「おら、もっと頭あげねーと顔にお湯かかるぞ」
「っせーな、もっと優しくやれよ!!」
俺のせいで怪我をしたティーダを風呂に入れることになったんだが・・・。
ティーダの野郎、せっかく俺様が頭洗ってやってんのに痛いだのなんだのってうるさくて。
おまけにコイツの髪、硬くて痛んでてひどいったらありゃしない。
俺だってそこそこ硬いが、なんでこんなにぱさぱさしてんだ?
「お前、髪いたみすぎだし。何やったらこんなになんだ?」
「バッカ!ブリーチしてるからに決まってんだろ!」
相変わらず俺に対する態度も変わってねえな・・・。
・・・・まあ、親子水入らずの裸のお付き合いってのも悪くねえと思ったんだけどよ。
・・・案外細い体だな・・・。よくこれでエースやってられんな・・・。
俺と何`違うんだ・・・?これじゃすぐ吹っ飛ばされるんじゃないか?
俺のカンは案外当たってるらしく、思い出せば俺以外の奴にも吹っ飛ばされてた。
・・・ディフェンスが弱いわけか・・・。もちっと鍛えなきゃダメだなあ・・・。
なんて思いながら頭を洗い終わり、次は体を・・・というところで、スポンジを奪い取られた。
「か、体ぐらい自分で洗える・・・!」
顔を真っ赤にして反抗するティーダに少しムッとする。
「じゃあ頑張ってな」
そのまま浴槽にドブンと入る。お湯が飛んでティーダは少し嫌そうな顔をしていた。
俺は両手で湯をすくい、顔を洗う。軽く頭を振って、ティーダの後姿を見つめた。
傷ひとつない、程よく焼けた、スラッとした背中。背筋には筋肉が綺麗に隆起している。
とはいってもまだまだ成長過程の体付きに、自分もああだったかと思うと少し笑える。
でもやっぱりもうちょっと筋肉つけないと・・・と思っているところに、さらに顔を朱に染めた
ティーダと視線があう。
「人のコトジロジロみんなよ!!」
「いいじゃねーか、減るもんじゃないし」
「減るんだよっ!」
シャワーの水を顔にかけられ、思わず立ち上がる。
「やりやがったな、クソガキ!」
腕のことも忘れて取っ組み合い。
腕を引っ張って無理矢理浴槽に突っ込んだ。
「痛い!!!」
「あ。悪ぃ」
固定していた左腕を浴槽のふちにぶつけて、ティーダは顔をゆがませた。
「なあ。大丈夫か?」
「っ・・・謝るくらいなら・・・最初からすんなよ」
歯を食いしばって痛みにたえるティーダを端においやって自分も浴槽に入る。
「なあ、腕見せろよ」
さすがに罪悪感を感じ、左腕を優しく引っ張る。
「・・やっぱヒビじゃ見た目はわかんねえな」
肌の見えるところをやさしく撫でると、ティーダの体がビクンと跳ねる。
敏感っつーか、くすぐったい時我慢できないのはガキん頃と変わってねえな。
「・・・もう、離せよ」
こいつ、いっつでも顔紅いな。熱でもあんのか?湯あたりしてんのか?
まじまじと息子の顔を見る。
母親似のこいつの顔は綺麗に整っていて、顔のパーツ一つ一つがモデルみたいに完璧に
綺麗だ。眉は細いから抜いてんだろうけど。
先程の痛みで瞳に涙をいっぱいにためている。
ドキ、と心臓が鳴った。
おまけに顔も紅いと来たら・・・なんだか、こう、ムラムラっとくるモノがあって。
・・・落ち着けジェクト。コイツは俺のガキだ。息子。そう男。ムラムラくんなって。
頭に浮かぶ妄想を払いのけようと必死に考えるがティーダからしてみれば、急に考え込んだ
俺の姿は奇妙そのものだったようで。
「どうしたんスか、オヤジ?」
そう言って小首を傾げられ・・・その可愛さに・・・俺の中の何かがキレた。
気付けば抱き締め、その唇を奪っていた。
「む?・・・っん〜〜!!」
背中をドンドンと叩かれても、俺は唇を外さなかった。
「ん〜〜!!!」
うるさい口に舌を差し込む。
奥に縮こまっている舌を誘い出せば、背中の腕はただ添えられるだけの存在となる。
体を密着させ、己の熱を伝えるとティーダはギョッとして必死に俺を引き剥がそうとする。
だけど、当たり前だが俺はびくともせずティーダの唇を貪った。
「・・・はっ・・・」
離せば、ティーダは呼吸を整えるので精一杯で、その姿を俺はずっと食い入るように見つめていた。
「な、何すんだ!このクソオヤジ!!!」
予想通りの反応だけど、一度ついた熱は止まらない。
「ワリィ・・・なんか、欲情しちまった・・・」
「なっ・・・!!」
さらに紅くなるティーダを力いっぱい抱き締める。
「な、ちょ、オヤジ!!」
「ワリィ・・・止められそうにねえや・・・」
「オヤジ・・・」
「本当・・・わりいな・・・」
面と向き合うと、もう表現の仕様のない程紅い顔が俯いている。
「こんな父親で軽蔑するか?」
きっと、ずっと前から、コイツに欲情してたのかも知れない。
ブラスカにからかわれる度、ムッとした。
俺の知らないコイツを知っているアーロンに何度も嫉妬してた。
父親なのに。息子なのに。男なのに。
「・・・オヤジ・・・」
ダメだ。俺。きっと。
「お前が好きだ。マジっぽいわ、なんか」
もう一度、今度は優しく抱き締めた。
とたん、俺にかかる体重が重くなった。
「?どした?」
見ると、ティーダの顔面は血だらけで・・・
まったく・・・君はお風呂もロクに入れられないのかい?・・・みたいな事をブラスカに言われたが
またさっきの繰り返しになるのがいやで、さっさと自室にこもってやった。
興奮させるような事、言っちまったもんな・・・。
鼻血を出して倒れたティーダは今は自分の部屋で休んでいる。
アーロンが面倒見てくれてるから、きっと大丈夫だろうな。
「・・・どうすっかなあ・・・」
自覚してしまった、息子への想い。
きっと明日からは避けられまくるんだろうな。
それとも寝首かかれるか?・・・そっちの方がまだマシだな。
・・・きっと、俺がいなくてもアーロンやブラスカと仲良くやってけるだろうし。
「俺はいなくなるか・・・」
ティーダに避けられる毎日だけはつらい。
それならいっそ、この家を出て行くか、転生の輪に入るか。
ティーダに会えないのはつらいが、ティーダを悲しませるよりは、マシか・・・。
勝手に決めて実行したら、あの2人きっとものすごく怒るだろうな・・・。
「・・・まあ、いいか」
決心をし、1階へ降りる。時間も時間だから、リビングにはもう誰もいない。
2階へ戻り、ティーダの部屋を開けた。
最後に、顔を見たかった。
「・・・ティーダ・・・?」
電気がついてない所を見ると、もう寝ているのだろうか。
ベッドの淵に座り、金髪をそっと撫でる。
くすぐったさからそっと身じろぐその体を抱き締めたかった。
好きだと告げた事を一瞬後悔したが、言わなかったらずっと後悔し続けただろう。
寝ているこいつに、俺は話し掛けた。
「わりいな。いきなり告っちまってよ。思ったらもう、止まらなかったんだ・・・
いつからかはわかんねえけど、きっと俺、ずっとお前の事好きだったのかもな」
痛んだ毛先に、不覚にも目じりに熱いものが集まる。
「安心しろ・・・お前を悩ませるつもりはねぇ。・・・俺は転生するからさ。
俺の想いも、お前の重荷も、きれいさっぱりなくなるってもんだ」
もう、ブリッツ教えてやれねーけどな。
呟いた言葉に想いを乗せて。
「好きだぜ、ティーダ。お前が俺の息子として生まれてきてくれたのも、俺をシンから救ってくれた
事も、全部感謝してるぜ。・・・もう少し、親子やってたかったけど・・・俺の我侭で台無しだな」
ベッドから立ち上がり、ドアに体をむけ、もう一度、ティーダを振り返る。
「今度出逢った時は、お前と親子、ちゃんとやりてえもんだぜ・・・。
じゃあなティーダ。アーロン達と元気でやれよ・・・」
流れそうになる涙を必死にこらえてドアノブに手をかけた時、背中にモンスターと対峙したような、
攻撃的な凄まじい気を感じた。
なんだ、と思い振り返る。
「ティーダ・・・」
起き上がり、怒りに満ちた表情のティーダが俺をみつめていた。
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