな手を使ってアーロンをたぶらかしたんだ」
「な・・・」
ガルフのあまりの発言にアーロンは思わず声が出る。
「てめぇ・・・」
ジェクトもこぶしを強く握る。振り上げようとしたそれを、ブラスカが制御した。
「私は何も言ってない。彼が自ら進んで私のガードになってくれたんだ」
自分よりも背の高いガルフを見上げ、ブラスカははっきりと発言する。
「俺はアーロンに俺のガードになるように言ったんだよ。そしたらもう召喚士は決まっているって
言われてね。まさか、お前みたいな落ちこぼれのガードになるなんて、西にアーロンありとまで
言われた剣の使い手も随分と落ちたもんだな。アーヴァイン様もがっかりだ」
ピクッとアーロンの肩が揺れた。
ガルフはそんなアーロンに気づかず、ふっと笑みを残し、再度アーロンを見る。
「アーロン、今からでも遅くはない。俺のガードになれ。俺のガードになれば金はいくらでも
やるし、異界のアーヴァイン様もきっとお喜びになるだろうよ」
ガルフを囲む彼のガード達は、服の中から大金を出しアーロンの前でにやにやしながら
それをちらつかせた。カッと顔が紅くなるアーロンに、ガルフはなお話しつづけた。
「アーヴァイン様は優れた老師だった。まあ、何故あんな時期にベベルを離れたのかは知らん
が、まあおかげで俺の親父は老師になれたんだがな」
耐え切れずにうつむくアーロンを、「おい、」とジェクトが心配するが、アーロンは顔をあげる事
が出来なかった。
「いい加減にしないかっ!!」
突然声を荒げたブラスカに、周囲が騒然とする。
「お前、そんな歳にもなって言っていい事と悪い事の区別もつかないのか!それでアーロンの
気持ちを引いたつもりなのか!アーヴァイン様の名を出せば自分になびくとでも?!そんな事
ばかり言っているから君にはそんなガードしか集まらないんだ!!」
「、こ、この野郎!」
「言わせておけば!!」
ガルフのガードが飛び掛ってくるが、ジェクトがすべてを投げ倒す。
「こんなムカツク会話はホンット久しぶりだゼ」
「そのような人間にアーロンを渡すわけにはいかないよ。今後私達の前に現れない事だな」
ブラスカは冷気漂う笑みでガルフたちを見上げた。
「ブラスカ様・・・」
「ち、お前ら、俺にそんな口聞いたこと、親父に言うからな」
ガルフはそういうと、そこらへんに倒れた情けないガードを起こし、奥の部屋へと消えた。
「さあ、私達も部屋に入ろうか?」
今度は優しい微笑みで。
アーロンは泣きそうになった。ガルフは老師の息子であり、東地区僧兵長だ。そのガルフに
あんなことを言ってしまったら、きっとブラスカは軽いではあろうがなんらかの罰を受けてしまう
だろう。自分のために・・・。
「俺・・・外で風に当たってきます・・・・」
そう言って走るのが、やっとだった。







「で、アーヴァインって?」
バタンとドアをしめ、ジェクトはベッドの端に座るブラスカに尋ねた。
「・・・アーロンの父上だよ。エボンの老師であると共にとても優秀な召喚士でもあり、剣豪でも
あったんだ」
「ふーん・・・」
「とても優しい方でね、孤児の私にもとても親切にしてくれて、本当に老師の中でも特に秀でたお方
だったんだ。齢20でバハムートを手に入れた程だからね。だけど・・・22年前・・・私が13歳の頃だ。
ベベルにシンが近づき、ベベルは出国禁止令を出したんだ。エフレイエもやられてね・・・。たのみは
アーヴァイン様の召喚獣だけだった。だがアーヴァイン様は持っている召喚獣を全部出したあと、
令を無視して海へ出て行ってしまったんだよ。シンが進路を変え、幼いアーロンと奥方の住む
ジョゼへと向かったから」
フウ・・・とブラスカはため息をついた。
「船はシンに襲われ沈没。翌朝、ジョゼの海岸でアーヴァイン様と奥方様が、幼いアーロンを守る
ように横たわって、亡くなっているのが確認されたんだ・・・」
「そっか・・・・・」
せめて・・・せめて召喚獣が1匹でも残っていたら・・・アーヴァイン様は死なずにすんだだろうに・・・」
暗くなった窓の外を眺めると、遠くの湖の近くを歩いている影が見える。きっとアーロンだろう。
「ジェクト、そろそろアーロンを迎えに行ってくれないか?」
「なんだ?ブラスカ、お前が行けよ」
俺は嫌われてんだから・・・というジェクトに、ブラスカは優しく言い返した。
「この状況だったら、事情をしっている私より君が行った方がいいんだよ。ホラ、行った行った」
強引にジェクトを部屋から追い出す。






「ったく、ゴーインな召喚士サマだぜ・・・・」
コキコキ、とお決まりのポーズをとって、ジェクトは宿を出た。









太陽も沈み、あたりはだんだんと暗くなり月がその存在を示すように光を放っている。
アーロンは湖に映る月をぼんやりと眺めていた。腰を落とし、膝を抱える。
風がザアー・・・と彼の髪をなびかせるとブルルと身震いした。
いつも胸につけている防具をはずしているから真紅の着物ひとつでは寒い。
それでもアーロンは風の音を聞いていた。
・・・父親の話をされたのは久しぶりだった。
実際の所、アーロンは父の記憶はまったくなく、18になる日まで顔も知らなかった。
比較される事はあった。だが、15を過ぎてからはそんな事もなくなった。
実力が父を超えたからだと確信した。
だが、偉大な父親。アーロンがはじめて父の映ったスフィアを見たのは18の時だった。
父の若い頃。スフィアに映った父はまだ20だった。
父は若干20にして召喚獣バハムートを、そして剣技最強の技・陣風を会得した。その証拠
スフィアだった。確信は瞬間で崩れ去った。自分はまだ父を超えていない。
そう思うと、何故か歯がゆくなる。それから7年たった今も、自分は陣風を会得出来ていない。
アーロンはふっと笑う。
アーロンの、父親に対する感情は愛情ではなく、ブラスカに対する感情と同じ、尊敬だ。
愛情の受けていると自覚する前に死に別れたから仕方ないと思うが。
家族愛、なんてものはわからない。孤児院にいた頃の周りの子の殆ども、知らなかった。
孤児院に入れられる子なんて、ほとんどが物心つく前にシンに両親を殺されているから。
スピラでは両親が生きているうちに成人する者は圧倒的に少ない。
だから、ブラスカやジェクトが家族について話をしていても、入れるわけがない。
だけれども、2人のおかげで、家族愛を少し感じる事が出来た。
ジェクトは口は悪いが子供の事を話す時は決まってその瞳を輝かせ、なつかしそうに遠くを見る。
早く帰って子供に会いたい・・・その気持ちは痛いほど伝わってくる。
ブラスカも、娘ユウナを花の様に可愛がっていた。妻がシンに殺され、召喚士になる決意をした彼。
ユウナをひとり残し、自らの命を犠牲にしてでも、ユウナからシンを遠ざけたい。
2人共、子供を愛しているのだ。
自分は一人、取り残されていると感じる。
上司からの縁談を断ったのも、家族なんてどうでもいいと思う気持ちがあったから。
2人を見ているとそんなことを考えている自分がひどく最低な奴に思えてくる。
2人は凄い勢いで成長し続けている。
自分は・・・18からまったく変わっていない。
何かが足りない・・・。その何かとは・・・。
愛、なのだろうか・・・?
・・・・愛がなんだってんだ。過去の忌まわしい思い出がよみがえり、アーロンはチッと舌打ちする。
そのときだった。茂みのこすれる音がして後ろを振り向くと、大きな角をもった魔物がアーロンに
向かって唸り声を上げていた。
「ディアルホーン?!」
剣を取ろうととっさに背中に手を伸ばして、サァー・・・と血の気が引くのを感じた。
「しまった・・・!!宿に・・・!」
剣を立てかけたまま飛び出してきたのを思い出す。なんという不覚だ。
魔物はおぞましくほえながらアーロンに突進してきた。
「ぐあっ!」
防具をつけていなかったアーロンの胸から血が吹き出る。
ディアルホーンはその圧倒的な体と攻撃力で突進するのを得意とする魔物だ。武器も防具もない
アーロンのかなう相手ではなかった。
「く、くそ・・・!」
アーロンは炎属性魔法ファイアを唱えた。昔、僧兵時代に習った事があったのだ。
だが、ディアルホーンはびくともしない。容赦なく突進してくる。
突き飛ばされ、7〜8メートル後ろの地面に叩き付けられた。
「ぐっ・・・・」
意識が薄れてくる。体中血だらけで。回復魔法は覚えていない。
「こんな所で、俺は・・・死ぬのか・・・」
笑いたくないのにふっと笑みがこぼれてしまう。ディアルホーンの足音が聞こえるが、アーロンは
立つ力も残っていなかった。
彼を踏み潰そうと魔物が足をあげた瞬間。
ふと体が軽くなるのを感じた。はっとして顔をあげると、大きな傷だらけの背中が視線に飛び込んで
きた。その前で幻光虫が空を泳いでいた。
その背中が前を向き、頭上からとんでもない怒声が響く。
「てめえ!!もう少しで死ぬところじゃねーか!!武器も持たずにフラフラすんじゃねえ!!」
「ジェ、ジェクト・・・」
彼も武器をもっていなかった。では素手で倒したというのか。いや、今はそんな事はどうでもいい。
「いっっっつも俺に外に出るときは装備を怠るなって怒るくせにそれじゃあ話になんねえゼまったく」
胸の傷が消えかけてる。ハイポーションを使ったのか・・・。
「アーロン」
「な、なん・・・」
急に肩を持たれて抗議をしようとジェクトに顔を向け。
ドキッとした。



ところどころに傷はあるが、整った顔。真っ赤に燃える瞳。
その真剣な表情に心奪われる。
「頼むからあんま無茶しねーでくれ・・・」
そう言い、ジェクトはアーロンを抱き締めた。
暖かい、ジェクトの体。血にまみれたアーロンの体を強く抱く。
ジェクトに包まれると心のもやもやが晴れていく様だ。


・・・・何を迷う必要がある。アーロンには仲間がいるじゃないか・・・・
頭の奥で、誰かの声がした。スフィアでしか聞いた事のない声が。
アーロンの顔に笑みが浮かび、ゆっくりと瞳を閉じる。
「ありがとう・・・」
ジェクトに。そして、偉大なる父に。




一方、ジェクトはいつもと明らかに態度の違うアーロンに戸惑っていた。
つい勢いで抱き締めてしまったが、いつもなら離せこのバカ、とかいって殴りかかってくるのに、
こんなにおとなしく抱かれたまま。しかもいつも怒ってばっかりの声で、ジェクトの鼓膜にビンビンと
響く聞いた事もない優しい声。
そんな声を聞いたら、もう止まれなくなる。
「アーロン・・・」
まっすぐ見つめ、顔を近づける。
「え・・・??」
アーロンは自分が何をされたのか、まったくわからなかった。
思考回路が停止して、ボォーっとしてしまう。
離れていくジェクトの顔に見とれる。
「・・・何も反抗しないんだな」
ジェクトはそういうと、いつもの意地悪そうな顔に戻った。
とたん、アーロンは真っ赤になる。
自分が何をされたか自覚できたからだ。
「な、な・・・」
ぷるぷる震え出したアーロンをジェクトは嬉しそうに見ている。
「貴様!!今、お、俺に何をした!!」
「何って、キス」
「キ・・・!!」
アーロンはガクッと肩を落とした。恥ずかしくて顔も上げられない。
「なんだアーロン。お前まさかはじめてか?」
「んなわけあるか!!」
僧兵の中でもトップクラスの実力に、黒く艶やかで美しい髪に似合う容姿のおかげで、特に
男からの人気があった。高位職の者はその権力を、部下は困ったものを放っておけない
その性格を利用し、なんとかモノにしようと凌ぎをけずっていた。危ないシーンもあったが、
その都度裏で手をまわしてくれていた人がいた事をアーロンは知らない。
もちろん、それが間に合わなくて体を許す事となってしまった事もあったが。
とにかく、そういうこともあり、アーロンは同性愛が嫌いだった。
そんな自分が何の反抗もせずに男にキスさせてしまった。
アーロン、装備を忘れていたことよりも不覚であった。
「どした?アーロン」
下を向いたままのアーロンの肩にジェクトが手を乗せる。瞬間、その手を腕で払いのけ、ジェクトの
左頬に直撃させる。
「いってぇ〜・・・」
「俺に触るな!!」
アーロンは助けてもらった恩も忘れ、ぷんすか怒って先に帰ってしまった。
「は、はははは・・・まったく、良く効くぜ・・・」
紅くなった頬を押さえながら、彼の後ろ姿を見つめる。




仕方ねえだろ。お前があんな無防備な顔すんだから。
自覚しちまったもんはしょうがねえだろ。
さあて、どうやってあのカタブツをオトそうか・・・・。
彼の後ろ姿を追った。






2つしかないベッドを占領するのはブラスカとアーロン。
ジェクトは床で寝る事となった。
夜中、まったく寝れないアーロンは床で大イビキをかくジェクトをみつめていた。
唇に目が行き、真っ赤になる。
男にキスされた事なんて、山ほどある。なのに、どうしてこんなに反応してしまうのか。
唇が触れ合った瞬間、そして離れてゆくジェクト。からかわれたのはわかっている。
殴ってやったし、口も聞いてやってない。なのに、思い出すと顔が真っ赤になる。
「くそ・・・・」
アーロンはそのままずっと、眠れない夜を一人悶々と過ごした。





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