約束の地で

   1)旅立ち





「あの土地から来たって言うんだ。ただの男じゃない、って思ってね」

ブラスカの言葉を思い出し、閉じていた瞳を片方開けると、男はウィンクをしてきた。
アーロンはムッとし、瞳を閉じる。
「なんでえ、その態度は。この俺様もそこまで毛嫌いされると少し傷つくゼ」
大げさに両手を肩まで上げ、のうのうというジェクトに、アーロンはキレる。
「黙れ!!静かにブラスカ様をお待ちしないか!!」
「へえへえ・・・」
「・・・」
(頭に赤いバンダナを巻き、明らかにヘンな服を着て、あの聖地・ザナルカンドから来たと言う
この男・・・。怪しい。怪しすぎる。それなのに、何故ブラスカ様は・・・)
心で思っていた言葉が口に出たのだろうか。ぶつぶつ言うアーロンにジェクトが口を開いた。
「なあ、ショーカンシって、何すんだ?」
「・・・貴様っ・・・!!」
さっきはショーカンシって何だ?今度は何するか?だと・・・!
「だって仕方ねえだろ?俺様本当にしらねーんだから」
「知らないですむ問題か!!毒気もここまで酷いとは聞いた事がないぞ!!」
アーロンが叫び終わった直後、祈り子の歌が聞こえた。
ジェクトはあたりを見渡した後、急に黙り込んだ。
ふう・・・やっと静かになるか・・・・・・。
アーロンはまた静かに瞳を閉じた。

上司の縁談を断り、ブラスカのガードとなる決意をして1ヶ月。
驚異的な早さで。しかも、初めての召還獣にバハムートを選び、そしてそれを手に入れたその才能。
アーロンは・・・いや、アーロンだけでなく周囲の誰もが驚いた。
アルベド族の女と結婚した男にバハムートが心を開くわけがない・・・
そんな周囲の声に負けぬ、強い意志と精神力をアーロンは見た。
この人となら、シンを倒せる・・・!この人となら、永遠のナギ節を作れるかも知れない・・・!
そう思ったのだ。すでに僧兵を続ける気もないし、俺はブラスカ様のガードになり、共にシンを倒す!
ブラスカを心から尊敬し、ブラスカのために命を捧げる。そう決めたアーロンを、僧兵の中でも
トップクラスの剣の使い手をガードにしたがる者も多かった。だが、アーロンはその全てを
断り、ブラスカの正式なガードとなった。
そして、旅立とうとした矢先だった。ベベルで大暴れをした男がザナルカンドから来たと言っている、
という話を聞いたのは。
はじめは反対した。いや、今もだ。召喚士を知らないという男をガードにするのは。
だが、ブラスカは会ってすぐのこの男をガードにすると告げた。
ザナルカンドから来たと言ったのがよほど心にとまったのだろうか。
だがアーロンは目の前にいるこの男に激しい感情をあらわにしていた。
嫉妬。
自分一人でもブラスカを守りきれるという自信がアーロンにはあった。
それなのに、会ってすぐの、しかもガードとして役にたつのかも判らないこの男をすんなりと
共に旅するガードとして決められたから。
自分はブラスカのガードとなるのに1ヶ月もの時間を費やしたのに、この男はたったの数分・・・!!
しかも、アーロンを苛立たせる最大の理由はコレ。
「よーするにだな、シンを倒しに行けば、ザナルカンドにつけるんだろう?それならこんなとこで
油うってねーでとっとと行こうぜ」
この世界でシンを知らないという。
この世界で召喚士を知らないという。
この世界でナギ節を知らないという。
何も知らない、武器の使い方も知らない。そんな男に負けたのが一番くやしかったのだ。
「・・・貴様という奴は・・・口を開けばそんな事ばかり言いやがって・・・!もう我慢ならん!!」
かんかんに怒って顔を真っ赤にしたアーロンが剣を振るおうとした時、祈り子の歌が止まった。
「終わった・・・!」
「なにが?」
「・・・・・・・」
ガタンと扉が開き、ブラスカが顔を出した。
「うるさいですよ2人共。祈り子様が帰ってしまわれたよ・・・」
がっくりと肩をおろすブラスカにアーロンはしまった、という様な表情を浮かべる。
「すみません、ブラスカ様。申し訳ありません・・・」
祈り子は、静かなる時の中で、召喚士を受け入れる。少し(本当は少し所でなないのだが)
うるさくしすぎてしまったとしゅんとしているアーロンを尻目にジェクトはブラスカの方を向く。
「今の歌は、なんなんだ?」
「ああ、祈り子様が私達召喚士と話をする時に祈り子様が歌っている曲だよ」
「・・・ふーん」
「なんだい?どうしたんだい?」
「あー・・・、いや、この曲、ザナルカンドで聞いた事あるっつーか・・・」
「ザナルカンドで?」
また戯言を・・・と思いつつも耳を傾けるアーロン。
「君のザナルカンドにも、スピラの曲があるとはね・・・。もしかしたら、君のザナルカンドとスピラは、
どこかでつながっているのかもね・・・」
ブラスカの言葉にジェクトは気を良くし、ベラベラと喋りだした。
ブリッツボールの事。家の事。妻の事。そして、息子の事。
「さっさと帰りてえモンだぜ。それはそーとよ、これからどこに行くんだ?」
「マカラーニャの森を抜けて南へと行く。ビサイドという島に着いたら逆戻りで、北に向かうよ。
でもここの寺院の祈り子様、失敗しちゃったから明日また来ないとね」
2人がうるさかったせいなのに、ジェクトは何も悪ぶれた様子を見せなかった。
仕方がないので3人はマカラーニャ寺院の近くの宿で一泊する事となった。




「よーするに、シンを倒すためには究極召喚ってのが必要で、それを身につけるために、
各地の寺院を廻り、力をつけていくって事だな」
「そうだ.バハムートは手に入れたから、次はマカラーニャ寺院、ジョゼ寺院、キーリカ寺院
などにこれから赴くんだ」
指を折りながらブラスカが言うと、ジェクトは軽く舌打ちした。
「なんだか面倒くさそーだな」
「何が面倒だ。一つ一つがとても重要な事だ」
「まあ、ともかく明日、もう一度寺院に行きます」
またケンカになったらキリがない。ブラスカはアーロンの方を向く。
少しでも仲良くなってくれなくてはこの先困る。
「アーロン」
「はい、なんでしょう」
「ジェクトにスピラの事、判りやすく怒らないで教えてやってくれ」
ブラスカの言葉に、アーロンはうっと唸る。
「どうやら本当にザナルカンドから来たらしいからな」
「し、しかし・・・」
そんなアーロンの肩を抱き、ジェクトはにんまり笑った。
「ま、よろしく頼むぜ、アーロンv」




召喚士がすやすやと寝入っている頃、ガードの部屋ではアーロンが言いつけどおり、怒らず
ジェクトに判りやすく教えていた。
「次は生活の基本だ。こう・・・祈るんだ。ほら、やってみろ」
その祈りのポーズは、ザナルカンドのブリッツボールの勝利のおまじないとまったく一緒で。
「なんだ、上手いじゃないか」
「まあな」
そんなおまじないのポーズなんかやり慣れている。
「じゃあ次はスピラの世界地図だ」
アーロンは机にばっと世界地図を広げた。
「この南の島がビサイドだ。ここの召喚獣が最後になる。そのあと目指すのは・・・」
反対側の島を指差したアーロンに、ジェクトはうわちゃーとうなだれたような声を出す。
「この北の端だ。ここがザナルカンドだ」
「カーッ、遠いもんだな」
「ここまで行くのも大変なんだ。ザナルカンドの前には霊峰ガガゼトがそびえているし、その前の
ナギ平原は本当に平原で、身を隠す場所がないから通るのも危険だ。町も道もなくなる」
ジェクトは、本当に自分が知らない場所に来てしまったんだ・・・と実感した。
思えば、ザナルカンドにいた時は、海の向こうには何があるんだろう・・・と考えたことさえなかった。
ただ、その海の向こう側に来ただけだと思っていたが、どうやらそうではなかったようだ。
ジェクトには、アーロンとブラスカがウソをつくような男には見えなかったから。
もう妻には会えないのだろうか。
急に体中を不安が包み込む。
嫌い嫌いと言われ続けた息子には、もう2度と・・・?
「ジェクト?」
「俺・・・ザナルカンドに帰れるのかな・・・」
明らかに冗談でない低い声に、アーロンも嫌味を言おうとしたのをやめた。
「・・・・・・お前が信じていたら・・・きっと帰れるさ」
アーロンの言葉に、ジェクトは少しだけ安心できた様な気がした。








森の奏でる神聖な歌声でアーロンは目を覚ました。
「朝・・・か・・・」
自分の横のベッドではジェクトがいびきひとつかかずに深い眠りに入っている。
昨日は夜遅くまで色々と教え、さすがのアーロンも疲れた。
慣れない土地で、その知識を蓄えるだけ蓄えたジェクトの疲労もまた深くて。
「・・・ティ・・・ダ・・・・」
寝言だろうか、誰かの名前を呼んでいたような気がした。
コンコン、とドアが叩かれる。
「おはようアーロン。ジェクトはまだ?」
「おはようございますブラスカ様。ごらんの通りです」
アーロンの答えにブラスカは苦笑した。
「今日はゆっくりしましょう。寺院へは後からで・・・ね」
「はい」
「・・・昨日は怒らずに教えられたようだね」
「え?」
ブラスカはアーロンのベッドに腰掛け、くすくすと笑った。
「君の叫び声が昨日は聞こえなかったからね」
「ブラスカ様・・・」
そんなにいつも俺は叫びながらジェクトをしかっていただろうか・・・と考えてしまう。
「ジェクトは、本当にスピラに放り出されたようだ。だから、あんまり怒らないでやって欲しい。
それにこの先長いんだし、仲良くなったほうがお互いのためだろう?」
優しい笑みを向けられては、頷くしかない。
「また祈り子様が帰ってしまわれては、私も困るからね」
昨日の昼間の失態を思い出し真っ赤になるアーロンをにさらにブラスカは笑った。









「こんな風に笑って旅を続ける事が出来たらいいね」
「ブラスカ様・・・・・・」
「私が究極召喚を発動した後、君がひとりになる事を考えると不安でね・・・」
アーロンの髪をゆっくり撫で、ブラスカはやわらかい表情のまま告げる。
「ジェクトはきっと、君の支えになってくれるよ・・・」
「ブラスカ様・・・・・・・」






朝の光と共に、森の歌声がまた、聞こえた。



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